6-24
黒鉄の城の前。この戦いはいよいよ終局を迎えようとしていた。
「ダメです!!エミリア副隊長!!これ以上はあなたの体が持たない!!」
「もう敵は退散しました!!我々は勝ったんですよ!!」
「いや・・・・・まだだ!!奴を野放しにしておけない!!奴は・・・・・あまりにも危険すぎる!!」
仲間の制止も無視してエミリアは未だに敵と対峙している。
「ガハはハハは!我輩ハまダ諦めンぞ!!魔王様にの濾さレた最後の希望!!此処デ倒れル訳には移管の田!!」
ゴギゴギゴギ・・・・と不気味に鎧をきしませながらデュラハンはなおもエミリアの前に立ち塞がる。関節は変な方向に曲がり、兜も傾いている。エミリアの「反射要塞:リフレクトペイン」を受け続けているデュラハンだが、ダメージにより制御系統に異常をきたしていても、言葉遣いがおかしくなっても、なおも黒鉄への忠誠を糧に動き続けている。
「う・・・・・ぐうう・・・・ああ・・・・・・」
しかし一方のエミリアの方は、「反射要塞:リフレクトペイン」を発動しているせいで常にダメージを受け続け、それをデュラハンに押しつけている。だがそれでも痛覚を遮断することは出来ず、精神的にも肉体的にも疲弊していた。
「奴の異常な執念深さ・・・・・そこから来るタフネス・・・・どうすれば良い・・・・」
相手の驚異的な粘りにエミリアに限界が訪れようとしていた、そのとき。
「おうおう、随分手こずっているようじゃな。お嬢ちゃん」
金槌を携えたドミニクが、金属粒子の嵐の中を悠々と割って入ってきた。
「な・・・・・ドミニク殿!!」
エミリアはその声の主に驚いていた。何しろ彼女らいるこの場所は「転生者殺し」本部からは遠く離れているのだ。そして今回の作戦にもドミニクは参加していなかったため、彼がここにいる理由がわからない。
「なぜあなたがここに!!」
「ふむ、訳を話したいが、それよりも先に用がある奴がいるのでな・・・・・」
「なんだこのデカブツが!!ぶっkろしてyろうか!!」
デュラハンはドミニクを見ても物怖じしなかった。その黒騎士と同等の体格をもつドミニクを相手にしても怯まないのは流石だ。
「いいか!!我輩には“物理ダメージ99%軽減”、“魔法攻撃無効”、“状態異常無効”、“拘束・妨害無効”のスキルを身につけているのだぞ!!我輩に力押しは通じないと思え!!」
そして不気味に鎧をきしませながら、おぼつかない足取りでドミニクの方に近寄っていく。それを聞いたドミニクは、
何の躊躇もなくデュラハンを殴りつけ、その兜を難なくへこませた。
「ぎゃああああああああ!!」
「見たところつい最近生まれた使い魔のようじゃが・・・・・貴様のような小童に、ワシは負けんぞ」
ドミニクは少々嫌そうな顔をしながらデュラハンを金槌でボコボコにしていく。
「なぜだ!!我輩に物理攻撃は効かないに等しいというのにィイイイイイイ!!」
「当たり前じゃ。これは“攻撃”じゃなくて“鍛錬”じゃからのう」
何度も金槌で殴りつけられ、次第にデュラハンの鎧が小さくなっていく。
「わしら“ドヴェルグ”は“鍛造”、“鍛錬”、“鍛冶”の種族者からのう。わしらに叩けぬ金属など無い。・・・・・・・正直こんな形で鎚を振るいたくはなかったのう。おぬしが大量のモンスターの魂で作られているだけに、余計にな」
「こ、こんな“スキル”の使い方があったなんて・・・・・・」
エミリアは目の前で起きたあまりにも衝撃的な光景に無意識に「反射要塞:リフレクトペイン」を解除していた。やがて、ドミニクの手によってデュラハンは黒光りするただの金属塊と成り果てた。なにやら内部から「しくしくしくしく・・・・・・」とさめざめと泣く声が聞こえる。
「しかしドミニク殿、なぜここに居るのです!?と言うか、いつからここに・・・・・」
「ついさっき、じゃよ」
ドミニクは何やら難しい顔をして「城」を見上げている。
「ネロの旦那から連絡を定期的に受けていたのじゃが、総帥が“エリス”の名を聞いたら血相を変えてな。総帥命令で急遽わしも出ることになったのじゃ」
「エリス・・・・・?“アモール教”のエリス様のことか?しかし、慈愛の神であるあの方が黒幕などとは、とても・・・・・・」
「お嬢ちゃん、夢を見ていたいのはわかる。・・・・・・じゃが」
ドミニクの表情は一層険しくなる。
「“転生者”に“女神”はつきものじゃ。安易な思い込みは、絶望を呼び起こすぞ」
「アーサー・・・・成る程、“冥雷”アーサーですね!!」
この世界の「アモール教」の女神であるエリスは、眉間にしわを寄せていた。
「かつて魔界最大級の勢力を誇った“アストライア王国”・・・・・・その幹部である“六角”の一人でしたね」
エリスはわざとらしくハンカチを取り出し、よよよ・・・・と涙を拭く真似をした。
「かわいそうに・・・・・魔王様亡き後あなたたち“六角”はバラバラになり、互いに対立する羽目になったと聞きます。なくなられた魔王様もさぞかし悲しむでしょう______」
「悲しむわけねーよ」
ズバシャァアアアッ!!と、アーサーの掌から光線が放たれた。エリスはとっさに翼で防ぐが、言葉を遮られていらだちの表情を浮かべる。
「そもそも俺たちは前の魔王のやり方にいい加減飽き飽きしていたんだ。今はもう魔界と天界はいがみ合う時代じゃない。手を取り合う時代になったんだ。勝手に俺たちを不仲にするんじゃ無い。せいぜい戦闘狂のフィアンマだけにしてくれ」
「成る程・・・・・・ですが、今のあなたの実力でも、せいぜい“魔王”止まりでしょう。“女神”である私に“魔王”が敵うとでも思っているのですか?」
ふふん、と小憎らしげに勝ち誇るエリス。その言葉を、
「いいや、思っちゃいないさ」
アーサーは意外にも肯定した。
「だが」
一言を添えて。
「“魔王”は一人じゃ無いさ」
直後、何者かが「空間を割って」エリスの頭を鷲づかみにした。
「「「「!?」」」」
トーヤも、マナも、エリスも、誰もが目を見開いた。あまりに突然の事に、エリスですら反応が出来なかった。
「あれは・・・・・腕、なのか・・・・・?」
「いや、翼・・・・・・なのか・・・・・?」
否。エリスを捕らえたのは「両方」だった。一言で形容すれば、「巨人の腕に翼膜が付いた翼」と言えるそれが、空間に入った亀裂から伸びているのだ。
そしてその翼の持ち主は這い出てくると、
「ウォオオオオオオオオッ!!」
「きゃっ!!」
どこかで聞いたような声が雄叫びを上げ、一直線に地面にエリスを叩きつけた。
「やめて!!女神である私を傷つけるというの!!なんて罰当たりな_____」
「五月蠅い、死ね」
その持ち主は聞き覚えのある声とともにゼロ距離から氷柱を彼女に突き刺した。
「きゃぁあああああああ!!痛い!!痛い!!いた______」
「黙れっつってんだろ」
ズシャッ!!と剣を引き抜くと、そのまま思いっきり彼女の脇腹を蹴飛ばした。華奢な体がゴロゴロと転がる。
「え・・・・・・・・・・・・」
突然やってきた誰か。その人物が翼を折りたたんだその姿を見たマナは、驚きを隠せなかった。
彼自身は非常に華奢な人物だった。一見すれば助成にも見えるほどの細身に、不釣り合いなほどの巨大な翼_____否、「腕翼」を折りたたんでおり、まるで鉤爪の肩当てにつながったボロボロのマントを纏っているようだった。さらに漆黒の布地に赤いラインで縁取りされたコートを着込んでおり、その首元には赤黒いファーが付いており、「荘厳さ」よりも「美しさ」や「儚さ」を感じられた。
顔も特徴的だった。男性的な鋭角さを持ちつつも女性的な繊細さをもつ顔立ちに、白い肌、そして長く伸ばした紅蓮の髪に、漆黒の毛が混じっている。
そしてその姿形を、マナは知っていた。
「トーヤ・・・・・・くん・・・・・?」
全体的に赤黒い色をしている、自身の身の丈よりも遙かに長い「腕翼」を持つといった違いはあれど、本人の姿形は少々大人になったトーヤにそっくりだった。
「サンキュー、ゼロ。このタイミングで帰ってきてくれたのは助かった」
「俺の方もかなり重要な情報をつかんだんでな。いち早くお前に伝える必要があったんだ。まさか“淵龍”に呼ばれた上にコイツに遭遇するとは思っていなかったが」
そして、ゼロと呼ばれた人物はエリスの方に向き直る。
「そうやって白々しい演技を続けているが良いさ。オマエといがみ合っている神様もおいでだぜ」
ゼロの言葉を証明するかのように、バキバキバキッ!!と空間がひび割れ、巨大な裂け目が出来る。その中から、異形の龍が身を乗り出してきた。
「ギェリェリェリュリュリュリュロォオオオオオオオオオオァアアアアアッ!!」
おおよそ生物が出すとは思えないおぞましい咆哮を上げたそれは、出ている部分だけでもちょっとした鯨ほどのサイズがあった。全身を刺々しい真っ黒な甲殻に包み、その隙間から紫色の光が漏れ出ている。そして白目まで紫に光るその目は瞳が見当たらず、なお一層異質な雰囲気を醸し出す。
亜空間に棲息し、地球半周ほどの体長を誇るその存在を「次元を住まう龍」、「淵龍ヨルムンガンド」と人々は呼ぶ。
さらに
「コォオオオオオオオオオオオァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
吹雪を思わせる甲高い咆哮を上げる龍が空高くから舞い降りた。灰色の朽ちたような外殻を美しい氷が覆うその姿。「時を凍らせる龍」、「氷獄龍ヘル」だ。
「どうだ?これでもまだ戦おうとするか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
ゼロの言葉にエリスはピタリと絶叫をあげるのをやめ、
「仕方がありませんね・・・・・“魔王”が二人に“龍”が2体・・・・流石に分が悪すぎます。ここは引くとしましょう」
エリスはむくりと起き上がり、翼を広げて飛び立つ。
「__________絶対に、後悔させてやりますからね」
エリスはおどろおどろしい呪詛を吐きながら、まばゆい光に包まれて消えた。
「・・・・・・・・・全く、面倒臭い奴だ」
と言って、ゼロは改めて「転生者殺し」に向き直る。
「・・・・・・・え・・・・・ええ・・・!?」
「オイオイ!!何の冗談だよ・・・・・」
「嘘でしょう・・・・と、トーヤ様・・・・・!?」
ゼロの姿を改めて見た彼らは、皆その事実に驚いていた。自分たちの組織に居る少年が成長したような姿。その現実を彼らはにわかには受け入れられずに居た。
そして、更に信じられない事が起こった。バキバキバキッ!!と地表近くの空間が割れると、
「ゼロさん!!終わったんですか!?」
そこからセーラー服の少女が走って出てきたのだ。セーラー服に身を包み、栗色の髪を二つに結ぶ彼女は・・・・・・・
「ねえ、マナちゃんが二人?!いったいどういうことなんだい!!」
「知らねぇよ隊長殿!!あんたが解らねぇことが俺らに解るか!!」
「あわわ、はわわわわ・・・・・・・・・・・」
もはや理解が全く追いつかず、彼らの脳味噌はパンク寸前だった。
「成る程な。お前が放っておけずに組織に引き入れたってのも理解できる」
「こいつ自身も非常に希少な体質を持っては居るが、それ以上にどうも放っておけなくてな・・・・・同僚にそっくりな奴を見捨てるのは忍びなく感じたんだ」
そう話すゼロとアーサー。やがて、紅の男性は、白い少年に向き合った。
「俺は“現アストライア王国 国王”、そして“旧アストライア王国幹部 六角:第六の角、氷帝”グレイシア・ゼロ・ファーレンフリードだ。・・・・・・・・・初めまして、異世界の俺」




