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「撃て!!」
黒鉄が号令を掛けると、一斉にドローンが銃口から火を吹く。バララララ!!と千にも上るドローンから放たれる弾幕が、トーヤに全方位から襲いかかる。しかしそれらが放たれる瞬間、一瞬にして背中のフラガラッハが分裂・展開しトーヤを覆う!!ガキュキュキュン!!と甲高い音を立てて弾丸を跳ね返す。
「チッ・・・・面倒なことをしやがって!!」
ドローンは跳ね返された弾丸をまともに食らい、次々と爆散四散する。一撃一撃が下手なモンスターよりも強力なそれは、この場に限っては徒となっている。
「跳ね返すのであれば、こいつはどうだ!!」
一瞬ドローンは射撃をやめると、今度は直接トーヤの方に飛んでいく。まるで巣喰う蟲の様なそれを、トーヤはドーム状の剣を再び翼に切り替え空を舞う。そしてあろうことかドローンの方に自ら突っ込んでいく。
「バカが!!蜂の巣になりやがれ!!」
「・・・・・・・・・・・・・」
再びドローンが一斉に射撃を開始するが、その弾丸の隙間を縫うように素早く飛び回り、そしてドローンの塊に突っ込む。そしてその刹那、その塊が一瞬にして細切れにされた。
「アイツ・・・・・・あの一瞬で切り刻んだっていうのか!!なんて素早さだ!!」
その剣戟もさることながら、驚くべきはその弾幕を見切っていると言うことだ。隙間を縫うように飛ぶその機動力も、それを可能にしている動体視力も並大抵では無い。
だが、トーヤはまだ満足していなかった。
「(まだだ・・・・・・・まだ速さも、強さも、集中力も、全然足りない)」
トーヤはそう感じながら、ひたすらに飛び回り、切り刻む。
「(より速く)」
更に加速しながら、ドローンを次々と切り刻む。
「(より強く)」
トーヤがフラガラッハを振るう度に、ドローンの切り口がきれいになっていく。
「(より正確に_______)」
次第に、空間に冷気が、氷の霧が、氷属性の魔力が満たされていく。
「(___________)」
そして、トーヤ本人がそう頭で考える事すらも意識の外に追い出した、その瞬間に。
パァアアアアアアアアアアアン!!とドローンが一斉に細切れになった。
「・・・・・・・・・・・!!」
黒鉄は目の前で起きたことが信じられなかった。先ほどの何十倍ものドローンが、本の一瞬で鉄くずと化したのだ。金属の破片の雨が「謁見の間」に降りしきる。そしてそれすらも凍てつき、物に当たるだけで砕け散る。
「て」
めえ、何しやがったんだ。その言葉を口にする前に、黒鉄の胸元に強烈な蹴りがたたき込まれた。ドパァアアン!!とソニックブームを生じながら、黒鉄は「謁見の間」の壁に叩きつけられる。
「ガッハ______」
叩きつけられた衝撃で思わず黒鉄は肺の中の空気を吐き出す。しかしその隙を突くように、目の前にバサリ、と剣の翼をはためかせたトーヤが一瞬で現われる。その瞳は蒼く輝く残光を煌めかせている。
そして何一つ声を発することも無く、何のためらいも無しに黒鉄の喉にフラガラッハを突き出す。
「ウオッ?!」
とっさに黒鉄は頭を横に振るって突きをかわす。その頬には深い切り傷がつき、どろりと不快な生暖かい液体が流れ出した。そしてその頭をそのまま押さえつけるように、トーヤが左手で掴みかかり地面に叩きつける。
「パガッ・・・・・!?」
黒鉄の頭が叩きつけられた後、黒鉄は首筋に寒気を覚えて転がる。そこにフラガラッハの剣戟が襲いかかり、紙一重で首を落とされるのを防いだ。
「“ワープ”!!」
黒鉄は転がった状態で唱え、トーヤの背後に位置取るように瞬間移動する。
「(よし、これで)」
抜け出せた、と思う間もなく黒鉄の脇腹をトーヤの蹴りが襲う。衝撃を受け地面を転がりながら、なおも黒鉄は頭の中で「ワープ」の魔法を唱える。
そして、黒鉄は反射的に「逃げ」に徹することを選択した。連続で瞬間移動し、そしてようやく黒鉄は理解した。
「(解ったぞ!!こいつ、とんでもない速度で俺に着いて来やがる!!それもただ追いかけているんじゃねぇ!!あまりにも反応が早すぎる!!どんなカラクリだ!?)」
黒鉄は一片の余裕も生み出せないまま、トーヤの異常な反応速度に恐れおののいていた。謁見の間に蒼い残光を残しながら天を翔るトーヤは、恐ろしいことに黒鉄の一挙一足から瞬時に移動先を計算し、そして最短の、最速で黒鉄に食らいついているのだ。
否、それは「食らいつく」などという生易しいものでは無い。文字通り「先回り」しているのだ。コンマ数秒の世界を、彼は自在に駆け抜けているのだ。その事実を、黒鉄は理解することも、一端に触れることすらも叶わなかった。
「(仕方が無い・・・・・・・“あの手”を使うか)」
「!!」
黒鉄は可能な限り使うつもりは無かったが、やむを得ず「奥の手」を出すことにした。その考えを最速で導き出すも、一瞬目を見開いた。その一瞬を、ようやく黒鉄は突くことができた。
「きゃ!?」
「動くなッ!!」
黒鉄はマナの元に飛んでいくと、トーヤの生み出した氷の要塞を強引に引き剥がし「勇者の剣」を彼女の首元に突きつけた。
「これ以上近づいてみろ!!この女の首がどうなって良いのなら____ゴボッ!?」
「ひっ?!」
黒鉄はマナを人質に取り形勢逆転した、そう思っていたのもつかの間だった。体内に太い釘のような物を打ち込まれるような激痛とともに大量の血を吐く。背後から自分の左肩に血を吐きかけられて、マナは軽く悲鳴を上げる。
「ガボッ・・・・・・お前・・・・・この女のッ・・・・・・首・・・・・ガァ・・・・?!」
「と、トーヤ君!!何!?何なのこれ!!」
パキパキパキ・・・・・とマナを中心に凍てついていく。それは少女の体に腕ごと剣を縫い止め、再び鎧の内側から氷柱の刺突を黒鉄に喰らわせていた。
「マナ、いつまで捕らえられているんだ」
「え?な、何なのさっきから・・・・・」
トーヤは氷に閉じ込められたマナに手を伸ばすと、まるで水の中の物を手に取るようにいとも簡単に彼女を引き上げて寄せた。そしてトーヤの肌に触れたことで、彼の身に起こっているとんでもないことに感づいた。
「熱っ!?トーヤ君、すごく体が熱いよ!!」
「・・・・・・・・?俺はいたって普通だが・・・・・」
どうやらトーヤ自身は自身の異変に気付いていないらしい。しかし彼の本来の体内温度はすさまじいことになっていた。
彼は自身の「身体能力強化」を極限まで行うことで身体能力や思考能力を限界まで引き上げていた。だがそれと同時に彼の身体は尋常では無い活動量を生み出しており、本来であれば筋肉が悲鳴を上げ脳がオーバーヒートしてもおかしくなかった。だが、それと同時に彼は自身の氷属性魔力でその熱を相殺していたのだ。本来クールダウンしなければならない熱を「捨てる」のではなく「鎮める」ことで、極限まで集中し限界を超えたパフォーマンスを実現していた。そしてこの「氷獄龍ヘル」の力を扱うためには、「フラガラッハ」の手助けが必要だった。
だが、流石に初回での運用には耐えかねたようだ。
「!!・・・・・・・・ぐっ・・・・・」
「だ、大丈夫?!」
トーヤはマナに話しかける事で集中を切らせてしまい、その場に跪いた。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・う、うごけ・・・・ない・・・・」
「うわ・・・・どんどん凍っていくよ!?」
「ゴボッ・・・・・・どうやら、ここまでのようだな・・・・」
血を吐きながら、黒鉄は数体のドローンを呼び寄せた。あれだけ破壊されたというのに、まだ隠し持っていたらしい。
「さあ!今度こそ蜂の巣になれ!!」
「ひっ!!や、やめて!!」
バッ!!と右手をトーヤに向ける黒鉄からかばうように、凍り付いていくトーヤをマナは抱きしめた。そして、
ドドドドドッ!!と、一斉にドローンが黒鉄に向けて発砲した。
「ぐおおおおっ!?何しやがる!!」
黒鉄は突然主人に楯突いたドローンを魔法で撃ち落とす。が、目に見えて狼狽している。
「もう、さっきから何がどうなってるの?!」
「俺が聞きたいぐらいだ。一体__________」
トーヤがつぶやくと、手にしたフラガラッハが瞬き始めた。
「・・・・・・はーん、成る程。そういうことか」
「ええと・・・・・どうしたの?」
「フラガラッハが教えてくれた」
トーヤは安堵したような、同時にわずかばかり希望を感じさせる微笑みを浮かべた。
「みんなが、“召喚システム”の対処に成功したらしい」




