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「何だと・・・・・・?」
黒鉄は、トーヤの一言に一瞬反応できなかった。完璧主義者では無い?俺が?そんな言葉が頭をよぎった。
「可笑しいと思ったんだ。防衛戦だってのにノコノコ目の前に出てくるわ、城の中をテメェで壊しまくるわ、トラップにガバが目立つわ、はっきり言って完璧主義者とはほど遠い振る舞いばかりしていやがる。何を完璧と言っているんだ?」
「俺は手加減も容赦も一切しない!!城が壊れようが、お前を倒すことが優先だからだ!!いかなる対価を払ってでも、俺は侵入者を“徹底的に”叩き潰す!!」
黒鉄は必死の形相でトーヤに熱弁をふるう。
「たとえレベル1の勇者であろうと、俺の脅威となり得るのであれば、俺は一切容赦しない!!ドラゴンを仕向け、精鋭を遣わせ、禍根を残さぬよう______」
「その考えがまずほど遠いって言っているんだよ」
トーヤはあきれたようにため息をついた。
「いくら勇者とは言え、レベル1なんて倒せるモンスターの種類なんざたかがしれている。大方スライムをどうにか倒せるかぐらいの実力しか持っていないだろう。そんな奴に“ドラゴン”を動員する時点で、既に戦力の浪費だ。お前の採っている対策は無駄が多いんだよ」
「無駄・・・・・・だと!!」
「俺はギルドの一部隊として所属しているから、その当たりの相場には目利きがあるんだ。どのランク帯の冒険者がどんな成果を上げているのか、俺の手元にはそういう情報が山ほどあるんだ。・・・・・・・情報と言えば」
と、トーヤは一つの「ウィンドウ」を開いた。
「先ほど俺の仲間がお前をわずかばかり解析して得た情報だが・・・・・“その無慈悲かつ「徹底的」な政略は一切の妥協を許さず、同盟国さえも傘下に下らせるために容赦なく牙を剥く”なんて記述がある。もしもこれが本当ならば、お前は同盟国を裏切ったことになるが、本当か?」
「ああ、そうだ!!」
どことなく余裕が無さそうに、黒鉄はトーヤに噛みつく用に叫ぶ。
「同盟を組むなど生ぬるい事をするか!!所詮は敵国!!一方的に不利な取引を行うぐらいなら、皆討ち滅ぼして______」
「本当に話にならないな、オマエ」
はあ、とトーヤは2回目のため息をついた。
「知っているか?国って言うのは皆同じ環境が整っているわけじゃ無い。雨が多い国、雪が降る国、山間の国、海に面した国・・・・・・そういった国は、そういう地理的な物を生かした文化が栄えている。そしてそういった文化があるからこそ、その国にしかできないものもあるハズなんだ。・・・・・・・だが、オマエはそれを安全かつ確実に手に入れる手段も無下にして、独り占めしようとしたんだ。テメェの国で調達できない資源はどうしていたんだ?まさか敵国を滅ぼして巻き上げたんじゃ無いだろうな?だとしたらお前のやっていることは魔王じゃ無い。ただの盗賊だ」
「やっぱり・・・・・・・・・・・」
「?マナ、お前もなんか考えていたのか?」
思わず言葉を漏らしたマナにトーヤが尋ねる。
「なんて言うか、ひどいなって思ったの。せっかく仲良くなれたのにそれを台無しにしちゃうなんて・・・・・・まるで助けてくくれるって差し伸べてくれた手を払いのけるようなことして、なんで平気でいられるんだろうって・・・・」
「・・・・・・・お前もこういうことを考えていたのか」
トーヤは意外そうな表情をした。そして、再び黒鉄に向き直る。
「そういうことだ。同盟って言うのは“互いに信頼し、協力し合うことを誓う約束を結ぶこと”っていう意味だぞ?単純に取引しているだけならまだ解らなくも無いが、わざわざ同盟って銘打ってあるんだから、そういう取り決めをしていたはずだ。にもかかわらず、オマエはその信用を無下にして仇で返しやがったんだ・・・・・・・・・・まだそんな難しい勉強をしていない村娘でも解ることだ」
「だから、なんだ!!俺が完璧主義者である事は覆されて_____」
「完璧主義、ねぇ。そういう割には城内の警備も随分とお粗末だったが?」
声を荒げる黒鉄の言葉を、トーヤは静かだが鋭い口調で遮った。
「気付いていないとでも思われているんだろうが、触手型のトラップもあっただろう?俺が近づいても起動しなかったことから、女にだけ反応する物だと思われるが・・・・・・条件を絞った罠を仕込む時点で“完璧”とは言えないな。他にも俺が通っていないだけかもしれないが、通路を塞ぐシャッターみたいなのも見当たらない。侵入者の侵攻を防ぐのに効果的な手段を全ての通路に仕込まない時点で“徹底的”とは言えない」
「だったら!!てめぇはどうするつもりだ!!」
「俺だったら、城の中に更に“城塞”を作り、自分と自分の認めたごく少数のやつしか通さないようにする」
「・・・・・・・・・・!!」
「物理的に通過可能な通路は当然設計するが、基本は“転送魔法”を利用して行き来する。その外界は2層構造にし、外側をトラップ地帯、内側を警備地帯として運用する。万が一の場合には侵入者を特定の区画に幽閉、そのエリアを爆破する事で被害を最小限に抑える。外交は・・・・・そうだな。自国で自給できる物とほぼ被らない物を特産品にできる国と積極的に貿易しよう。軍事的にも自国とほぼ真逆の戦法を好むならばなお良し、いざというときにすぐに増援を寄越してくれる様に手引きしておくのが理想だな。・・・・・・素人なりに考えてみたが、どうだ?」
「待て!!自身は閉じこもっておきながら外交をするだと!?矛盾して居るじゃねぇか!!」
「矛盾?別にしていないだろう。何もわざわざ顔をつきあわせるだけが外交じゃ無い。最初は手紙とか遣いを送るとか、いくらでも連絡手段はとれる。信頼にたり得ると判断すれば実際に面と向かって交渉したり、和平を結んだりすれば良いだけのことだ。・・・・・・さっきから何を焦っているんだ?」
「!!」
トーヤに指摘されて、黒鉄は目に見えて狼狽した。
「そういえばお前、“不壊の鎧を装備していたにも関わらず腕を切り落とされた”、“7振りのフラガラッハ全てが寝返った”この二つのことが起きてから明らかに余裕が無さそうだな。よほど装備のスペックを当てにしていたと見える。だから防衛戦を強いられているはずなのに、わざわざ出てきたんだろう?」
「当たり前だ!!“不壊の鎧”、“フラガラッハ”この二種類はSSRランクの装備だ!!信頼たり得るに決まっているだろう!!」
「じゃあその2つが使えなくなったら、どうするつもりなんだ?まさか今から粘り直す、なんて阿呆みたいなこと言わないよな?実際に今、そういう状況にあるのに」
「うぐぐ・・・・・・・・・」
「もう、底が見えたよ」
トーヤは心底うんざりしたように、3度目のため息をつく。
「“不穏分子に対して過剰な戦力で対処する”、“あらゆる国を支配したいがために組んだ同盟をわざわざ無下にする”、“明確に装備や兵力などのスペックを過信している”、“侵入者に討たれてはならない立場でありながら敵前に姿をさらす”・・・・・・これらの点から、俺はこう結論づける」
トーヤは心底見下した目で、黒鉄を見据えた。
「オマエは完璧主義者じゃ無い。自分が可愛くて可愛くて仕方が無い、臆病者だ」
「しかもただの臆病者じゃ無い。何かの後ろ盾や保護があれば一転して横柄になる、イキって居なきゃ済まないガキ大将だ」
「そして“~ist”という言葉を掲げてインテリぶろうとしておきながら、単語としての意味すらはき違えた馬鹿野郎だ」
「臆病で馬鹿な癖に自己顕示欲ばかりが強くって、ロクに使えもしない横文字で格好付けたくて仕方が無い、脳味噌小学生おじさんって訳だ。幼稚園で格下相手に一生イキってろよ恥さらし。思春期はまだまだ先だぜ?」
「・・・・・・・黙っていれば好き勝手言いやがって!!もう許さん!!」
黒鉄はこれまでに無いほど険しい表情でトーヤをにらみつけていた。
「出てこい!!“アンタレス”!!奴に“完璧主義者”の局地を見せてやる!!“徹底的に”潰せ!!」
ブゥウウウウン・・・・と、先ほどとは比べものにならない数のドローンがどこからともなく現われる。その数、千にも上るだろう。
「ふうん・・・・・随分痛々しい名前を付けているんだな」
「と、トーヤくん・・・・・・」
明らかに火に油を注いでしまっているトーヤを、マナは心配していた。しかしトーヤは、そんな彼女の肩に手を置いた。
「見たか?この奴の反応は自身を否定されたことへの拒否反応、つまり“唯我独尊”の精神だ。それを捨てられないまま、奴は年齢だけ重ねてしまったんだ。そしてこれまで見聞きしてきた一連の騒動は、ここに集結している。あと一息だ・・・・・・・・・ところでシロはどうした?」
トーヤはマナにシロのことを尋ねた。
「あ・・・・・・・シロちゃん・・・・・・」
「・・・・・・・その感じだと、あんまり良いことは無さそうだな」
トーヤはフラガラッハを一旦床に突き刺し、マナを優しく抱きしめるように身を引き寄せた。
「安心しろ。俺はこのもらった力に掛けて・・・・・・お前を傷つけさせはしない」
ビキバキバキバキ!!と、マナを中心に空間が凍てついた。
「と、トーヤくん、何これ!!氷なのに寒くないんだけど!!」
「流石に奴の魔法や剣は防げないだろうが・・・・・あの飛んでいる奴の流れ弾ぐらいは防げるはずだ。そこで見ていろ」
マナは巨大な氷塊の中に閉じ込められたが、その異様な様子に戸惑っている。性格には「氷漬けになっている」のではなく「周りを氷柱で囲われている」状況にあるのだが、なぜか凍えるような寒さを感じないのだ。
「さて黒鉄。そのハエ共はテメェの自信作何だろうが・・・・・・1機残らずたたき落としてやる。“徹底的に”な」
そして、トーヤの背中に浮かぶ輝く菱形の羽根を展開する。
「応えてくれ“フラガラッハ”。“ヘル”。俺に力を貸してくれ」
まるで白い翼を生やしたかのような少年は、背負った「剣」をはためかせ、「謁見の間」の上空に飛び上がった。




