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ヴィジターキラー  作者: 反物質
氷河﨑凍耶「凍てつきし徒花は咲く」第四章
39/110

6-4

「はぁ?!“転生者”のガキを迎え入れた?!」

 ナーリャガーリ大帝国の「対転生者特別防衛機関」。その「会議室」にて、ハルピュイアの青年は目を剥いて叫んだ。

「うん。“システム”を真っ向から無効化する逸材だ。これをうちに引き入れられたのはでかいと思うけど・・・・・・」

「ふざけんじゃねぇ!結局は転生者サマの“チートクォリティ”だろう?!うちはそんなモンに頼るんじゃなかったんじゃねぇのかよ!!」

 と、怒りをあらわにするのはグーフォだ。彼はその屈強な脚部で床をダンダンッ!!と殴りつけるように踏みしめる。顔見せに来た凍耶・・・・・否、トーヤを目の当たりにしその少年の来歴を耳にたところ、突然激昂したのだ。

「グーフォ、落ち着け。彼はその体質のため“システム”の恩恵を受けることができない。だから我々が思い描く様な“転生者”ではない。それに」

「解ってねぇな!!誰であろうと何だろうと、“転生者に縋る”ってのが気にくわねぇんだよ!!」

 グーフォは、一際ダンッ!!と強く床を蹴りつけた。ビクッ!!とトーヤは身を震わす。

「大体、この組織の目的は“転生者を取り締まること”が目的だろ!!そんな俺たちが“転生者”に頼ってどうすんだ!!俺たちの面目が______」

「グーフォ」

 きつく彼の名を呼んだのは、この組織のトップであるアーサーだった。

「これは俺からの指令だ。お前も解っているだろう?いくら“転生者”どもを追い詰める材料をかき集めたって、肝心の奴らを仕留めるすべが乏しい以上、手段を選んでいる暇などない」

「グッ・・・・・・!!」

 グーフォはアーサーに痛いところを突かれ、歯がみする。

「それに・・・・・・コイツは元々持っていた自分の名を捨て、こちらの世界に帰化することを選んだ。これまで多くの転生者を見てきたが・・・・・そんな事をする奴は見たことがなかった。お前は自分の名前を捨てる覚悟ってのが、どれほどなのか解るか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 これまで彼らは何人もの転生者を見てきたが、誰も自身の名前を捨てた者など居なかった。一時的に別の名前を名乗ることはあったが、トーヤのように「名前を捨てる」という「こちらの世界に完全に帰化する」という意志を見せた者など一人も居なかった。

「・・・・・・お偉いサマが付いているからって、図に乗るなよガキが」

 吐き捨てながら、グーフォは居心地が悪そうに部屋を出て行った。怒りのままに、バンッ!!と扉を叩きつけるように閉める。

「・・・・・・・・・あいつ・・・・・グーフォは、思い人を転生者に殺された」

「!!」

 様子を傍観していたネロの言葉に、トーヤは目を見開く。

「自分の大事な人を奪われたその憎しみが、未だに残っているんだろう・・・・・だから、彼のあの態度をどうか責めないでやってくれ」

 グーフォに限らず、この組織に在籍する者は転生者にまつわる過去を持つ。エミリアは家系の名誉を穢され、ゲイボルグは仕えていたはずの転生者の魔王に殺されかけた。そしてアーサーはかつて「アストライア王国」の幹部格「六角:第三の角」だったそうで、彼が仕えていた魔王を転生者の勇者に殺されたのだという。ネロにはそういうエピソードがないが、彼自身「異世界」に強い興味があるため、この組織に加入した。

 だが、元々執着心の強いハルピュイアなだけあって、その怨念は根深いものだった。精神の成長だとかそんな事ではなく、種としての性質なので、こればかりはどうしようもなかった。

「さて、重苦しい雰囲気のところ悪いが、早速お前には第一の仕事をしてもらおう」

「・・・・・・・・・・?」

 何をさせられるのか、とトーヤは身構えた。






「いったん、俺と戦ってもらう。殺す気でかかってこい」

 アーサーの言葉に、その場にいた全員が度肝を抜かれた。









「・・・・・大丈夫なのだろうか」

「うん・・・・まさか初っぱなからあんなこと言い出すとは思わなかったね」

 拠点の「演習場」出入り口のベンチに、エミリアとネロが腰掛けていた。彼らの表情は浮かない。今、トーヤはアーサーに手ほどきを受けながら、ぶっつけ本番で戦闘を行っているのだ。それも、アーサー自身を相手取りながら。

「そういえば気になったのだが・・・・・・“茨路進”から押収した“剣”はどうだったか?」

「ああ。あれは実際に解析してみたけれど、“聖剣エクスカリバー”で間違いなかったね」

「やはり・・・・・そうなのか・・・・・」

 聖剣エクスカリバー。それはこの世界で作られた一振りの剣で、その製造技術が失われている代物だ。モンスターなど一薙ぎで両断し、魔族を討ち滅ぼし、悪を穿つとされている剣だ。モンスターなどに多大なダメージを負わせる「魔物特攻」を持つ剣だが、それが発動しない人間相手でも十分な攻撃力を持つ。

 そんな聖剣エクスカリバーだが、そんな代物を誰もが手にできるわけではない。

「あの剣は、“真の勇者のみが剣を抜くことができる”といわれているんだよな?」

「そうだね。実際回収班が手にしたときはすでに鞘に収まっていた状態だったし、持ち上げるのも一苦労だったみたいだ。刀身を確認しようと思ったけど、やっぱり抜けなかったよ」

 聖剣エクスカリバーは「勇者」以外が振ることができないよう、手元を離れると鞘を呼び寄せ、勝手に納刀される不思議な剣だ。勇者でないものは抜くことはおろか、持ち出すことすら容易ではない。運搬のためか複数人で持ち上げれば移動はできるが、それでも持ち運びには支障が出るものだった。

 それを進が帯刀していたと言うことは、つまりそういうことである。だが、

「トーヤが奴の剣を奪ったとき、いとも簡単に持ち上げていたんだ。しかも鞘を無理矢理剥ぎ取ったようなものではなく・・・・・()()()()()()()()()()()()()()様に見えた」

「はぁ?!そんなことがあるの?!」

 実際、エミリアは進からエクスカリバーを奪い取っているのを目撃している。その際に鞘がベルトに下がっており、しかもわざわざバックルをきれいに外して様に見えたのだ。あんな錯乱状態のトーヤがそんな事をするか、といわれると疑問に思うだろう。

「しかも、トーヤが奴を襲っていた際、その剣の切れ味が増しているように感じたんだ。あんな非力な子が石畳までブッスリ、剣を突き刺せると思うか?」

「うーん、思わないね・・・・・でも」

 ネロはエミリアのいいたいことを察し、敢えてそれを否定する発言をする。

「そういう性質って“スキル”とかで付与されてるんじゃないのかな?あくまでボク達が解析できていないだけで、本当は無効化していた、とかさ」

「確かに、その可能性もなくはないだろう・・・・・」

 だが、仮にこの性質が剣が元来持ち合わせているものだとしたら・・・・・・・

「(あの子は、本当の意味での________)」

 と、エミリアが思考を巡らせていた時、バンッ!!と勢いよく「演習場」の扉が開かれた。

「急ぎなさい!!」

 ゲイボルグが中から台車をガラガラと引きながら、大急ぎで出てきた。彼女が引いている台車をほかのメイドも押しており、その上にトーヤが血まみれで横たわっていた。

「うわ・・・・・トーヤ君?!」

 微かにその容態を目にしたネロが、引きつったような声を出した。ぐったりと横たわる彼はまさに「虫の息」と言っても差し支えない状態で、その戦いの激しさを物語っていた。

「うーむ・・・・・これはなかなか厳しいな」

「「総統!?」」

 扉から悠々と出てきた大男を見上げ、エミリアとネロが声を上げた。上半身裸で筋骨隆々なその体躯は、返り血で染まっている。

「か、彼に何をしたのですか?!」

「決まっているだろう。実演を交えながら簡単な魔力の使い方から実践まで一通り教えただけだ。・・・・・・だが、少し小突いただけで、あの状態だ」

「なっ・・・・・・」

 二人は絶句した。本人は手加減をしたつもりだろうが、アーサーは「リザードマン」という魔族であり、そのパワーは段違いである。この世界の人間には「ステータス」なるものである意味保護されているが、トーヤにはそれがない。銃弾を生身で受けるのに等しい。

「なぜ、そんなことを・・・・・・」

 ネロはアーサーの考えが読めず、彼にその真意を問いただした。アーサーは首をコキコキとならしながら、その質問に答える。

「アイツが何に秀でているのかを見極めたかった。ウチに入ったからには、少なくとも約3ヶ月・・・・・理想では1ヶ月で物になってほしくてな。そのためにはアイツの得意分野を伸ばしてやるのが近道だと考えている。下手にまんべんなく鍛え上げるよりも、何かに特化させた方が近道だ」

「・・・・・総統。そのやり方は非効率ではありませんか?基礎体力も無い状態で鍛えたとしても、さほど効果が現れません」

 アーサーのやり方に、エミリアは思わず苦言を呈した。幼少期から騎士団に所属していた彼女からすれば、アーサーのやり方は邪道そのものだ。

「確かに、普通はそうするんだが・・・・・アイツの能力を見て、事情が変わった」

 というと、アーサーはエミリア達の腰掛けていたベンチにドカッ!と座り、バインダーに挟んだ資料のようなものを見せる。そこには六角形が描かれており、「ステータス」で表示される6つのパラメータがそれぞれの頂点に記載されている。

「まず、アイツは腕力がてんでだめだ。男として見ても貧弱すぎる。それに小突いただけで大ダメージを負うような耐久力じゃ、鍛えようとすると逆効果だ。どんどん体力が低下していく。これでは本末転倒だ」

 といって、「HP」「攻撃」「防御」「精神」のパラメータに対して中心付近で点を打つ。トーヤに攻撃を仕掛けたとき、魔力に対する抵抗力も見ていたのだろう。

「だが、異世界では比較的勉学が得意だったことを反映してか、魔力の扱い方については速くも理解の兆しが見えた」

 そう語りながら、アーサーは「知力」の点を先ほどよりは中心から離れた位置に打つ。

「そして俺も意外に思ったんだが、アイツは意外とバランス感覚が優れている。反射神経もなかなかいい水準だし、魔力の扱い方さえ解ればかなり化けると思う」

 彼の「敏捷」のパラメータを頂点と原点の真ん中付近で打ったその線を結ぶと、「知力」と「敏捷」が平均よりも若干低く、それ以外は壊滅的なパラメータである事を意味するチャートができあがった。

「うーむ・・・・・確かに、これは厳しそうですね」

「せめて、この二回りはほしいところだね」

 チャートをのぞき込んだエミリアとネロは頭を抱えた。いくらこちらの世界に順応するために鍛えると言っても、元々のスペックがかなり低いため、これでは彼の成長について期待できなさそうだ。そう感じ取った。

 だが、アーサーは意外な部分を賞賛した。

「まあ、単純なスペックだけならそうなるが・・・・・・ここに“魔力の制御と生成”を加えれば、話は変わってくる」

「魔力の制御と生成、ですか?」

 ネロは訝しげに復唱した。

「ネロ。お前ならある程度解っているだろうが、“職業”を付与することである程度魔力の制御の仕方を体に教え込んでいる。大抵の奴・・・・・というか、どいつもこいつもそれをすぐに施しちまうから、“自力での魔力の制御”の仕方を知らない。まるで補助輪をつけた自転車をいつまでも漕ぐようにな」

 だが、とアーサーは続けた。

「逆に言えば最初からそういう施しを受けていないアイツであれば、魔力の制御の仕方には非常に幅が生まれる。だから魔力について徹底的に教え込めば、かなり“攻撃”は改善されるかもな。同じ要領で“敏捷”も強化できる」

 といって、アーサーは赤いインクで「攻撃」「敏捷」のパラメータを打ち直す。中心付近にあった「攻撃」が平均レベルにまで底上げされ、「敏捷」が平均レベルを突破する。

「さらに魔力の性質について精通し、自在に操れるようになることは“魔法の出力”にも直結する。そうなれば魔術師とほぼ同等の活躍も期待できるな」

 アーサーは赤いインクで「知力」も打ち直し、平均を超えた。ここだけ見れば、「高火力高機動、低耐久」を地で行くステータスを持つとみることができる。

 だが、ここでネロが異を唱える。

「しかし総統。それは彼が最低限魔力を生成し、制御できるようになったときの話です。果たして、彼にそれだけの魔力があるのか・・・・・・」

 アーサーが示したチャートは、あくまでも魔力を生成し、自在に操れるようになった時のものだ。本人にこれだけのスペックがなければ、当然成し得ることはできない。

 だが。

「いいや。できるさ。暴走時の様子でそれがわかる」

 アーサーは確信を持って断言した。

「考えてみろ。本当の意味で魔力に関する才能が無かったら、暴走時に周りを氷漬けにするなんて事は起こらないはずだ。“魔力を生成する力がある”から、俺はこうしてアイツの能力を分析しているんだ」

「言われてみれば・・・・・・・」

 これまでの転生者からすれば、それはか弱いものだった。どころか、一般の冒険者と比較しても見劣りする。感情を高ぶらせ正気を失って、それでもなお自身とその周辺を凍てつかせるだけにとどまっている。

 それでも、その欠片の才能をこの男は評価している。それはちょっと絵がうまいだとか、ちょっと手先が器用だとか、そんな小さな次元の話だ。そんな小さな才能を昇華させようと、アーサーは考えているのだ。

 そして、アーサーはこう語る。

「それに、いくらこちらの世界に来なければ開花しなかったとは言え、これは紛れもないアイツ自身の才能だ。ほかの転生者共のように貰い物じゃない、本物の“力”を生かしてやりたいんだ」

「総統・・・・・・」

 エミリアがアーサーの言葉に感銘を受けている間に、その大男は立ち上がった。

「さて、そうと決まれば明日からは魔力についても教えてやらんとな。ネロはアイツに“魔法学”を、エミリアは鍛えること。いいな?」

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

 立ち去ろうと歩き出すアーサーの後を、エミリアとネロは付いていく。







この日から、トーヤの、「転生者殺し」の物語は始まったのだ。


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