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ヴィジターキラー  作者: 反物質
氷河﨑凍耶「凍てつきし徒花は咲く」第四章
37/110

4-4

「ああああああああああああああああああああ!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 凍耶は、衝動のままに走った。涙を止めどなく流しながら、オーレッツェーの町を駆け抜ける。

 やがて、どこか人気の無いところにたどり着いてしまった。闇雲に走っていたため、自分がどこからどう来ていたのか解らない。

 そこで、人に体当たりしてしまった。

「うわぁ!?」

「痛ってぇ!!」

 と、男の人にぶつかった凍耶は、その体躯に抗えず弾き飛ばされる。

「ご、ごめんなさ・・・・・・」

 ぶつかってしまった人物に謝ろうとした、そのとき。

「おい、コイツもしかして転生者じゃねぇか?」

「こんな服、見たことねぇな」

 路地裏にいた男性は3人。皆体格が非常に良く、力仕事をしているであろうことが見て取れる。

「は、はい!俺は、異世界から来てしまったんです!それで・・・・・・・」

 と、凍耶は言葉を紡ごうとしたが、その先が出てこない。「帰りたい」。たった一言が、彼は口にすることができなかった。

「そーかそーか・・・・・・そいつぁ大変だったな・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・!!」

 男性の一人が、凍耶の頭をポンポン、と優しくたたいた。その仕草にほんの少しだけ安堵した。もしかしてゆく当てのない自分をかくまってくれるのではないか、などとありもしないことを期待していた。そのつかの間。




「だったら、苦しんで死ね!!」

 ガン!!と、男は凍耶の頭を建物の壁に打ち付けた。




「ガッ・・・・・・・!!」

 ひびが入るのではないかと錯覚するような痛みが、凍耶の頭蓋骨を襲う。ミシミシと嫌な音が脳内に響き渡る。

「ハハッ!!コイツ、俺たちの攻撃が通ったぞ!!」

「やったな!!“当たり”だ!!」

「・・・・・・・・・・・・?!」

 彼らの言っていることが理解できず、凍耶はズキズキと痛む頭を抱えて困惑する。するとその脇腹に、男の容赦の無い蹴りがドボッ!!と入る。

「ガハッ?!」

「どうだ!!痛ぇか?!なあ!!痛ぇんか!?かわいそうだなぁ!!こんなクズ共の憂さ晴しに遭うなんてよぉ!!」

「恨むんなら、オマエらの先人達を恨めよ!!オマエら“転生者”の所為で、俺たちは行き場を失ったんだからな!!」

「苦しめ!!苦しんでテメェらの先輩方でも恨んでるがいい!!」

「ヒッ・・・・・・・ヒッ・・・・・ウウ・・・・・!!」

 ガッ!!ガッ!!と、四方から容赦の無い蹴りが浴びせられる。凍耶はなんでこんな目に遭わなければいけないんだ、と悲観した。元の世界で父に先立たれ、母親を殺されて、同級生にいじめられて、異世界に来たと思ったら、今度は仲間はずれだ。どれだけつらい思いをすればいいのだろうか。凍耶は惨めな気持ちになった。

 なんで自分だけ。そう思わずには居られなかった。

「なあ、もしかしたらコイツの服を売れば金になるんじゃないか?!」

「おお!!そりゃあいい!!“異世界の英雄の衣装”なんて名前で売れば、パンツだって金塊も同然だ!!」

「良かったなぁ!!せいぜいすっぽんぽんで這いつくばってるんだな!!」

 と、男達が凍耶の服を剥ぎ取ろうと手をかけた、そのときだった。




「“サンダーボルト”!!」

 男達の頭上に、バリバリバリィ!!と電流が流れ落ちた。




「「「アバババババ!!」」」

 電気ショックで感電した男たちは痙攣しながら、その場に倒れ込んだ。

「無抵抗な少年を集団でいたぶるなど、お前達は自分が如何に姑息で下劣な真似をしているのか分かっているのか?!」

 男達を叱り飛ばすその女性は、燃えるような赤い髪をボブカットにしており、見方によっては鎧を着たお姫様にも見えなくはなかった。

「でもよぉ!!コイツは“転生者”なんだぜ!!」

「あんたらだって目の敵にしているだろう!!だったらWin-Winの関係で_____」

「黙れッ!!」

 女性が怒鳴ると、男達のそばにバリバリバリィ!!と再び落雷が起こる。その音と閃光に男達は「ウォオオオオッ?!」と恐れおののいた。

「相手が誰であろうと、弱気物を集団で執拗に痛めつけることなど到底許される訳がなかろう!!それに我々が敵としているのは“傍若無人に振る舞い他者を平気で傷つけるような無法者”だ!!そこの少年がお前達に“直接”何かしたようには見えないがな!!」

「ご、ごめんなさぁあああああああああああい!!」

 女性に怒号を飛ばされ、すっかり尻込みした男達は、一目散に逃げていった。

「ふん、軟弱物が・・・・・・・・」

 と女性は吐き捨てると、亀のように丸くなった少年の元に歩み寄り、

「大丈夫か?奴らは私が追い払った。安心するといい」

 と、優しいまなざしで語りかけてきた。しばし頭を伏せていた凍耶はやがて頭を上げ、彼女の顔を見上げると、

「ありがとう・・・・・ございます・・・・!!」

 と、涙をためて感謝の言葉を口にした。








「“システム”の影響受けない・・・・そんなことがあり得たのか・・・・・!!」

「はい。それで、同じくこの町に飛ばされてきたクラスメイトにはやし立てられて、思わず・・・・・・・・」

 凍耶は女性______エミリアに、事の顛末を話した。彼の体質の話を聞いたときは、流石に彼女も驚きを隠せなかった。

 彼女は「対転生者特別防衛機関」と呼ばれる組織の人間で、「転生者」を専門に処罰しているのだという。ちょうどこの町を訪れる機会があったということだが、そこで凍耶が男達に嬲られているのを発見したのだという。

「しかし、いかなる理由にがあるにせよ、やはり集団での転移では仲間同士の軋轢が生じるのだな・・・・・」

「あつれき・・・・・・?」

 難しい言葉を知らない凍耶は、彼女の口にした単語に反応した。

「ああ。集団での・・・・・それも、30人もの人員を一度にこちらの世界に召喚すると、そのほとんどのケースで仲間割れが生じるという結果が出ているのだ。そして追い出された個人か、或いは分裂した勢力のうち一方が問題を起こす、というパターンが非常に多い。なかなか興味深い話だろう?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 凍耶はエミリアの話を聞いても、ちっとも理解ができなかった。それは彼女の話が難解だからではない。なぜ彼女が「目の前に転生者が居るのに」自分を殺さないのか、というところがずっと引っかかっているからだ。

「なあ、エミリアさんはなんで、俺を殺さないんだ?」

 凍耶はふと、つぶやくように口にした。

「俺だってあんたたちに危害を加えるかもしれないだろ?だったら殺しておく方が_____」

「君は何か勘違いしているが」

 エミリアは、凍耶の沈んだ声をかき消した。

「我々“対転生者特別防衛機関”は、“甚大な被害を及ぼした者”または“及ぼしかねない者”を処罰対象とする。君は、先ほどの男達を蹂躙し、一方的に痛めつけるような真似はしたか?」

「・・・・・・いいえ」

「そんな真似ができる力があるか?」

「・・・・・・いいえ」

「・・・・・・なら、大丈夫だ」

 ポン、とエミリアは凍耶の肩をたたいた。

「我々とて、無差別に処罰しているわけではない。危害を加えるつもりがないものを、自分勝手に振る舞う様な性分でない者を、どうやって罰するというのだ」

 エミリアがそう語りかけているとき、遠くの方から甲冑を着た男性が、おーい、と呼びかけてきた。

「エミリア執行部隊隊長!もうそろそろ作戦の時間です!!」

「ああ!今行く。・・・・・・・少年、また会う機会があれば」

 と、エミリアは別れを告げ、その場を後にした。

「・・・・・・・ずいぶんしっかりとした人だったな。きっといろんな人生経験を積んだんだろうな」

 そんな凍耶は知らなかった。彼女が、自分とたった一つ年上だと言うことを。












「(でも、どうしよう・・・・・・・・・)」

 エミリアと別れた後、凍耶は町中をさまよっていた。宿屋に泊まりたくとも、先ほどのような思いをしたばかりでは「転生者お断り」なんて言われるかもしれないし、そもそもお金も持っていない。ではどうするか・・・・・と考えながら、歩き回っていたのだ。

 と、

「あれ、何か人混みができてる」

 なぜか人だかりができており、ざわざわと騒いでいる。その様子は明らかに野次馬そのもので、しかも単純な喧嘩の見物人などではなく、事件を目の当たりにしたような深刻さをはらんでいた。

「どうしたんですか」

 凍耶は近くに居た女性に話しかけると、

「“対転生者特別防衛機関”の人たちが、“久遠の勇者”様を討ち取ろうとしているのよ!!あんな罰当たりなこと、なんでできるのかしら!!」

「!!」

 女性の口にした組織の名前。これを聞いた凍耶は無我夢中で人混みをかき分けて進んだ。

「(まさか・・・・・・・・・・・!?)」

 凍耶は嫌な汗を流しながら、人混みから顔を出した。野次馬が息をのむ中、その目の前で繰り広げられていたのは____________




たった一人の東洋人の男性を前に、何人もの騎士達が倒れ臥している場面だった。




「ハァ・・・・・・・ハァ・・・・・・」

 先ほど凍耶を励ましてくれたエミリアは剣を杖代わりにして、なんとか立っている状態だった。しかし彼女の周りには、無数の騎士達が転がっている。皆、目の前の男に倒されたのだ。

「・・・・・・・・・・俺は、ただ復讐を遂げるだけだ」

 ボロボロのマフラーに黒のボディスーツを身につけ、腰に一振りの剣を差したその男はほとんど表情を変えず、淡々と口を動かした。

「俺は、無限に“レベルアップ”する。それも“奴ら”も届かないようなレベルまで・・・・・・それを邪魔するんだって言うのであれば、容赦はしないと言ったはずだ」

「だが・・・・・・それでもお前はやり過ぎだ、“茨路進イバラミチススム”!!ほかの冒険者の未来まで潰えさせる気か!!」

 エミリアは鬼気迫った表情で叫ぶ。そんな彼女のことなどお構いなしに、その男は淡々と語る。

「お前達が“転生者”を快く思っていないのは知っている。だが、だからって()()()()()()()するのはお門違いじゃないのか?()()()()()()()()()()()

 まるで雑魚的相手に一人語りを演じるかのように、進は無感情で語り続ける。周りからは、その圧倒的な姿に畏敬の念を抱かれているのだろう。

 だが、少年_____凍耶だけは違った。

「(アイツが・・・・・“転生者”・・・・・・あの人が言っていた・・・・・・)」

 目の前の男は、エミリア達を一方的にいたぶっている。あまつさえ「実力不足なら自分を恨め」などと言っている。にもかかわらず、自分は「無限にレベルアップ」できるのだという。あまりに不条理だ。

 何よりも、今こうしていたぶられているのも先ほど自分を慰めてくれたエミリアなのだ。「システム」を受け付けない自分に一時でも寄り添ってくれた彼女が、ボコボコにされているのだ。

「・・・・・・・・・・・こいつが・・・・・・・・」

 両親を第三者に殺され、クラスメイトにいじめられ、そして得体の知れない司祭にレッテルを貼られ、そして身に覚えのない憎しみを一身に受けて。もはや凍耶の精神は限界を迎えていた。そしてそこでほんのわずかな温かみを奪われた凍耶は、もう自分を抑えることができなかった。

「・・・・・・・・オマエのせいだ・・・・・・ッ!!」

 そして、正気を失った少年は、目の前でのうのうと抗弁を垂れている男に、牙を剥く。先ほど自分が受けた痛み。その直接の根源の一つに、凍耶は憎しみのままに飛び出す。




「オマエのせいだァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」




「?!」

 いち早くその異変を察知した進は、凍耶の方を向く。野次馬が一斉に雄叫びを上げながら猛然と駆け出す少年の方を向く。

「やれやれ・・・・・・また逆恨みか・・・・・・」

 進はいつも通りか、という表情で凍耶を一瞥すると、

「“バリアブラ”」

 とだけ唱えて、ブゥン!と電磁バリアを張る。

「(俺が無限にレベルアップするからって嫉妬しすぎだろ。どいつもこいつも努力が足りん)」

 などと、意識をエミリアに戻したときだった。





バリィン!!と電磁バリアを破られ、いとも簡単にその体躯が横倒しにされた。




「________は?」

 一瞬、自分が何をされたのか認識できなかった進は、面白いほど簡単に転がり、頭二つ分ほど低い少年に馬乗りにされる。

「・・・・・・・・・?!」

 凍耶の意識の外側でエミリアが息をのむ。だが少年は周りの目など気にならない。気にすることもできないほどに錯乱し、そして怒り狂った。

「オマエのせいで・・・・・・・オマエのせいで!!」

 幼さの残るその顔をいびつにゆがめ、凍耶は男の腰に差してあった剣を鞘越しに握りしめていた。元々男の腰にあったはずの剣だが、いつの間にかベルトを外されていた。

「おい、どういうことだ!お前みたいなガキがその剣を______」

 と、進は言いかけたが、凍耶はその剣をあっさりと抜き、逆手に持ち替える。

「な・・・・・・・・・・・ッ!?」

 エミリアがその光景に目を見開く。そんな彼女の前で、



ザシュッ!!と剣を進に突き立てた。




「ガッ・・・・・・・・・!?」

 その剣は決して短くはないのだが、容易に進の胴体を貫通し、その下の石畳まで思いっきり突き刺さる。だが、凍耶はそれだけで満足しなかった。

「オマエのせいだ!オマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダ!!」

 凍耶は憎しみのままに呪詛を吐き出し、進を滅多刺しにする。ズグッ!!ドスッ!!グジャッ!!という生々しい音が連続する。

「アハッ!!アハッ、アッッッッッッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 凍耶は狂ったよう笑いながら、より一層激しく剣を突き刺し、引き抜き、また突き刺す。進はもはや剣の動きに合わせて微かに胴体を上下させるだけで、物言わぬ骸と化していた。

「!!皆!!少年を抑えろ!!」

 エミリアが思い出したかのように叫ぶと、騎士の一人が凍耶の方に両手をかざした。

「“ジェイル”!!」

 その騎士の掌から、紫に輝く鎖が飛び出した。ジャララララ!!とそれは凍耶の元に伸びていく。そして彼を絡め取ろうとするが、まるで実態がないかのようにスカッ・・・・とすり抜ける。

「おい!速く捉えろ!!」

「解ってる!!だがなんでかコイツ、“ジェイル”が効かないんだ!!」

「もういい!!押さえつける!!」

 しびれを切らした騎士の一人が、未だに進の亡骸を滅多刺しにしているところを取り押さえる。

「離せ!!畜生!!殺してやる!!」

「取り押さえたぞ!!目標とこのガキを回収だ!!」

 と、取り押さえた騎士が叫ぶと、周りの騎士も一斉に少年(正確にはその下の進の遺体)に群がる。

「しかし、なんなんだこのガキ、これが隊長の言っていた“システムが通じない転生者”か?」

「エミリア隊長!このガキはどうしますか?!」

「離せ!!ハナセ!!コロシテヤル!!」

 未だに憎しみのままに暴れる凍耶を取り押さえ、騎士はエミリアに問いかける。

「そうだな・・・・・・本当ならこの子は仲間の元に返すべきだが・・・・・」

 しばしエミリアは思案した後、

「彼は殺人を犯してしまった。かわいそうだが、“元の世界に強制送還しよう”」

「!!」

 と、シャキン・・・・・と剣を構えた。彼らにとって「強制送還」は「処刑」を意味する。転生者をこの世界で葬ることは、元の世界に戻すことと同義なのだ。実際は向こうの世界で死んでいた場合、つまり文字通りの「転生者」の場合は元の世界によみがえらず、一度地獄に堕ちることになる。だが、彼は「転移」されてきたタイプだ。こちらの世界で死亡しても、向こうの世界に戻るだけだ。

 だが、ここで凍耶の動きが止まった。観念したわけではない。その目は大きく見開かれ、何かのスイッチを押されたような、そんな状態だった。

「(元の世界に強制送還・・・・・?俺は、あの世界に戻るの・・・・・?)」

 その脳裏には、走馬灯のように様々な出来事がフラッシュバックする。棺桶の中の父親の顔。乱暴にジョキジョキと髪を切り落としながら頭上から怒号を浴びせかける義父。机に刻みつけられた罵詈雑言。そして、首を絞められ、目の前で死んでいく母親。

「いやだ」

 震える声で、凍耶はつぶやいた。向こうの世界で経験した壮絶な日々が、凍耶の脳裏を駆け巡る。




「いやだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 凍耶が叫んだ瞬間、周囲がパキパキパキ!!と凍てついた。




「うわぁあああ!?」

 凍耶を取り押さえていた騎士は思わず飛び退いた。鎧越しとは言え、その腕は凍てついている。

「きゃぁあああああああ!!」

「やばい!!吹雪だ!!」

 その氷結は凍耶を鋳神にどんどん広がり、氷属性の魔力の奔流を生み出す。

「いやだ!!いやだいやだいやだ!!イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!」

 狂ったように叫びながら、凍耶は頭を抑えて苦痛にのたうち回る。その様子は、明らかに異常そのものだった。

「エミリア隊長これは?!」

「これは・・・・・・魔力の暴走だ!!」

 困惑する騎士の疑問に、エミリアが答える。

「我々はあの子の琴線に触れるような事をしたのだろう。それによってあの子の精神状態が不安定になり、それに伴って魔力が過剰に生成され、それが体外に漏出しているんだ!!」

 エミリアは、あまりの凍耶の取り乱しぶりに、寒気を覚えた。一体どれほどの凄惨な思いをすれば、このような状態になるのか。

「やめて!!おかあさんをころさないで!!いやだ!!いやだぁああああああああ!!!」

 泣き叫びながら、まるで幻覚でも見ているかのような少年は、ひどく痛々しかった。

「しかし、人間が魔力の暴走を引き起こす実例などありません!!本当に、そんな事が・・・・・」

「あの子は“システム”を受け付けなかった!それは“職業の付与”、つまり“リミッター”を掛けられてないことを意味する!!我々が魔力の暴走を起こさないのは、あらかじめ“リミッター”を掛けているからだ!!それをされていない彼が取り乱し、暴走するのはあり得ない話ではない!それに見ろ!!」

 エミリアが注目すると、凍耶の体は徐々に白く凍り付いてく。

「あの子が耐えられる魔力量を遙かに上回っている!あのままでは自分自身で氷漬けになってしまう!!」

 こちらの世界で「MPマジックポイント」と呼んでいるのは、「自身が生み出すことのできる魔力の限界値」という意味だ。これを上回りそうになったとき、「職業付与」の儀式で刻み込まれた「リミッター」が発動し、それ以上魔力の生成ができなくなるのだ(これが、「MP切れ」の仕組みである)。しかし、それを施されていない凍耶は自身のポテンシャルを超えて、際限なく魔力を生み出してしまう。そうすると体が耐えられずに、自分の魔力で自分を凍らせてしまうのだ。

「仕方が無い・・・・・やってみるか!!」

 エミリアは剣を捨てると、目の前で掌同氏を向かい合わせた。指と指の間に電極のように雷の魔力が流れる。そしてその流れが一点に収束し、電気の球になると、

「行けッ!!」

 エミリアは叫び、その雷球から一筋の電流を生み出して凍耶を狙い撃ちにした。

「ヴッ?!」

 電撃を受けた凍耶は痙攣すると、バタリ、とその場に倒れ込んだ。辺りを席巻していた吹雪は収まり、凍結も収束した。

「よかった・・・・・・うまくいった」

 ホッ・・・・と、エミリアは胸をなで下ろした。

 彼女は今まで「レベルアップ」で習得してきた魔法で戦ってきた。しかし、「システム」を受け付けないと言っていた凍耶には、この類いの魔法は効かないと踏んだのだろう。事実部下の「ジェイル」の魔法もすり抜けたし、「無限進化」のスキルを持つ進の防御魔法さえ真っ向から打ち破ってしまった。

 だから、彼女は自分の魔力を手探りで制御し、文字通り「手作りの」電撃の矢を凍耶に向かって放ったのだ。少々手荒だとは思ったが、今のこの状況では四の五の言っていられないことは明白だった。

「目標の“茨路進”は“技術部隊”に引き渡し、解析させろ!その少年は一時“保護”する!」

「保護・・・!?しかし・・・・・」

「いいから!!早く!!」

「は、はっ!!」

 叱咤された騎士は速やかに倒れ臥した凍耶と亡骸と化した進を抱え上げ、建物の物陰に待避する。辺りは野次馬で騒然となっているが、彼らが現場に不要に立ち入ることは、彼女らが張った「バリケード」が許さなかった。

「(・・・・・・・・・・)」

 エミリアは、久しぶりに胸焼けのする思いをした。これまでに転生者を仕留めることはあったが、彼らを殺したときとは比にならないぐらい後味の悪い「執行」だった。

「(本当は、あのまま“処刑”したほうがよかったのだろうが)」

 こちらの生活がよほど気に入っているのか、今までの転生者はそろいもそろって異世界に帰りたがらなかった。故に「拘束」を拒否するし、反撃だってしてきた。そのため、これまでは「処刑」せざるを得なかった。「転生者殺し」などと呼ばれるのも時間の問題だろう。

 だが、彼の場合は「異世界に帰ること」を拒否しているように見えた。こちらの世界で爪弾きに逢ったどころではない、壮絶な思いを向こうの世界でしたのだと言うのか。




「(・・・・・・・私には無理だ)」

 対転生者特別防衛機関 執行部隊隊長:エミリア・ゼッケンドルフ。齢14歳の彼女は、そんな非道な判断を下せるほど精神的には成熟しては居なかった。


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