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「おい、起きろゴルァ!!」
「ゲフッ?!」
凍耶はいじめっ子に腹を蹴られて、えづきながら目を覚ました。
「痛ててて・・・・・」
「オッ!?ラノベ主人公あるあるな台詞、いただきましたー♪」
凍耶の反応にいじめっ子がはやし立てる。が、凍耶の注意はそれ以外のところにそれていた。
「(・・・・・・・ここは?)」
辺りを見回すと、大理石でできた床や壁に、大広間、と呼べるほどの広い空間。そして自分は床に敷かれたレッドカーペットの上で寝ていたらしい。
否、自分だけではない。クラス全員が、この訳のわからない空間_____否、世界に転送されたようだ。
「氷河﨑。目が覚めたようだな・・・・・・どうやら俺たち、“異世界”に来ちまったみたいだ」
「異世界・・・・・?」
見ると、自分たちの周りには甲冑に身を包んだ騎士達や、目の前には司祭と思しき老人が立っている。自分は全くもって興味が無かったのだが、いわゆる「ラノベテンプレ」な天界であることは間違いないだろう。
「皆様、誠に申し訳ございませんでした・・・・・ですが、こちらにもやむを得ない事情があるのです。そのことをお話させていただきます」
如何にもな風貌の司祭が、腕を広げながら話し始めた。
「つい数年前、“アストライア王国”という魔族の国家を、滅亡させたのです」
凍耶は「早速出オチじゃないか」と心の名で突っ込んだ。
「この国家は我々人間と敵対関係にある“魔界”の中では最大級でして、そこを滅ぼしたのは我々にとっては大きな一歩でした・・・・・しかし」
と、司祭は表情を曇らせた。
「当時幹部格である“六角”のうちの“第六の角:氷帝ゼロ”と呼ばれる魔族が新たな魔王に就任し、ここ数年で勢いを取り戻しつつあるのです。今現在はどこかに姿を消しているのですが・・・・奴は魔王にあるまじき機動力で、まさに神出鬼没・・・・いつ、どこで我々の領土に攻め入られるか解らないのです。そこで、皆様のお力をお借りしたいのです」
そして、ここから流れるようにことが進む。
「ちょっと待ってください!!いきなりそんなこと言われても、どうしろというんですか!!」
「元の世界に戻してください!!家族が居るんです!!」
「本当に申し訳ありません・・・・・仮に奴を討伐できれば、皆様を元の世界にお返ししましょう」
「本当か!?だったら、頑張るぞ!!」
「なんだか面白そうだし、ちょっくらやるか!!」
「「「おー!!」」」
はいはいテンプレテンプレ、と凍耶は冷めた目つきでクラスメイトを遠巻きに眺めていた。どこぞの小説投稿サイトじゃあるまいし、こんな何のひねりもない展開の何が楽しいんだか。きっと書籍化したら、どこかの漫画投稿サイトのコメント欄に「はいはいテンプレテンプレ」とか「最近のはマジで異世界転生できると思ってるのか?」とか書かれて流れてくるんだろ?凍耶はこの空気に順応できなかった。
「では、先ず皆様に“ステータス”と“適正職業”を占わせていただきます」
「適正職業?」
誰かが繰り返した。
「“ステータス”とは“こちらの世界での能力値に当てはめ、数値化した物”、“適正職業”とは“本人に適した兵種”でございます。後ほど変えることも可能ですが、ご本人が最もご活躍できるご職業かと・・・・・・」
「成る程・・・・・だったら、学級委員を務めている俺が先陣を切る!!」
と、護が真っ先に前に出た。責任感の強い彼は、自らが先導することで皆が後に続けるようにしているのだろう。
「では、こちらに・・・・・・・」
司祭が促すと、そこには水晶玉の乗った机があった。護は水晶玉を両脇から挟むように手を添えると、水晶玉が輝きだした。そして水晶玉の真上に、青く輝く「ステータスウィンドウ」が表示された。
立川 護
職業:勇者
Lv.5
HP:48/48
MP:33/33
攻撃:20
防御:27
知力:16
精神:21
敏捷:12
幸運:25
スキル
喚起の叫び
「おお~!!」
「勇者か!流石は護だぜ!!」
と、クラスメイトから歓声が上がる。高いのか高くないのかよくわからない数字だが、とりあえずそれが護の「ステータス」なのだろう。
「よーし、そしたら名前の順で受けるぞー!!」
「次は安藤!」
「はーい!」
「みんな、一列に並べー!」
「なあ、なんでみんなそんなに順応できているんだ?先生、置いてけぼりなんだが・・・・・・」
と、水晶玉の前に列を作り出した。凍耶も仕方なしに、並ぶことにする。
「すげ~!!魔導師だってよ!!」
「しかも初期レベル15!すげー高さだ!!」
「スキル“無償の愛”だって!すげ~!!」
「どんなスキルなのか知らないけど、すげ~!!」
と、歓声が上がる。これがかわいらしい女の子だったら良かったのだが、あいにく凍耶のクラスにはそんなヒロインを張れるような美少女などいない。何よりもそんな診断を下されたのは、よりにもよっていじめっ子のリーダー格だ。
「“無償の愛”だってよ・・・・アイツのどこにあるのか」
「あんなに氷河﨑くんをいじめてるのに、訳わかんない。あの水晶玉イカれてんじゃないの?」
辺りからは冷めた声が聞こえる。中に女子の声も混じっている辺り、まだまだ良識があるクラスなのだと思える。それでもこの「ステータス」「職業」「スキル」を何の疑いもなく皆が受け入れている。
そんなクラスメイトに対し、凍耶はただ一人否定的な目を向けていた。
「(何がステータスだよ。馬鹿馬鹿しい。才能が数値表わされて優劣つけられるなんて、冗談じゃない)」
元々凍耶がこの手のラノベを嗜む趣味がないのも、こう言う理由だ。ゲームであれば難なく受け入れられただろうが、それを現実のものに当てはめるなど、愚の骨頂だとも考えており、毛嫌いしているのだ。
「次、氷河﨑!」
「お!期待の新人じゃんwwwww」
「ヒューヒューwwwwww」
と、いじめっ子共がはやし立てる。凍耶はそんな野次な無視して、水晶玉の前に立つ。
「では、ミスター・トーヤ。こちらに手を・・・・・・」
司祭に促され、凍耶は水晶玉に手を当てる。
「(でも、もしも少しだけ・・・・・・少しだけ期待していいなら・・・・・)」
凍耶は祈るような気持ちで、水晶玉に念を込めた。
「(何か一つだけ・・・・・一つだけでいい・・・・ほかの誰も持っていないものを・・・・・)」
しかし、現実は非情だった。そんな凍耶の思いなど無視するかのごとく、その事実は牙を剥いた。
「?!」
ザザザザッ!!と、水晶玉の光がいびつに点滅した。まるで、何かを拒むように。
「ああ!?」
「うわっ!?何だあれ!!」
クラスメイトがどよめきだつ中、凍耶は水晶玉の上に表示された「ステータスウィンドウ」を見た。
豌キ豐ウ?大㍾閠カ
閨キ讌ュ?夊*鬨主」ォ
Lv.0
HP:-666/40
MP:42731/120
謾サ謦?シ?
髦イ蠕。??
遏・蜉幢シ?2
邊セ逾橸シ?
謨乗差??8
蟷ク驕具シ?
「・・・・・・・・・・!?」
凍耶は、自分の心臓がドクン、と脈動するのを感じた。目の前に現れた「ステータスウィンドウ」は、まさに「異様」としか言えなかった。
自分の名前も文字化けしているし、数値もまともに表示されていない。そもそも自分の顔写真も黒く塗りつぶされたかのように真っ黒になっているし、ウインドウ自体にもノイズが走っている。
「ちょっと待ってください・・・・・“スキャン”!」
と、司祭は凍耶に手をかざして、魔力を送り込んだ。もしこの魔法がうまくいけば、凍耶の能力値が解るはずだ。だが、それもパァン!!とはじかれて、霧散してしまった。
「ミスタートーヤ。誠に申し訳ありません。ですが・・・・・・・」
そして凍耶は、司祭のこの一言で絶望に突き落とされることとなった。
「もしかしたら貴方は、“ステータス”などを受け付けないのかもしれません」
「・・・・・・・・・・・・・」
凍耶は、言葉を失った。皆が着々と「適正職業」を決めていく中、ただ一人それに順応できなかったのだ。
「ま、待ってください!!それってどういうことですか!?」
護が、声を荒げて司祭に詰め寄った。急に近づかれた司祭はしどろもどろしながら、自らの推論を語る。
「今し方彼にかけた“スキャン”というのは、“ステータス”を人力で測定するためのスキルです。単純にスキルを無効化するスキルなどを持っていればこのスキル“だけ”が無効化されるのですが・・・・・・・この水晶玉を通した方法は、“スキル”の影響は受けません」
「ってことは・・・・・・・・」
護は最悪の自体を想像する。
「ええ。彼はおそらく“レベルアップ”もできませんし、“スキル”も覚えられないでしょう。“職業”についても、おそらくは就くことは不可能でしょう・・・・・」
「そ、そんな・・・・・・・・・・・」
護はその言葉を聞いて、青ざめた。それを聞きつけた例のいじめっ子が、やはりというか、動き出した。
「やっぱりなぁ!犯罪者の子供だもんな!そんなこと許され得るわけ無いよな!!」
「!!」
いじめっ子のリーダー格の少年が、意地悪そうに凍耶に歩み寄り、ぽんと肩をたたいた。
「ま、しょーがない。せいぜい自分の不幸を呪いな。俺たちのせいにすんじゃねーぞ」
「犯罪者の息子は、異世界でハブられる件についてwwwwwww」
プププ・・・・・といじめっ子共が凍耶をからかいだした瞬間、ついに護はブチ切れた。
「ホントにいい加減にしろ!!テメェ!!」
「アブォ!?」
護の放った渾身の一撃が、少年の頬にクリーンヒットする。本当なら吹っ飛んでもおかしくはない勢いだったのだが、その少年は蹈鞴を踏むだけで、それ以上はのけぞりはしなかった。これも、「ステータス」の影響か。
「もうこれ以上アイツをいじめるな!!やっていいことと悪いことの区別がいつになったら付くんだこの幼稚園児が!!」
「ひどいよぉ~!がっきゅういいんがよーちえんじっていったよぉ~!」
「だったらせいぎのてっついだぁ~!やっちまえ~!(棒)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
背後で大乱闘が繰り広げられる一方、凍耶は歯を食いしばっていた。
_____もしかしたら貴方は、“ステータス”などを受け付けないのかもしれません____
_____彼はおそらく“レベルアップ”もできませんし、“スキル”も覚えられないでしょう。“職業”についても、おそらくは就くことは不可能でしょう・・・・・________
司祭の言葉が頭の中で乱反射し、その事実を凍耶に嫌でも焼き付ける。そして。
_____ま、しょーがない。せいぜい自分の不幸を呪いな______
_____犯罪者の息子は、異世界でハブられる件についてwwwwwww______
先ほどかけられたいじめっ子の言葉。これが引き金となってしまった。
自分は、みんなとは同じではないのだと。
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
凍耶は自分でも気づかないうちに慟哭をあげて、その場を飛び出していた。
「ひ、氷河﨑!」
「氷河﨑くん!」
クラスメイトが彼の名を呼ぶが、もう凍耶にはその声が聞こえていなかった。なんで自分だけ。その言葉で頭がいっぱいになっていた。
「氷河﨑!行かないでくれ!!氷河﨑!」
護の必至の叫びだけが唯一届いたが、彼の中の絶望感がその言葉を受け付けなかった。




