2-9(第二章終了)
浅倉忍の襲撃から数日経ち、モーガン邸の修繕が終わり、一行は屋敷に招かれた。
「それでは改めまして、“対転生者特別防衛機関”の皆様のご活躍に敬意を表しまして、今宵は祝杯を挙げようと思います・・・・・・乾杯!!」
「「「「乾杯!!」」」」
一同は声をそろえてワイングラスを挙げた。流石に「転生者殺し」所属の騎士達が皆来ているわけでないが、当時モーガン邸で戦った主要なメンバー・・・・・具体的にはトーヤ、エミリア、マナ、ゲイボルグは参加している。そしてこのパーティの主催者であるモーガンとその妻も席に着いている。
「えと・・・・・あの・・・・・」
「マナ、アルコールではないから飲めるぞ。このまま一口飲めばいい」
「あ、はい・・・・・」
上京したてのマナはテーブルマナーというものは心得ていない。隣で白のロングコートを纏っているトーヤに助け船を出してもらっている。エミリアとゲイボルグはドレスを、トーヤはスーツの上に白いコートを着ている。本来ドレスコードは相応のものを用意すべきであるが、トーヤの場合は「コート込みで正装」であるため、やむを得ず着用している。
ちなみにマナはまだドレスなどは用意できていないため、普段と同じ服を着ている。本来はNGではあるが、「下手なものを見繕って逆にみすぼらしくなるよりはいい」といって特別にOKしてもらえた・・・・・・尤も、彼女が上京したてなのはモーガンもすでに知っているので、とがめられる心配など無いのだが。
「トーヤ様、主人を守ってくださりありがとうございます・・・・・」
「いえ、これは我々にとって当然の義務ですので・・・・・・」
と、モーガンの妻と会話するトーヤ。マナと大差ない年齢とは思えないほど大人びた対応だ。
「マナさんも、正式な配属おめでとうございます。今宵は貴女の配属祝いも兼ねましょうか」
「あ、ありがとうございます」
チン、とモーガンの差し出したワイングラスに、マナのものを軽く当てる。音を立てるのはマナー違反ではあるが、時により雰囲気を重視する場合もあるので、割とこの辺りは寛容にできている。しかし、
「(き、緊張する~・・・・・・・)」
マナの座っている位置は、モーガンの右隣である。マナの隣にはトーヤが居るが、彼の右手側にはモーガンの妻が居る。そしてちょうどトーヤとマナの向かい側にエミリアとゲイボルグがいる。マナにとっては「転生者殺し」のメンバーに挟まれるかあっちが理想だったが、「今回のメインはあなた方です」とのことだ。自分が目立つところにいるような感じがして、落ち着かない。
「それで、今後はどうなさいますの?」
モーガンの妻がトーヤに尋ねる。妻としても、今回の件の成り行きをある程度はつかんでおきたいのだろう。
「そうですね。今回暗殺を企てた者を探し出し、そこからほかの余罪がないか調べる方針です。その先で別の事件と関わっていればそこにも介入する必要はありますし・・・・それが“転生者”に関わっている可能性があれば・・・・・」
「皆様がそこへ向かわれる、ということですね」
「ええ。そうでございます」
ワイン片手にディナーを囲みながらの会話、めでたい場ではあるが結構物騒な話題だ。そんな会話を聞いていたマナは、ふと疑問に思った。
「妻が“転生者”をどう思っているのか、お気になさっているのでしょう?」
「ふぇ!?」
モーガンに心の内を見透かされて、マナは思わず跳び上がった。
「実際、私自身が“反転生者派”を公にしておりますからね・・・・・疑問の思うのも無理はないでしょう」
「あ、はい・・・・・・」
モーガンの観察眼の鋭さに、マナは唯々驚嘆していた。その貫禄に圧倒され、言葉が出ないでいた。
「・・・・・・・・・・・・・」
少しモーガンは沈黙した後、やがて口を開いた。
「・・・・・・・実は元々、妻の方が“反転生者”を唱えていたのです」
「え?」
マナは目を見開いた。モーガンから告げられた意外な事実に、驚くことしかできない。そんなマナに対し、モーガンは静かにうなずいた。
「妻は名門騎士のご令嬢でして、最優秀とまでは行かずともかなり優秀な騎士として名をはせていたのです・・・・・・・・ですが」
モーガンは、悲しげな表情で語る。
「それ故、近年増加し続ける“異世界の英雄”について厳しい目を向けているのです。“騎士の積み重ねてきた努力の日々をないがしろにする不遜な者”としているのです。始めは先入観によるものかと思っていました。実際に異世界から来た者たちは皆、戦士としては非常に優秀で、コロシアムでの戦いぶりを見たときは、皆がこぞって召喚したがるのも納得できました」
くいっとワインを一口飲み、モーガンはのどを潤す。
「ですが、一方でその戦いぶりがあまりにも一方的過ぎることから、”単純に戦闘力が高い”というよりも”努力を無にするような力”と形容するようなものでした。一般的なドラゴン・・・・本来はタツモドキ、でしたか。彼らさえもしのぐほどの圧倒的な力。それを対戦者はおろか、コロシアムの設備にさえ巻き込むような振るい方・・・・・・まるでモンスターのようでした・・・・・・いや、モンスターならば私たち人間に対し、明確な敵意を向けています。まるでぞんざいに玩具を扱う赤子のように振りかざす分、転生者は余計に質が悪いですね」
「モーガン・・・・・さん」
モーガンの意気消沈した様子に、マナはなんと答えを返せば良いか解らなかった。そこに、マナの右手側から声をかけられた。
「だけどな、勘違いしないでほしいがすべての転生者が、そんな傍若無人に振る舞っているわけじゃない」
「トーヤさん・・・・・・」
マナが声のした方を向くと、トーヤとモーガンの妻がマナの方を見ていた。
「俺たちが相手しているのは“環境および人的被害をもたらす転生者”、端的に言えば“環境を滅茶苦茶にしたり、他人の名誉を踏みにじるようなことをした奴”を相手にしている。実際に、俺は人畜無害な奴を何人か知っている。・・・・・・・さあ、もう暗い話題はやめにしよう。ここはめでたい席だからな」
「あ・・・・・か、かんぱい・・・・・」
「「乾杯!」」
トーヤとマナ、そしてモーガンとその妻がワイングラスを掲げ、チンと打ち鳴らした。んく、んくと細い喉を上下させながら、マナは考えていた。
「(ここに来てからまだあんまり経ってないし、私も何がしたいのかわかんない・・・・・)」
実際、マナ自身転生者に対してどう思っているのか、自分も解っていない。だけど、
「(きっと私たちは、こんな人たちの笑顔を守るために戦っている・・・・・んだよね?)」
そう、漠然と考えていた。まだまだ答えにはほど遠いかもしれない。でも、ここで働いていれば、きっと何かが解るはず。そう、マナは願って進むことにした。
「ふぃ~~~・・・・・・・・・・・・」
「エミリア様、酒に弱いのですから、無理しないでくださいとあんなに申し上げましたのに・・・・・」
一方のエミリアは、未成年なのにワインを一口飲んで、見事に酔い潰れていた。
同時刻の、魔界。天界と異なり常に暗雲に包まれた空では、昼と夜の区別も曖昧だ。そんな魔界の一角の洞窟の中に、「彼」は城を構えていた。
「陛下。どうやらしくじってしまったようですねぇ」
「・・・・・・・転生者だからと依頼した結果が、これか」
ゴツゴツとした岩肌の「謁見の間」。その玉座で頬杖を突いているその男はいらだった様子だった。艶のある黒髪を短めにカットしたその男は、どこからどう見ても東洋人の男性の風貌だった。漆黒に金の装飾を施した鎧に、同じく黒いマントを羽織るその姿。まさしく「魔王」と呼ぶのにふさわしい外見をしていた。
そしてそんな男の前で、浅倉忍と取引をしていたはずのフードが、跪いていた。
「さて、どういたしましょうか陛下」
「決まっているだろう」
男はほとんど表情を変えずに返すと、虚空に向けて右手をかざす。すると、男の玉座に立てかけてあった剣がひとりでに動き出し、誰も触って居ないのに鞘を抜かれた。そしてその剣はスゥ・・・・・・と空中を滑るように移動し、かざした掌の前に浮かび上がった。
真っ白な剣だった。刀身が白いとか装飾が白いとかではなく、本当にすべてが白い。まるで刀身から柄まですべてが大理石か何かでできているようだ。
「フラガラッハ、命令だ。“しくじった者を殺せ。奴の裏切る可能性を微塵も残すな”」
と告げると、フラガラッハと呼ばれた剣はヒュン!!とすさまじい勢いで空を裂き、瞬く間に城から飛び出した。
「陛下も、本当に容赦がありませんねぇ。たった一回失敗した、しかも遠く離れた地で囚われの身の少年を、わざわざ殺しに行かせるなんて」
「保身のために裏切る、というのは往々にしてある話だ。やるからには徹底的に潰す」
「流石は完璧主義者。名も無き自警団にわざわざ“ドラゴン”を仕向けてまで殲滅するだけはありますねぇ。・・・・・・・さしずめ、“蟻一匹を象に踏ませる男”と言ったところでしょうか」
「くだらん。それよりも、解っているだろうな?」
「ええ。“異世界の錬金術師”との取引でしょう?予定通り進めておりますよ」
「お前こそ、余計なボロを出さないようにな」
闇の世界で生きる彼らは、水面下で人知れず「天界征服」向けて動いている。世界の歯車はすでに幾つも噛み合い、つながっている。




