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ヴィジターキラー  作者: 反物質
第2章 「勇者よりTUEEEEE俺はなんやかんやで暗部に身をやつしました」浅倉忍
20/110

2-8

「ここは・・・・・・・・・・・?」

 忍は気づけば、見知らぬ場所にぽつんと立っていた。木も、地面も、人も、建物も、空さえもない、真っ白な空間。そこに立っていた。

『シノブ・・・・・あなたは死んでしまいました』

「あんたは・・・・・!?」

 突然話しかけられた忍は、ぎょっとして声のした方を向く。するとその先には、白いヴェールをまとった女性が立っていた。色白の肌に金髪碧眼の女性の背中には、真っ白な翼が生えていて、頭に金色の茨の冠を乗せていた。忍は一目で彼女が「女神」であることを悟った。

『かわいそうに・・・・・あなたは向こうの世界で自分の仕事を全うしていただけなのに・・・・・』

「そんな憐れみの目を向けられましても・・・・・・」

 よよよ、とどこからかハンカチを取り出し、おいたわしや・・・・・と言わんばかりのわざとらしい仕草を見せる。それに若干イラッとしつつも、忍は特にツッコミを入れない。

『・・・・・さて、ではあなたはこれから元の世界に“転生”するのですが、サービスとして“今のあなたの能力”をそのままにして、送り届けますね』

「つまり・・・・・“引き継ぐ”ってことか?」

『そうですね!今ならボーナスもおつけします!!』

 ぱぁっ、と咲くような笑顔で女神は忍に語りかける。

『これであなたは向こうの世界の時よりも、さらに強くなります。その“力”でみんなを導いてあげてくださいね』

「・・・・・・・みんなを導く・・・・・か」

 忍はぼんやりと頭を巡らせた。今まで「元の世界」での自分と「異世界」での自分のしてきたことを思い返す。元の世界では人目を避けてきたが、「異世界」では逆に目立つようなことばかりやってきた。しかしどちらにも共通するのは、「自分はむしろ孤独だった」ということ。クラスごと転移させられたときこそ最初はみんなを引っ張っていったが、自分のあまりの強さ故クラスが分裂してしまい、一致団結も何もなくなってしまった。果たして、このまま彼女の言う通り「皆を導く」なんてことは可能なのだろうか。

 が、そんな彼をよそに、女神は忍を「転生」させようとする

『それでは、よい“転生者”ライフを♪』

「な、ちょ、おいまて!!」

 聞く耳を持たない女神は忍の足下に魔法陣を発生させ、転送しようとする。

「おい!少しは考えさせてくれ!!」

 と、叫んだ瞬間だった。





バキィッ!!と足下の空間に亀裂が入り、そこに忍はズボッ!!とはまり込んだ。





『!!』

「な、はぁ!?」

 突然のことに目を見開く両者。状況が二転三転して理解が追いつけない忍は兎も角、女神も想定していないようだった。

『ずいぶん身勝手なコトしてるじゃないか、“エリス”』

『あなたは・・・・・!?』

 バキバキバキ・・・・・と空間を文字通り「割って」現れたのは、見た目は10歳前後の幼い一人の少女だった。色白の肌に紫の瞳、細いその肢体を包むのは漆黒のワンピース。これだけなら一介の少女のようにも見える。

 だが、その瞳は光彩も瞳孔もなく、紫一色で塗りつぶされているような不気味なものだった。黒髪をツインテールにしているが、その「テール」の部分は漆黒の甲殻のようなものでできていて、その甲殻の隙間から美しくも不気味な紫の光が覗いている。そしてその髪と同じものが彼女のお尻から伸びており、それが彼女の出てきた空間につながっている。その空間の向こうでは、おびただしい数の「紫の光」が見えることから、彼女の尻尾は恐ろしく長い・・・・・・それも、()()()()()()()()()()長いと思われる。

 そもそも「彼女」なのだろうか。

『ボクは特には名前なんて持ってないけど・・・・・人間達からは“ヨルムンガンド”なんて呼ばれているね』

『“淵竜(えんりゅう)ヨルムンガンド”・・・・・!!なぜあなたが“神の領域”に!?』

 エリスの口から出た「淵竜ヨルムンガンド」。彼女は世界線と世界線の狭間にある「亜空間」に棲んでおり、人間で言うところの上半身に当たる部分をトーヤ達の居る世界に投げ出して生活しているのだ。今は人間の姿を模しているが、本来の彼女は紫の光を湛える漆黒の甲殻に身を包み、闇が具現化したような非常に禍々しい姿をしている。そんな彼女の分類は正真正銘「ドラゴン」、つまり、転生者達にいいように嬲り殺されてきた「タツモドキ」はおろか、他の生物とも一線を画す存在なのだ。

 そしてこんな常識外れな能力を持つのは彼女だけに限らない。「ドラゴン」という種族そのものが、神と同一視されるほどに強大なのだ。

『神の領域なんてよく言うよ。実際はボクの棲んでいる場所と何ら変わらない“狭間の世界”のくせに。そのじひぶか~いやり口で、異世界の人間を誑かしてるの、知っているんだからな?』

『たぶらかすなんて・・・・私はそんなことはしていません!!』

 ヨルムンガンドの口ぶりからすると、どうやら転生者がトーヤ達の世界で猛威を振るっているのは、彼女が原因らしい。

『で、話は変わるけどそこの少年はまだ死んじゃ居ないよ』

「はぁっ?!」

 突然話を振られた忍は、思わずぎょっとする。

『彼はまだ“向こう”で成すべきことが残っている。だから“お前の一存で”勝手に殺させはしないよ』

『でも、この子は・・・・・・』

『ほざけ。』

 ヨルムンガンドはやっていられない、という様子で忍をくわえ込んでいる亀裂を広げた。

「うわ、わ、うわぁあああああああああああああ!!」

 忍は悲鳴を上げながら、「亜空間」に引きずり込まれた。いくらエリスが「神」とは言え、同じ「神」の司る領域に干渉するのは容易ではない。

『お前は何か勘違いしているが・・・・・我々が作り出した世界に生きる命。そいつの持つ津からは我々でも計り知れない。くれぐれも侮ることなかれ。いいな?』

 といって、ヨルムンガンドはズズズズ・・・・・と亜空間の中に戻っていく。パキパキパキ・・・・と、亀裂が元に戻っていき、跡形もなくなった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 静寂の中、一人取り残されたエリスは







『あーあ、楽しそうだったのに。残念』

 ぶー、とまるでおもちゃを取り上げられた子供のように、頬を膨らませた。

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