神様、名案を思い付く
「くれぐれも、私の汚名を晴らすのですよ? あの鬼畜勇者に断罪を! 神罰を!」
「あと時々遊びに来るんですよ!? ボッチはもう嫌ですからね!」
「……と、言われて帰って来た」
ギルドに戻ったルークは包み隠さず報告。
一同、苦笑い。
「今回ばかりは同情しますよ、ルーク」
珍しい事に、イブリースが本気で可哀想なものを見る目をする。
「その目はやめろ。心にくるだろ」
「無理です。大体、貴方の星回りはどうなっているんですか? あれですか、珍獣動物園とでも契約しているんですか?」
「……意味が分からないんだが?」
「あの頭のおかしい神にすら好かれるなんて、もう悲惨過ぎて……うぅ」
――頭のおかしい神?
そこは否定できない。
だが、今はニルスという人類最大の負債について話していたのではないか。
首を傾げていると、メフィストが尋ねてくる。
「ルークよ、本当に理解できたのか?」
訝しげな目だ。
ルークは少し迷ったが、率直な意見を述べる。
「はい、ニルスこそ諸悪の根源だと再認識しました」
「それは周知の事実じゃろう。さては言いくるめられおったな?」
「えーと、どういう事です?」
メフィストはやれやれといった様子で、
「あやつは極度の構ってちゃんじゃ。挨拶に気付かなかったという理由だけで、道を歩いていた魔王様を敵視し、魔王とした」
――ふぁ?
とんでもない事実を告げる。
「……あの、その辺をちょっと詳しく」
「この世界には多数の生命体が生息しておる。草花から動物、ゴブリンを初めとするモンスター、そしてワシら。神はそれら全ての断りを定めておる」
「まぁ、神様ですからね」
「凄いじゃろ?」
――ん?
「ま……まぁ、はい、としか」
「あやつもそう思ったらしい。胸を張って崇めよと強要して回ったそうな」
――マジかよ
ルークが絶句するものの、話は容赦なく続く。
「その過程で、たまたま考え事をしながら歩いていた魔王様に出会ったそうじゃ」
「まさか……」
「そのまさかじゃ。気に入らんと激高して、魔王という役職に据えて人間たちに討伐させようとした。これが人間と魔族の戦争の始まりじゃよ」
開いた口が塞がらないとはこの事か。
ルークには到底受け入れられる話ではなかった。
「突拍子もなく聞こえるか? では逆に聞く。魔王様が一体何をした?」
「え? えーと……天を割いて、人類に甚大な影響を与えたと習いましたが」
「ほほう、では割かれたという空はどうなっておる?」
「……綺麗に繋がっています」
「他に質問は?」
「いや、でも……えー……」
ルークは困惑する。
何を信じて良いのか、全く分からないから。
その時だった。
「人の子よ、惑わされてはなりません」
アイリスが妙な発言をする。
「な、何だ!? 私の意思とは無関係に!?」
「あ、周波数を間違えました」
――嫌な予感がする
本能的に察したルークだったが、どうしようもない。
アイリス同様、口が勝手に動き出してしまう。
「改めて、コホン。人の子よ、魔族の甘言に惑わされてはなりません」
「俺の口を使うのもやめてくれます?」
「では、どうやってありがたーい言葉を届けろと言うのです?」
――要らないです
とは言えず、ルークはそれっぽい返しをする。
「頭に直接響く声とかどうですか? 凄くそれっぽく聞こえると思うんですが」
「そんな事をしたら悪魔にも届いてしまいます。というか、どうしてこんなに魔族がいるんですか?」
後者については苦笑いするしかない。
ルークは前者に対してのみ答える。
「俺の声でも届くと思いますよ?」
「……盲点でした」
――盲点、じゃねぇよ
「その目は節穴だ、盲点しかない」
「か、神に対して何たる口の利き方! 許しません! 呪いあれ!」
「神が呪いを振りまくな!」
「間違えた、神罰を下す!」
肩で息をするルーク。
それを憐れむような目をしながら、メフィストは見つめていた。
「極度の構ってちゃんな上に、崇めよと強要してくる。気に入らないと神罰をばらまく。魔王様が人間たちを不憫に思って封印するのも仕方ない話じゃろう?」
「ふ、封印……」
「隔離と言っても良いぞ?」
「そこはどうでもいいです。あの、魔王様って実は凄くいい人なんですか?」
またルークの口が動く。
「人の子よ、良い訳がないでしょう!? 神様のありがたーい声を無視した大罪人です。さっさと討伐してしまいなさい!」
「人類に害を及ぼす超常の存在を封じた魔王様に、一体どんな非があるというのじゃ?」
考えるまでもない。
「ありません」
「あるから! 私をこんな目に遭わせた罰を下さないといけないんだから!」
ルークは、というかきっと神様は肩で息をする。
「私を怒らせない方がいいですよ? こんなギルドひとつ、地殻変動のひとつでも起こして地獄に沈めてやれるんですからね?」
――マジでやれそうで困る
ルークは仕方なく謝罪する。
「すみません、言い過ぎました」
「ふふん、分かれば宜しい」
しかし抵抗もする。
「でも、神様が人を手にかけていいんですか?」
これが仇となる。
誰が予想できただろう。
この問いかけが、あんな事態に発展する事になろうとは。
「“偶然”発生した自然災害に巻き込まれる。流石の私も“事故”はどうしようもありませ――はっ! そうだ! 名案を思い付きました!」
一同に戦慄が走る。
この神様の言う“名案”だ。
――イブリースの比じゃない
「おいこら、ルーク。なんで私の顔を見やがりましたか?」
「え、見てないけど?」
「今なおガン見しているじゃないですかっ!」
「会話中にあとどこを見るんだっ!?」
なんてやり取りが起こるものの、神様はルークの口を動かす。
「人の子よ、ちょっと天変地異が起こります。勇者諸共逝かないよう、注意して下さいね?」
「ま、待て! 神様、ちょっと待てっ!」
「ふはははっ! これぞ神罰というやつです! 甘んじて受けなさい!」
それきり、神様はいなくなったらしい。
ルークが何を言っても反応しなくなった。
天変地異。
なんて不吉な単語だろう。
――早急に行動しないと手遅れになる
「ルーク!」
「イブ!」
2人は目を合わせて、
「話はまだ付いていませんよ!?」
ルークだけが脱力する。
「終われ」
「何でですか!?」
「何でもだっ!」
間もなく、世界に未曽有の大災害が起こる。




