天変地異って恐い
天変地異。
大そうな単語だが、その響きに相応しい超常現象が発生していた。
大気が大荒れ。
雷鳴轟く嵐の中、横なぶりの矢が降り注ぐ。
大地震も発生した。
大地が割け、割れ目から大量の槍が噴出する。
更に恐ろしい事に、この天変地異、なんと局所的。
具体的には城の一角。
もっと詳しく言うなら、ニルスが閉じ込められた牢屋の中でのみ発生していた。
この異常事態の報告に来た王女がルークに詰め寄る。
「何があったのですか? いえ、何かあって一向に構わないのですが」
ルークは苦笑いを禁じ得ない。
――これが“偶然”発生した“事故”と言い張るのか、あの神は
一方、王女は大変に上機嫌である。
「いずれにしても、勇者を仕留めるためなら如何なる手段も許します。さぁ、ルーク。さっさと始末しなさい」
「……はい?」
「え?」
2人は目を合わせる。
先に合点がいったのは王女だった。
「あぁ、そういう事ですか。私とした事が、気が利きませんで。ルークは無関係。えぇ、えぇ、あれはあくまでも自然災害の類ですね、はい」
――絶対に勘違いされた!
「あのですね、王女様! 俺は本当に全くの無関係ですからね!?」
ダメ元で本気の訂正を試みるも、
「はい、存じております」
にこやかに返された。
何をどう言い聞かせても無理だろう。
「はい、質問です!」
空気を読んでか読まないでか、イブが挙手する。
「首尾はどうですか?」
「首尾とか言うな、馬鹿野郎!」
思わずイブの頭に手が伸びるも、
「おぉっとぉっ!?」
スルリと避けられる。
そしてドヤ顔まで決めてきた。
「ふふん、私だって学習します。一方で、ルークの何とお馬鹿さんな事か。私は馬鹿でも野郎でもないというのに」
――この野郎!
ついカッとなってしまったものの、
「お、落ち着いて、落ち着いて!」
「えぇい、我慢ならん! あの小悪魔め、今度という今度こそはぁっ!」
代わりに激高するアイリスと、それを必死に止めるプルを見て冷静になる。
――いかん、ここで乱闘騒ぎを起こして何になる。冷静に、冷静に
ひとつ深呼吸。
さて、アイリスを止めるところから始めようかと思ったが、
――放っておいていいか
鼻の下を伸ばしているから放置する。
そんな事より、天変地異が起こっているのは事実。
しかも殺意満点だ。
このままでは、いかにニルスといえども死んでしまいかねない。
「ルーク、誠に残念ながら……」
王女は突然、暗い顔をする。
――まさか
一瞬、不安を覚えたが、すぐに消え失せた。
王女が暗い顔をする。
それすなわち、
「あやつ、存外にしぶとくあります」
「ですよねぇ」
ニルス生存を意味する。
そうでなければ、もっと盛大なパーティーでも催しているだろう。
「王女よ、ひとつ聞いても良いかのう?」
今まで黙って話を聞いていたメフィストが尋ねる。
イブとは違い、俺は安心して見守った。
「何かこう……ムカッときました。ルーク、何か良からぬ事を考えました?」
「はて、何の事かな?」
どうやら心を読んでいなかったらしい。
助かった。
また話がこじれたら困る。
「なぜ勇者は幽閉されておるのじゃ?」
そもそも事態がこじれていた。
言われてみればそうだ。
どうしてニルスが捕まる必要があるか。
「罪状は国家反逆罪です」
「はぁっ!?」
耳を疑った。
あいつ、今度は何をやらかしたのか。
「私の求婚を拒みました。この国の未来に影を落とす重罪です」
――嘘、だろ
ルークも一応、拒んでいる。
国家反逆罪で投獄される恐れがあった。
王女は朗らかな笑みを浮かべる。
「判決は過去の判例を参考にするそうですね。ルークも覚悟するように」
沈黙。
ルークは冷たい汗が噴き出すのを感じた。
――勇者になったら結婚か牢屋かの選択じゃないか
王女は突然、吹き出す。
「ふふっ。なんて、嘘ですよ」
今度こそ、しっかりとした微笑みを見せた。
ルークは安堵する。
「ルークの事は心から信頼しています。将来の良き妻として、獲物を檻に入れておくくらいの支援はしますよ」
「あ……あはは……」
だが、残念。
嘘などなかった。
流石に同情したメフィストがルークの肩に手を置いた。
「大変じゃのう、ルーク」
「助けて下さい、割とマジで」
「うむ、任せるがいい」
――任せたら魔界落ちか
それはともかくとして、問題はこの事件をどう扱うか。
放置はあり得ない。
かといって、どこから手を着けたものか。
如何にニルスとはいえ、神の矢と槍を浴び続ければただでは済まないだろう。
普通は初撃で死ぬだろうが。
しかし、ニルスに構っていても事態は解決しない。
――やっぱり、神様のところに乗り込むしかないかなぁ
ルークは決断する。
「あの、王女様。ひとつ大切な確認があるのですが、宜しいですか?」
「私の指は7号です。個人的にはサファイアが好みですね」
――何の話だ、何の
ルークは堪え、続ける。
「えぇっと……俺は言いましたよね? 俺の手でニルスを倒してみせる、と。感激して下さったのです、忘れたとは言わせません」
「はい、覚えています」
「これはその、手違いです。今から正しに行き、必ずや、正攻法で真っ向から倒してみせます。だからお願いします。何としてもニルスを守って下さい」
「ルーク……」
王女の目が潤む。
「ルーク……」
イブがグッと我慢している。
ちょっと痛くて悶絶しそうなのだろう。
台無しである。
「分かりました。王家の名にかけて、必ず!」
だが話はまとまった。
王女を見送り、ルークは神の領域へと向かった。




