Chapter4:ぼくらはころしや⑦
黒川にとっては自分の仕事と僕の生死はまるで無関係の問題であり、僕がどうこうされるからと言って、黒川が仕事への姿勢を変えることはない。この状況になった時点で黒川の出す結論は大方予想していた。予想はしていたが、受け止めることが出来るかといえばそうではない。この二人はどちらも根っこにまともな養分を吸わせていない人間なのだ。
「長谷田」
横島は低い声で名前を呼んだ。考えなくともそれが僕の後ろに立つ男の名前だと言うことは分かった。
腕を締め上げる力強くなる。無理とわかっていても何とか振りほどけないものかと体をくねらせた。しかし本当の石像のように長谷田という男はびくともしない。自分が石像の一部に取り込まれてしまったかのような感覚を覚える。
殺される、冗談ではなく。背中を冷たい汗が流れ、鼓動が今まで聞いた事もないくらい早くなる。喉が一瞬にして渇いた。
「いやあ、ごめんねトベミネくん」
笑いながら黒川は謝った。まるで勝負に負けてしょうもない罰ゲームを受ける人間に対する軽い謝罪だった。いやあ悪い悪い。次は勝つからさ。
「黒川さん!」
次なんてないのだ、現実には。乾いた喉を振り絞って黒川の声を呼んだ。黒川が情という言葉を知らない人間だと十分に心得ていても、どこかで最後はきっと助けてくれるだろうという希望も抱いていた。
「俺も君を殺したくはない。だが、何より自分が生き延びるためだ。すまないな」
横島の謝罪には黒川より幾らかは誠意があった。
「いいのか? 本当に卜部を殺すぞ?」
再度横島は黒川に確認を取る。その問いかけに何の意味もないことは知っていたが、僕はどうか思いとどまってくれと黒川に懇願するように顔を向けた。
「だからいいって言ってるでしょー。別に僕が死ぬわけじゃないんだから僕に確認取ったって無駄だよ。それから殺すなら早く殺した方がいいよ」
こめかみに硬いものが触れた。長谷田の指とは違う、氷のような冷たさを持っていた。拳銃だ、と頭が理解をしてしまった。
冷たい銃口から放たれた嘘みたいに熱い銃弾が頭の皮を破り、肉を食い散らかすように貫いて、硬い頭蓋骨を砕き、柔らかい脳をかき乱す。満足した銃弾は再び反対側の頭蓋骨に穴を空けて、肉と皮をまるで店の暖簾でも押し上げるように通り抜けていくのだ。想像が一人走りし、胃から何かが勝手にこみ上げてきた。
吐き出すよりもまず、僕は今まで何度もそうしてきたように長谷田の手を振りほどこうとした。無駄だとは嫌と言うほど思い知らされていたが、頭も胃も何もかもがパニックに陥り体が勝手に暴れたのだ。
すると、まるで今までの強固な締め付けが嘘であったかのように、いとも簡単に僕の体は長谷田から解放された。
「……え?」
拍子抜けして冷たい砂利の上に倒れ込む。勢い余って転がりかねなかった。
恐怖のせいか、それとも安堵で胃が緩んだのか僕が地面に吐瀉物を撒き散らすのと、野太い男の叫び声が工事現場に響き渡ったのはほぼ同時だった。
口元を拭って振り返った。
今まで不動の石像のように立ち、僕を捉えていたはずの長谷田が地面に跪いていた。小動物みたいに体を小刻みに震わせ、低く断続的な呻き声を漏らしていた。暗がりのせいではっきりとはわからなかったが、彼の脇腹の辺りの地面が赤黒く染まっているようにも見えた。
「……緑川?」




