Chapter4:ぼくらはころしや⑥
「卑怯じゃない、作戦だ」
勝ち誇った横島の声。
「そういうところが卑怯なんだよなー」
「勝手に言ってろ。俺はお前の方が何百倍も卑怯だと思うがな」
「卑怯者」
不利な状況を少しも気にせず黒川は真っ直ぐ言い放った。左右の男が黒川の態度に憤ったのか、強く銃口を押しつける。それでも彼はまるで隣に人などいないと主張するように澄ました顔をしていた。
「それで、卑怯者警部は何がしたいの? 嘘までついてトベミネくんまで人質にとって」
「一つ言うと嘘はついてないぞ。拳銃を下げるとは言ったが、また二度と向けないとは言ってないからな」
「性格わっるいなあ」
「どっちもどっちって奴だな」
さっきの仕返しだ、とばかりに強面の顔に笑顔を作った。
「俺が何をしたいかを答える前に、俺はお前が何をしたいのかが聞きたい」
「それはまあ」
黒川は意味深な溜めを作った。
「殺したい」
「だろうな。なあ黒川よ」
旧友に話しかけるような柔らかい口調で横島は切り出す。実際彼らの付き合いは旧友と呼べるほど長かったし、彼らの間に無骨な自動拳銃が介されていなかったら良好な友人関係と見れなくもなかった。
「俺はお前のおかげで出世、と言うよりも力を得た。お前も俺のおかげで自由に仕事が出来る。俺らは互いのおかげで上手くやってこれたしこれからも上手くやっていける。ここでお前が俺を殺すのはもったいないだろ?」
「そう言われても仕事だからなー」
「よくよく考えてみろ。俺を殺す事でお前に生じるメリットは何だ? 何も無いだろう?」
「メリットは信用が維持できることだよ。逆にデメリットは、黒川って殺し屋は金だけもらって仕事をしないクズ野郎だって世間様に思われてしまうこと。仕事が来なくなっちゃう。殺し屋に必要なのは腕と信頼と金なんだよ」
「そんなのは隠し通せば問題ないだろう。誰に依頼されたか知らないが、何なら逆にそいつを殺せばいい」
「もう死んでる」
「は?」
「依頼主は既に殺したってこと」
「はあ? よくわからんがそれならそれでなおさら俺を殺さなくてもいいだろ」
「だからダメなんだってばー」
黒川は首を振って呆れ声で言った。何もわかってないな警部は、と。
「依頼主が死んだからって依頼までなしになるわけないでしょ。既に依頼をされていて、僕はそれに了承してるんだから。了承した依頼をこちらの都合で揉み消すのはは殺し屋道理を踏みにじるってこと。僕は警部と違って仕事に誇りと美学を持ってるんだから」
「そんな硬くなった考えじゃこれから先生きていけないぞ。この依頼を反故にしたところで誰も文句を言う奴はいなくなったってことだろう? 死人に口なし。文句の一つも言えないんだ依頼主は。違うか?」
「違うさ。死人に口なしって警部は言ったでしょ。その通りなんだよ。死人は何も言えないからこの依頼が依頼人の都合でキャンセルされることはない。そして僕もこちらの都合でキャンセルするつもりはない。ということはこの依頼は完全なものとなったんだよ」
自身と横島との優劣差などいとも介さずに黒川は幼い子に算数を解説するような口調で言った。横島の懐中電灯が細々とした光を乱す。そこで話を止めず、彼はため息混じりに言葉を繋いだ。
「というかさ」
「というか、なんだ?」
「警部さっきから僕に銃向けてるけど、僕のこと殺す気ないでしょ? 僕に自分を殺すなって言うくらいだしね」
横島ははにかんだ。薄い明かりの下ではにかんだ強面には、人に拳銃を向けているのとはまた違う怖さがあった。つくづく横島という男は悪役だ、と僕は思う。
「お前を殺す気は確かにないが、お前の返答次第じゃ卜部を殺す」
拳銃を黒川に向けたまま、一瞬だけ横島はこちらに目線を寄越した。冗談など言っていない本気の目だった。思わず「はい?」と独り言で聞き返していた。
「殺せば? 別に僕は構わないよ」
黒川の返事もあっけらかんとしていた。あっさりと殺す事に同意した。一瞬の躊躇いもなかった。




