美しく黒い蜂蜜の道
地蔵は命を刈り取るサマを観るのみ
人間ってのは簡単に人を殺めてしまうよな。
俺というモノが観ているのに、お地蔵様が観ているってのに。
首を絞めて人間の番いの片方が命を刈り取った。
俺にはそれが、とても悲しくみえた。
殺めるほうも、殺められるほうもとても悲しんでいるような。魂が涙を流しているようにすら思えたんだ。
俺はただの地蔵なんだ、人間の行く末に干渉するなんて烏滸がましいったらありゃしないだろう。
でも、命が失われる様をこうやって見せつけられるのは俺の魂が穢れてしまうようで好きじゃないんだ。
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死体がずっと俺のそばにある。
地蔵の横に置くなんて、罰当たりだろうに。
こんな場所で殺し合って、後始末すら人任せだ。
人間の魂から溢れ出ている、残留している負の感情が俺の視界を埋め尽くして、何もかもがどうでも良く感じる。
あぁ、人間達はどうして殺し合うのだ。
つまらない諍いを起こしてつまらない結果を導く、可笑しいだろう。
そんな考えをしていたら、いつの間にか俺は地蔵を抜け出し身体を動かしていたのだ。
地蔵の霊は傷を咬む
「ボクは地蔵だったはずだろ...」
地蔵だったボクは、いつの間にか地蔵を抜け出し歩き出し、世界を歩いて旅していたのさ。
旅と言っても、地蔵だったから大して動いてない。
動いたらとても疲れるのだ、肉体が地面に張り付いてるような感覚で足がとても重いんだ。
まぁ、足は動くし、地蔵だった頃より世界は鮮明で色鮮やかだ。
ただ、地蔵だった時より更に人間達が醜く見えた。
声が煩い、言葉が鋭く、魂に傷が付く。
ただ聴こえる騒音がボクの魂を揺らして世界を醜く見せるんだよ、つまらないね。
まぁ、ボクが周りを歩くと人間達は倒れて叫び声を上げて、そのうち静かになるんだけどさ。
その度に強くなれてるような気がして、とても嬉しいボクなんだ。
美しく黒い蜂蜜の道
少しずつ足の重みが取れてきたのだ。
なぜ足が軽くなるのだろうか、僕が街を歩くたびに人は倒れていってしまう、魂たちが僕の中に入っていって形を成していく。
僕はこんな多くの魂を背負って生きることなんか無理だね、罪深きものとしての未来を選ぶ為に、美しく黒い蜂蜜の道に行かなきゃならないじゃないか。
あの場所は地蔵でいた頃にお月様から聞いたよ、地獄の中にある世界の境界線らしい。
あらゆる場所に繋がる冥界の道。
そこを管理するのは閻魔様らしいけど、今は空席みたいだ。閻魔様は僕を裁いてはくれないらしいな。
先代の閻魔様は偉大なる月の吸血鬼に討ち取られたようだ、扇子を仰いで暑そうにしていた閻魔様だったようだけど、地獄のような熱い場所で扇子を仰いだくらいで熱は冷めるのだろうか。
そんなことを考えていたら僕はいつの間にか、美しく黒い、蜂蜜のような汚泥が流れている、煉獄の道に迷い込んでいたんだ。
冥がりに潜む苦い魂
僕はただの地蔵だったらしい。
それはとても素敵なことだったようだ。
僕は何も知らなかった、生も死も等しいものだなんて思いもしなかったのさ。
蜂蜜の道に残っていた冥がりに潜む苦い魂を取り込んだ僕は、既に閻魔になっていたんだ。
あらゆる罪を背負い、石を積み上げ、意志を積み上げ紡いであげる。
先代の閻魔の記憶は届いた。
お前にはやってもらいたいことがあると。
この道を通る魂達を神に導くこと、妖怪としての力を高めることを否定しないこと。
人間の魂は未来に送り届ける事。
死者の破片は定期的に地球に散らばらせること。
色々な記憶と想いが私に、僕に継承された。
これで、地獄遍の一の最後の道。
閻魔が佇む黒の蜂蜜の道は、また動き出すことになったのさ。




