統治都市グランディア編②
その場に残ったのは、俺たちだけだった。
「また来るのか……」
アンジェリカは杖を握ったまま、黒ローブたちが消えた場所を見つめていた。
俺は何も言わなかった。
ただ、ユイナを見た。
すると――。
ユイナの身体から、ほんの僅かに立ち上っていた赤い光が、徐々に消えていく。
「……」
……あれは何だった?
俺の右膝に現れる赤い光。
そして、今のユイナの光。
何か関係があるのか?
もしかすると――。
いや。
考えたところで分からない。
……今はいい。
考えるのを、やめた。
「それにしても……」
アンジェリカが息を吐く。
「危なかったな」
「ああ」
俺は答えた。
「すまない……」
「お兄ちゃん、やけに素直ね」
ユイナが言った。
「雪でも降るのか」
アンジェリカが言うと、リナも大きく頷いた。
ユイナ、アンジェリカ、リナがいなければ。
俺は、あの場を切り抜けられなかった。
「それにしても、アンジェリカさんとリナ、すごかったね」
ユイナが二人を見る。
「必死だった」
アンジェリカは短く答えた。
「リナもすごかったよ」
「うん」
リナは水裂を見る。
「リゼットとリリアのおかげ」
「二人がヒントをくれたの」
そう言って、リナは水裂を少しだけ持ち上げた。
「それに……ユイナお姉ちゃんも」
「私?」
「うん」
リナが頷く。
「なんだかわからないけど、力が湧いてきたの」
「私も、なんでなのか分からないんだけど……」
ユイナが自分の手を見る。
「でも、あのときは……絶対にお兄ちゃんを守らなきゃって思ったの」
「……」
俺は何も言わなかった。
ただ――。
右膝に手を添えた。
まだ、少し熱が残っている。
「俺も……」
一度、言葉を止める。
「もっと強くならないとな」
アンジェリカが俺を見る。
「十分強いと思うが」
「いや」
俺は首を横に振った。
「もっとだ」
黒ローブたちは、また来る。
次は、今回と同じようにはいかないかもしれない。
俺は――。
もっと強くならなければならない。
そう思った、そのときだった。
右膝が――。
ほんの僅かに熱を持った。
「……?」
そして。
頭の中に、声が響いた。
『振り向くな、走れ』
「……っ」
一瞬だった。
誰の声なのかも分からない。
何に向かって走れと言っているのかも。
ただ、その言葉だけが残った。
「なんだ……」
俺は目を閉じる。
考えようとした。
だが――。
やはり、分からない。
俺は考えることをやめた。
そして、立ち上がる。
「行くぞ」
「そんな足で歩けるの?」
ユイナが心配そうに言う。
「もう少し休んで行こうよ」
「ここにいても飯がない」
「……それか?」
アンジェリカが呆れたように言う。
ユイナとリナも笑った。
「お兄ちゃん、おんぶしてあげよっか?」
「あほか」
俺は悪態をつきながら、目を逸らす。
その姿を見て、ユイナとアンジェリカ、リナはさらに笑った。
そして俺たちはグランディアへ向けて歩き出す。
俺は右足をかばいながら、一歩ずつ進む。
「ゆっくりだ……」
「うん?」
「ゆっくりで頼む……」
「はいはい」
「ゆっくりだぞ……」
「分かってるって」
ユイナが笑う。
「素直におんぶされたらいいのにね」
「……誰がされるか」
そう言いながらも、俺は悪い気はしなかった。
進む。
今は、それでいい。
グランディアまでは――。
まだ、少し遠い。




