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兄様は膝が痛い痛いと言いながら意外と私のストーカーでした。  作者: ぱんだでぴょん


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75/83

統治都市グランディア編①

俺たちは村を離れた。


 しばらく歩いたところで、アンジェリカが聞いてきた。


「それで、これからどうする?」


「知らん」


「……知らんって」


 俺は前を見る。


 そして、適当に指を差した。


「とりあえず、あっちの方でいいだろ」


 アンジェリカが指の先を見る。


「……そっちはグランディアだぞ」


「……」


 グランディア。


 以前、御者から聞いた話が頭をよぎる。


 周辺で起きた戦。


 街へ流れ込んだ避難民。


 リリアが治療を受けられるかどうかも分からなかった。


 だが――。


 それから数日が経っている。


「……面倒だな」


 俺は別の方向を指差した。


「やはり、こっちに――」


「お兄ちゃん」


 ユイナが俺の袖を掴む。


「一回指差したんだから、やり直しはだめ」


「なんでだ」


「もう決めたんでしょ?」


「決めてない」


「はいはい」


 ユイナが笑う。


 アンジェリカも苦笑する。


「私もグランディアの状況は気になる。リリアのこともあるしな」


「私も」


 リナも頷いた。


「グランディアには医療の施設もあるんだよね?」


「そうだな」


 俺は三人を見る。


 どうやら、全員行く気らしい。


「……」


 俺は小さく息を吐いた。


「少し見るだけだぞ」


「はいはい」


 ユイナが笑う。


 アンジェリカも笑う。


 リナも笑った。


「はぁぁ……」


 俺は肩を落とす。


「面倒だ、面倒だ……」


 そして腹を押さえた。


「腹減った」


 ユイナが吹き出す。


「もう、お兄ちゃんったら」


 俺たちは歩き出した。


 向かう先は――グランディア。


 俺は何も言わなかった。


 最初に指差したのが、偶然グランディアだったのか。


 それとも――。


 その答えを知っているのは、俺だけだった。


 ――しばらくして。


 遠くに、小さな集落が見えてきた。


「……あれ?」


 ユイナが足を止める。


 俺も目を細めた。


 何かがおかしい。


 煙が上がっている。


 家がいくつも壊れている。


 屋根が崩れ、壁が砕けている。


 人の姿が、ほとんどない。


「……戦跡か」


 アンジェリカが呟く。


 俺たちは集落へ入った。


 ひどい有様だった。


 道には瓦礫が散らばっている。


 壊れた家。


 焼け焦げた木材。


 地面に残る、大きな爪痕。


 人が住んでいたとは思えないほど静かだった。


「……ひどい」


 ユイナが呟く。


 リナも周囲を見回している。


「ここも、戦に巻き込まれたんでしょうか……」


「たぶんな」


 俺は地面を見る。


 新しい。


 それほど時間が経っていない。


「……まだ誰かいるかもしれない」


 アンジェリカが周囲を見渡した。


 その時だった。


 集落の入り口。


 そこに、数人の黒いローブが立っていた。


「またか」


 俺はため息をついた。


 黒ローブの一人が手を上げる。


「行け」


 地面が揺れた。


 瓦礫の下から、魔物が何体も飛び出してくる。


「お兄ちゃん!」


「ユイナ、アンジェリカ、リナ。任せる」


「え?」


 ユイナが振り返る。


「お兄ちゃんは?」


「面倒だから見てる」


「もう……!」


 ユイナは光を集めた。


「分かった!」


 魔物が一斉に襲いかかる。


 ユイナの光の盾が正面から受け止める。


 ドンッ!


「はあっ!」


 盾を押し返す。


 魔物がよろめいた。


 その隙に、アンジェリカが杖を振る。


 足元から氷が伸び、魔物の身体を絡め取る。


「そこだ!」


 氷が砕ける。


 同時に炎が爆発した。


 ドンッ!


 魔物が吹き飛ぶ。


「リナ!」


「はい!」


 リナが水裂を構える。


「装填!」


 水が圧縮される。


 パァン!


 圧縮された水が魔物を撃ち抜いた。


 次々と魔物が倒れていく。


 俺は少し離れた場所から眺めていた。


 最後の魔物が倒れた。


「――まだだ」


 黒ローブの一人が呟いた。


「?」


 地面が大きく揺れる。


 瓦礫が跳ね上がった。


「何だ……?」


 地面が割れた。


 その奥から――巨大な魔物が姿を現した。


 さっきまでの魔物とは、明らかに違う。


 身体が大きい。


 腕も太い。


 全身には黒い紋様。


ユイナが構える。


 アンジェリカも杖を握り直す。


「油断するな」


 リナも水裂を構えた。


 魔物が吠える。


 空気が震えた。


「来る!」


 魔物が地面を蹴った。


 ドンッ!


 ユイナが盾を構える。


 ガァン!


「くっ……!」


 ユイナが押し込まれる。


 アンジェリカが炎を放つ。


「燃えろ!」


 炎が魔物を包む。


 しかし――。


 魔物は止まらない。


「効いてない……?」


 リナが水裂を撃つ。


 パァン!


 魔物の身体が少し揺れただけだった。


「硬い……!」


 魔物の腕が振り抜かれる。


「危ない!」


 ユイナが盾を構えた。


 ドゴォン!


 盾が大きく歪む。


「きゃっ!」


「ユイナ!」


 俺はため息をついた。


「……仕方ない」


 俺は前へ出た。


「お兄ちゃん!」


 魔物が俺を見る。


 そのまま拳を振り下ろしてくる。


 俺は右手で受け止めた。


 ズンッ!


 地面が沈む。


「……重いな」


 そのまま腕を振る。


 ドゴンッ!


 魔物の身体が大きく吹き飛んだ。


 地面を何度も転がる。


 ユイナが呆然とする。


 俺は魔物へ歩いていく。


 魔物が起き上がった。


 俺は右足を一歩引いた。


「終わりだ」


 一瞬で距離を詰める。


 拳を叩き込んだ。


 ドゴォォン!


 魔物の身体が地面に叩きつけられた。


 動かない。


「……弱いな」


 俺が背を向けた。


 その時。


「ククク……」


 黒ローブの一人が笑った。


「……?」


 俺は振り返る。


 男が黒い石を取り出した。


 石の中心から――赤い光が漏れている。


「何をする?」


「まだ終わってはいない」


 男は倒れている魔物へ近づく。


 そして黒い石を、魔物の胸へかざした。


 赤い光が強くなる。


「――起きろ」


 ドクン。


 魔物の胸が脈打った。


「……!」


 倒れていた魔物が、ゆっくりと立ち上がる。


 そして――。


 男の手にあった黒い石が、魔物の胸へ吸い込まれた。


 ズブッ。


 赤い光が一気に広がる。


 魔物の身体が膨れ上がった。


 黒い紋様が全身を走る。


 地面が揺れる。


「な……」


 ユイナが後ずさる。


 さっきとは、まるで違う。


 魔物の身体から溢れる力だけで、周囲の瓦礫が吹き飛んでいく。


「さっきより……」


 アンジェリカが息を呑む。


「桁が違う……」


 魔物が俺を見る。


「……面倒だな」


 俺は構えた。


 魔物が突っ込んでくる。


 拳と拳がぶつかった。


 ドゴォン!


 地面が割れる。


「……!」


 俺の身体が少し後ろへ押された。


「なるほど」


 今度は俺から踏み込む。


 何度も拳を叩き込む。


 魔物も腕を振り回す。


 互いの攻撃がぶつかり合う。


 ドン!


 ドン!


 ドゴォン!


「……少し面倒だな」


 俺は魔物の攻撃をかわす。


 だが、次の一撃を受けた。


 ズンッ!


「……っ」


 俺の身体が数メートル後ろへ滑る。


 俺は右膝を押さえた。


「やれやれ……」


 ゆっくり右膝を摩る。


「これ、痛いんだよな」


 その瞬間――。


 右膝が赤く光った。


「……!」


 アンジェリカが俺を見る。


「……出すのか」


俺は右足を引く。


 いつもの構え。


 その瞬間だった。


「――それを待っていた」


 黒ローブの男が笑った。


「……?」


 男が懐から何かを取り出した。


 黒い金属でできた、円形の輪。


 中央には小さな赤い光が浮かんでいる。


 男がそれを俺へ向ける。


「これを――」


 赤い光が、強くなった。


 俺の右膝が反応する。


「……何?」


 次の瞬間。


 魔物の胸にある赤い光も強くなった。


 俺の右膝。


 男の持つ黒い輪。


 魔物の胸。


 三つの赤い光が、まるで一本の線で繋がったように輝いた。


「なに――」


 ドクンッ!!


「――ぐっ!」


 右膝に激痛が走った。


「ぐあああっ!」


 今までとは比べものにならない。


 膝の奥から、身体全体を引き裂くような痛みが走る。


「お兄ちゃん!」


 ユイナが叫ぶ。


 俺は右膝を押さえた。


「なん……だ……これ……!」


 右膝が地面に叩きつけられる。


 ズズズズズ……。


 地面が沈んだ。


「――っ!」


 右膝が大地へめり込んでいく。


 地面に亀裂が走る。


 ズガガガガッ!


 俺の右膝を中心に、地面が割れていく。


「ぐっ……!」


 身体を起こそうとする。


 だが、動かない。


 右膝だけが、地面に引きずり込まれていく。


「何なんだ……この力……!」


 両腕に力を込める。


 しかし――。


 黒ローブの男が手を向けた。


「動くな」


 黒い魔法が伸びる。


 両腕。


 左足。


 一瞬で拘束された。


「……こんなもの」


 俺は腕に力を込める。


 普段なら、簡単に破れる程度の魔法。


 だが――。


「……っ」


 力が入らない。


 右膝から何かを吸い取られているような感覚。


「なぜ……!」


 その時。


 魔物が目の前に立った。


魔物が俺の右足首を掴んだ。


「――っ!」


 身体が持ち上がる。


「お兄ちゃん!」


 ユイナの声。


 次の瞬間――。


 ドゴォォォン!!


「――グフッ!」


 地面に叩きつけられた。


 口から血が出る。


 視界が揺れる。


 魔物は俺の右足首を離さない。


 もう一度、振り上げる。


「……っ!」


 ドゴォォォン!!


「グフッ!」


 今度は頭から地面へ叩きつけられた。


 頭から血が流れる。


 身体が地面を滑り、魔物から少し離れたところで止まった。


「お兄ちゃん!」


 ユイナが駆け寄ろうとする。


 だが魔物が立ちはだかった。


 俺は地面に手をついた。


「……くっ」


 立たなければ。


 そう思って身体を起こす。


 だが――。


 右膝は赤く光ったまま、大地へ沈み続けている。


「……動け」


 腕に力を込める。


「動け……!」


 それでも立てない。


 俺は歯を食いしばった。


「……面倒だな……」


 魔物が腕を振り上げる。


 俺はユイナたちを見る。


「悪いな……」


 息を整える。


「少し時間がかかりそうだ」


「お兄ちゃん……?」


「先にグランディアにでも行って……飯でも食っててくれ」


「俺は……ここで何とかする」


 魔物が咆哮した。


 巨大な腕が振り下ろされる。


 ドゴォォォン!!


 だが――。


 俺には当たらなかった。


 目の前に、光の盾があった。


「……ユイナ?」


 ユイナが盾を構えている。


「一緒に行くの!」


「……逃げろ」


「嫌!」


 盾が震える。


 魔物の力に押され、ユイナの足が地面に沈む。


「ぐっ……!」


「ユイナ!」


「大丈夫!」


 ユイナは歯を食いしばった。


「お兄ちゃんを置いていかない!」


 魔物がさらに力を込める。


 盾が軋む。


 その瞬間。


 魔物の足元に氷が絡みついた。


「――止まれ!」


 アンジェリカだった。


 氷が魔物の両足を覆う。


「これで……!」


 パンパァァン!


 同時に、水裂から二発の水が撃ち出された。


 魔物の上半身に直撃する。


 ほんの少しだけ、魔物の身体が後ろへ押された。


 アンジェリカは俺を見る。


「強がりもほどほどにしろ」


 リナも頷いた。


「私たちもいます」


「……お前ら……」


 俺は少しだけ目を見開いた。


 しかし――。


 魔物が足を動かす。


 バキッ。


 氷に亀裂が走った。


「……!」


 バキバキバキッ!


 氷が砕ける。


「足止めにもならないか!」


 アンジェリカが杖を振る。


「なら――!」


 炎が魔物へ向かって飛ぶ。


 ドゴォン!


 しかし、炎をまとったまま魔物が進んでくる。


「効かない……!」


 リナが水裂を撃つ。


 パァン!


 パァン!


 何発当てても、止まらない。


「まだです!」


 リナは水裂に装填する。


「装填!」


 撃つ。


 パァン!


 アンジェリカも走りながら魔法を放つ。


 氷。


 炎。


 氷。


 炎。


 リナも魔物との距離を変えながら撃ち続ける。


 しかし――。


 魔物は止まらない。


 腕を振り回す。


 アンジェリカが飛び退く。


「くっ!」


 リナも身体を捻ってかわす。


「危なっ……!」


 魔物の腕が地面を薙ぎ払う。


 瓦礫が飛び散る。


 ユイナの盾にも何度も攻撃が叩き込まれる。


 ドン!


 ドン!


 ドゴォン!


「ぐっ……!」


 ユイナの顔から汗が流れる。


 腕が震える。


 それでも盾を消さない。


「もういい……」


 俺は言った。


「逃げろ」


 アンジェリカが魔物へ炎を放ちながら叫ぶ。


「置いて行けるわけないだろう!」


 リナも水裂を構え直す。


「私も!」


 魔物が腕を振り抜いた。


「――っ!」


 アンジェリカとリナの身体が吹き飛んだ。


「アンジェリカ!」


「リナ!」


 二人は地面を転がる。


 意識はある。


 だが、すぐには動けない。


「……ぐっ……」


「いた……」


 魔物がユイナへ向き直る。


「……!」


 攻撃が集中する。


 ドゴォン!


 ドゴォン!


 ドゴォォン!


 ユイナの盾が大きく揺れる。


「……っ!」


 膝をつきそうになる。


 それでも耐える。


「もういい……」


 俺は地面に手をついた。


「もう……いい……」


 立ち上がろうとする。


「動け……」


 右膝が赤く光る。


「動け……!」


 しかし身体は動かない。


「クソッ……!」


 拳を地面に叩きつける。


「クソッ……! 動け!」


 ユイナは盾を押さえながら、魔物を見つめていた。


「守るんだ……」


 声が震える。


「守るんだ……」


 盾が軋む。


「絶対……」


 魔物がさらに力を込める。


「守るんだ……!」


 その瞬間――。


 ユイナの身体から、ほんの僅かに赤い光が立ち上った。


「……?」


 俺は目を見開く。


 同時に――。


 右膝の痛みが、ほんの少しだけ薄れた。


「……ユイナ?」


 ユイナの目にも、薄く赤い光が灯っている。


「私は……」


 ユイナが盾を握り直す。


「守るんだ……」


 赤い光が、少しずつ濃くなる。


「絶対に……!」


 ユイナが立ち上がる。


「私が守る――!」


 光の盾を思い切り振り抜いた。


 ドォン!


 魔物の巨体が、ほんの少しだけ後方へ跳ねた。


「……!」


 ユイナはボロボロになりながら立っていた。


 目は――諦めていない。


「ユイナ……」


 俺は呟いた。


 ユイナが振り返る。


「大丈夫よ、お兄ちゃん」


 少しだけ笑った。


「なんか……いける感じがする」


 その時。


「……私も、まだ動ける」


 アンジェリカが立ち上がった。


 身体を押さえながら、杖を握る。


 リナもゆっくり立ち上がった。


「私も……」


「お前ら……」


 アンジェリカが息を切らしながら言う。


「胸だ……」


「胸?」


「あの赤い光……胸の中にある」


 アンジェリカが魔物を睨む。


「あそこに、黒い石がある」


 リナも魔物を見る。


「……あれを壊せば」


「何とかなるかもしれない」


 ユイナが頷く。


「じゃあ……やろう」


 魔物が咆哮した。


 地面が揺れる。


「来る!」


 巨大な拳が振り下ろされた。


 ユイナが前へ出る。


「――っ!」


 右拳を握る。


 その拳に、薄い赤い光が集まった。


俺は目を見開く。


 ユイナが拳を引く。


「いけぇぇぇ!」


 魔物の胸へ――。


 ドゴォォォン!!


 拳が突き刺さった。


 魔物の身体が後方へ吹き飛ぶ。


 胸に大きな亀裂が走った。


「今だ!」


 アンジェリカが杖を構える。


「凍れ!」


 強烈な氷が魔物の胸を覆う。


 直後。


「焼けぇぇぇぇっ!」


業火のごとき炎が叩き込まれた。


 バキィィン!


 ドゴォォン!


 急激な温度差に耐えきれず、凍った胸が砕け散った。


 その奥から――。


 赤い光を放つ黒い石が現れた。


「……見えた」


 リナが水裂を握る。


「任せて」


リナは右手を前へ出した。


 水が集まる。


 圧縮される。


 小さな水の塊。


 それを親指、人差し指、中指の三本で掴む。


 そして――。


 時計回りに勢いよく回す。


 ギュイーン……。


 水が回転する。


「……回ってる?」


 俺は思わず呟いた。


 リナはそのまま水裂へ装填する。


「……」


 さらに後ろにはじける水を装填。


 水裂が震える。


 ギュイーン……。


 リナは魔物の胸にある黒い石を狙った。


「ぶっつけ本番」


 静かに呟く。


 引き金を引いた。


「パギュィィィーン!」


 圧縮された水が撃ち出された。


 圧縮した水は割れる。


 だが――。


 回転していた。


 割れた水が中心へ寄り、広がることを抑えながら、螺旋を描く。


 そのまま魔物へ突き進む。


「いけ……!」


 リナが呟く。


 次の瞬間。


 赤い光を放つ黒い石へ――。


 直撃。


「ガガガガシャーン!!」


 黒い石が砕け散った。


 赤い光が消える。


 魔物の身体から、一気に力が抜けた。


「今!」


 ユイナが走る。


「はああああっ!」


 ドゴォォォン!!


 魔物の身体が大きく吹き飛ぶ。


 その身体は、空中で崩れ始めた。


 黒い霧となって――。


 消えた。


「……」


 静かになった。


 俺たちは、その場に立ち尽くしていた。


 黒ローブたちは、しばらく何も言わなかった。


 やがて――。


「……ほう」


 一人が小さく笑った。


「なるほど」


 別の男が俺を見る。


 そしてユイナを見る。


 最後に、リナへ視線を向けた。


「今回は……これで十分だ」


「待て!」


 アンジェリカが叫ぶ。


 しかし、黒ローブたちの身体が黒い霧に包まれる。


「また会おう」


 その言葉だけを残して――。


 黒い霧は消えた。


「……逃げた」


 リナが呟く。


 俺は何も言わなかった。


 ただ――。


 右膝を見ていた。


 赤い光は、まだ消えていない。


 そして。


 右膝には――。


 今までにはなかった、細い赤い亀裂が走っていた。


「……」


 俺は膝に手を添える。


「……面倒だな」


 誰にも聞こえないように、そう呟いた。



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