↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄様は膝が痛い痛いと言いながら意外と私のストーカーでした。  作者: ぱんだでぴょん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/83

アグニア草を、花束に。編⑧

 ミロを背負ったまま、俺たちは山を下りた。


 炎龍の巣からはかなり離れている。


 しばらく進んだ先に、古びた鉱山跡があった。


 岩壁にぽっかりと開いた穴。


 その奥から、男たちの笑い声が聞こえてくる。


「……ここです」


 俺の背中で、ミロが小さく呟いた。


 俺たちはそのまま洞窟の中へ入っていく。


 奥へ進むと、広い空間に出た。


 火が焚かれ、その周囲には酒と食べ物が並んでいる。


 男たちは酒を飲みながら騒いでいた。


 その奥の上座に、ガルドがいた。


「……なんだ、お前たちは?」


 ガルドがこちらを見る。


 俺はミロを背負ったまま立ち止まった。


「……」


 ミロが顔を上げる。


「ガルド……」


 その声に、ガルドの表情が変わった。


「……ミロ?」


 ガルドはミロを見つめる。


 そして、鼻で笑った。


「お前……まだ生きてたのか」


「……アグニア草を返してください」


「あ?」


 ガルドは周囲を見回した。


「アグニア草?」


 近くにある岩陰を見る。


 そこには、アグニア草が無造作に放り出されていた。


 その草を包むように、薄い魔力の膜が張られている。


 だが、ガルドはそんなものには興味を示さない。


「これか?」


「……はい」


「こんな草がなんだっていうんだ?」


 ガルドはアグニア草を足で軽く蹴った。


「お前が必死になって守ってたから、何かあるのかと思って奪ったが、何の価値もねえ」


 ガルドは笑った。


「そんなもんのために、炎龍の巣まで行ったのか?」


 ミロは答えなかった。


ガルドが口元を歪める。


「ミロ……お前、落ちぶれたな」


 そして、ガルドが手を上げた。


「やれ」


 次の瞬間。


 ガルドの子分たちが一斉に動いた。


「!」


 投げナイフが飛んでくる。


 俺は身体を少し横へずらした。


 ナイフが背後の壁に突き刺さる。


 続いて、細いワイヤーが飛んできた。


 俺はそれを手で払いのけた。


 その直後には、こん棒を持った子分が迫ってくる。


 俺はこん棒を避け、子分の身体を軽く押した。


「うわっ!」


 子分はそのまま仲間を巻き込み、地面へ転がった。


「お前ら!」


 子分たちは息巻き更に攻撃を行う。


 そこにユイナが前へ出る。


「そこ!」


 光の盾が投げナイフを弾き飛ばす。


 アンジェリカの炎が子分たちの足元を焼く。


「下がれ!」


 リナの水裂から圧縮された水が放たれ、子分たちが吹き飛んだ。


 次々と子分たちが倒れていく。


 やがて――。


 立っているのは、ガルドだけになった。


「……」


 ガルドの顔から、笑みが消えていた。


 俺たちを見回す。


 そして、一歩後ろへ下がった。


「……なんなんだ、お前ら……」


 俺はため息をついた。


 その時だった。


「……ユイナ様のお兄様」


 背中から声がする。


「僕に……やらせてください」


「……」


 俺はミロを見る。


 ミロが俺の背中から降りようとする。


「待って!」


 ユイナが慌てて駆け寄った。


「そんな身体で無理よ!」


「そうだ」


 アンジェリカもミロを見る。


「炎龍にやられたばかりだ。立っていることすら難しいだろう」


「大丈夫です」


 ミロはゆっくりと立ち上がった。


 足元はふらついている。


 それでも、倒れなかった。


「ユイナ様のお兄様が……背負ってくださったおかげで、少しだけ……回復しました」


「でも……」


 ユイナが心配そうにミロを見る。


「ここは……」


 ミロはガルドを見た。


「僕が戦わなければならないんです」


「ミロ……」


 ミロは静かに言った。


「ここだけは……」


その様子を見て、ガルドが薄く笑った。


「なるほどな」


 ガルドの口元に、再び笑みが浮かぶ。


「いいぜ」


 ガルドが一歩前へ出る。


「俺も相手をしてやる」


 ユイナが眉をひそめる。


「……え?」


「ただし――」


 ガルドは指を俺たちへ向けた。


「条件がある」


「条件?」


 リナが首を傾げる。


「俺とこいつが一対一で戦う」


 ガルドはミロを指差した。


「そして俺が勝ったら……」


 ニヤリと笑う。


「お前らは、俺に手を出さない」


「そんなの――!」


 ユイナが声を上げる。


「勝手すぎるよ!」


 アンジェリカも険しい表情になる。


「それでは、こちらに何の利もないだろう」


「そうだよ!」


 リナも続く。


 ガルドは肩をすくめた。


「嫌なら、四人まとめてかかってくればいい」


「……」


「だが、そうなると俺はこいつを相手にしない」


 ガルドはミロを見る。


 ミロは黙ってガルドを見つめていた。


「……」


 ガルドが笑う。


「どうした?」


 ミロは静かに答えた。


「僕は……戦います」


 ガルドは満足そうに笑った。


「なら決まりだ」


「お兄ちゃん!」


 ユイナが俺を見る。


「そんなの駄目だよ!」


「兄様!」


 リナも訴える。


俺はミロを見る。


 しばらくして、息を吐いた。


「……分かった」


「お兄ちゃん!?」


「兄様!?」


 ユイナとリナが驚く。


 俺はそれ以上何も言わず、ミロを見る。


「……」


 ミロは小さく頷いた。


「ありがとうございます」


 そして、俺は壁際まで歩いていく。


 壁を背にして、そのまま座り込んだ。


「……たたたた……」


 俺は右膝をさする。


「お兄ちゃん……」


「兄様……?」


 ユイナとリナが心配そうに俺を見る。


 俺は目を閉じた。


「……」


 アンジェリカは何か思うように、ミロを見つめていた。


「ふっ……」


 ガルドが笑い、ミロを見る。


「まだ魔力は空っぽだ」


「……」


「炎龍にやられて、立っているのがやっとだ。その後に俺たちにも痛めつけられたんだろ?」


 ガルドがゆっくりと歩き出す。


「そんなお前が、俺と戦うのか?」


「……戦います」


「馬鹿が」


 ガルドは薄く笑った。


「魔力も使えない。身体もまともに動かない」


 ガルドが大型の片手剣を手に取る。


「勝ち目なんかねえぞ」


「……」


「……それでも」


 ミロは答えた。


――こんなボロボロのミロ1匹なら、俺でも十分だ


ガルドは、ほくそ笑む。


 ユイナが小さく息を呑む。


「……ミロ」


 ユイナは持っていたものをミロへ差し出した。


「せめて……これを」


 それは、ミロの折れた杖だった。


 ミロが受け取る。


「ありがとうございます……」


 ガルドはそれを見ると、鼻で笑った。


「なんだ、その杖」


「……」


「折れてるじゃねえか」


 ガルドが剣を肩に担ぐ。


「そんな折れた杖ごときで、何ができる?」


 ミロは何も答えなかった。


 ただ、杖を握り直した。


「……行きます」


「来い!」


 ガルドが踏み込んだ。


 大型の片手剣が振り下ろされる。


 ミロは杖を構えた。


「ガンッ!」


 衝撃。


 ミロの身体が大きく吹き飛んだ。


「ミロ!」


 地面を転がる。


 それでもミロは立ち上がった。


 ガルドが迫る。


「おらぁ!」


 横薙ぎ。


 ミロは杖を滑らせ、辛うじて受け流す。


 反撃はできない。


 次の一撃。


 さらに一撃。


 ミロは避ける。


 受け流す。


 だが、攻撃することはできない。


「どうした!」


 ガルドが笑う。


「攻撃してこいよ!」


 剣がミロの肩をかすめる。


「ぐっ……!」


 ミロの身体がよろめく。


「その程度か!」


 ガルドはさらに攻撃を続ける。


 ミロは必死に杖で受け流す。


 だが、魔力はない。


 身体能力も落ちている。


 それでも――。


 ミロは倒れなかった。


 しばらくして。


 ガルドが大きく剣を振り下ろした。


 ミロが横へ滑る。


 その瞬間。


 ミロは剣の柄へ杖を当てた。


「なっ……!」


 ガルドの剣が弾かれる。


 大型の片手剣。


 両手でしっかりと握っているわけではない。


 その一瞬の隙を、ミロは突いた。


 剣が遠くへ飛んでいく。


 だが――。


 同時に、ミロの杖も弾き飛ばされた。


「……!」


 ガルドが驚いた。


 だが、すぐに笑う。


「剣がなくなったか、だがお前の杖も」


 ガルドの身体が変化する。


 筋肉が硬く盛り上がり、腕が硬質なものへと変わっていく。


「ならば、これで十分だ!」


 硬化した拳。


 ガルドが拳を振り抜いた。


「ドンッ!」


 ミロの身体が吹き飛んだ。


「ミロ!」


 壁へ叩きつけられる。


 ミロは地面へ落ちた。


「……」


 しばらく動かない。


 だが――。


 ミロは震える腕で地面を押した。


「……っ」


 立ち上がる。


「な……」


 ガルドの顔が引きつる。


「まだ立つのかよ」


 ガルドが拳を振る。


「ドンッ!」


 また吹き飛ぶ。


 倒れる。


 それでも――。


 ミロは立ち上がる。


「もうやめて!」


 ユイナが叫んだ。


「ミロ!」


 アンジェリカも前へ出ようとする。


「まだです!」


 ミロが叫ぶ。


「大丈夫です……!」


「でも!」


「……まだです」


 ミロは震える身体でガルドを見る。


「リリア様が……」


 拳を握る。


「リリア様を心配しているリゼット様が……」


 ふらつきながら、一歩前へ出る。


「エルビス村の皆さんが……」


 ミロの目に、これまでの景色が浮かんでいた。


「僕が……守らないと……」


「何を偉そうに!」


 ガルドが拳を振り抜く。


 ミロは避ける。


まともに攻撃を受ければ終わる。


 拳が壁を砕く。


「……」


 ミロはガルドの腕を見る。


 そして――足を見る。


「避ける……」


 拳が迫る。


 ミロは身体をひねる。


「受け流す……」


 ガルドの身体が前へ流れる。


 ミロはその力を利用する。


「利用する……」


 ガルドが振り返る。


「ちょこまかと!」


 再び拳。


 ミロは避ける。


 受け流す。


 利用する。


「足……」


 ミロが呟く。


「何?」


 ガルドの拳が迫る。


 ミロは紙一重で避けた。


「足を……」


 ガルドが蹴りを放つ。


 ミロは身体を引く。


「狙う……」


 ガルドが笑った。


「そんな攻撃、痛くもかゆくもねえ!」


 ガルドは身体を硬化させている。


 痛みを感じない。


 ダメージを感じていない。


 だからこそ――。


 ミロは気づいていた。


 硬化している。


 だから、身体そのものへの痛みを感じない。


 ならば――。


 痛みではなく。


 動きを奪う。


「避ける……」


 拳が空を切る。


「受け流す……」


 ミロが身体を滑らせる。


「利用する……」


 ガルドの勢いを利用する。


「足を……」


 ミロが足元へ踏み込む。


 ガルドが拳を振る。


「避ける……」


 また避ける。


「受け流す……」


 また流す。


「利用する……」


 ガルドの体勢を崩す。


「足を……」


 ミロの攻撃がガルドの足へ入る。


「狙う……」


 ガルドは気づかない。


 何度も。


 何度も。


 ミロは同じ動きを繰り返した。


 だが――。


「いい加減にしろ!」


 ガルドの拳が、ミロを捉えた。


「ドンッ!」


 今度はまともに入った。


 ミロの身体が大きく吹き飛ぶ。


「ミロ――!」


 ユイナが叫ぶ。


 ミロは地面を転がり、動かなくなった。


「ミロ!」


 アンジェリカが叫ぶ。


 ユイナの目に涙が浮かぶ。


「そんな……」


 ガルドは息を吐いた。


「……終わったな」


 ガルドは俺たちを見る。


「約束だぞ、俺に手を出すな」


「……まだ……終わってません」


「……!」


 ガルドが振り返る。


 ミロが立っていた。


 身体は限界だった。


 手も足も、まともに動いていない。


 ただ立つ。


 それだけで精一杯だった。


「な……」


 ガルドの顔から、余裕が消える。


「なんで……」


 アンジェリカが呟いた。


「なんで……そこまで……」


 ミロは答えない。


 ただ、ガルドを見ている。


 ガルドの表情が歪んだ。


「……そこまで死にたいのなら」


 腕をさらに硬化させる。


「望み通りにしてやる!」


 ガルドが突っ込んだ。


 拳を振り上げる。


「これで終わりだ!」


 ミロは動かない。


 いや――。


 動けない。


 ガルドの拳が迫る。


 その瞬間。


「……!」


 ガルドの足が、わずかに揺れた。


「なっ……」


 これまでの攻撃。


 何度も狙われていた足。


 硬化していたことで痛みを感じていなかった。


 だが――。


 蓄積したダメージまでは消えていなかった。


 ガルドの身体が、ほんのわずかに崩れる。


 ミロはそれを見逃さなかった。


全身の力を振り絞る。


 一歩。


 そして――。


「うおおおおっ!」


 ミロが前へ出た。


 拳でもない。


 杖もない。


 ただ――頭を前へ突き出す。


 全身全霊の頭突き。


「ドンッ!」


 ガルドの顔面に直撃した。


「ぐっ……!」


 ガルドの身体が吹き飛ぶ。


 そのまま地面へ叩きつけられた。


「……」


 ミロもまた、前のめりに倒れた。


 静寂。


 誰も動かなかった。


 やがて――。


「……」


 ガルドがピクリと動く。


 口から泡を吹き、そのまま意識を失っていた。


 その時だった。


 倒れていたミロの身体が、わずかに動いた。


「……」


 右腕が上がる。


 前のめりになったまま。


 震える拳を――。


 ゆっくりと掲げる。


「……」


 俺は薄く目を開け、その拳を見た。


「……」


 そして――。


 ほんの少しだけ、口元を上げた。


「ミロー!」


 ユイナとアンジェリカが同時に叫び、ミロへ駆け寄る。


「ミロ!」


「しっかりしろ!」


 リナもその場に立ち尽くし、ミロを見る。


「……すごい……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。