アグニア草を、花束に。編⑦
俺は倒れているミロを見た。
身体中が傷だらけだった。
その姿を見て、俺は遠くの山へ目を向けた。
「……炎龍か」
俺は山の方へ向かって歩き出そうとした。
「お兄ちゃん⁉」
「ユイナの兄様⁉」
「兄様……?」
三人の声が重なる。
その時だった。
「……すみません……」
地面に倒れていたミロが、うっすらと目を開けた。
「……しくじりました……」
今にも消えてしまいそうな、か細い声だった。
俺は足を止め、ミロのそばへ戻る。
「何があった?」
「少し……ありまして……」
ミロは苦しそうに息をしながら、ゆっくりと口を開いた。
「……ただ、炎龍は悪くないです」
「……」
「炎龍は……自分の巣に、僕みたいなものが入ってきたのですから……」
ミロは苦しそうに笑った。
「巣を守るのは……当然の行為です……」
「ミロ……」
アンジェリカが心配そうに見つめる。
「ゲホッ……ゲホッ、ゲホゲホッ……!」
「もうしゃべらなくていい!」
アンジェリカが慌ててミロを止める。
「ですが……」
ミロは胸を押さえながら、なんとか息を整えた。
「……アグニア草……」
その言葉に、俺たちの視線がミロへ集まる。
「……とれたのですが……色々ありまして……」
そう言って、ミロは心配させまいとするように微笑んだ。
「大丈夫です……まだ……何とか……」
ミロは地面に手をつき、身体を起こそうとした。
「無理しないで!」
ユイナが手を伸ばす。
だが――
「……まだ……」
ミロは再び立ち上がろうとする。
そして。
「ドンッ」
身体が支えを失い、そのままうつ伏せに地面へ倒れた。
「ミロ!」
ユイナがすぐに身体を支える。
「……すみません……」
それでもミロは起き上がろうとした。
俺はミロを見下ろした。
「何があった?」
「……」
ミロはしばらく黙っていた。
やがて、苦笑いを浮かべる。
「……実は……」
ミロはゆっくりと話し始めた。
「これまで……悪事を働いてきた報いですよ……」
「……」
「自分でも……分かっています……」
そう言ったミロの声が、少し震えた。
「でも……」
ミロは唇を噛む。
「……こんな時に……」
その目に、涙が浮かんだ。
「今はミロの体が心配だ」
アンジェリカが静かに言った。
「一度、村に戻ろう」
「……だめです」
ミロは首を横に振った。
「リリア様の容態が……一刻を争います」
「……」
「僕の体は……その後でいい……」
ミロは震える手を地面についた。
「アグニア草を……取り返さないと……」
「……」
ユイナもアンジェリカも、リナも言葉を失った。
ミロの気持ちは分かる。
だが、この身体では――。
俺はしばらくミロを見ていた。
「そのガルドってやつのアジトは分かるのか?」
ミロが顔を上げる。
「……はい……これから……」
「一人でか?」
「……はい」
ミロは小さく答えた。
「これ以上……皆さんに迷惑をかけるわけにはいきませんので……」
そう言って、ミロは立ち上がろうとした。
だが、身体は動かなかった。
それでもミロは、行こうとしていた。
俺はため息をついた。
「面倒だが……案内しろ」
「……え?」
次の瞬間。
俺はミロの身体を無理やり背負い上げた。
「え……?」
ミロが目を丸くする。
「ちょ、ちょっと……!」
「動けないだろ」
「ですが……」
ユイナが俺の横に立つ。
「私たちも行くよ」
アンジェリカも頷いた。
「当然だ」
リナも力強く頷く。
「うん!」
ミロは三人を見た。
「でも……」
ユイナがミロを見つめる。
「ミロをこんな目に合わせて……許さない!」
「……ユイナ様……」
アンジェリカも続ける。
「それに、私の妹のためにこうなったのだ。」
「……」
リナは何も言わず、もう一度大きく頷いた。
ミロの目から、涙がこぼれた。
「……ありがとうございます……」
声が震えていた。
アンジェリカは静かに答える。
「礼を言うのは、こっちの方だ」
「……」
ミロは俯いた。
しばらくして、俺の背中で小さく呟く。
「……ユイナ様のお兄様……膝が……」
「……」
「今回だけだ」
「……?」
ミロは何も言わなかった。
ただ、俺の背中で静かに涙を流していた。
ミロを背負ったまま、俺は前を見る。
そして歩き出す。
「……面倒だ、面倒だ、面倒だ……」
――また兄様は……。
ユイナとアンジェリカ、リナは顔を見合わせ、ほほ笑んだ。




