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兄様は膝が痛い痛いと言いながら意外と私のストーカーでした。  作者: ぱんだでぴょん


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〇豊かな町編 9話

「王様のところだ」


俺がそう言うと――


ユイナが頷いた。


「うん」


アンジェリカも倉庫の奥を見つめる。


「この先に、王のいる場所へ続く道があるのか」


「たぶんな」


リナが救出した農夫に駆け寄る。


「大丈夫?」


「ああ……」


農夫は壁に手をつきながら立ち上がった。


「だが、お前たちは……」


「俺たちは大丈夫だ」


俺は答えた。


農夫はユイナたちを見る。


「本当に……ありがとう」


「気をつけて帰ってください」


ユイナが笑った。


農夫が倉庫を出ていく。


俺たちは、城の奥へ続く扉の前に立った。


「お兄ちゃん」


「何だ?」


「本当に入るんだよね?」


「ああ」


「王様に怒られるよ?」


「もう十分怒られてるだろ」


「私たちが?」


「俺たち全員だ」


「……確かに」


リナが小さく笑った。


「兄様、怖くないの?」


「怖い?」


俺は扉を見る。


「面倒ではある」


「怖くないんだ……」


「腹が減るほうが怖い」


「そこなの!?」


ユイナが叫んだ。


俺は扉を開けた。


ギィィ……。


その向こうには、長い石造りの通路が続いていた。


薄暗い。


壁には古い燭台。


床には、誰かが最近通ったような足跡。


「……誰かいる」


アンジェリカが小声で言う。


「そうだな」


俺たちは慎重に進んだ。


しばらくすると――


通路の先に大きな扉が見えた。


その前に。


何かが立っていた。


「……」


巨大だった。


四本の足。


全身を覆う黒い毛。


頭には二本の角。


そして――


赤い目。


「……魔物?」


ユイナが息を呑む。


魔物はゆっくりとこちらを向いた。


グルルルル……。


低い唸り声。


その瞬間。


空気が変わった。


身体が重くなる。


リナが一歩下がった。


「……何、この魔力」


アンジェリカも顔を強張らせる。


「これは……」


「強いのか?」


俺が聞く。


「強いなんてものではない」


アンジェリカが答えた。


「これほどの魔力……見たことがない」


ユイナが杖を握り直す。


「でも、やるしかないよ」


「ユイナ」


「大丈夫」


ユイナが前へ出る。


「私たちなら――」


魔物が吠えた。


「グォォォォォッ!」


轟音。


城全体が揺れた。


「きゃっ!」


リナが耳を塞ぐ。


次の瞬間。


魔物が突っ込んできた。


「来る!」


ユイナが地面へ手をつく。


「土壁!」


ドォン!


巨大な壁が出現する。


魔物は――


止まらなかった。


「えっ……!」


壁を真正面から突き破る。


「ユイナ!」


アンジェリカが炎を放つ。


巨大な炎が魔物を包む。


ゴォォォッ!


だが。


炎の中から――


魔物が出てきた。


無傷。


「……そんな」


アンジェリカの顔が青ざめる。


リナが飛び込む。


「私が止める!」


魔物の足元へ潜り込む。


「えいっ!」


全力で攻撃する。


ドンッ!


魔物の身体がわずかに揺れた。


だが。


それだけだった。


「嘘……」


魔物が前足を振る。


「リナ!」


ユイナが魔法で防御壁を張る。


ドォン!


三人まとめて吹き飛ばされた。


「きゃあっ!」


「くっ……!」


「兄様……!」


俺は壁にもたれながら、三人を見る。


「……大丈夫か?」


ユイナが立ち上がろうとする。


「うん……」


だが。


足元がふらついた。


アンジェリカも杖を支えにしている。


「まだ……戦えます」


リナも立ち上がる。


「私も……」


魔物が再び吠えた。


「グォォォォォッ!」


今度は。


さっきよりも大きい。


通路の壁に亀裂が走る。


「……」


俺は魔物を見る。


強い。


確かに強い。


ユイナたちが三人で戦っても、まったく歯が立たない。


これ以上やれば――


誰かが大怪我をする。


俺はため息をついた。


「……もういい」


「お兄ちゃん?」


俺は前へ出た。


「三人とも、下がれ」


ユイナが首を振る。


「でも!」


「いいから」


アンジェリカが俺を見る。


「ユイナの兄様……」


「こいつは俺がやる」


リナが驚く。


「兄様が?」


「ああ」


魔物が俺を睨む。


赤い目。


巨大な身体。


俺はその前まで歩いた。


「……」


魔物が唸る。


俺は右膝を押さえた。


少しだけ疼く。


だが。


今回は違った。


痛みを気にする必要もない。


「お兄ちゃん!」


ユイナが叫ぶ。


「気をつけて!」


「分かってる」


魔物が飛びかかってきた。


巨大な爪。


まともに受ければ、人間なんて簡単に吹き飛ぶ。


俺は――


横へ一歩動いた。


爪が空を切る。


「……」


魔物が振り返る。


遅い。


俺は魔物の腹へ手を当てた。


「よいしょ」


ドンッ!


魔物の巨体が吹き飛んだ。


「え……?」


ユイナが固まる。


魔物は壁へ激突した。


ズガァン!


壁が崩れる。


「……」


魔物が起き上がる。


まだ動ける。


「しぶといな」


魔物が咆哮する。


そして。


再び突っ込んできた。


俺は――


拳を握った。


「今度は寝てろ」


拳が魔物の額に当たる。


ドンッ!


一瞬だった。


巨大な魔物の身体が宙へ浮き――


そのまま床へ落ちた。


ズズン……。


静寂。


動かない。


「……」


俺は魔物を見る。


「終わったな」


後ろから。


声がしなかった。


振り返る。


ユイナ。


アンジェリカ。


リナ。


三人とも。


口を開けたまま俺を見ている。


「……何だ?」


ユイナがようやく口を開いた。


「お兄ちゃん……」


「ん?」


「今……」


「何だ?」


「一発だったよね?」


「そうだな」


「……」


アンジェリカが魔物を見る。


そして俺を見る。


「ユイナの兄様……」


「何だ?」


「今の魔物は……」


彼女は言葉を選ぶように続けた。


「私たち三人が全力で戦っても、まったく傷をつけられなかった」


「そうなのか?」


「はい」


「……ふーん」


リナが俺のところへ走ってくる。


「兄様!」


「何だ?」


「すごい!」


「そうか?」


「すごいよ!」


リナが嬉しそうに笑う。


「兄様なら、何とかしてくれると思ってた!」


「期待されても困るんだが」


「でも助けてくれた」


「……まあな」


ユイナが魔物を見ながら呟く。


「こんなに強い魔物……どうして城の中にいるんだろう」


「王様が飼ってるんじゃない?」


リナが言う。


「こんなの飼えるの?」


「知らん」


俺は魔物を見た。


首には太い鎖が巻かれている。


「……飼ってたみたいだな」


アンジェリカが近づく。


「本当のようだな」


鎖は床の金具に繋がっていた。


そして。


その金具の横には――


小さな札があった。


「王城護衛用魔獣」


アンジェリカが読み上げる。


「王城への侵入者を排除するための魔獣……」


ユイナが眉を寄せる。


「じゃあ、王様は最初から……」


「ああ」


俺は扉を見る。


「この先に誰か来ることを想定してたんだろうな」


そのとき。


城の奥から――


声が聞こえた。


「……誰だ」


低い男の声。


「誰の許可を得て、ここまで入ってきた」


ユイナが顔を上げる。


アンジェリカが杖を構える。


リナも俺の隣に立つ。


俺は扉を見る。


「……王様か?」


再び声がした。


「そうだ」


「……」


俺はため息をついた。


「やっと出てきたか」


扉の向こう。


巨大な音が響いた。


ギィィィ……。


ゆっくりと扉が開いていく。


その先には――


豪華な衣装を身につけた男が立っていた。


王。


その後ろには。


何人もの兵士。


そして。


大量の金貨と食料が並んでいた。


ユイナが息を呑む。


「……これ」


町から奪ったもの。


そう考えるには十分だった。


王は俺たちを睨みつける。


「貴様ら……」


その顔には怒りが浮かんでいた。


「よくも私の城へ入ってきたな」


俺は王を見る。


そして。


城の奥に積まれた食料を見る。


「お前が――」


俺は言った。


「この町をこんなにした張本人か」


王の口元が歪んだ。


「だったらどうする?」


ユイナが一歩前へ出る。


「みんなの食べ物を返してください!」


王は笑った。


「愚かな娘だ」


そして。


手を上げた。


「この町は、私のものだ」


俺は黙って王を見る。


王は続けた。


「畑も」


「作物も」


「人間も」


「すべて――」


「私のものだ」


ユイナが拳を握った。


アンジェリカの表情も険しくなる。


リナが俺の服を掴む。


「兄様……」


「ん?」


「この人、嫌い」


「……俺もだ」


俺は一歩前へ出た。


「じゃあ――」


俺は王を見据えた。


「全部、終わらせるか」

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