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兄様は膝が痛い痛いと言いながら意外と私のストーカーでした。  作者: ぱんだでぴょん


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〇豊かな町編 8話

翌朝。


俺たちは、町の中心へ向かっていた。


目的は一つ。


――城へ入る。


昨日、南の畑で見つけた水路。


そして、意図的に農地へ流れる水を減らしている仕掛け。


あれだけでは、まだ何も分からない。


誰がやったのか。


なぜやっているのか。


そして――


奪われた作物が、どこへ消えているのか。


それを確かめる必要がある。


「お兄ちゃん」


「何だ?」


「本当に城へ入れるの?」


「知らん」


「……」


「だから考えてる」


「昨日も同じこと言ってたよね」


「昨日より腹は減ってない」


「そういう問題じゃないよ……」


アンジェリカが苦笑する。


「ユイナ、諦めよう」


「アンジェリカまで……」


リナが笑った。


「でも、兄様なら何とかなる気がする」


「何でだ?」


「何となく」


「一番信用できない答えだな」


そんな会話をしながら歩いていると――


前方に、昨日の少年がいた。


「……あ」


ユイナが足を止める。


少年はこちらに気づくと、小さく頭を下げた。


「昨日は……ありがとう」


「もう大丈夫なの?」


ユイナが駆け寄る。


少年は頷いた。


「うん」


だが。


その顔には、まだ不安が残っていた。


「お父さんは?」


ユイナが尋ねる。


少年は俯いた。


「……まだ」


「そう……」


「でも」


少年が顔を上げる。


「お父さんが言ってた」


「何を?」


「城の倉庫に、町から集めた食べ物がいっぱいあるって」


俺は少年を見る。


「城の倉庫?」


「うん」


「見たのか?」


「見てない」


少年は首を振る。


「でも、お父さんが前に働いてた人から聞いたって」


「……なるほど」


俺は城を見る。


昨日までなら、ただの立派な城にしか見えなかった。


だが。


今は違う。


あの中に――


町から奪われたものが集められている可能性がある。


「お兄ちゃん」


ユイナが俺を見る。


「どうする?」


「行く」


「城に?」


「ああ」


ユイナの顔が明るくなる。


「じゃあ――」


「正面からは行かない」


「え?」


「昨日、兵士に見張られてたからな」


アンジェリカが頷く。


「確かに。正面から入ろうとすれば、止められるだろう」


「じゃあ、どうするの?」


リナが尋ねる。


俺は城の周囲を眺めた。


巨大な城壁。


正門。


兵士。


そして――


城の裏手へ続く細い道。


「……あそこ」


「何か見える?」


「荷車の跡がある」


地面に、いくつもの轍が残っていた。


しかも。


城の正門ではなく、裏側へ向かっている。


「昨日の荷車と同じだ」


ユイナが驚く。


「じゃあ、あそこから……」


「食料を運び込んでるんだろうな」


俺たちは人目を避けながら、裏道へ向かった。


城の裏手は、表とはまるで違っていた。


立派な城壁。


その脇に、大きな倉庫がいくつも並んでいる。


そして――


荷車。


何台もある。


「……」


ユイナが息を呑む。


荷台には。


小麦。


芋。


野菜。


果物。


昨日、畑で見たものと同じだ。


「これ……」


アンジェリカが呟く。


「町から奪われた作物だろうな」


「やっぱりか」


俺は倉庫を見る。


扉は閉まっている。


だが。


中から人の声が聞こえた。


「今日の分はこれで全部か?」


「ああ」


「王様は満足されるだろうな」


「さあな。足りなきゃ、また町から持ってくればいい」


「農民が文句を言ったら?」


「兵士に連れていかせろ」


「……」


ユイナの顔が険しくなる。


「ひどい……」


そのとき。


倉庫の扉が開いた。


「!」


俺たちはすぐに物陰へ隠れた。


男が二人出てくる。


「次は南の畑だ」


「水を止めておけ」


「そうすれば収穫も減る」


「減った分は税で取ればいい」


「足りなければ?」


「盗賊に取らせればいい」


俺は目を細めた。


――繋がった。


税。


盗賊。


水路。


作物。


全部。


「……そういうことか」


俺が呟く。


ユイナがこちらを見る。


「お兄ちゃん?」


「この町を貧しくしてるのは、偶然じゃない」


アンジェリカが小さく息を呑む。


「意図的に……」


「ああ」


そのとき。


背後から声がした。


「――何をしている」


「……!」


振り返る。


そこにいたのは。


昨日の男だった。


王の護衛。


黒い鎧。


巨大な剣。


「またお前たちか」


男が低く言う。


ユイナが前へ出た。


「この倉庫に、町の作物があるんですね?」


「答える必要はない」


「町の人たちは食べるものにも困っています!」


「王の命令だ」


「だからって――」


「黙れ」


男が一歩前へ出る。


「これ以上、王の領地を荒らすなら」


剣を抜いた。


「今度は容赦しない」


ユイナが杖を構える。


アンジェリカも。


リナも。


俺は――


一歩下がった。


「お兄ちゃん?」


リナが振り返る。


「俺はちょっと休んでる」


「ええっ!?」


「三人で何とかしろ」


「無理だよ!」


ユイナが叫ぶ。


「昨日より強そうだよ、この人!」


「そうか?」


「そうだよ!」


王の護衛が踏み込んだ。


「――来る!」


ユイナが魔法を放つ。


土の壁が立ち上がる。


だが。


男は真正面から斬り裂いた。


「そんな……!」


アンジェリカが炎を放つ。


男は剣を振る。


炎が二つに割れた。


「魔法まで……!」


リナが横から飛び込む。


「えいっ!」


男は身体をひねる。


リナの攻撃が空を切った。


「くっ……!」


三人が連携して攻撃する。


だが。


届かない。


男の動きが速すぎる。


「ユイナ!」


「分かってる!」


ユイナが地面を隆起させる。


男の足元が崩れる。


「今!」


アンジェリカが炎を叩き込む。


ドォン!


煙が倉庫前を包む。


「やった?」


リナが呟く。


しかし。


煙の中から――


男が出てきた。


傷一つない。


「……嘘」


ユイナの顔が青ざめる。


男が剣を振り上げる。


「終わりだ」


「……!」


ユイナが身構える。


アンジェリカも動けない。


リナが足を止める。


その瞬間。


――ズキッ。


俺の右膝が痛んだ。


「……」


俺は立ち上がった。


まただ。


この痛み。


何かを教えているわけじゃない。


ただ。


ここにいる誰か。


この場所。


この出来事。


何かがおかしい。


そう感じる。


俺は三人を見る。


ユイナ。


アンジェリカ。


リナ。


全員、限界だった。


「……仕方ないな」


俺は歩き出した。


「お兄ちゃん……?」


「ユイナ」


「うん……」


「少し下がってろ」


「でも……!」


「いいから」


俺は三人の前へ出た。


王の護衛が俺を見る。


「お前が出るのか」


「ああ」


「勝てると思っているのか?」


「さあな」


俺は肩を回した。


「やってみないと分からん」


男が笑う。


「愚かな」


剣が振り下ろされる。


俺は横へ避けた。


地面が砕ける。


「……」


速い。


重い。


だが。


さっき三人が戦っているのを見ていた。


動きは分かる。


次の攻撃。


横薙ぎ。


俺はしゃがむ。


剣が頭上を通り過ぎる。


「何っ!」


そのまま懐へ入る。


「遅い」


拳を叩き込む。


ドンッ!


男の身体が吹き飛ぶ。


だが。


男は地面を転がりながら立ち上がった。


「……!」


「まだやるのか?」


「当然だ!」


男が再び突っ込んでくる。


今度は俺も前へ出た。


剣。


拳。


剣。


蹴り。


互いの攻撃が何度も交差する。


倉庫の壁が砕ける。


地面がえぐれる。


町の人々が遠くから見ている。


「……」


ユイナが呟く。


「お兄ちゃん……」


アンジェリカも息を呑んでいる。


「ユイナの兄様……やはり、お強い……」


リナが目を輝かせる。


「すごい……」


俺は男の剣を腕で受け流した。


そのまま足を払う。


男が膝をつく。


「終わりだ」


俺は男の胸元を掴み――


地面へ叩きつけた。


ズドン!


静寂。


男は動かない。


俺は息を吐いた。


「……疲れた」


ユイナが駆け寄ってくる。


「お兄ちゃん!」


「何だ?」


「大丈夫?」


「俺は大丈夫だ」


「膝は?」


「ちょっと痛い」


「やっぱり……」


アンジェリカが心配そうに近づく。


「ユイナの兄様、無理をなさらないで」


「分かってる」


リナもやって来た。


「でも、お兄さん」


「何だ?」


「最後はちゃんと助けてくれるんだね」


「……」


俺は答えなかった。


その代わり。


倒れた護衛を見る。


そして。


倉庫を見る。


「さて」


俺は扉へ近づいた。


「中を見てみるか」


ユイナが頷く。


「うん!」


アンジェリカが扉を開ける。


中には――


大量の食料が積まれていた。


小麦。


芋。


野菜。


果物。


町では誰も十分に食べられないほどの量が。


まるで別世界のように。


「……」


ユイナが拳を握る。


「これ……全部」


「町から集めたものだろうな」


「こんなにあるのに……」


リナが小さく呟いた。


「みんな、お腹空かせてたのに」


俺は何も言わず。


倉庫の奥を見た。


そこには。


まだ別の扉があった。


そして。


その向こうから――


人の声が聞こえた。


「……誰かいる」


ユイナが振り返る。


俺も扉を見る。


嫌な予感がした。


俺はゆっくりと手を伸ばす。


扉を開ける。


そこには――


戻ってこなかった、農夫の姿があった。


「……!」


ユイナが息を呑む。


男は傷だらけになりながらも、生きていた。


そして。


俺たちを見ると――


小さく呟いた。


「……助けに来てくれたのか」


ユイナが駆け寄った。


「はい!」


俺はその様子を見ながら、城の奥を見た。


まだ終わっていない。


この倉庫にこれだけの証拠がある。


そして。


この町を支配している王が――


この先にいる。


俺は小さく息を吐いた。


「……行くか」


ユイナが振り返る。


「どこへ?」


俺は城の奥を指差した。


「王様のところだ」

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