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兄様は膝が痛い痛いと言いながら意外と私のストーカーでした。  作者: ぱんだでぴょん


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〇豊かな町編 4話

「……仕方ないな」


俺が呟いた、その直後だった。


「おい」


盗賊の頭が、低い声を出した。


「ガキども」


ユイナたちを見る。


「今なら見なかったことにしてやる」


「……」


「荷車も作物も、俺たちは持って帰る」


男は口元だけで笑った。


「だから、余計なことをするな」


ユイナは首を横に振った。


「嫌です」


即答だった。


盗賊の男の眉が動く。


「……何?」


「この人たちが困っているのを知っていて、見て見ぬふりなんてできません」


ユイナは一歩前へ出た。


「この作物は、この人たちが一生懸命育てたものです」


「だから?」


「返してください」


「……」


盗賊の頭は、しばらくユイナを見つめた。


そして――


笑った。


「そうか」


男はゆっくり剣を抜いた。


鞘から抜けた刃が、陽の光を反射する。


「なら、力ずくで止めてみろ」


その瞬間。


町人たちから、小さな悲鳴が上がった。


「やめて!」


「逃げて!」


「その人たちに逆らっちゃ駄目だ!」


「殺されるぞ!」


あちこちから声が飛ぶ。


ユイナが振り返った。


「大丈夫です!」


「……」


「私たちがいますから」


その言葉に、町人たちは息を呑んだ。


そんなことを言う人間を――


この町の人々は、今まで見たことがなかった。


盗賊に逆らえば殺される。


それが、この町では当たり前だった。


だから誰も逆らわない。


誰も助けない。


自分の家族を守るために、他人を見捨てるしかない。


それが、生き残るための方法だった。


なのに。


目の前の三人は――


違った。


「……」


一人の老人が、震える手で胸元を握った。


「……あの子たちは」


「どうした?」


「……怖くないのか」


誰も答えられなかった。


そのとき。


盗賊の一人が走り出した。


「死ね!」


剣を振り上げる。


「ユイナ!」


アンジェリカが叫ぶ。


ユイナはすぐに前へ出た。


「はっ!」


手をかざす。


地面から土の壁がせり上がった。


ガンッ!


剣が土壁に食い込む。


「なっ……!」


盗賊が驚いた。


その隙にリナが走る。


「えいっ!」


盗賊の足元へ飛び込み、思い切り体当たりする。


「ぐあっ!」


男がよろめいた。


ユイナが続けて魔法を放つ。


「動かないで!」


光が走り、男の腕を絡め取る。


「ぐっ……!」


盗賊の男が地面へ倒れた。


「すごい……」


誰かが呟いた。


「盗賊を……止めた」


町人たちの間に、ざわめきが広がる。


だが――


盗賊の頭は笑っていた。


「……なるほど」


倒された仲間を見ても、焦っていない。


むしろ楽しそうだった。


「魔法使いに、変な動きの女……」


リナを見る。


「それに、お前か」


ユイナを見る。


「なかなかやるじゃねえか」


「……」


ユイナが警戒する。


男は剣を肩に担いだ。


「だがな」


一歩。


踏み出す。


「俺たちを舐めるなよ」


その瞬間――


男の姿が消えた。


「えっ?」


次の瞬間。


ユイナの目の前にいた。


「ユイナ!」


アンジェリカが叫ぶ。


ギィン!


金属音が響いた。


アンジェリカが杖で剣を受け止めている。


「……っ!」


足が地面に沈む。


「アンジェリカ!」


「大丈夫だ!」


アンジェリカが歯を食いしばる。


「だが……!」


男の力が強い。


「……魔法使いにしては、いい度胸だ」


「おまえこそ……!」


アンジェリカが杖をひねる。


足元から炎が噴き上がった。


「うおっ!」


盗賊が飛び退く。


アンジェリカも距離を取る。


「ユイナ、リナ!」


「うん!」


「分かった!」


三人が再び並んだ。


今度は盗賊たちも、簡単には近づいてこない。


互いに睨み合う。


その光景を、町人たちは固唾を呑んで見ていた。


「……」


誰も逃げない。


いつもなら、争いが始まれば家の中へ逃げる。


窓を閉める。


子供を隠す。


見なかったことにする。


それが、この町で生きるための習慣だった。


けれど――


今日は違った。


みんな、見ている。


自分たちのために戦ってくれている三人を。


「……頑張れ」


誰かが、小さく呟いた。


その声に、自分でも驚いたように口を閉じる。


「……」


誰も咎めなかった。


しばらくして。


別の場所からも、声がした。


「負けるな……」


さらに一人。


「お願い……」


小さな声。


それは、少しずつ増えていった。


「頑張ってくれ」


「作物を……返してくれ」


「この人たちを……助けてくれ」


町人たちは、まだ前へ出られない。


それでも――


初めて声を出した。


盗賊の頭が、それに気づいた。


「……チッ」


笑顔が消える。


「余計なことをしやがって」


男が剣を構える。


その目が、今度はユイナたちではなく――


町人たちへ向いた。


「お前ら」


低い声。


町人たちが凍りつく。


「誰が喋っていいと言った?」


「……!」


一瞬で、声が消えた。


さっきまで聞こえていたざわめきが、嘘のようになくなる。


男が笑う。


「そうだ」


ゆっくり周囲を見る。


「黙ってろ」


その一言だけで――


町人たちは震えた。


やっぱり怖い。


目の前の男が怖い。


王様が怖い。


逆らったあとに待っているものが怖い。


だから、誰も動けない。


盗賊の頭は満足そうに笑った。


「分かったか?」


「……」


そのとき。


一人の小さな子供が、母親の服を握った。


「……お母さん」


母親が慌てて口元へ指を当てる。


「しゃべっちゃ駄目」


「でも……」


「お願い」


母親の目には涙が浮かんでいた。


「お願いだから……」


その様子を見ていたユイナが、唇を噛んだ。


「……こんなの」


声が震える。


「おかしいよ」


盗賊の頭が笑う。


「世の中なんて、そんなもんだ」


「違います」


ユイナが言い返した。


「違わない」


「違います!」


ユイナの声が、畑に響いた。


「怖いからって、誰かを傷つけていい理由にはなりません!」


盗賊の頭の顔から、完全に笑みが消えた。


「……生意気なガキだ」


剣を握り直す。


その瞬間――


俺の右膝が、強く疼いた。


「……っ」


思わず膝を押さえる。


今までとは違う。


少しだけ強い。


俺は顔を上げた。


盗賊の頭を見る。


そして――


その腰に下げられた、小さな金属製の徽章が目に入った。


古びた紋章。


見覚えがあるような。


ないような。


「……何だ、あれ」


俺は目を細めた。


膝の痛みは――


あの徽章を見たときに強くなった。


だが。


まだ分からない。


ただの偶然かもしれない。


俺はもう一度、盗賊の頭を見る。


その男は剣を構えたまま、ユイナたちを睨んでいる。


そして俺は――


まだ動かなかった。


今はまだ。


三人を信じている。


けれど。


もし、このままでは済まないのなら――


俺も出る。


そう決めていた。

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