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兄様は膝が痛い痛いと言いながら意外と私のストーカーでした。  作者: ぱんだでぴょん


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35話

 その日の朝。


「お兄ちゃん、起きて!」


 聞き慣れた声で、俺は目を覚ました。


「……眠い」


「もう朝だよ」


「まだ寝られる」


「もう!」


 ユイナに布団を引っ張られる。


 俺は仕方なく身体を起こした。


「……おはよう」


「おはよう、お兄ちゃん!」


 ユイナの隣には、リナもいた。


「兄様、おはようございます」


「……おはよう」


 俺は立ち上がり、右膝をさする。


「……痛いな」


「大丈夫ですか?」


 リナが心配そうに聞く。


「ああ」


「無理しないでくださいね」


「分かってる」


 その時だった。


 ――ドンドンドン!


 玄関を叩く音が響いた。


「誰だろう?」


 ユイナが玄関へ向かう。


「はーい!」


 扉を開ける。


 そこに立っていたのは、村の若い男だった。


「ユイナちゃん!」


「どうしたんですか?」


「森で魔物が大量に出た!」


「……!」


 ユイナの表情が変わる。


「どのくらいですか?」


「かなり多い!」


 男は息を切らしながら続ける。


「しかも、強い魔物までいるんだ!」


「村に来る可能性は?」


「分からない。でも、このまま放っておくのは危険だ!」


 ユイナが俺を見る。


「お兄ちゃん」


「聞こえてる」


 俺は短く答えた。


「森へ行くか」


「うん」


 その時――


「私も行きます」


 リナが言った。


 俺はリナを見る。


「……駄目だ」


「……」


 リナが俯く。


「でも――」


「今のリナじゃ、あの魔物と戦えない、危険だ」


「はい……」


「だから、戦わせない」


「え?」


 俺は続ける。


「後ろにいてくれ」


「後ろ……?」


「ああ」


「それなら……私にもできますか?」


「できる」


 俺は答えた。


「周りを見て、危険を知らせる」


「それから水を使う」


「水を……」


「ああ」


 今のリナができること。


 小さな水球を作る。


 少し安定させる。


 ほんの少しだけ圧縮する。


 それだけだ。


 だが、それでも使い道はある。


「無理に戦う必要はない」


「……分かりました」


 リナは頷いた。


「私、後ろから頑張ります」


「それでいい」


 ユイナも笑った。


「私たちが守るからね」


「はい!」


 * * *


 村の広場。


 アンジェリカは、すでに村人たちへ指示を出していた。


「今回の魔物は、かなり数が多い」


 杖を手にしたアンジェリカが言う。


「だから、皆は村に残って」


「俺たちも戦います!」


 一人の村人が言った。


 アンジェリカは首を横に振る。


「駄目」


「でも……」


「今の君たちが森へ入ったら、守るどころか助ける人が増える」


 村人たちは黙った。


「ここで待機して」


 アンジェリカが杖を掲げる。


「私は村の周囲に氷魔法を張る」


 そのまま俺たちを見る。


「ユイナの兄様」


「ああ」


「ユイナ」


「はい」


「それからリナも行くんだね?」


「はい」


 リナが答える。


 アンジェリカは少し考える。


「リナは絶対に前に出ない」


「分かっています」


「魔物が近づいたら、私たちから離れない」


「はい」


「危険だと思ったら、すぐ逃げる」


「分かりました」


 アンジェリカが頷く。


「それなら大丈夫」


 そして――


「行こう」


 俺たちは森へ向かった。


 * * *


 森の中。


 先頭を歩くのは俺。


 少し後ろにユイナ。


 その後ろにアンジェリカ。


 リナは最後尾だ。


「リナ」


「はい」


「大丈夫?」


 ユイナが振り返る。


「はい」


 リナは頷いた。


「ちゃんとついていけます」


「無理しないでね」


「はい」


 アンジェリカも後ろを確認する。


「水は?」


「あります」


 リナが手を見せる。


 そこには小さな水球が浮かんでいた。


「よし」


 アンジェリカが頷く。


「何かあったら、それを使って」


「はい」


 森は静かだった。


 鳥の声もない。


 風の音さえ、ほとんど聞こえない。


「……静かだな」


 俺が呟く。


「魔物が多いなら、普通はもっと騒がしいはずだけど」


 アンジェリカが周囲を見渡す。


 その時――


 ガサッ。


「来る!」


 ユイナが拳を構えた。


 茂みから魔物が飛び出してきた。


 一匹。


 二匹。


 三匹。


 さらに奥からも次々と現れる。


「多い!」


 ユイナが叫ぶ。


「リナ、下がって!」


「はい!」


 リナが木の陰へ移動する。


 魔物が一斉に襲いかかってきた。


「はぁっ!」


 ユイナが拳を振るう。


 ドンッ!


 一匹が吹き飛ぶ。


 別の魔物が横から迫る。


 ユイナは身体をひねってかわす。


「そこ!」


 拳。


 さらに蹴り。


 魔物が倒れる。


 アンジェリカも杖を振る。


「ファイヤーボール!」


 炎が飛ぶ。


 ――ドォン!


 魔物の群れが吹き飛ぶ。


「アイス・バインド!」


 地面が凍りつく。


 魔物の足が止まる。


 その隙に――


 ユイナは前へ出た。


 拳を振る。


 ドンッ!


 一匹。


 さらに一匹。


 また一匹。


「まだ来る!」


 リナが叫ぶ。


「右からです!」


「分かった!」


 ユイナが右へ移動する。


 俺はリナの近くで言った。


「助かる」


「はい!」


 リナは後方から戦況を見ていた。


 自分では戦えない。


 だからこそ――


 周囲を見る。


 危険を知らせる。


 それだけでも十分だった。


 * * *


 戦いは長く続いた。


 倒しても倒しても、魔物が現れる。


「本当に多いな」


「これだけいるなら、森の奥に巣でもあるのかも」


 アンジェリカが炎を放つ。


「一度、奥まで行って原因を探した方がいいね」


「賛成」


 ユイナが頷く。


「じゃあ進みましょう」


 俺たちは森の奥へ進んだ。


 だが――


 進むほど魔物は強くなっていった。


 巨大な狼。


 角を持った猪。


 岩のような皮膚を持つ魔物。


 その中には、黒い紋様を持つものまでいた。


「……普通じゃない」


 アンジェリカが呟く。


「誰かが魔力を与えている可能性がある」


「面倒だな」


「そればっかりだな、お前は」


 アンジェリカが苦笑する。


 その時だった。


「兄様!」


 リナの声。


「左の木の後ろです!」


 俺が振り向く。


 巨大な魔物が飛び出してきた。


 拳を叩き込む。


 ドンッ!


 魔物が吹き飛ぶ。


 だが――


「まだ動くか」


 魔物が立ち上がる。


 俺は拳を構えた。


「なら、もう一度だ」


 踏み込む。


 拳を叩き込む。


 ドォンッ!


 今度こそ魔物が倒れた。


 その時――


「……っ」


 右膝が痛んだ。


 ズキン。


「……またか」


 俺は膝をさする。


 その瞬間だった。


「リナ!」


 ユイナの声が響いた。


 俺が振り向く。


 リナの背後。


 木々の間から、別の魔物が姿を現していた。


「……!」


 リナは気づいていない。


 魔物が低く身を沈める。


 そして――


 一気に飛びかかった。


「リナ!」


 ユイナが叫ぶ。


 アンジェリカも振り返る。


「逃げて!」


 だが――


 遅い。


 リナの身体が硬直する。


「……っ!」


 魔物の爪が振り上げられた。


 俺は走り出そうとした。


 だが、距離がある。


「間に合わない――」


 その瞬間。


 リナの身体を――


 黒い光が包んだ。


 一瞬だった。


 ほんの一瞬。


 魔物の爪が――


 リナの肩へ叩き込まれる。


 ドンッ!


「……!」


 リナの身体が揺れる。


 だが――


「……あれ?」


 リナは肩を見る。


 傷がない。


 痛みもない。


「……痛くない」


 魔物の爪が弾かれている。


「え……?」


 魔物も戸惑っている。


 その隙に――


「リナ!」


 ユイナが飛び込んだ。


「危ない!」


 拳が魔物へ叩き込まれる。


 ドォン!


 魔物が吹き飛んだ。


「大丈夫!?」


「はい……」


 リナは自分の肩を見る。


「何ともありません」


 アンジェリカも駆け寄ってくる。


「本当に?」


「はい」


 アンジェリカが肩を確認する。


「傷がない……」


 ユイナが周囲を見る。


「今、黒い光が見えたよね?」


「私にも見えた」


 アンジェリカが答える。


「魔法……?」


「分からない」


 俺は周囲を見る。


 森。


 木々。


 倒れた魔物。


 誰もいない。


「……」


 だが――


 何かいる。


 そう感じた。


 * * *


 その後も魔物は襲ってきた。


 だが、俺たちは一匹ずつ倒していった。


 ユイナが前で戦う。


 アンジェリカが魔法で援護する。


 俺が強い魔物を倒す。


 そしてリナは――


「兄様、右です!」


「分かった」


「アンジェリカ、後ろ!」


「ありがとう!」


 戦況を伝える。


 時には水球を作る。


「リナ、水を少し」


「はい!」


 小さな水球が生まれる。


 アンジェリカが受け取る。


「助かる」


 火を使った場所を冷やす。


 魔物の足跡を確認する。


 土埃を落とす。


 小さな水でも、使い道はあった。


「……私も役に立ててる」


 リナが小さく呟いた。


 その顔には、少しだけ自信が戻っていた。


 そして――


「これで最後!」


 ユイナの拳が最後の魔物を吹き飛ばした。


 森が静かになる。


「……終わったな」


 俺が周囲を見る。


「うん」


 アンジェリカも頷く。


「もう気配はない」


「よかった……」


 リナが胸を撫で下ろす。


 俺は右膝をさする。


「……疲れた」


「帰ったら寝れば?」


 ユイナが笑う。


「そうする」


 その時だった。


 俺は、ふと森の奥を見る。


「……」


 何かいる。


 さっきから感じていた気配。


 まだ消えていない。


「兄様?」


「少し待ってろ」


 俺は森の奥へ歩き出した。


 木々の間。


 落ち葉。


 倒れた枝。


 そして――


 小さな足跡。


「……」


 俺は足跡を追う。


 少し先。


 木の陰に――


 黒い布が見えた。


「……そこか」


 返事はない。


 俺が近づく。


 黒いローブをまとった、小さな身体。


 こちらに背を向けている。


 ゆっくりと離れようとしていた。


「待て」


 小さな身体が――


 ビクッ!


 止まった。


 俺は、その姿を見る。


「……」


 どこかで見た。


 この黒いローブ。


 この小さな身体。


 この雰囲気。


「……どこかで見覚えがあるな」


 小さな存在が振り返る。


 フードの奥から、怯えた目が覗いた。


「……!」


 俺と目が合った瞬間。


「ヒッ!」


 小さな身体が大きく震えた。


 やっぱりだ。


 こいつは――


 俺を知っている。


 そして。


 俺を怖がっている。


 俺は一歩近づいた。


 小さな存在が後ずさる。


「逃げるな」


「……」


 さらに一歩。


 小さな存在が、また後ずさる。


「お前がリナを助けたのか?」


 返事はない。


 ただ、震えている。


 俺は手を伸ばす。


「……ちょっと顔を見せろ」


 小さな存在が身を引く。


 だが――


 俺はローブのフードを掴んだ。


「……!」


 そのまま、フードを剥ぐ。


 小さな顔。


 怯えた目。


 その顔を見た瞬間――


 俺は目を細めた。


「おまえは、たしか……」


 そして――


 その目には。


 明らかな恐怖が浮かんでいた。

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