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兄様は膝が痛い痛いと言いながら意外と私のストーカーでした。  作者: ぱんだでぴょん


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34話

朝。


「お兄ちゃん、起きて!」


「……ん」


「朝だよ」


「……まだ眠い」


「もう起きる時間!」


 ユイナの声で、俺はゆっくりと目を開けた。


 ベッドの横には、ユイナとリナが立っている。


「おはよう、兄様」


「……おはよう」


 リナが小さく笑う。


 俺は体を起こした。


 そして――


「……」


 右膝をさする。


「痛い?」


 リナが尋ねる。


「今日は大丈夫だ」


「よかった」


 ユイナも安心したように笑った。


「じゃあ、ご飯にしよう!」


「……ああ」


 俺たちはリビングへ向かった。


 朝食を食べ終えると、ユイナが立ち上がった。


「じゃあ、私は広場に行ってくるね」


「今日も村の人たちの訓練か?」


「うん」


「……頑張れ」


「お兄ちゃんも、ちゃんと休んでてね」


「分かってる」


 ユイナはリナを見る。


「リナは?」


「私はアンジェリカと魔法の練習」


「今日も?」


「うん」


 リナが頷く。


「アンジェリカは村の人たちに魔法を教えてるから、その合間に教えてくれるって」


「そうだったね」


 ユイナが笑う。


「頑張ってね!」


「うん」


 二人は玄関へ向かった。


 俺は――


「……寝るか」


 そのまま寝室へ戻った。


 面倒なことは、できるだけしたくない。


 今は、それでいい。


 ベッドに横になる。


 目を閉じる。


 村の外から、少しずつ人の声が聞こえてきた。


 今日も訓練が始まるらしい。


 俺は気にせず、そのまま眠りについた。


 ◇ ◇ ◇


 エルビス村の広場。


 今日も村人たちが集まっていた。


 その中心に立つのは、ユイナ。


「今日は二人一組になってください!」


「二人一組?」


「はい!」


 村人たちは、それぞれ相手を探す。


「今日は、相手が危険な場所から逃げる時に、どう助けるかを練習します」


 ユイナが説明する。


「無理に戦わなくてもいいんです」


「逃げることも大切です」


 村人たちは真剣に耳を傾ける。


「自分だけ助かればいい、という意味じゃありません」


 ユイナは続ける。


「でも、自分まで倒れてしまったら、助けられる人も助けられなくなります」


「なるほど……」


「だから――」


 ユイナは拳を握る。


「まず、自分が生き残ること」


 そして――


「助けられる人を助けること」


 村人たちが頷く。


 訓練が始まった。


 走る。


 避ける。


 距離を取る。


 相手を支える。


 そして、危険な場所から一緒に逃げる。


 以前よりも、村人たちの動きは少しずつ良くなっていた。


「前より動けるようになったな」


「ユイナちゃんに教えてもらったおかげだ」


「これなら、魔物が来ても少しは逃げられる」


 そんな声が聞こえる。


 まだ戦士と呼べるほどではない。


 それでも――


 村人たちは少しずつ、自分たちで生き残る力を身につけ始めていた。


 ◇ ◇ ◇


 一方。


 村の別の場所では――


「はい、そこまで!」


 アンジェリカが杖を下ろした。


 その前には、村人たちが並んでいる。


「もう一度、魔力を集めてみて」


「こうですか?」


「そう。でも、力を入れすぎないで」


「はい」


 村人の手のひらに、小さな炎が生まれる。


「いいね」


 アンジェリカが頷く。


「最初よりずっと安定してる」


「ありがとうございます!」


「次は消して」


「はい!」


 炎が消える。


「今度は氷」


 アンジェリカが杖を軽く振る。


 地面に薄い氷が広がる。


「こうやって、魔力を一点に集める」


「なるほど……」


 村人たちは真剣にアンジェリカの説明を聞いていた。


 アンジェリカは、以前から村人たちに魔法を教えていた。


 炎や氷。


 簡単な防御魔法。


 魔力を安定させる方法。


 魔法を使うための基礎。


 戦い方だけではない。


 魔法をどう使えば、自分や仲間を守れるのか。


 それを一つずつ教えている。


「魔法は、強い魔法を撃てればいいってものじゃない」


 アンジェリカが言う。


「小さな魔法でも、使い方次第で役に立つ」


「はい!」


「それを覚えておいて」


 村人たちが頷く。


 そして――


「じゃあ、少し休憩」


 アンジェリカが杖を肩に乗せる。


「次は防御魔法をやるよ」


 村人たちが水を飲んだり、息を整えたりする。


 その合間に――


「アンジェリカ」


 小さな声がした。


 リナだった。


「ああ、リナ」


 アンジェリカが振り返る。


「今日もやるか?」


「うん」


「分かった」


 アンジェリカは村人たちを見る。


「休憩が終わったら、さっきの続きだ」


「はい!」


 そしてアンジェリカは、リナと少し離れた場所へ移動した。


「今日は何からやる?」


「水」


「そうだな」


 アンジェリカは頷く。


「じゃあ、まず水を作ってみて」


「うん」


 リナは両手を前へ出す。


「水……」


 手のひらに魔力が集まる。


 ぽた。


 小さな水滴が生まれた。


 それが少しずつ集まり――


 小さな水の球になる。


「できた」


「うん」


 アンジェリカが頷く。


「前より安定してる」


「本当?」


「ああ」


 リナは嬉しそうに笑った。


「じゃあ、次」


 アンジェリカが指を一本立てる。


「少しだけ小さくしてみよう」


「小さく?」


「そう」


 リナは水の球を見る。


 両手に力を込める。


「……っ」


 水の球が、少しずつ縮んでいく。


 小さく。


 さらに小さく。


「できた……」


「いいね」


 アンジェリカが笑う。


「ちゃんと圧縮できてる」


 リナは嬉しそうに水の球を見る。


 だが――


「……?」


 水の球が、わずかに震えた。


「アンジェリカ」


「ん?」


「これ……」


 水の球が、


 ぷるっ。


 と震える。


「少し変」


 アンジェリカは目を細めた。


「……確かに」


 リナが少し力を弱める。


 すると――


 ぴちゃっ。


 小さな水滴が飛び出した。


「……!」


 リナが目を丸くする。


「今の……」


「うん……」


 リナは水の球を見る。


「圧縮すると、こうなるの?」


「まだ分からない」


 アンジェリカは答える。


「圧縮しすぎたせいで、不安定になっただけかもしれない」


「そうなんだ……」


 リナはもう一度、水の球を作る。


「もう一回やってみてもいい?」


「いいよ」


「うん」


 リナは集中する。


 水を作る。


 安定させる。


 そして――


 少しずつ圧縮する。


「……」


 ぷるっ。


「……!」


 また震えた。


 リナはじっと見つめる。


「やっぱり……」


「何か分かった?」


「ううん」


 リナは首を横に振る。


「でも……」


 水の球を見る。


「小さくすると、何か変になる」


「それは覚えておこう」


 アンジェリカは頷いた。


「魔法っていうのは、こういう小さな違いが大事だからね」


「小さな違い?」


「ああ」


 アンジェリカは水の球を見る。


「大きな魔法を使えなくても、使い方を工夫すれば、できることは増える」


「……」


 リナは、その言葉をじっと聞いていた。


「私……もっと強くなりたい」


「うん」


「みんなを助けられるようになりたい」


「その気持ちは大事だよ」


 アンジェリカは笑った。


「でも、強くなるっていうのは、魔力を増やすことだけじゃない」


「……?」


「今みたいに、できることを一つずつ見つけていく」


 リナは水の球を見る。


「……できること」


「ああ」


「じゃあ……」


 リナは小さく頷いた。


「もっと調べてみる」


「いいね」


 アンジェリカは立ち上がった。


「じゃあ、私は村人たちのところに戻る」


「うん」


「何か変化があったら教えて」


「分かった」


 アンジェリカは村人たちのところへ戻っていった。


「休憩終わり!」


「はい!」


「じゃあ、次は防御魔法」


 再び村人たちへの指導が始まる。


 その合間に。


 アンジェリカは時々リナの様子を確認した。


 リナは一人で水の球を作っている。


 作る。


 安定させる。


 圧縮する。


 そして――


 震える。


「……やっぱり」


 リナは呟いた。


 まだ、理由は分からない。


 どうすればいいのかも分からない。


 ただ――


 そこには、何かがある。


 今まで自分が使ってきた水魔法とは違う何かが。


 リナは、それを見つけようとしていた。


 ◇ ◇ ◇


 その頃。


 俺は――


 寝ていた。


「……」


 静かな部屋。


 窓から差し込む光。


 遠くから、村人たちの声が聞こえる。


 俺は寝返りを打つ。


 そして――


「……っ」


 右膝に、わずかな痛みが走った。


「……またか」


 目を開ける。


 右膝を見る。


 赤い光は――


 ほんの少しだけ。


 すぐに消えた。


「……」


 何かが起きている。


 そう感じた。


 だが――


「まあ、いいか」


 俺は再び目を閉じた。


 今は、考える気になれない。


 眠い。


 それだけだった。


 ◇ ◇ ◇


 夕方。


 ユイナとリナが帰ってきた。


「お兄ちゃん!」


「……ん?」


 俺はリビングへ出る。


「今日ね!」


 ユイナが嬉しそうに話し始める。


「村の人たち、前よりずっと動けるようになったよ!」


「そうか」


「うん!」


 リナも隣で頷く。


「私も……少しできるようになった」


「何が?」


「水」


 リナは両手を前へ出す。


 小さな水の球が生まれる。


「おお」


 ユイナが目を輝かせる。


「昨日より綺麗!」


「うん」


 リナは少し得意そうだ。


 そして――


 水の球を、少しだけ圧縮する。


「……こう」


 水の球が少し小さくなる。


 俺は黙って見ていた。


「……前より安定してるな」


「分かる?」


「ああ」


「でも……」


 リナは水の球を見る。


「ちょっと変なんだ」


「変?」


「小さくすると、震える」


 リナが少し力を込める。


 ぷるっ。


 水の球が震えた。


 そして――


 ぴちゃっ。


 小さな水滴が飛び出した。


「……!」


 ユイナが驚く。


「今、飛んだよ!」


「うん」


 リナは頷く。


「でも、わざとじゃない」


「分かってる」


 俺は水の球を見る。


「まだ、うまく扱えないってことだろ」


「そう」


 リナが頷く。


「でも……」


「ん?」


「もう少し調べたい」


「そうか」


 俺は少し考える。


「無理はするなよ」


「うん」


「できないことを無理にやる必要はない」


「分かった」


 リナは水の球を消した。


「でも、いつか……」


「いつか?」


「私も、兄様を助けられるくらいになりたい」


「……」


 俺は少し黙った。


「その時になったら、頼む」


「……うん!」


 リナが嬉しそうに笑う。


 ユイナも笑った。


「リナならできるよ!」


「本当?」


「うん!」


 俺は二人を見る。


 こういう時間も――


 悪くない。


 ◇ ◇ ◇


 夜。


 三人で夕食を食べる。


「今日は疲れたね」


 ユイナが言う。


「……そうか?」


「お兄ちゃんは寝てただけでしょ」


「疲れた」


「寝てただけなのに?」


「寝るのも疲れる」


「もう……」


 ユイナが笑う。


 リナも笑った。


 その笑い声を聞きながら――


 俺は思った。


 リナの水魔法。


 あの震え。


 あの小さな水滴。


 まだ、何なのかは分からない。


 けれど――


 何かが始まっている気がする。


 大きな力じゃない。


 派手な魔法でもない。


 ほんの小さな違和感。


 でも――


 それがいつか。


 リナ自身の力になるのかもしれない。


「……明日も寝るか」


「また?」


「ああ」


「訓練は?」


「任せた」


「お兄ちゃんって、本当に……」


 ユイナが呆れたように笑う。


 リナも笑った。


 そして――


 静かな夜が過ぎていく。


 まだ誰も知らない。


 この小さな水の違和感が――


 いつか、リナの弱い力を大きく変えるきっかけになることを。

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