No.9 主人公が学園で最初に遭遇するのは美女とは限らない
※すいません。突然ながら学園モード突入です。
「何でこうなったんだろ…」
時は5月上旬、鏡に映る自らの真新しい学生服姿を見ながら憂鬱になる僕がいた。
僕は親の脛をかじりつつ引きこもり紛いの人生を送る覚悟を決めようとしていた。しかし一昨日から全てが急変してしまった。
双子の姉が現れ異世界の存在と勇者である母さんの存在を知った。父さんは何故か異世界へ行き、貰った大金は家と共に燃え去った(やはり放火だったらしいが犯人はまだ捕まっていない)。
そんなこんなで父さんの知り合い(?)の二郎さんに保護してもらう事となった訳だ。
ここまでは百歩譲らずとも受け入れられた。しかしその後が問題だった。
* * * * *
二郎「笑子様は学校へ通われるご意志はありますか?」
笑子「二郎はどう思うの?」
二郎「日本での生活に早く馴染むためにも通われる事をお勧めします。ご学友も出来るでしょうし」
笑子「ご学友……私、学校行くっ」
二郎「ショウ様はど――」
笑子「ショウも行くわよ、弟でしょ!」
ショウ「いや、双子でしょ!?」
* * * * *
それまでの膨れっ面は何処へやら、夕食でハンバーグを食べ上機嫌となった笑子の独断により僕まで高校生となるハメとなった。
「僕の意見も聞いて欲しかった…」
改めて鏡を見た。見事にネクタイの結び目が四角形になっている。通うこととなった高校はブレザーである。残念ながらお世辞にも僕は器用では言えない。ネクタイの結び方など一回教わった位で出来るはずがない。
「ショウー、どうよ!?」
唐突に笑子が部屋に入って来てスカートの端を摘まみながら制服姿を見せびらかして来る。ちゃっかりとネクタイが綺麗な逆三角形に結ばれてるのが気に食わない。
「入る時はノックして下さい」
「別にいいでしょ、弟なんだしさ」
「姉なら全て許されるとでも思ってるんですか」
このやり取りが昨日から既に数十回は行われているはずだ。昨日制服が二郎さんの使いと言うに届けられてから笑子のテンションが常時高い。
余程学校が楽しみなのだろう。きっと本人の想像通り楽しいはずだ。
友達ができれば、ですけどね。
考えてみればもう5月だ。クラスの中でもグループができ始めている時期だ。そんな時期での入学だ。転校ではなく入学、ちょっと所でなく怪しい子である。どこぞの団長でもいない限りは浮きまくりの未来しか想像出来ない。
「ねぇ、まだ行かないの?」
「まだ6時ですよ」
今日からいよいよ高校生活が始まるからか、朝から彼女のテンションは最高潮だ。大体何でこんな朝早くから笑子は制服着てるんだか。どれだけ楽しみなんだよ。
いや、僕も制服着ているけど断じて久し振りの学校で心が弾んでいる訳ではない。早く目が覚めたので試しに着てみただけである。断じて高校生活に期待を抱いていない。
「鏡見てニヤニヤするの辞めたら」
「え?」
「1時間前もそうやってニヤニヤしてたよ」
もう一度確認する。断じて楽しみで寝付けなかった訳では無い。
「そろそろ行きましょうか」
「はーい」
素直な返事が返って来て気持ち悪い。
「何か言った?」
「別に何も」
事前にあった二郎さんから連絡で8時に学校に来る様に言われている。今は7時半なので丁度よく着くだろう。
僕と笑子は学生鞄を持ち外へ出て僕が鍵を閉めた。
この二郎さんが用意してくれたマンションの5階にある3DKの一室が新しい根城となった。昨日ここに初めて入った時は完璧なまでに家具が揃っていて驚いた。だが、押し入れの隅に「いざと言う時にお使い下さい」と違法と言っても過言ではない物が詰まった段ボールだけは見なかった事にした。
外はまだ春の陽気に包まれた清々しい天気だ。
大通りに出で僕達と同じ制服を来た学生を見つけ、それに習い学校を目指した。
ここは「ジロタウン」。日本海に浮かぶ東京都ほどのサイズの島である。5年前ジロウカンパニーが島に町を造った。島と言っても最先端の技術が盛り込まれており、大都市のそれと同じ様に機能している。また、農産や畜産も行われている。レジャー施設も整っている。一応ここは日本ではあるが、明日からでも独立国家としてやって行けるレベルだ。
そのためか本島から移り住みたいと言う人も多くいる。
僕自身憧れはあったが、この様な形で住む事になるとは思ってもいなかった。二郎さんの権力様様だ。
因みにこの島はジロウカンパニーの所有物であり、延いてはこの大通りに並ぶカフェも本屋も全てが二郎さんの所有物になる。
知ってはいたが体感すると会社の規格外な大きさに驚かされる。そのトップに土下座させる父さんって……
赤い髪を靡かせる笑子が隣にいるために物凄く目立つ。
僕は目立ちたくない。大人しく暮らし、あわよくば友達を作り細々と生きて行きたい。
何はともあれ学校に着いた。一般の高校を余り知らないが明らかに広い部類に入るであろう。
そして校門を抜けようとした時だ。
「おい、その髪は何だっ」
そこには強面で筋肉ムキムキのジャージと竹刀を装備した生活指導(多分)の先生がいた。
うん、行きなり目を付けられてしまった。笑子が――
「そのキノコ頭だ。人を馬鹿にしているのかっ」
「え、僕!?」
「校則で人を不快にさせる髪型は禁止されているはずだ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下しゃい」
この髪型校則違反なの。可笑しいだろ、絶対。
「あ、あの、これは、いいんですか」
笑子の髪を指差した。
教師の目が真っ赤な髪へと向けられた。
「地毛か?」
「そうよ」
「ならいい」
「いいんですかっ!?」
差別だ。これは差別だ。僕の髪型は剃りこみを入れるでもなしに、ちょっと…ちょっともっさりしているだけだ。
「お前何組だ?」
教師の目が威圧してくる。過去の修業でその程度では気後れなどしないけど気持ちのいいものではない。
「いや、僕は、今日か――」
「邪魔なんだけど」
僕の言葉が遮られた。最近、こればかりだ。
振り返ると…
「――!?」
僕はその威圧感に思わず後退りしてしまった。僕はこれでも常人以上の精神力には自信がある。だからこそ笑子と喧嘩した時も冷静に動けた。その僕が恐怖したなんて…
そこには同じ制服に袖を通した女がいた。彼女は目線がやや僕より高いので身長は180cm位だ。いや、それより目が先に行くのは彼女の緑色の髪、それと三頭身である事だ。勿論実際に測れば三頭身ではないがそうと言っても何ら違和感を覚えない体型と顔の大きさをしていた。胸は巨乳と言えるがそれ以上に腹が大きい。スカートから覗く色白の足は僕の倍はありそうな位太い。
俗に言うデブだ。
「み、緑野、髪を黒に戻せと言ったろ」
教師のターゲットが緑野と呼ばれる彼女に移る。
教師も内心ビビってるのか声が少し震えている。
緑野の何に威圧されるかと言うとその巨体もそうだが、比較にならないくらい目の存在が大きい。
彼女の目は鋭い。そこから発せられるのは殺気とかを通り越して「無」だ。「無」を感じさせる連中は皆危険人物だと父さんに教わってきた。何もないと言うオーラを素で出している奴ほど怖いものはない。
それが彼女だ。
「地毛だし」
緑野から低音のドスの効いた声がした。声こそ女子だと分かるが、普通の女子はそんな威嚇する様に喋らない。
「入学時は黒だったろっ」
一応に真っ赤な髪の笑子が許されたのは地毛だからみたいだ。まあ、あんな真緑の髪色などあり得ない。理由はどうあれ染めたのであろう。
「……煩い」
「いくらお前の父親が――うおっ!?」
教師が素っ頓狂な声をあげた。
僕は端から見たら凄く呆けた顔をしている事だろう。多分周りの登校中の学生も同じはずだが。それほど信じられない光景が目の前にあった。
緑野が教師に近づいたかと思うと逆さにして垂直に持ち上げたのだ。教師は高身長でムキムキだ。80kg以上は悠にある。その男が足を空中でばたつかせているにも関わらず、彼女は眉ひとつ動かさない。微動だにしない。
「や、やめてくれぇえ!」
教師の叫び声が響く中、緑野が動いた。
空中に担いだ教師を地面に背中から叩き付けたのだ。しかも、叩き付ける際自分の体を上に乗せて彼女の体重分威力が増している。緑野の体重はみる限りでは100kg近く、もしかしたらそれ以上かもしれない。
「今のってブレーンバスターって奴か」
「ああ、多分な」
後ろの方から男子生徒の声がする。
「それは違うのだよっ」
「誰だよ、お前」
「今のはジャックハマーだ。見ていただろ、あんな美しい放物線を描けるのはブレーンバスターではないのだよ。うわあっはっはっはっは」
「いや、だから誰?」
成る程、後ろの男子の話を聞くにあれはジャックハマーと言う技らしい。名前的にはプロレス技だろうか。
教師は奇声を発しつつも痙攣し泡を噴いて伸びた。
大丈夫なかな。
と言うかマットの上ならまだしも土とは言え地面でする技ではない。
僕の中で緑野はクレイジーで頭イッちゃってる認定となっていた。どう考えても正しい判断だと自分でも思う。
目立たないためにもあれには関わらないのが一番だ。
今度は別の男子生徒の声が耳に入った。
「流石は女帝、エグい事するな」
「しっ、聞こえたら殺られるぞ」
「おっと、悪い。でも、1年生にして女子ながら学園最強と言われてるし入学そうそう問題行動で謹慎をくらい、それが明けたのが今日にも関わらず問題を起こすなんて流石だろ。彼女のお陰でプロレス最強説が浮かび上がってきた位だからな」
「……何故に説明しちゃってるの?」
「ふふ、神のお導きだ」
「……」
少し中二病染みた人だが、有り難いな。お陰で緑野が本当に危険人物と言う事が分かった。
だから、僕としてはこのまま職員室に向かいたかった。はっきり言いたい「僕としては」だ。だけど僕はすっかり隣にも問題児予備軍がいることを忘れていた。
「ちょっと待ちなさいよ、デブ」
笑子が立ち去ろうとする緑野の呼び止めた。そこははっきり言わなくてもいいと思う。
周りがどよめいた。
デブ、もとい緑野がゆっくりと振り返った。
目が怖いよっ。今度は殺気臭がプンプンしている。女子にデブは無いだろ。デブはっ。
「あんたも…煩いよ」
笑子、謝るなら今しかないぞ。
緑野は殺る気満々の様だ。ゆっくりと近いて来る。それだけでも威圧されてしまう。
この感覚は時々父さんからも感じた。絶対的な力の差。多分緑野は僕より強い。
笑子には魔法があるとは言え、お互いに怪我をせずに済みそうもない。
「プロレスが最強ですって?」
笑子は何時もにも増して力強く宣言した。
それ言ったのは野次馬の生徒であった彼女ではない。
「最強は剛笑拳よっ」
ん?
「ごうしょうけん?なにそれ」
「このキノコ頭が使う武術よ」
嫌な予感が…
「貴女ごときに負けないんだから」
「ちょ、何勝手に言ってるんですか」
「ああ、剛笑拳ね」
緑野の視線が僕に注がれる。
「…手合わせしたかった」
緑野は腰を落としてタックルの構えの様な体勢をとった。
「ショウ、実力の差を教えて上げなさい」
どや顔で笑子は緑野を指差す。
………ひとつ、ひとつだけ言いたい。
「何でこうなったんだろ……」




