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No.10 剛笑拳で異種格闘技戦をしたならどうなるのか

※危険人物がちらほらいる学園ですが至って平和です。






「ショウ、殺っちゃいなさい」

 笑子の物騒な声援がグランドに響く。


 ジャージの生活指導の先生(多分)が伸びる中、周りは野次馬の生徒達でごった返していた。


 早く教師が止めに来てくれないものか。


「殺るなら早くしろー」

「殺れー」

「ぶっ殺せ」

「見物料は100円だよー」

「早く始めろー」

 周囲からの野次が煩く飛び交う。


 おい、この学校にはクレイジーな人しかいないのか!?

 と言うか、何勝手に見物料とってるんだ!?


「さあ…来なよ」

 と言ってる攻撃体勢の緑野。


 可笑しい。

 何かが可笑しい。













 そうだ!

 これは夢だ。この3日間の事はきっと夢だ。

「ショウ、早く!」

 だってよく考えれば異世界だの女神の加護だの、世の中にあるはずが無い。

 そんな加護なんて言うのがあるなら、僕はもっと上手く生きて来ること出来たはずだ。何故にそうならなかったのか。加護なんて存在しなかったからだ。

「ねぇ、聞いてるの?」

 大体双子の姉が現れるなんて突拍子もなさ過ぎる。

 そうか、僕のぼっちの存在意識の何処かに姉萌えの精神があったのかもしれないな。

「もしもーし」

 よし、こうなったら簡単だ。起きよう。起きて笑子なんていないリビングへと行き父さんと朝飯を食べてまた寝るんだ。ああ、自由に寝られるニート最高――












「無視するなぁああああ!!!」

 尻に衝撃が走り前へ数歩前進してしまった。


 後ろから笑子に蹴られ現実に引き戻された様だ。出来ればずっと現実逃避してたかった。



「へぇ…殺る気あるだ」

 緑野の無表情で言う。どうやら僕が前へ足を運んだ事を言っているらしい。ってかこの人、今何を見てたんですか。どう見ても笑子に蹴られただけだ。


 そもそも、初対面の人間と殺り合おうと言う考えが可笑しい。一体どんな思考回路してるんだか。

 まあ、それは周りの連中にも言えるけど…



「来ないなら…行くよ」

 そう言うや否や緑野が僕の距離を詰めて来た。


「――っつ」


 行きなりグーパンが顔面に飛んできたがギリギリで無理矢理体を捻って避ける事が出来た。


 驚かされたのは緑野のスピードだ。

 デブの見た目で油断していたつもりはないが、予想以上だった。緑野の僕は6m程だった。それを彼女は2歩で縮めた。1歩の距離が短距離のトップアスリート並と言う計算になる。その上で彼女はほぼ完璧な体勢を作り上げパンチをしてきた。多分大幹が相当強いから出来るのだろう。

 後、単純にあの巨体をスムーズに動かす筋肉が凄い。



 僕はそのまま前に倒れ込んだ。勿論狙いは脇腹だ。体幹が強い?なら使用不能にするまでだ。


「こちょちょちょっ!!!」


 僕の両手が緑野に伸びる。


 剛笑拳は初見の相手には異常に強い。何故なら独特な技による理由が大きい。擽って相手を無力化する。もしくはある程度の力の入る体勢で相手に触れる事さえ出来れば関節外しが出来る。それを知らない相手ならどうしても喰らった後に何が起きたのか分からず隙が生まれる。そこを叩くのだ。

 それは中途半端に修業した僕にも言える。


 だから僕はこの擽ろうと言う行為が完全に緑野の隙を突く事が出来たと確信した。一般的にこの体勢で敵側に倒れれば逃げ場が無くなるために普通はしない。


 だが、油断を突いたつもりの僕が遥かに油断していたのかもしれない。



「うぐっ!?」



 後少しで手が緑野に届きそ時胸に鋭い痛みを感じ、逆に後ろに飛ばされてしまった。

 一瞬の間を置いて、こちょこちょの舞をする寸前に緑野の膝が僕の胸にめり込んだ事を理解した。確かに僕は両手を突き出してたので無防備だった。しかし、そこをあの一瞬で把握出来るものなのか?


「………立ちな」


 倒れた僕を見下ろす緑野の目はまるで失望の眼差しをしている。何でそんな目をするんだか。何度でも僕は言いたい、初対面なのにその態度は何なんだ!?


 とは言え、どうしたものか。

 実の所僕は剛笑拳の技をこちょこちょの舞しか使えない。それもこれも中学から本格的に始まる技の修業を前に、入学式の日の事件が起こって、辞めてしまったからだ。


 父さんの達人の域に達すれば、壺を押すだけで無力化させる事も可能だけど、今の僕には無理だ。


 更に言えばこちょこちょの舞は相手の感度にもよるが少なくとも2秒は擽らなければならない。2秒と言うと一瞬の様に聞こえるが、戦闘中である事を考えればけしてそれは短く無い。



 まあ、こうして倒れていても拉致が明かないので立つとしようか。


「早く立てよ、コラァ」

「殺っちまえっ」

「寝技だー」

「てめぇ、金払ってないだろ!」

「押し潰せー」


 相変わらず野次が煩い。

 この人達はよっぽど普段娯楽がないのであろうか。それなら少しは同情しなくも無い。それより見物料の取り立ては辞めろてくれ。こんな所で金を巻き上げてたら僕もグルと思われ兼ねない。


「擽るしか脳にないだから、早く擽りなさいよっ」

「分かってますよ」


 笑子からの叱咤激励(?)に投げ遣りに返事をしつつ僕は立った――


「いたっ」


 胸に痛みが走り方膝をついてしまった。正確に言うと骨、肋骨の辺りだ。

 確かに先程、緑野から膝蹴りを胸部に喰らったがここまで致命的な攻撃ではなかった。ではこの痛みは何なんだ!?




 ………………………あ、笑子と喧嘩した時だ。


 あの時笑子に蹴られ、肋骨が折れた感覚がした。しかし、その後は特に痛みもしなかったので気のせいだったと放置していた。理屈は分からないが、あれは気のせいでなくて緑野の膝蹴りによって痛みが振り返したみたいだ。





 だけど、それが僕を助ける事となった。


 頭の上を緑野の腕が通り過ぎた。

 周りからは「おしぃ」と声が洩れる。


 どうやら痛みで体勢を崩す事で運良くラリアットを回避出来た様だ。しかしそれも僕の油断、勘違いだった。回避出来てなどいなかったのだ。


 緑野は僕のピッタリ真後ろで立ち止まった。本来ラリアットを当てるつもりで加速を付けていたなら不可能な事だ。つまり彼女はラリアットは最初からブラフで、目的は多分僕の後ろを取る事――


「煩い口…塞ぐよ」

「あ、あぐぐ」


 後ろから行きなり髪を掴まれた。そして彼女の方に向けさせられる。彼女は同時に僕に背中を見せながら僕の頭を肩に乗せ、思いっきり首を絞めた。動きには一切のの無駄がない。


 確かにこの距離ならこちょこちょの舞の射程範囲ではあるが、既に酸素が足らず力が入らない。

 それと「煩い口」と言う彼女の僕の口に対する評価につっこみを入れたいがそんな余裕は無い。


 急いで対策を考えるがそれは次の瞬間、儚くも無意味な事となった。


 緑野がジャンプしたのだ。彼女は仰向けのまま地面へ倒れて行く。勿論、その腕で絞められる僕の体も引っ張られ、前のめりに倒れて行く。そのまま僕の顔面は地面に叩きつけられた。



「何だよ、今の!?」

「わ、分かんねぇよ」

「あれはダイヤモンドカッター。あの技のキレはプロにも負けず劣らずだな、素晴らしい!ふわあっはははは」

「お前まだいたの?」

「!!?」


「ショウぉおおお!!」









 野次馬の男子生徒や笑子の声を最後に、僕の意識は遠退いていった。

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