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No.11 保健室は出会いで満ち溢れているか

前回のあらすじ


異世界から来た双子の姉とショウは共同生活をスタートするも初日の学校で、プロレス技を前にあっさり撃沈す。

 ここは何処だ?


 周りには何もない不思議な空間に僕は漂っていた。


 そうか、あの時緑野にダイヤモンドカッターとか言う技をかけられて意識を失ったんだ。

 もしかして、死んだのか。


「剛笑拳は最強って言う割りには情けないものね」


 いつの間にか笑子が目の前にいた。出会った時の赤い浴衣を着ている。

 因みに僕は一言も最強だとは言った覚えなど無い。


「それでも俺の息子か!?」


 あれ、何で父さんがいるんだ。


「ショウ様、情けないとはお思いになられないのですか」


 父さんの隣には二郎さんもいた。


「見損なった」

「恥ずかしく無いのか」

「もっと頑張れたのでは?」

「今まで何をしてきたんだ」

「油断なんて言い訳ね」

「腹でも斬って詫びてはいかがでしょう」


 3人が口々に声を漏らす。


「煩い煩い煩い煩いっ」


 分かってるよ、そんなことは。

 確かに剛笑拳は最強で誰にも負けないって思ってた。今、そんな自分が堪らなく情けない。修業を途中で投げ出した僕が油断?恥ずかしいに決まってる。父さんなら父さんならきっと鮮やかに勝利の二文字を輝かせたはずだ。

 なのに僕は、僕は……


「あんたが…煩いよ」


 気付くとそこにいたのは緑野だけだった。


「負け犬は…失せな」


 緑野は僕は逆さまにして高らかに持ち上げた。あの教師を殺ったジャックハマーの体勢だ。


「や、止めてくれ、僕には、まだや、やる事が」


 ………やる事何てあったかな?


 そして僕の体は背中から地面へと急降下した。













「うわぁああああ!!?」

 僕は目覚めた。白い天井が目の前に広がっている。何処かのベットで眠っていた様だ。


 夢を見ていたらしい。妙にリアルな夢で最悪の目覚めだ。



 ――すぅ すぅ



 目を閉じて自身の体へ意識を向ける。

 驚くべき事に痛みは特に無い。だが、あの時確かに顔面に激しい痛みが走ったはずだ。でなければ気絶などする訳も無い。もしかしたらこれが僕の「女神の加護」なのだろうか。

 昨日、コンビニ弁当を食べながら笑子に加護についで聞いた。


 加護を貰った者は身体能力と魔力の上昇、言語翻訳の能力が共通に手に入る。それとは別に多種多様の加護の中からひとつ個別の能力が与えられるらしい。因みに笑子の様に複数の個別の加護を持つ事は稀だと本人にどや顔で語られた。


 ならば気になるのは僕の加護が何かと言う事だ。

 それについても聞くと、「鑑定」なる加護を持つ人、もしくは白魔法に長けた人に観て貰わないと分からないと返された。笑子はその白魔法は使えないそうだ。使えない。



 ――すぅ すぅ すぅ



 つまり僕の加護は分からないままである。

 別段、この現代日本で今から魔王退治をする訳でも無いので能力が分からなくとも困る事は無いのだが。


 しかしこのままでは胸にモヤモヤが残ると言うもとだ。


 ――すぅ


 それはさておきだ。

 仰向けに寝ている僕の横で寝息が聞こえる。耳に生暖かい吐息が当たってゾクゾク気持ちいい。

 まあ、誰かが同じ布団で寝ている事は確かの様だ。







 テッテテーン

 第一回ショウさんクイーズ!!


 では、問題です。

 ショウと添い寝しているのは誰でしょう?


 A,笑子

 B,何処ぞの美女

 C,緑野

 D,何処ぞのお姉様



 これは難しいな。Cはサイズ的にベットに収まらないだろうから除外だ。手堅く狙うならAではないか。しかし「もしも」と言う事もあるのではないか。希望としては……もとい、可能性としてはBとDもある。


 うん、正解はDだ。

 いや断じて僕の趣味ではない。でもやっぱりあれだろ。やっぱりどうせならお姉様がいいだろ?実際の姉は勘弁だけど……


『ファイナルアンサー?』

 何処からともなく神の声が響く。

 迷いはない。



「ファイナルアンサァアア!!!」


 勢いよく僕は首を寝息の元へと向けた。





 ……………ああ、実は知ってたよ。

 現実は甘くない事ぐらい。


 横にはおっさんが寝てた。ただのおっさんではない。緑野に正門で叩きのめされた生徒指導の先生(多分)だ。


 不思議なもので、気持ちいいと感じた吐息は夢の彼方へと吹き飛んでいった。

 それにしても顔が近い。まあまあ整った顔をしたこの中年の先生との距離は僅か20cmぐらいだ。少しでも動いたら唇が重なってしまいそうだ。


「って、どんな状況ですかっ!!」


 上半身を起こすとガバッと布団が捲れた。


「………」


 何でこの先生は裸何だか、因みに僕も産まれたままの格好だ。なかなか良い筋肉してるな。

 ヤバイな、頭が付いて来なくなってきた。


 そしてそれは起こった。


「失礼しま……きゃあああああ!!?」

 扉がガラッと開いたかと思うと今日から通う事となるジロ学園の制服に身を包んだ女子生徒が入って来た。目と目が合う。彼女の目に飛び込んだのは同じベットで裸でいるおっさんと僕。そして直ぐ様悲鳴と共に走り去って行った。


 激しく誤解を招いた気がする。僕はこの学園で安息の日々を送る事は出来るのであろうか。



「あらら、勘違いされちゃったなの」

 何処からか聞き慣れない女性の声が硬直して動けない僕に話し掛けて来た。

「えっと…」

「こっちなの」


 隣のベットと仕切りとなっていたカーテンが開いた。

 現れたのは青く長い髪をツインテールにまとめた幼女だった。小学生ぐらいだろう。地面に引きずるほど大きめの白衣を纏った彼女は日本人離れした顔で、まるで「可愛い」を具現化したかの如くだった。


「ディアの名前はディア、ジロ学園の保健医なの」


 そう言いながらディアは僕の手首を掴んだ。

「脈も正常、元気になって良かったなの」

 ニカッとディアは笑顔を浮かべる。その笑顔は正に全ての者に癒しを与える天使の微笑みエンジェルスマイル

 しかし僕はロリコンなどでは無い。あくまで僕は年上一筋……いや、今は関係無い。


「あ、あの、小学生じゃないの?」

「むっ」

 ディアは心外だと言わんばかりの表情を作る。

「ディアは永遠の12歳だけど立派な大人なの」

 エッヘンと無い胸を張る幼女。


 僕はこの数日で素晴らしい技を手に入れていた。

「な、何で僕ら服着てないのかな?」

 秘技、ついていけない話は無視する。

「ディアはここの保健医、先生なの。敬語を使えなの」

 何ひとつ威厳は感じられないもののディアは心なしか口調を強めた。

「えっと、何で服着てないんですか?」

 それでいいなのと頷きながら飛んでもない事を口にした。

「ただの嫌がらせなの」

「は!?」


 聞き違いかもしれない。


「何で服を――」

「嫌がらせなの、てへっ」


 可愛い顔して何言ってるの、この子は。


「あ、あの」

「何度も聞くななの、と言うか死ねなの」ニカッ


 怖い。凄く怖いんですけど。完璧たる笑顔を一切崩す事なくディアが言ってのける。

「情けない顔なの」

 そう言うなら僕は自分で思ってるよりよっぽど情けない顔だったのだろう。だって、果てしなく意味不明だしさ。

「まあいいなの、学園長呼んで来るの」

 そう言うとディア白衣を引きずりながら部屋を後にした。



 僕は開けっ放しとなった扉をただただ見つめる事しか出来なかった。彼女はそもそもに本当に保健医なのか。だとしてもこの学園はあんな変人しかいないのかもしれない。

 無理を言ってでも地元の高校にすれば良かったのかもしれない。それ以前に今更学校へ通っても勉強に付いていけるはずもない。


 二郎さん曰く、このジロ学園は学年のクラスとは別に、学習クラスと言うものにも別れる。なので学力は余り関係なく、意欲が大事との事だ。

 その意欲が無いから問題なのだが……



 …………現実逃避していいかな?


 周りで起こる全てが僕にとっては許容外になりつつある。いや既になっている。



「はあ、忘れたいけど無理ですよね」

 溜め息混じに声を出してしまった。隣に一人いることを忘れて、いや意識的に忘れていた。

「……俺は、君と忘れられない事をしてしまったのか?」

 震える野太い声が近くからした。

 見ると裸体の先生は目を見開き僕を見ていた。本人にも今の状況が理解出来ないと言う顔をしている。当たり前だけど。

「あ、あの――」

 僕が話すよりも早く先生はベットから出ると床で土下座をした。

「すまなかった!この通りだっ!」

 部屋中に声が響き渡る。

「実は何も覚えていないんだ、本当に申し訳ない!緑野に叩きつけられてからの記憶が無いんだ。いや、言い訳はよそう。どんな罰でも喜んで受けよう。一生徒に忘れる事は無理だと言わせてしまうなんて、俺の一生の恥だ!」

「べ、別に何もなかっ――」

「思い出したくないかもしれないが、どうか俺にけじめを付けさせてほしい。自分勝手なのは分かってるが、教師としての覚悟の問題なんだ」


 最初は僕の頭にいちゃもん付けて来るめんどくさい人だと思ってた。けど凄くいい人で、教師の鑑の様な人だった。この真剣差を見れば、一目瞭然だ。尊敬してしまう位だ。

 全裸土下座してなかったらの話だが。


「な、何も無かったんですよ」

「俺を庇わなくてもいい。それにこう言う事を隠すべきではない。後々精神的に苦痛を感じるのは君だ。」


 だから何も無かったって!


 そこで先生は立ち上がり真剣な目を僕に向ける。

「カウンセリングを受けるなら早い方がいい。そうだ、ディア先生はカウンセラーとしても腕利きだと聞くから頼んでみよう」


 そのディア先生によってこんな事になっている様なんですけど…

 彼女にカウンセリング何て出来る気がしない。少ししか話していないけど、精神が落ち着く処か荒れた気がする。



「あの、お願いがあります」

 前を隠してもらいたい……

 全裸のおっさん、誰得だよ?


「も、勿論だ。君が望むのなら全て受け入れる覚悟だ」

 先生の声が上擦っている。

「しかし、こんな状況で言えたことではないのだが俺は教師で、君は生徒だ」

「……はい?」


 いやいや待ってくれ!

 確かに視線は先生の股関へ行っていたが他意はない。誤解だ。僕はノーマルだ。


「しかし、俺にそこまでの好意を抱いてくれるとは」

 先生は頬を赤めてそっぽを向いた。何で満更でもない顔をしているんだ!?

「し、式はあげるのか?」ぽっ


「ぽっ」だって、乙女だなぁ。って

「可愛く無いからっ!!」

 本当に誰得何だよ?

「え、そっち系を望むのか」

「そ、そっちて、どっち何ですか!」


 もうやだ、僕お家に帰るっ


 幼児化したくもなる。

 それに叫んでたら息が切れてきた。体力と言うか精神にガッツリとダメージを喰らっている。

 誰かこの人止めて。



 と、その時である。

「ショウ様、そろそろ宜しいでしょうか」


 あれ、いつの間にか二郎さんがいた。今日もビシッとスーツで決めている。横にはディア先生と笑子がいる。その後ろでは制服を着た学生達が蠢いてきゃーきゃー騒いでいる。

 ディア先生は「これはどういう事なの?」と神妙な顔をしつつも、右手でこっそりガッツポーズを作っている。笑子には汚物を見るか様な視線を向けらる。



 二郎さん達に気がついた全裸の先生(僕もこの人も余程動揺していたんだろう、全く周りが見えてなかった)は直ぐ様二郎さんに華麗な動きで土下座をした。

 まさか土下座慣れしてる!?


「学園長、申し訳ありません。全て見た通りです」



 ………少し黙っててくれない?全く見た通りじゃ無いから。二郎さんも何頷いちゃってるの?




 どうやら僕に平穏な学園生活はやって来ない様だ。



※主人公はノーマルです。




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