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No.12 途中入学してくる子が異世界人だったらどうするべきか

※この物語には一部異常な短気さん達がいますが、今日はぐっと堪えます。




「ここが5組の教室になります」

 前を歩く僕らの担任になる土谷つちや先生が振り返って言う。彼はそろそろ定年らしく見た目も年相応である。その物腰はとても柔らかく、どんな変人が担任になるのかと心配していた僕としては当たりを引いた様だ。


 ジロ学園では月曜日の6限目はLHRと言う事で、その時間を使って僕らを紹介すると説明された。


 隣にいる笑子はここまでの道中は見るもの全てが見新しいのか目を輝かせていた。勿論そこには友達と過ごす学園生活への期待が溢れているのであろう。


 対して僕は既にぼっちになる未来しか想像出来ないでいた。

 生活指導の先生だと思っていたあの人は数学教員で生活指導担当ではないと二郎さんが言っていた。朝、校門に立って生活指導するのは趣味らしい。その事実はこの学園への不安に拍車をかけた。


 それに加えての保健室での全裸事件である。

 必死に説明して二郎さんも納得(多分)してくれた様で、今回は何も無かったと言う事で処理してもらった。ディア先生に関しては目が恐くて触れる事が出来なかったが。それは差し引いても多くの生徒に一部始終を目撃されたのだ。

 これを笑い話に出来るほどの話術は持ち合わせていない。


 僕は昼休みまで寝ていたらしく、その後の5限の時間は学園内を案内され今に至る。因みに笑子は午前中は手の開いた先生に文字を教わっていたそうだ。平仮名は全部覚えたと嬉しそうに本人が語っていた。


「では入りましょうか」

 土谷先生は若干ふらつきながら教室に入る。笑子、僕の順でそれに続く。中に入ると、当然の如く響めきが起こった。



「すげえ美人、あの髪って地毛?」

「校門でそう言ってたって聞いたよ」

「彼氏いんのかな」

「いやいやお前じゃ無理だって」


 男子達は本人がいるにも関わらず嬉々として笑子について語り合う。


「ねぇ、あれが辻山に襲われた人?」

「え?あれが辻山襲ったって聞いたけど」

「違うよ、お互い同意の上だったんだよ。あのキノコ頭で辻山掘ったんだって」

「なにそれ!?キモいんだけど…」

「それとさ、校門じゃあ緑野さん襲ったらしいよ。返り討ちにあったみたい」

「ぷっ、チョー受けるんですけど」


 女子達は僕が話題の元だ。

 彼女達を見ていると目が合ってしまい「こっち見んな」オーラを出された。そもそも「あれ」扱いである。全否定したいものの、緑野辺りの話しは強ち間違いでも無いので強く言えない。


「二人とも人気者ですね、安心です」

 土谷先生がおじいちゃんらしい穏やかな笑顔を見せる。明らかに僕と笑子では騒がれ方の方向が違うと思うのだが、彼からすれば同じ様だ。

 何一つ安心の要素が無い。

「では転校生を紹介します」

 土谷先生は黒板に『神流ショウ』『神流笑子』と書く。

「え、同じ苗字?」と教室が静まり返った。

「自己紹介をしてください」

 

「私、笑子。よろしく」

「……か、神流、ショウです」


 再びクラス中がざわめく。


「質問がある人はどうぞ」

 土谷先生は特に気にする様子もなくニコニコしている。


「二人は親戚ですか?」

 サッと手を挙げた女生徒が質問してきた。

「双子よ。このキノコ頭が弟だけどね」


「「「「双子!!?」」」」


 教室のあちこちから声が洩れる。


「似てないよな」

「双子であそこまで違うのか」

「それ以前に肌の色から違うだろ」

「それよりもキノコ頭は家族推奨でいいのかよ」

「そこ!?」


 確かに笑子と僕は本気でじっくり見て何とか面影を感じる程度のそっくり具合だ。他人から見たら血が繋がってるのかも信じられないかもしれない。


「はいっ」


 今度は男子生徒が手を挙げる。さっき笑子に彼氏がいるのか気にしてた人だ。

佐場さばくん、どうぞ」

 佐場と呼ばれた彼は勢いよく立ち上がった。

「佐場速人はやとですっ。何処から来たんですかっ?」

「し、出身は――」

「俺が聞いたの笑子ちゃんだから」

 僕が答えようとすると「男に興味はない」と佐場に遮られた。にしてもはっきりしている子だな。

「双子ならどっち聞いても同じだろ」

 べしっと隣に座っていた赤ぶち眼鏡の男子がツッコミを入れると教室が沸いた。「流石は速人」と言う声も聞こえる。どうやら佐場はムードメーカー的な立ち位置にいる様だ。僕が苦手とする人種である。


「では神流さん、答えてあげてください」

 教室が落ち着くのを見計らって土谷先生が笑子に回答をするよう促した。タイミングが上手い。ベテランはどこぞの生徒を陥れようとする保健医は大違いだ。

 しかし僕がほっと出来たのは束の間の事だった。



「異世界から来たの」



 教室は先程までの騒ぎ様が嘘の様に凍り付いた。


 やばい、確実にやばい。無理にでも僕が無難な事を答えるべきだったんだ。

 このままでは、只でさえ5月からの途中入学で浮いてるのに『双子の弟は変態』『双子の姉は電波ちゃん』と言う確印を押されてしまう。


 いや待てよ、質問者はムードメーカーらしき彼だ。きっと繊細な話術でこの空気を乗り気ってくれるはずだ。

 ほら、皆が凍り付く中で佐場だけがいきいきとしている。

 僕の平穏な生活のため頑張れってくれ。


「異世界の何処?」


 話を掘り下げるなあああ!!!


「アーロマ国のクーレソンが出身よ」

「そうなんだ。ところで異世界ってさ、やっぱ魔法とか使えるの?」

「ええ勿論」

「すげえっ!」


 褒めらたからか笑子は何時ものどや顔だ。佐場は異世界と言うのをあっさり受け入れてしまった。順応性高すぎじゃないか?僕でさえ初対面の時は半信半疑だったのに。

 でもクラス全体としては話に置いていかれている様だ。皆同様に困った顔をしている。先生もニコニコしながらも表情が強張って見える。

 よかった。僕の感覚が麻痺している訳ではない。


「――それが止めになったの」

「へぇ、初めて倒したのがゴーレムとか本当にファンタジーだね。うわぁ、俺もそっちで生まれたかった」

「絶体日本のが楽しいって」


 あれ?いつの間にか笑子の過去話が始まっていた。完全に二人の世界が完成している。


 誰か止めろよ。


 我らが担当は相槌を打っているが多分話の中身は理解出来ていないであろう。ムードメーカーかと思っていた彼はただの「困ったちゃん」なのかもしれないと改めた。

 そして教室を見渡すと何故か視線が僕に集まっていた。


『双子なら責任持って止めろ』


 目でクラスメート達が訴えて来る。仕方がない。僕が割って入るしか無いみたいだ。


「笑子、その辺にしとけって」

「何が?」

「ほら、あれだろ、あれ」

 そう言えば止める建前を用意してなかった。

 僕が何を言おうかと戸惑っていると佐場がキッと睨んで来た。

「笑子ちゃんと話してるんだから邪魔するな、しっしっ」


 こいつ、一回殴っていいかな?

 僕の平穏への拘りよりもイライラが勝ろうとしている。このままでは中学生の時と同じになってしまう。


 だが助け船を出してくれる人物が現れた。先程の赤ぶち眼鏡くんだ。

「速人もその辺で、な?」

「今良いところなんだよっ」

 佐場の目の凄みが増したが、赤縁眼鏡くんは慣れた様に続ける。

「速人ばっかり質問したら、他の連中が話せないだろ?神流さんがクラスに馴染むには、皆で話たのが良くないか、な?」

「ああ、確かにそれもそうだな」

 佐場が頷くのを見計らった土谷先生が他の生徒に質問がないかと尋ねる。こうなっては仕方ないと渋々彼は座り直すのだった。



「「「「「「………」」」」」」



 そこまでは良かったのだが教室を沈黙の嵐が襲った。

 電波と変人に興味本意で近づこうなどと言う輩は佐場ぐらいなのだろう。クラスの大半はまともな思考能力を兼ね備えていることに安心した僕自身に、そこは安心する事かとツッコミをいれたくなった。それでは変人という肩書きを認めた事になるのではないか。


 その沈黙を破ったのは意外な人物だった。


「失礼…するよ」


 ガラッと扉が開いたかと思うと見覚えのある女子が教室に入って来る。彼女は長身でそれ以上に横にも栄養が行き届いた体系をしていて、日本人らしい顔立ちには違和感を覚えるライトグリーンの髪を持ち合わせていた。そう、彼女は――


「ひぃいい!!」

「じょ、女帝が帰って来たっ!?」

「殺されるぅ」


 クラスの男子達が一斉に震え上がる。中には涙して助けを乞うものが現れる有り様だ。

 そんな生徒達を無視してなのか実際に気がついていないのか、担任は入って来た緑野に声をかけた。

「緑野さん、どうでしたか?」

「厳重注意で…終わった」

「良かったです、自宅謹慎開けに謹慎処分を貰ったりしたら笑い話ですからね」

 緑野はそれには応えず、後ろの方の空席となっていたイスに向い腰を下ろした。彼女に横を通られた男子生徒は俯き肩を細かく上下させている。

 彼女は何をして謹慎になったのか想像すると、何処か中学生の自分と照らし合わせてしまっていた。両の手の拳に力が入った。

 朝の件で彼女に恨み等の感情はない。あれは全面的に笑子の責任だと僕は認識している。

 でも当の笑子は違ったらしい。無表情な緑野を敵視剥き出しで睨み付けている。


「では皆さん」


 そこで土谷先生が1年5組の生徒達を見渡す。


「席替えをしましょう」


 これは僕の仮設である。

 多分先生はこのクラスのムードを作り直すべくして席替えを提案したのであろう。クラスメートのほとんどが「なにそれ」顔だ。

 普通の高校生なら席替えはひとつのビックイベントだ。

 しかし今この教室には異常な感情が渦巻いている。僕達への偏見の目、緑野への恐怖。

 これでは盛り上がるはずも…


「笑子ちゃんの隣は俺だあ!」


 一人を除いてない。


 斯くして微妙な空気の中、5組の第一回席替えが行われたのであった。





  * * * * *




 僕は窓側の一番後ろの席をくじ引きにより勝ち取った。狙っていた生徒も多かった様で悔しそうな声が聞こえた。

 はっきり言って僕は嬉しかった。

 5月の暖かな日の光が当たり、目立たないであろうこの席になった事が本当にラッキーな事だと思った。


 他の生徒達は最初こそ乗り気ではなかったものの始まってしまえば、一喜一憂しながらプリントを破って作られた急増のくじを引いている。そして順々に席が埋まっていく。


 ……考える所は多々あるが、結果だけでもまとめよう。


 僕の前の席に笑子。その隣が佐場。その後ろ、つまり僕の隣に緑野。

 なにこれ?




 僕は異世界の女神から加護をもらってはいるが、どうやらこの世界の神には見放されているらしい……




※ショウはクラスの大半が正常な思考回路をしていると考えていますがそんな事はありません。それに気が付くのはまだまだ先の事で……

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