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No.7 奴隷と書いて何と読むか

※漢字の読み方には個人差があります。





「では、店に火を放ちふり陽太ようたを瓦礫に埋めたのは突然現れた君の双子の姉で、君は成り行きで彼女と戦う事になったものの擽っただけだと、つまりこう言う事かな?」


「……そう…です」


 僕がもごもごと答えると刑事さんは机をバンと叩いた。

「大人をからかうのもいい加減にしろっ!」


 あの後警察署に連行され個室に入れられたかと思うと3人の警察官に囲まれ取り調べが始まった。


「大体、人間が擽られただけで失神するはず無いっ」


 運の無い事に笑子は意識を失ってしまったらしく、事実を証明してくれる人が誰もいない。


「本当の事を答えるだ。降陽太とはどんな関係だったんだ?」


 あの口の臭い先輩風不良はふり陽太ようたと言うらしい。続けて読むと「不良た」か。御丁寧な名前である。彼も意識を失っているそうだ。しかしまあ、よく生きてるな。てっきり死んだかと思っていた。


「……いや…今日…知り合ったば――」

「これだからネット社会は嫌になる。顔を見たこと無い相手と何故会おうとするんだ!?」

 明らかに勘違いをする刑事さん。


 うぅ、もう少し僕にコミュ能力があれば要領よく話せるのだが、無理な話である。

 僕がもごもご喋る度に余計に疑われている様だ。


「……あの」

「はっきり言えっ」


 いちいち怒鳴らんで下さい。正直煩い。


「で、電話をしたいんですが…」

「誰にだ?親父さんには今此方で連絡を取っている。まだ繋がらないそうだがな」


 一応ケータイは没収された。そこから父さんの番号を知ったのだろう。しかし繋がるはずもない。流石に異世界まで電波が届かないはずだ。正直に言いたいけど、一般人に異世界がどうだの言えるはずも無い。

 頼れるのは父さんが最後に教えてくれた連絡先の人だけである。どうか、まともな人であって欲しい。


「もう一度確認するが高校には言っていなかったんだな」

「……はい」


 僕は高校へは行っていない。ぼっちと言う問題では無く、受からなかった。長年の修業と不登校のお陰で全く勉強が分からない。何校かから不合格を貰い、半ば諦めたのだ。


「親父さんの職業は?」

「………無職です」

「は?」


 刑事さんは凄く怪訝な顔をした。


「君の家は一軒家だと言っていなかったか?」


 確かパトカーの中でそんな事を言った気もする。

 僕は頷いた。


 すると更に怪訝な顔になった。


「その家はご親戚か誰かに貰ったのか?」

「……いえ、とうさ…父が建てました…」

「親父さんの前の職業は?」

「……働いた事は……無い…そうです」


 刑事さん達が何かひそひそ話し出した。何か不味い事を言ったかな。


 そうか、世間一般では無職で家は建てられないのか。しまった、知らない間に感覚がマヒっていたらしい。皆が皆、父さんみたくギャンブラーだったら世の中回らない。


 その時、ノックとともに別の刑事さんが入って来て放った報告で事態を更に悪化させた。


「家が火事!?」


 僕の家が全焼したとの報告だった。

 原因は思い浮かばない。出掛ける時は確かに火元の確認もした。いやそれよりも――


「1億円が……」

 正確には1枚ファミレスで使うため財布に入れたので9999万円である。

 ショックで洩らした言葉を目の前の大人達は都合よく聞き流してくれなかった。


「おい、1億円とはなんだ?」


 冷静に考えれば、無職の男が主の家に1億円などあるはずが無い。女神の加護があれば別だけど。


「ええと、父がギャンブルで稼いだと」

「親父さんの名前は神流聖人で間違いないな?」

 刑事さんの顔が迫って来る。


 そして、僕が肯定した瞬間に年配の刑事が言った。

「おい、この餓鬼より親父の方が怪しい。神流聖人に付いて調べ挙げろっ」

「「はい」」

 返事と共に2人の刑事が部屋を後にした。


 それを見送った年配の刑事はゆっくり窓辺りへ歩きキメ顔を作った。

「事件の香りがプンプンしやがるぜ」


「ぷ、げほっ、げほっ」

 危なく吹きそうになったが咳で誤魔化した。

 どうやらこの刑事さんは鼻が悪いらしい。


 しかし火事か。あの家に未練は無いのだがやはり金は問題である。あ、もしかして金が盗まれて次いでに放火されたとかだったりして。


 キメ顔のまま刑事さんは僕に向き直り言った。

「さっき、電話したいと言ってたな、させてやるよ」


 僕が誰に連絡を取ろうとしているのか興味があるのだろう。多分そこから父さんの手掛かりでも探したいと言う所か。








 部屋を移されあの年配刑事を中心に5人に囲まる中、何かのコードが繋がった僕のケータイが渡された。

「会話は録音させて貰うからな」


 何だか事が凄く大きくなっているのは気のせいかな。

 たかが少年が電話するだけなのに刑事5人態勢って…


 まあ、気にしても仕方がない。


 ケータイに登録してある電話帳を開いた。5件しか登録してないから「父さんの知り合い」と登録した番号を見付けるのに時間はかからなかった。因みに内1件はピザ屋の連絡先である。

 自信のぼっち加減に涙を一瞬覚えつつも通話ボタンを押した。


 rガチャ


 速っ!出るの速っ!ワンコール終わる前に繋がった。いやワンコールどころか最初の着信音さえ聞こえたか微妙である。マナーの欠片も無い人だ。

 話す前から不安しか沸かない。


「どなた?」


 潰れた様な男の声が聞こえてきた。


「あ、あの、実は――」ガチャ


 切られた。


「………」

「………」


 刑事さんと僕の間で「今のなに?」と言う様な空気が漂う。一応僕はもう一度試していいか許可を貰い、再度通話ボタンを押した。


 rガチャ


 相変わらずのこのスピード。


「ぼ、僕は――」

「ああ、新聞なら要らないよ」ガチャ


 切られた。



 なんか、刑事さんの目が怖い。

 別に貴方達をからかってる訳では無い。この電話先の相手が力になってくれる紹介した父さんに文句は言ってもらいたい。僕が言いたい位だ。

 もっとまともな人はいないのか。


 …番号そのものが違うとかテキトーだとかではないよな?



 三度目の正直を願い、再度通話ボタンを押した。


 rガチャ


「あの――」

「しつこいな、警察に連絡するよ」


 あの、連絡するも何も、その警察から連絡してるのですが、これいかに。


「僕の父さんが…困ったらここに電話する様にと」


 喋りながら詰まりそうにもなったが、途中で切られる訳にも行かず急いで用件を伝えた。


「父さん?何処の世間知らず?」


 ぶっきらぼうな返事が返ってくる。本当に知り合いですよね。今不安しかない。


「神流聖人です」


 ドガガガ


 電話先から何かが倒れる音がした。

「あの、大丈夫で――」

「失礼しましたっ!!」

 突然の大きな声で遮られる。


「まさか、御子息だとは露知らず、あの様な口の聞き方、誠に申し訳ありません。何とぞ、どうか何とぞ御許しを」


 必死な声と共にゴツンゴツンとぶつかる音が聞こえてきた。土下座で頭を地面に当てているのかもしれない。

 と言うか、父さんの名前の聞いた途端に態度が180度変わった。父さんに弱味でも握られてるのだろうか?


「あ、あの、お願いが――」

「はいっ、何でしょうか」


 僕の周りには、話を最後まで聞いてくれる人はいないのではと心配になってくる。ぼっち慣れはしていても何処か寂しさがある。


「い、今、警察に捕まってしま――」

「警察っ!?直ぐに国家権力行使してでも助けに向かいます」


 そこで一方的に電話は切られた。



「今の男は誰だ?」

 暫しの沈黙の後、刑事さんが聞いてきた。



 はい、僕が知りたいです。





  * * * * *




「ハークションッ」

 後ろを歩いていた聖人のくしゃみでパーティの全員が振り向いた。


 ここは異世界、元魔王城付近の森である。

 無事異世界へと行った聖人は奇跡的にも直ぐ愛しき妻レスリーと再開を果たした。と言うかレスリーの仲間が霊獣召喚の大魔法を使ったら、何故か聖人が召喚されてしまったのだ。今はレスリーと他2人のパーティと共に近場の村を目指していた。


「風邪でございますか?心配ですわ」


 マントを着てとんがり帽子で杖を持つ、これ見よがしに魔法使いアピールをする青髪の美少女が聖人に声をかけた。彼女はクロレ。見ての通りの魔法使いだ。


「はは、誰か俺の噂をしてるな」


 人気者は辛いなと笑う聖人だが、母国では数多の指名手配犯の隣に自分の顔写真が乗ろうとしているなど知るよしもなかった。


「………」


 無言で風邪薬を差し出すのは騎士のケーンだ。彼は全ての魔王を倒すまで言葉を口にしないと言う誓いを立てていた。それは常に女神に感謝を述べる事が当たり前のこの世界では最も苦行のひとつであった。それほどこの世界の女神への信仰は深い。


「大丈夫だって」


「無理はいけません。もしレスリーさんや貴方にもしもの事があったら、日本にいる笑子ちゃん達はどうするのですか」


 笑子と面識のあるクロレがオロオロと心配する。世界屈指の魔法使いである彼女だが異常な心配性を持ち合わせていた。


「俺だから大丈夫さ」


 そう笑う聖人にクロレとケーンは数時間前に出会ったばかりではあるが、説得力を感じた。


 彼がこの世界に召喚されたさた時は戦闘中だった。彼は剛笑拳を駆使して魔物討伐をしたのだ。魔法、それに準ずる武器でなければ攻撃を当てることさえ出来ないはずのゴーストタイプをだ。

 何故触れるのかクロレが疑問を口にすると、聖人はその時も「俺だから」と笑った。


「例え俺達に何かあっても、日本には信頼出来る奴隷ともだちがいるからな」


 レスリーも肯定する様に首を縦に振った。



 聖人を迎えたレスリー達の旅は、ここから大きく動き出すのだった。




  * * * * *




「遅くなって申し訳ございません!」


 父さんの知り合い(?)に電話してから数分後、態度がゴロッと変わった刑事達に「お気をつけて」と、やんわり警察署を追い出された。


「シャバの空気はうまいぜ」と冗談を言う暇もなく僕は変なのが目に入ってきた。

 外には緑色の肌の小男が土下座していた。



「お初にお目にかかります。私、御主人様の奴隷ともで二郎と申します」





※奴隷を友と読む。個人の意見です。





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