No.6 加護は戦力の決定的差に成り得るのか
※至って落ち着いていますが、ショウは怒っています。落ち着いている様に感じるのは武術家としての修業の成果です
「誰がぼっちですって!」
笑子は手の平から火の球を続け様に放ってくる。
何とか回避したものの状況は明かに僕が不利だ。笑子は魔法による遠距離からの攻撃が出来るのに対して僕は接近戦しか出来ない。
責めてもの救いは僕の方が冷静である事だ。
剛笑拳の修業の中で、如何なる時も冷静な判断が取れる様に訓練して来た。
まあ、冷静に考えればここで彼女と戦う必要性は皆無なのだが、剛笑拳を笑われて殴り倒したい程に怒りの感情が内では高まっているのだから仕方が無い。
ケツの穴から手を突っ込んで奥歯ガタガタ言わせる位しないとこの怒りは治まりそうもない。剛笑拳を持ってすれば、言葉通りの事が出来なくも無い。
「早く逝ってよ」
「何処へですかっ」
笑子の攻撃が続く。さっきから同じ火の球を飛ばす魔法しか使わないのは彼女なりの最後の理性なのかもしれない。店の中は炎が上がり少しずつ燃え広がっている。
短期戦で行かないと不味いな。
「だぁあああ!」
僕は彼女に向けて駆け出した。
リスクを侵してでも近づかない事には勝機は無い。
火の球が飛ぶがどうにか避けた。その隙に更に距離を詰める。
狙うは手首だ。魔法の発射元を絶つ。
距離を詰められた事で焦ったのか、笑子は手の平を態々僕の方につきだしてくれた。
「捕えましたよ!」
が、僕の手は空を切った。
急に後ろに気配を感じた。
「テ、テレポートだって…」
現れた笑子の魔法が目の前に迫って来た。
ヤバイ、もろに喰らってしまう…
* * * * *
―――16年前 とある宮殿―――
宮殿の中にある最も大きな寝室をノックする女性がいた。彼女はメイド服を着こなし、長い耳でエルフと言う種族に酷似した容姿をしていた。
「どうぞですぅ」
返事があり、彼女は寝室へと足を入れ、溜め息をつく。
そこには金色の輝きを見せるキングサイズのベットがあり、これまた金色のドレスを身に纏った少女が横になっていた。
「女神様、ドレスのまま寝るのはお辞めください。皺になります」
このベットに横たわる10歳程にしか見えない少女こそ、ショウや笑子の母レスリーの世界を創造した女神、その人であった。
「それと、ポテトチップスを片手に漫画をお読みになるのもお辞めください。後で私が読む時、手が汚れます」
「メイドB、煩いですぅ」
甘ったるい声で返事を返す女神にメイドBと呼ばれた彼女は溜め息混じりに応えた。
「女神様、この宮殿にメイドは私ひとりでございます。『B』等お付けになって、居もしない『A』の存在を仄めかすのはお辞めください」
「酷いですぅ、行きなりフラグ折るなんてぇ」
「最終的にご自分で回収するのをお忘れになられる事はフラグとは言いません」
女神は異世界にある日本と言う国から取り寄せた少年誌をベットの上に投げるとジタバタしだした。見た目だけなら年相応であるが、彼女の年は悠に万を超えていた。
「嫌ですぅ、フラグ立てたいんですぅ、貴女はメイドBなんですぅ」
「………わかりました、その名前でいいですよ」
フラグは折れずにメイドBが折れる事となった。このままではストレスによって謀反でも起こしてしまう事だろう。
本名も出ないままメイドBと改名されてしまった彼女は、主の元へと歩を進める。ベットの端まで辿り着くとまじまじと主の顔を凝視し、目を細めた。
「ところで、今回のそのお姿は何なのですか?」
全知全能のこの世界の女神にとって姿を変える事等朝飯前である。
「先日は猫耳付けてにゃーにゃー言ってましたのに」
「時代はロリなのですよぉ」
手を胸の前に組みドやる女神様。
「巨乳魔族は先を越されそうなので、キャラ付けなのですよぉ」
「何を仰ってるのか理解しかねます」
「解らなくてもいいのですよぉ」
「責めて、口調だけでもお戻し頂けませんか?」
女神が甘ったるく語尾を無駄に伸ばす度にメイドBは悪寒を感じていた。
「嫌ですぅ、その姿には適した話し方があるんですぅ」
そう言う女神も実際の所、ロリの正しい話し方等知りもしなかった。偶々読んだ漫画の女神がロリだったので、何の気なしに真似てみただけである。そして取り合えず語尾を伸ばしてみている。
この話はもう埒が明かないと思ったメイドBは話題を変える事にした。こうして話している間も一切身動ぎしない所は流石は女神に使えるメイドである。
対する女神は日本から転送させたポテトチップスのカスをベットに溢しつつ、貪っていた。
「異世界で産まれた勇者のお子達には何の加護をお与えになったので?」
女神の加護は勇者当人だけでなくその伴侶、子供にまで与える事を女神本人が決めていた。因みに勇者の選考は魔王が現れた時の気分で行われる。
「レスリーはポテトチップスの存在を知る切っ掛けを作ってくれた、言わば大恩人なのですぅ。だからそのお子達にはチート級の加護を3つも上げる事にしましたぁ」
普段、加護は基礎スペックの向上を除けば一人にひとつが常である。
そして嬉しそうに女神はポテトチップスを見つめ、かぶりついた。油でギトギトの指を見てしまったメイドBは急いで目を反らした。見ていて気持ちの良いものではない。
「女の子には記憶補正【大】と魔力補正【大】を。男の子には――」
女神の口から正にチートな加護の名前が2つ語られた。
「それは真に良い待遇でございますね」
メイドBは驚きの表情を見せた。この女神は面倒臭い時は勇者を任命するだけしといて、加護を与えない事がある様な人である。その女神が「疲れる」と言ってほとんど与えないチート能力を3つも与える事など、魔王との戦いを始めて以来、初めての事である。
「しかし女神様、それではまだ2つでございます」
レスリーの双子それぞれに別々の加護を与えたと聞いたが、まだメイドBは後ひとつを聞いていなかった。
「そうなのですぅ、聞いてくださいぃ」
女神が憤怒する。
「異世界に居る人に加護を与えたら、物凄く疲れたのですぅ。だから2つずつ与えた所でもう充分かなと思ったのですよぉ」
「では、2つ与えてお辞めに?」
「違いますぅ、最後まで頑張りましたよぉ」
何故か両手を腰に宛て偉そうな顔をする女神。
「でも、ちょっぴりムカついたので3つ目は2人とも―――を与える事にしたのですぅ」
それを聞いたはメイドBは唖然とした。
「女神様、それは加護とは言いかねます……」
「そう?」
女神は可愛らしく小首を傾げる。
そして、突然大きな声をあげた。
「あっ!」
「どうなさいました?」
「今のって、何かフラグ立ちそうだよぉ」
「確かにそうと言えなくも無いですね」
喜びの声を上げる女神にメイドBも賛同の言葉を述べた。
しかし内心は、どうでもいいから早く今日異世界で発売の漫画を女神に借りて自室でゆっくり読み耽りたいメイドBであった。
数万年生きる2人にとって、とある双子に特殊な加護を与えた等、所詮その程度の扱いであった。
* * * * *
火の球が迫って来る。
「うわぁあ……あ?」
突然の事である。火の球は僕の目の前で当たる事なく消え失た。
「な、何が…」
もしかしたら笑子は当てる気がなかったのかと思い、彼女を見ると驚いた顔をしていた。
「まさか貴方も魔法が使えたなんて」
あの、何もしてないのですが…
「初めて見る類いの魔法ね、どんな魔法?」
割と穏やかな表情で笑子が質問してきた。逆に怖い。
いや、魔法がどうかもわからないんですけど。しかし、ここは見栄を張ってでも少しは戦況を僕に有利に運ばなくてはならない。
「あ、あれは」
考えろ、考えるんだ。出任せでいい。
と、取り合えず今起こった事は魔法が僕に効かなかったと言う解釈でいいはずだ。
ならこれしかない。
僕は精一杯の真剣な顔で叫んだ。
「今のが魔法ですって!?笑っちゃいますよ」
笑子の眉がピクッと動いた。
「今のはぼっちだけが辿り着ける究極のバリア」
「そんなの聞いたことが無いっ」
それはそうだろう、今僕が作ったのだから。
「その名も『BB』」
「ぼっち…バリア?」
よし、このまま信じさせなければ。
「BBは精神攻撃は勿論、肉体への攻撃さえも消し去る。まさに周りとの関わりを遮断するぼっちに相応しい能力です」
「………」
笑子が睨み付けてくる。信じてくれた?
「ぐふぅ」
行きなり、体が宙に浮くのを感じた。そのまま背中からテーブルに突撃した。
痛いなんてものではない。意識が飛ぶかと思った。
テレポートで急接近した彼女に蹴り飛ばされた様だ。反射的に受け身を取らなかった間違いなく致命傷を喰らっていただろう。
「BBでも打撃は効くんだ」
どうやら謎のバリアに関しては信じてくれたらしい。
「魔法が効かないなら、殴るまでよ」
「接近戦で僕に勝てるとでも?」
足にどうにか力を入れ立ち上がった時だ、笑子が構えたかと思うと消えた。と同時に脇腹に衝撃が走り、再び体が宙を舞った。
「―――つっ」
うぅ、肋骨何本か折れた感じがする。
だがタイミングは掴んだ。笑子はテレポートの前に必ずファイティングポーズを構える。構えてからのワープするまでのタイミングも多分完璧に分かる。
もうひとつの問題を解決すれば僕の勝ちだ。
「殴るなんて言って、横から蹴ってばっかりですね」
「悪い?」
笑子はムッとした顔をしてテレポート前の構えを取った。
これでいい。今の挑発に乗ってくれれば正面からのぐーパンチだ。と言うより、そうでなければどうにもならない。
そして笑子が消えた。
僕はテレポート位置を予測し、脇腹辺りに向けて手を伸ばした。そして案の定そこに笑子が現れた。場所さえ分かればテレポートも意味が無い。
今こそ使おう、剛笑拳の奥義を。
「奥義、こちょこちょの舞!!」
「え?胡蝶の――」
「違うっ!こちょこちょの舞だ」
僕はパンチを避けつつ、全力で笑子の脇腹を擽った。もう一度言う。擽った。
「こーちょこちょこちょこちょこちょ」
「く、く、くふぅ…」
笑子は笑いを堪えながら終には膝を着いた。僕も擽るのを止めた。もろに入った。僕の勝ちですね。
「何よ、擽ったぐらいで勝利気分?」
肩をまだ震わせている。無理もない。剛笑拳に精通している僕が擽れば、笑わない人間なんて存在しない。
フラフラと立ち上がった笑子は僕に殴りかかって来る。しかし、先程までの勢いはもう無い。簡単に手のひらで受け止める事が出来た。
笑子は困惑の表情を見せる。
「ち、力が入らない…」
「無理ですよ、貴方は腹筋には暫く力を入れる事は出来ません」
「!?」
こちょこちょの舞は相手をただ擽るだけの技では無い。人間は動作を起こす時、必ず筋肉に力が入る。この奥義は擽る事で筋肉を限界まで緩ませる技なのだ。勿論その特殊な擽り方は、初代から何代にも渡って研究されて来た成果である。
緩みきった筋肉では力が出るはずがない。
この隙は見逃す訳に行かない。
「こちょこちょの舞、乱舞!こーちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ、こちょー!」
「く、く、きゃははははははははは げほっ ぷはは」
大した事はしてない。全身を擽っただけだ。普通なら、擽っても笑わない部分でも、剛笑拳を持ってすれば笑わせる事が出来る。
噎せながらも笑続ける笑子は、暫くは耐えていた様だが、最後には力尽き倒れ込んだ。 笑いすぎて顔が火照っている。
これこそ剛笑拳の真骨頂だ。まず、敵の関節を外しもしくは破壊して動きを止める。そして擽り完全に戦闘力を削ぎ落とす。後は煮るなり焼くなりご自由に、だ。
「さあ、剛笑拳を笑った報いは受けてもらいます」
よし、父さんの考案した「扇風機」と言う技をかけよう。相手の手首を関節外して無理な方向に360度ぐるぐる回す技だ。物凄く痛いらしい。
その時だ。
「おらぁ、大人しくしろ!」
消防官と警察官が一斉にファミレスの中に入って来た。ファミレスと言ってもいつの間にか火の進行も進み原形がほとんど無くなっていた。周りの人もいつの間にか避難した様だ。
消防官は急いで、無駄の無い動きで消化活動を行う。
警察官は急いで、無駄の無い動きで手錠を取り出す。
「放火、暴行罪で逮捕する」
カチャリと手に冷たい感触が伝わった。
…………放火は僕では無いのですが…
※BBはショウが勝手に言っているだけであり、本来魔法が効かなかったのは加護と関係しています。




