初めての部下
ダンジョンを作り始めて一時間後、スライムが反乱を起こした。
三匹のうち最も大きい一匹が、入り口へ向かう通路を塞いだのだ。
《命令に従っていません》
「理由は?」
《不明です。低級魔物は言語で意思を伝えられません》
俺はしばらく観察した。
通路の先には、天井から水滴が落ちている場所がある。
大きなスライムはそこへ行きたがっているらしい。
「水が必要なのか」
《スライムは湿度が低いと活動能力が落ちます》
「先に言ってくれ」
《質問されませんでした》
「……前職の課長みたいな返しをするな」
俺は五ポイントを使い、通路の端に小さな水場を作った。
スライムがすぐに入る。
残りの二匹も続いた。
三匹とも、水に浸かると動きが速くなる。
「配置の前に、働ける状態を作る必要があるわけか」
《あなたは魔物の管理経験がありません》
「経験があったら転生初日からここにいない」
《それもそうですね》
俺は壁を一枚増やし、入り口から水晶まで一本道だった通路を曲げた。
曲がり角の床を少し傾ける。
上には苔を生やす。
残り三十二ポイント。
《侵入者を転ばせる罠ですか》
「転ばせるだけなら意味がない」
壁の窪みに、銅貨を一枚置いた。
手を伸ばせば取れる。
ただし、しゃがんで銅貨を拾うと、背中が通路の奥へ向く。
そこがスライムの持ち場だ。
「最初の一匹は攻撃しなくていい」
《スライムに戦わせないのですか》
「道を塞ぐ。二匹目は侵入者の足元。三匹目は、一番奥で待機」
《撃退できますか》
「分からない」
俺は水晶に手を当てた。
「相手を見てから変える」
三日目の朝、初めての冒険者が来た。
男が二人。
剣を持つ若者と、弓を背負った中年の男。
入り口の外に立つ彼らの声が、水晶を通して聞こえる。
「ここ、昨日まではただの洞穴だったよな」
「新しいダンジョンだ。宝があるかもしれん」
若者が先に入った。
俺は水晶の間で、彼らの動きを見ていた。
若者は曲がり角へ進み、窪みの銅貨を見つける。
「お、当たりだ」
しゃがむ。
同時に、中年の男が言った。
「待て。拾うな」
若者の手が止まる。
俺も息を止めた。
中年の男は床を調べ、苔の下の傾斜に気づいた。
「安い罠だな」
「バレたか」
少し悔しい。
だが、悪い気分ではなかった。
しっかり見てくる相手の方が、こちらもやりがいがある。
中年の男が弓を構える。
「この先に何かいる。帰るぞ」
「銅貨一枚だけで帰るのかよ」
「初めてのダンジョンは様子を見る。それが長生きの秘訣だ」
二人は出ていった。
《侵入者が撤退しました》
「勝ち判定か?」
《水晶を守りました。報酬は十ポイントです》
「宝は取られなかった。使った銅貨も戻せる」
俺は床に座り込んだ。
三日準備して、結局スライムは一匹も動いていない。
けれど、一つ分かった。
「冒険者は、危険だと思えば帰る」
《はい》
「そして、危険を調べにまた来る」
《その可能性は高いです》
案の定、二人は翌朝戻ってきた。
今度は四人だった。
中年の男が、こちらの罠を知ったうえで仲間を連れてきた。
胸が高鳴る。
「よし。改善しよう」
《残りポイントは四十二です》
「昨日の罠は見抜かれた。同じ場所に、同じ罠を置いておく」
《対策されます》
「それでいい。対策している間、人は他のものを見落とす」
俺は三匹のスライムを呼び寄せた。
「今日は働いてもらう。ただし、負けそうになったら水場に戻れ」
《魔物の撤退を許可しますか》
「許可する」
スライムを使い捨てるつもりはなかった。
三日かけて、こいつらが湿った場所では速く動けると分かった。
次も働いてもらった方が得だ。
水場のスライムが、ぷるりと身体を揺らした。
「作戦会議に参加したつもりか?」
もう一度、ぷるりと揺れる。
「頼んだぞ」




