苦情を言いに来た冒険者
四人の冒険者は、まっすぐ銅貨のある曲がり角へ来た。
先頭の中年男が、仲間へ罠を説明する。
「ここの床は傾いている。壁際を歩け」
全員が足元を見る。
天井を見ている者はいない。
俺は通路の上部を、水場から伸びる浅い溝で濡らしておいた。
水滴が一つ、先頭の男の首へ落ちる。
男は顔を上げた。
「何だ?」
その瞬間、後ろの若者が叫ぶ。
「スライムだ!」
一匹目が通路の前に現れた。
四人の視線が前へ向く。
中年男は弓を引いた。
だがスライムは襲ってこない。
ただ入口の方へ、ゆっくり後退する。
「逃げるぞ」
「追うな」
中年男が若者を止めた。
いい判断だ。
だが、その間に二匹目が、濡れた壁を伝って背後へ回っている。
狙いは人間ではない。
弓男が足元へ置いた矢筒だ。
スライムが矢筒を飲み込む。
「おい!」
弓男が振り返る。
今度は三匹目が、銅貨のある窪みから出てきた。
四人は前後と横を同時に見なければならなくなった。
攻撃できる距離なのに、誰を先に狙えばいいか決められない。
俺は三匹へ合図を出す。
一匹目、退く。
二匹目、矢筒を置いて退く。
三匹目、窪みへ戻る。
戦闘は終わった。
「何だったんだ、今の」
若者が言う。
「警告だろうな」
中年男は矢筒を拾い、濡れた弓弦を確かめた。
「ここの主は、俺たちが初めて来た時のことを覚えている」
俺は水晶の間で思わず笑った。
「分かるか」
《冒険者が撤退を検討しています》
「帰してやろう」
《十ポイントを獲得できます》
「待て。外へ出る前に、出口の横に置いた板を見せたい」
《案内板を表示します》
四人が出口に差しかかると、小さな木の板が見えた。
『三階層開放準備中。次回挑戦者には記念品あり』
「三階層?」
若者が首を傾げる。
このダンジョンには、まだ一階層しかない。
中年男も気づいているはずだ。
それでも板を読んだ。
「……また来るぞ、たぶん」
四人は帰っていった。
《侵入者が撤退しました。十ポイントを獲得》
「現在の残高は?」
《五十二ポイントです》
「三階層、作れるか」
《不可能です。最低でも二百ポイント必要です》
「じゃあ、何回か来てもらおう」
《虚偽の案内を出したのですか》
「開放『準備中』だ。準備はしている」
《苦情が来たらどうしますか》
「本人に説明する」
《あなたは侵入者と会話できません》
「なら、苦情受付窓口を作る」
《なぜですか》
「この世界の冒険者が、どんな罠を嫌がるか聞きたい」
水晶はしばらく黙った。
《侵入者の不満を聞いて、罠を改善するのですか》
「そうだ」
《嫌がられるほど、来なくなるのでは》
「嫌でも攻略したくなるものを作る」
俺は通路の見取り図を広げた。
次は、銅貨一枚では帰れないと思わせる宝を用意する。
ただし、それへ辿り着く道は簡単にしない。
「苦情をくれた冒険者には、次も来てほしいからな」
三匹のスライムが水場で並んで揺れていた。
俺は奥の二匹へ目をやる。
「よくやった。今日は休め」
《ダンジョンマスターに休暇制度はありません》
「俺の話じゃない」
《では、あなたは?》
「三階層を作るまで寝ない」
《非効率です》
「課題を出されると、眠れなくなるんだ」
水晶が沈黙する。
俺は笑って、見取り図に新しい通路を書き足した。
冒険者には厳しいダンジョンを。
三匹の部下には、次も働ける水場を。
そして自分には、期限も予算も足りない無理難題を。
どうやら転生しても、この性格だけは治らないらしい。




