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観客席から、闘技場を一望する。
ベアドの町の闘技場は、これまでに見たどの国の闘技場よりも大きく、また闘技会の日でもないのに人の入り、特に戦士の入りが多かった。
以前、ゲアルドに聞いた話だけれど、リャーグでは新兵が北西部の諸国を相手に経験を積み、ベテランは船に乗って他の地方へ略奪に向かうそうだ。
そうなると必然的に、リャーグが唯一大陸に有する都市であるベアドには、多くの新兵が集まる。
この闘技場で訓練や野試合に励む者も、多くがその新兵、つまりは年若い者達に見えた。
といっても僕も大して彼らと年は変わらないか、或いはそれよりも更に年若いのだけれども。
しかしそれにしても……、リャーグの戦士達の訓練、模擬試合は実に荒々しい。
技は、多くのものが新兵だろうから、然してみるところはないのだけれど、体格がよく、膂力も強いリャーグ人達が全力で模擬専用の武器をぶつけ合う様は、空気が揺れたかと思う程の迫力があって、そりゃあ北西部の諸国がリャーグを恐れるのも当然かって気分にさせられる。
そういえば、北西部を旅してる間に近頃のリャーグは不気味な程に大人しいって話があったが、何らかの理由でリャーグが戦いを控えてるのだとしたら、手柄を挙げられぬ新兵は、さぞかし鬱憤も溜まっているのだろう。
そして闘技場を見回せば、全てが新兵ばかりという訳じゃなく、新兵を相手に技で転がし、指導をしているベテランもちらほらだが見受けられた。
ゲアルドの時も思ったけれど、あの体格で技まで使うのは、流石に狡いんじゃないだろうか。
尤も今、闘技場で見かけたベテランの中には、ゲアルド程の使い手はいない。
新兵を相手に技の全てを見せる筈がないにしても、動きを見ればある程度の実力は透けて見える。
これならベアドの闘技会に参加しても、僕もある程度はいい所まで勝ち進めるだろう。
ただ僕は参加をするとして、……ダラッドは一体どうしようか。
正直に言って、ダラッドの技はあそこの新兵と大差ないどころか、明確に劣る。
そりゃあ僕が付きっ切りで教えたとはいえ、ダラッドは数ヵ月の訓練しか受けてないのだ。
もちろん質の高い訓練は行ったから全く戦いにならない程の差があるって訳じゃないだろうけれど……。
これまでの相手は体格と膂力に著しい差があったから、それさえ活かせばダラッドは強者の側に回れた。
例えば、高い位置から圧倒的な力で振るわれる一撃は、大抵の受けの技術なんて無効化できてしまうから。
でもリャーグ人が相手となると、体格も膂力も圧倒的な差は付かない。
そうなると勝負を決めるのは総合的な実力だ。
……今、僕が見る限り、闘技場で訓練しているリャーグの戦士の、おおよそ半分以上にダラッドは負ける。
別に負ける事は問題じゃないし、そうした相手との戦いの経験は必要だとは思うが、問題はダラッドが壊されてしまわないかだった。
余所者の、自分達よりも幾らかであっても体格のいいダラッドに、リャーグの戦士がどんな目を向けるのか。
ダラッドが圧倒的な強者なら、向けられる目は敬意だろう。
リャーグ人は強さを重んじる。
けれども今のダラッドだと……、場合によってはこれまで積み重ねてきたものを壊されかねない。
折角、ダラッドの生まれ持った体格と膂力を活かせるよう、戦いに対する姿勢や心構え、技を教え、少しずつ自信を身に付けさせてきたのに。
闘技会の最中は、何が起きても僕は干渉できない。
あぁ、いや、一緒に出場してれば何かしらができる事もあるかもしれないが、……リャーグの闘技会では僕にもその余裕はないだろう。
だが、それを恐れて出場させないというのも明らかに過保護だ。
どんな目に合うかわからないのは、戦場もまた同じ。
僕がダラッドを連れているのは、戦場での戦力とする為である。
なのに戦場でも僕が守らなきゃならないようじゃ、戦力とは到底呼べない。
「ダラッド、君は……」
どうしたい?
と、本人の意志を確認しようと隣を見ると、ダラッドは食い入るように、今、闘技場で行われてる野試合に見入ってる。
興味津々か。
確かに、今、闘技場で訓練や野試合をしているリャーグの戦士は、ダラッドが次の段階に進むのに丁度いい教材だ。
見るだけでも何かしら得るものはあるだろうし、手合わせをすればもっと多くを得られるだろう。
本人がやる気なら、僕があれこれと悩む必要もない。
ダラッドには、リャーグの戦士を相手に経験を積ませよう。
けれどもやはり、いきなり闘技会に参加させるのは些かリスクが高いから、
「ダラッド、折角ここまで来たんだから、僕らも闘技場に降りてみようか」
まずは今日、今、ここで、ダラッドにはリャーグの戦士へ挑んでもらう。




