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僕は乱に身を立てる  作者: らる鳥
三章 北西部の雄

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 北の海の空は、時に灰色で重苦しい。

 僕らがベアドに到着した日も、ちょうどそんな空だった。

 けれども、或いはだからだろうか。

 そこに生きる者達は、皆とても力強い。


 リャーグの大都市ベアドは、とにかく全てが大きかった。

 潜った門も大きければ、城壁も高いし、何よりもまず、道を行き交う人々が一回り以上は体格が良いのだ。

 流石にダラッドに匹敵する程、となると流石に珍しいが、それでも皆無じゃない。

 あぁ、そういえば、旅の途中で知り合ったリャーグの戦士、ゲアルドもダラッドと同じくらいに背が高かった。


 そしてそんな人々が住んでいるからか、建物もやはりサイズが大きい。

 何だかまるで、自分が子供に戻ってしまったかのような気分になる。


 しかしそれを態度に出す事はしなかった。

 町の中に入っても、隊商が目的の商家や商館に着くまでは、僕らは護衛だ。

 その姿はベアドの町の人々の目に入る。

 相手が敵でなくとも、護衛が侮られていい事はないだろう。


 多くの人の目は、やはり隊の中で一番大きなダラッドが引くが、でも彼が頼りとするのが僕である。

 僕が動じた姿を見せれば、ダラッドも動揺してしまう。

 他の護衛達だって同じだ。

 故に、僕は殊更に堂々とした振る舞いで、最後まで馬車を送り届けた。


 隊商の長であるコーディは約束よりも多めに報酬を支払ってくれて、その上で帰り道の護衛も頼みたいと言ってきたが、僕は予定通り、その頼みには首を横に振る。

 腕を頼りに北西部で暴れたところで、僕が欲するものを得るにはあまりにも時間が掛かるだろうし、何よりも、この安定して報酬が得られる護衛という仕事に、満足して高望みをやめてしまうかもしれないから。

 旅のついでなら兎も角、隊商の帰り道にまで付き合う事はできなかった。


 恐らくコーディも断られる事は予想してたんだろう。

 或いはこうして護衛との別れに慣れてるのかもしれないが、惜しみつつも必要以上に引き留めはせず、その上で、リャーグにしばらく滞在するなら一つ頼みがあると言った。

 その頼みとは、ある女性を見かけたり、所在が分かったら、コーディの所属する商会に報せて欲しいというもの。


 詳しい事情を聴いてみれば、数年前、北東地方のある村がリャーグの遠征部隊の略奪に遭ったそうだ。

 まぁこれだけなら良くある話ではあるのだけれど、当時、村に訪れていた有力者の娘、具体的にはカイラス伯爵家の三女、フローディア・カイラスが、止せばいいのに護衛を率いてリャーグの遠征部隊に奇襲を仕掛けたらしい。

 驚いた事に、この奇襲は効果を上げ、襲われた村からは多くの村人が無事に逃げ延びる。

 けれどもその代償としてフローディア・カイラスはリャーグの部隊に囚われ、略奪品として連れ去られた。


 父であるカイラス伯爵は、男勝りな性格で婚約も成立しておらず、リャーグに囚われた事で更に政略結婚には不向きとなり、更に優秀な私兵を幾人も無謀な戦いで失わせたフローディアを、もはやカイラス伯爵家とは無関係であると見捨てたそうだ。

 けれどもフローディアを可愛がっていた祖母が、私費を投じてどうにか彼女を救い出せないかと、付き合いのある商会に頼み込んだらしい。


 なるほど。

 色々とびっくりな話だけれど……、まぁ、コーディも冗談でこんな話はしないだろう。


 ただ、彼もわかってはいるだろうけれど、僕がフローディア・カイラスを見つける可能性なんて、砂浜で一粒だけ落ちてる真珠を見付け出すようなものだ。

 そもそも、まず今も生きているかどうか、そこから怪しい。

 仮に生きていたとしたら、既にリャーグ人の子を産まされて家に組み込まれているだろうし、そうでなければ奴隷か。

 数年前に依頼を受け、それから幾度もコーディはリャーグを訪れているから、それで見つからない以上、どうなっているかはおおよそお察しである。

 それでも商人とは違う場所に出入りする事もある僕に、念の為、万に一つがあるかもしれないからと、この話を聞かせたのだろう。


 積極的に探す依頼でもなく、心に留めおくだけでいいのなら断る理由もない。

 僕はコーディの頼みに頷き、彼の娘のシェーミや、他の護衛達とも少し言葉を交わして別れた。



 さて、隊商と別れた僕とダラッドは一日宿でゆっくり休み、翌日にベアドの闘技場に向かう。

 ベアドの闘技会が次は何時行われるのか、スケジュールやルールを調べるのと、それからリャーグの戦士の実力を改めて確認する為だ。

 何故なら僕は実力を知るリャーグの戦士は、ゲアルド一人だけだから。


 ゲアルドは、流石にリャーグの戦士の中でも上澄みの部類だと思われる。

 実際、彼はリャーグのメダルも持っているような事を言ってたし、自分の実力に関して見栄を張るような性格でもない。

 だから結局のところ、僕はリャーグの戦士が、平均的にはどの程度の実力なのか、正しく把握はできていなかった。


 闘技場は闘技会が行われていない日は野試合や訓練に使われる。

 そこは見習いからベテランまで、幅広い層が利用してる筈だから、二日か三日、そこで訪れる戦士を観察すれば、平均がどこにあるか、おおよそのところは見えてくる筈だ。

 幸い、護衛の仕事の報酬で懐は暖かいから、暫くの間は金を気にして動く必要もない。

 まずは闘技会のスケジュールと、リャーグの戦士の実力を把握してから、今後の方針を決めるとしよう。



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