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僕は乱に身を立てる  作者: らる鳥
三章 北西部の雄

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 その後も二度、賊に狙われたけれど、結局襲ってくる事はなかった。

 一度は街道を塞いで通行料を要求してきたが、コーディが強気に断るとこちらの数とダラッドの体格を見て、しぶしぶと引き下がったのだ。

 体格が大きいというのはやはり有利だ。

 大きな身体でしっかりと装備を身に纏えば、それだけで威圧感が生まれ、余計な争いが避けられる場合もある。


 恐らく、今年はリャーグが大人しかったというから、本当に食うに困った賊の発生も少なかったんだろう。

 すると今いる賊はそれなりに長く生き残ってて、余裕もあって獲物を選べる。

 つまりは慎重な賊だと思われた。

 但しそれは、これから暫くはリャーグに向かって移動をする人が少ないと、賊達がまだ知らないからだ。

 カシューシアの地で起きた戦いがどうなったとしても、暫くの間はリャーグへの街道は閉ざされてしまう。

 或いは僕らが、ここ暫くの間でリャーグに向かう最後の隊商かもしれない。


 もし賊がそれを知ってたら、多少の無理をしてでも隊商を襲ってきてた筈だ。

 リャーグへ向かう人の減少、要するに獲物が減る事は、賊にとっても死活問題になる。

 彼らが無茶をしないのは、自分達に獲物を選ぶ余裕があるからで、実はその余裕がないのだと知れば、多少は無茶でもこちらを襲いに来るに違いない。

 そうしなければ、賊は生きられないのだから。

 単に今回は、賊達がまだ、カシューシアでの戦争を知らなかっただけだろう。

 だが賊だって、完全に世間と切り離されて生きてる訳じゃない筈だから、いずれはそれを知る事になる。

 そうでなくとも、街道を行き交う人が大幅に減れば異変に気付く。

 この隊商の護衛達が真に試されるのは、リャーグからの復路、帰り道になりそうだった。


 旅の合間にはなるけれど、護衛達には訓練、教育でそれなりに手間もかけたから、顔も名前も覚えたし、できれば皆に生き残って欲しいけれど……。

 残念ながら復路には関しては、僕とダラッドは隊商には付き合う予定がない。

 僕は、折角リャーグにきたのだから闘技会への参加はしたいし、体格のいいダラッドはリャーグ人の戦い方を覚えれば更に強くなれる筈だ。

 だからそれなりの期間、リャーグに滞在する事になるだろうし、それが終わった後は船でジャーランドかラリマールへ行こうかとも考えている。


 僕は西方国家群の中でも最も荒れる北西部にくれば身を立てる機会もあるだろうと思っていたけれど、今となっては、それは些か以上に考えが浅かったと言わざるを得ない。

 確かに、僕の実力はこの北西部でもある程度通用したし、結果も残せていると思う。

 ただ本当に大きな事を成そうとすれば、やはり多数の配下を率いる事が前提だ。

 残念ながら僕には、その為の準備が整っていなかった。


 今回、隊商の護衛に一から訓練を施したけれど、これができたのは隊商の商人達のバックアップ、食事から給金等の色々の手当があったからだ。

 もちろんそれは、隊商に雇われてる護衛なんだから当然の事ではあるんだけれど、仮に僕が自分の傭兵団を組織する為に、人を集めて訓練を施して……、となると同じようにはいかないだろう。

 人集め、寝床や食料、給料の管理と、訓練の全てを僕が一人でやろうとすると、間違いなく破綻する。

 それ等を僕の代わりに行える人材を求めるとなると……、北西部でも見つからない事はないだろうが、ジャーランドやラリマールへ足を延ばすのも悪くはない。


 もし優秀な商人が配下に加わってくれたなら、隊商をやるのも一考に値する。

 護衛を多めに抱えて普段は隊商を守らせるけれど、荒れた場所ではそのまま傭兵団に早変わりできれば理想的だ。

 まぁ、今では僕の妄想に過ぎないのだけれども。


 いずれにしても、目的地であるリャーグはもうすぐだった。

 シントポセイアを抜ければソウレーン。

 ソウレーンはシントポセイアに比べて規模が幾らか大きい国だが、それ以外には特に違いはない。

 更に北西に抜ければ、ザンガリアという小国があって、ここはリャーグの隣国にして属国だ。

 自国の力だけでは賊への対処ができなくなって、リャーグに縋ってどうにか生きる事を選択した国である。


 国の選択はともかく、ザンガリアの賊はリャーグが一掃してるので、ここまでくれば襲撃の心配は殆どない。

 隊商の長であるコーディの安堵した様子が伝わって、対象全体の空気が、少し穏やかなものになった。

 護衛として考えると、気のゆるみはあまり良い物ではないんだけれど、……まぁ、常に気を張り続ける事は人間である以上は不可能だし、とやかく言う程ではないだろう。


 そしてザンガリアを抜けると、リャーグが大陸に有する唯一の都市、鉄の斧頭の異名を持つ都市、ベアドが見えてくる。

 リャーグ程の力を持った国が、どうした大陸に一つしか都市を持たぬのかといえば、それは彼らの生き方、或いは戦略に深く関わるからだ。

 というのも、リャーグという国を構成するのは、ベアドを除けば北西の海に多数ある島々で、島ごとに、或いは島内に幾つかある村ごとに、独立の気風が非常に強い。

 時には村と村が、或いは島と島が武器を持ってぶつかり合う事も、決して珍しい話ではなかった。


 尤も、リャーグの人々がリャーグ人である意識がないって話ではない。

 彼らはちゃんと、リャーグという強国の一員である事に強い誇りを持っている。

 ただそれと同時に、自らの島や村の利益に対する意識が、強く頭にあるだけだ。

 ちなみに島といっても、そこらの小国よりも面積の大きな島も混じるから、島によって文化や風習の違いもそれなりにあるという。


 故に、多くの利益を生む大陸の都市をリャーグが複数有した場合、村や島ごとに、重要視する都市も異なって、リャーグ内での意思が割れてしまう、或いは国が割れる可能性があると、古のリャーグ王は考えたらしい。

 例えば、リャーグに対して他所の国の大軍が迫っている時、今ならばベアドに兵力を結集して守ればいいと、リャーグの誰もが考えるだろう。

 しかしもう一つ、リャーグが別の都市を有していれば……、うちの村は、うちの島は、もう一つの都市から主に益を受けているから、あちらを守るのだと意見が割れる。

 それは別に攻められた時だけじゃなくて、どちらの都市の開発に力を注ぐべきか、街道の整備の優先度は、等と多くの事で意見が食い違う筈だ。

 すると、もう一つの都市と、そこから強く利益を受ける島、村が結び付いて、もう一つのリャーグを作ってしまいかねなかった。

 

 もしもリャーグが二つあれば、……そう、間違いなくその二つは常に争い合うだろう。

 その結果、弱ったリャーグは滅ぶかもしれない。

 だからこそ古のリャーグ王は、リャーグが大陸に有する都市は一つだけと定め、皆にとって大切なものを、リャーグの力を一つに集中させたのだ。


 その結果、ベアドは守りが非常に硬く、非常に発展した都市となった。

 旅を終えた隊商は、僕らは、そのベアドの門を潜る。



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