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僕は乱に身を立てる  作者: らる鳥
三章 北西部の雄

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 襲撃者の視点で物を考えるなら、なるべく有利に、身の安全を確保しながら襲撃を成功させたい。

 そうなると襲撃に適した場所というのは限られている。

 身を隠して奇襲が仕掛けられて、その後も遮蔽を利用して身を守りながら射撃が行える場所が、襲撃者にとって都合がいいだろう。

 例えば、木々の茂った林や森、或いは更に高所も取れる崖や岩場か。


 当然ながらそうした場所の近くを通る時は、隊商も襲撃を警戒する。

 ただ子供の頃に互いに隠れたり見付けたりする遊びをした経験があればわかると思うが、隠れられる場所が多い地形で、隠れ潜む相手を見付け出す事は本当に難しい。

 特に確実に相手がいるとも限らないなら、猶更だ。


 護衛の練度が高ければ、一部を先行させて斥候として使うのだけれど、今の隊商の護衛にそんな実力者はいない。

 いや、僕は斥候もできるんだけれど、護衛達に隊商を任せて、僕が先行してしまうのも不安が残るから。

 ダラッドも少しずつ経験は積んできてるけれど、彼だってまだまだ、僕の指示なしでは的確には動けないし。

 だから結局は、なるべく警戒しながら、少しでも異変を見付けられるように気を張って進むしかないんだけれど、……それはシントポセイアに入って二日目の昼の事だった。

 街道が林の横を添うように伸びていて、隊商がそこを進む最中、僕は隣の林の中で何かが動いた気配と、それから害意のような物を感じる。


「盾を構えろ! 馬を守れ!」

 その気配を察した僕の声に、多くの護衛は自分の身を護るので精一杯だが、先頭に配置したダラッドだけは、僕の言った通りに大盾を構えて馬を守る。

 次の瞬間、街道の脇にある林から放たれた矢が、ダラッドの盾に弾かれた。


 倒木で道を塞いだり、襲撃の初手で馬を狙うのは、賊の常套手段だ。

 そうやって先に進ませられないようにしてしまえば、馬車は方向転換に時間が掛かるから、逃げられる心配が大きく減る。

 またその対応を見る事で、こちらの護衛の手強さ、練度を図る目的もあるのかもしれない。


 正直、こちらの護衛の質はとてもじゃないが褒められたものじゃないんだけれど、体格が大きく、すぐに動いて馬を守り切ったダラッドの存在は、賊にとっても大きな脅威と映ったのだろう。

 一瞬、戸惑ったような、押すべきか退くべきかを迷うような空気が流れるけれど、それは明確な隙だった。

 僕は即座に腰に吊るした斧を一本手に取って、気配の一つに向かって全力で放つ。

 斧はクルクルと回転しながら宙を跳び、林の間に飛び込んで、そちらから大きな悲鳴があがる。

 どうやら、ちゃんと命中したらしい。


 弓、クロスボウ、投げ槍、石と、遠距離攻撃の手段は数あれど、今、僕が投斧を使ったのは威力と手軽さの両立ができているからだ。

 うぅん、手軽というのは、ちょっと違うか。

 商人、コーディが買って支給してくれた物とはいえ、投斧も決して安い代物じゃない。

 より正しく言うなら、僕が重視したのは敵の攻撃を防いでから、反撃に移るまでの速度。

 護衛は、どうしても賊に対して受け身になりがちだから、先に見付けて先に攻撃を仕掛けるなら、弓やクロスボウでも良かったのだけれど、相手から攻撃を仕掛けられた場合、弓やクロスボウは嵩張る為、盾を使う事ができなくなってしまう。

 盾があるのとないのとじゃ、相手の攻撃を無事に切り抜けられる可能性が大きく変わる。


 故に片手で盾を使えて、嵩張らない投斧を、僕はコーディに買って貰っていた。

 投斧の欠点は射程距離の短さと扱いに技術がいる事で、投げ槍や石のように、スピアスロアーやスリングといった射程を伸ばしてくれる道具もない。

 だがそれは自身の膂力と技術で、幾らかではあるけれどもカバーはできる。

 筋力の増強と集中力の強化を呼吸で行えば……、結果はさっきの通りだ。


 投斧を受けた賊が死んだのか、怪我で済んだのかはわからないけれど、素早い反撃は迷っていた賊に撤退を決断させるには十分な威力だったのだろう。

 ぴゅいと高い音が鳴ると、こちらを包囲しかかっていた賊達の気配が、一斉に遠ざかっていく。


 襲撃の手際とその判断から察するに、そこそこ手強い賊だった。

 成りたての賊は食に困ってるから、撤退という選択肢をあまり選べない。

 つまりさっきの賊は、既に何度か襲撃を成功させて、獲物を選ぶ余裕がある族なのだろう。

 脱走兵が中心になった賊である可能性が濃厚か。

 襲撃を成功させたといっても獲物の隊商を皆殺しにしてごっそりと積み荷を奪っていった訳じゃなく、包囲後は交渉で、積み荷の一部を通行料として要求してくるパターンもある。


 僕とダラッドがいる以上、戦いになっても負けはしなかったと思うが、まだまだ未熟な護衛達の何人かは、命を落としていた筈だ。

 尤もそれを生き残った護衛達は貴重な経験を得て成長できるのだから、僕が動いて退けた事が果たして正解かどうかはわからなかった。


 ただ僕の行動は、この隊商の護衛としては間違いなく正しい自信がある。

 襲撃なんて、できればないに越した事はないし、様子見だけで敵を退けられたなら、それは護衛として誇るべきだ。

 このまま無事にリャーグに辿り着いて、僕とダラッドが隊商から離れた後は、また別のベテランを教導役に雇えばいい。

 それくらいの判断は、コーディだってしてるだろう。

 もちろん念の為、僕も一言くらいは進言するし。




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