D-DAY+178 2027年6月下旬 皇室会議
このエピソードは、物語中の日本皇室に対して、かなり踏み込んだ描写をしています
どうか一介の外国人が創作したフィクションSF物語として、楽しんでいただけたら幸いです
劇中人物は元モデルは存在するものの、フィクションのオリジナル設定を採用しています
午前9時55分
宮内庁庁舎3階にある「特別会議室」。厚い板張りの壁とシャンデリアが放つ重厚な空気に包まれた長方形の大会議室には、日本の三権の長、皇族代表、そして宮内庁長官など、国を動かすトップ(皇室会議議員)たちが険しい面持ちで着席していた。
上座(議長席)に座るK首相は、手元の時計を一瞥し、重々しく口を開いた
K首相:
「定刻が近づいてまいりました。これより、皇室会議を開会いたします。
本日は、M子内親王殿下ならびにK子内親王殿下の『納采の儀』に関する極めて重大な議案を審議いたします。国の未来を左右する決定となります故、皆様の忌憚のないご意見を賜りたく存じます」
K首相の挨拶の裏で、会議室の空気はピンと張り詰めていた。特に、娘たちの運命を握るH親王殿下は、腕を組み、鋭い視線を入り口の重厚な扉へ向けていた
午前10時ちょうど
宮内庁の儀典長に先導され、重い木製の扉が開かれた
K首相:
「まずは、本日の議案の当事者であり、参考人としてお招きした方々をご紹介いたします」
室内に入ってきたのは、これまでの皇室会議の歴史上、最も異質で、最も強大な力を持つ一団だった。
先頭を歩くのは、黒いスーツ姿に不釣り合いな「重たいリュックサック」を背負ったp.admin(朱雀)と、彼の手を少しだけ緊張した様子で握る、黒く控えめなドレス姿のW子(かおり皇后)
それに続いて、凛とした表情のK子様、少し挑戦的な目を真っ直ぐに向けるM子様、パリッとしたスーツ姿のN君、そして最後に落ち着き払ったT大使が会議室へ足を踏み入れた
彼らは、K首相の向かい側(下座の壁際)に用意された横一列の席へと促され、事前に決められていた完璧なプロトコル通りに着席した
【参考人席の並び順】
[N君] [M子様] [W子] [p.admin] [K子様] [T大使]
中央に「他国の国家元首夫妻」としてp.adminとW子が鎮座し、その両脇を「当事者である内親王殿下」が固め、さらに両端を「実務と外交のトップ(N君とT大使)」が鉄壁の防波堤として守る。視覚的にも隙のない、威厳と覚悟に満ちた陣形であった
* 盤石を砕く「慈愛の盾」
参考人たちが着席し、H親王殿下らが品定めをするような視線を向ける中、K首相は小さく咳払いをした
ここからが、K首相が仕掛けた最大の「政治的奇襲」である
K首相:
「さて、議事に入る前に……本日は、この未曾有の転機において、皇室の歴史と伝統を誰よりも見守ってこられたお二方を『特別参考人(傍聴)』としてお招きしております」
議員たちが「お二方? 誰のことだ?」と顔を見合わせる中、再び扉が開かれた
そこにお姿を現されたのは穏やかな微笑みを湛えた、上皇陛下と上皇后陛下であった
「なっ……!?」
「じょ、上皇陛下……!?」
会議室に激震が走った。H親王殿下は驚愕のあまり椅子から立ち上がりかけ、他の保守派の議員たちも信じられないものを見る目で息を呑んだ
本来、退位した天皇が政治的決定の場に同席するなど、憲政史上あり得ない事態だったからだ
上皇様は、パニックになりかける室内の空気を、片手を軽く挙げて優しく制した
上皇様:
「どうか、そのまま進めてください。私たちはあくまで、これから新しい世界へ旅立とうとする孫娘たちの門出を、後ろからそっと見守りたいだけなのです。議事の妨げにはなりませんから」
ご夫妻は、K首相の背後……ではなく、会議室全体を斜め上から見渡せるように一段高く設置された「特別傍聴席」へと静かに着席された
(上皇様ご夫妻が、斜め上から自分たちの発言を全て見下ろしている)
その事実は、保守派議員たちにとって、言葉では言い表せないほどの凄まじい「無言の圧力」となって会議室に重くのしかかった
* 議題説明と、保守派による「適法性の追及」
圧倒的なプレッシャーの中、冷や汗を拭いながらK首相が議事の概要説明に入った
K首相:
「……お手元の資料をご覧ください。本日の主な目的は、政府が国会に提出予定の『皇室典範特例法・草案(K子内親王殿下の皇籍保留、およびM子内親王殿下の女性宮家設立等)』に関する概要の説明、ならびに、当該法律が成立することを見込んだ上での、納采の儀の認可でございます」
その言葉が出た瞬間だった
上皇様ご夫妻の御前であるにもかかわらず、皇族を代表して出席していた年配の女性皇族議員が、鋭く右手を挙げて発言を求めた
彼女は、皇室の厳格なルールを重んじる保守派であった
女性皇族議員:
「議長。あえて厳しいことを申し上げます。
皇室会議は、現在の皇室典範に基づく厳密な法定機関です。それにもかかわらず、『まだ国会を通ってもいない、存在すらしない法律』を前提として、納采の儀の認可を下すなど……法治国家の機関として、あまりにも順序が逆転しておりませんか? このような越権行為ともとれる進め方では、会議の適法性そのものに重大な疑義が生じます!」
正論であった。法律のプロであれば誰もが抱く真っ当な指摘に、他の議員たちも「確かに……」と重苦しい同意の空気を漂わせた
* 宰相の弁明と、無言の圧力
しかし、K首相はこの指摘を完全に想定していた
彼は慌てることなく、手元の資料を置き、議員たちを、そして上皇様ご夫妻を真っ直ぐに見据えて答弁した
K首相:
「ご指摘の通りです。純粋な法解釈において、現在の我々に未来の法律を適用する権限はありません。
……ですが、本日の会議は単なる法的な認可の場ではございません。これは、日本の三権の長、そして皇室の代表たる皆様による『超法規的な政治的合意(パッケージ合意)』を形成するための場であります」
K首相の重い声が、会議室に響き渡る
K首相:
「相手は、人類の常識を遥かに超える異星文明の技術を扱う『楽園島』であり、そちらににお座りになる朱雀陛下です。もし我々が、特例法と婚約を切り離し、後から法案が否決されるような事態になれば、それは国家間の重大な信義則違反となり、取り返しのつかない外交的破滅を招きます
ゆえに、本日この場で、皆様全員の『特例法成立へ向けた統一見解とご同意』を賜りたい
その強固な合意があって初めて、安心して納采の儀を裁可できるのです」
そこまで語ったK首相は、言葉を切った
そして、会議室の全員の視線が、自然と斜め上の「特別傍聴席」へと引き寄せられる
上皇様と上皇后様は、K首相の「孫娘たちを守るための超法規的措置」という説明に対し、静かに、そして深く頷いておられた
皇室の歴史を背負うご夫妻が、この順序逆転のやり方に「賛同」の意を示されたのだ
「っ……」
女性皇族議員は息を呑み、それ以上の反論を完全に封じ込められた
上皇様が同意されている以上、これ以上の異議は「無粋な横槍」にしかならないからだ。彼女は静かに手を下ろし、着席した
K首相の政治手腕と、上皇様の「慈愛の盾」が完璧に噛み合い、会議最大の法的ハードルが突破された瞬間であった
* 特例法へのパッケージ合意と、皇籍保留
上皇ご夫妻の「無言の肯定」によって適法性のハードルをクリアした会議は、いよいよ本題であるK子内親王殿下の「皇籍保留」と「納采の儀の裁可」についての議論に入った
K首相は、各議員に配布された特例法草案の要点を簡潔に説明していく
K首相:
「……草案の骨子は、K子内親王殿下を降嫁させず『内親王』の身分のまま朱雀陛下へ嫁がせるというものです。ただし、国民の理解を得るため、現行の皇族費(生活費)は全額辞退といたします。公務への出席は政府の要請制とし、その際の経費のみを国の活動費から実費精算する形とします。
本日は、この草案が国会で成立することを『前提』とし、皆様から納采の儀の裁可、および法案適用へのご同意をいただきたいと考えております」
議論が進む中、宮内庁長官が険しい表情で挙手をした
宮内庁長官:
「朱雀陛下にお尋ねします。陛下はかつて、さや妃殿下との婚儀の場で『これ以上妻を娶らない』と誓いを立てておられました。その誓いは、K子様に不義を背負わせる可能性がございます。T大使が提供した資料では、陛下の『誓い』は貴国の国内法違反に付き無効、と書いておりましたが……ここはあえて、陛下ご自身の意見をお聞きしたい」
p.admin:
「かつて私が立てた個人的な誓いが、我が国の家族法の理念と矛盾している事実については、内政総括官リコからの法的な指摘を受け、私自身が主権者として確認・精査いたしました。
また、K子様をお迎えすることは、隣にいるかおり(W子)、そしてこの場にいないリコ(R子)、さや(S子)という妻全員、そして私自身の総意であります。ゆえに私は自分の非を認め、あの誓いを破棄することをここで宣言します。もし文書での証明が必要であれば、今この場でサインいたします」
迷いのないp.adminの宣言に、長官は納得したように頷いた
次に、H親王殿下が鋭い視線を、p.adminの隣で小さくなっているW子へ向けた
H親王殿下:
「……かおり皇后陛下にお尋ねします。娘のK子が嫁入りする件で、貴女はどう思っておられましたか? 将来の家族的な分担について、どういったお考えがございますか?」
突然話を振られ、W子はビクッと肩を震わせた
大勢の政治家に見つめられることは、極度の人見知りである彼女にとって針の筵に等しい
しかし、彼女は逃げずにマイクを引き寄せ、たどたどしい敬語ながらも、静かに、そして真摯に答えた
W子:
「私は……2年ほど前、夫が異星文明の力を使えることが分かった時から、彼をどうにか助けたくて。そして、私の内向的で社交に向かない性格が、彼の足手まといにならないために、いろいろと考えました。
……初めて日本で参加した晩餐会でも、私の性格をご配慮くださり、ありがとうございました。
親友であるリコさんとさやさんにも夫を助けてもらい、私自身の願いと彼女たちの想いが重なって、現在は二人も家族となっています」
W子は、隣に座るK子様へ優しく視線を向けた
W子:
「K子様は、誠実で善良な方です。私たちが力不足な所でも、たくさん夫を助けてくださいました。そして夫も、彼女の力になろうと頑張っています。
将来……もしK子様が家族になってくださった時は、私たちと一緒に、仕事でも、生活でも……一緒に夫を支えてもらえたら、とても嬉しいなと、そう思っています」
飾らない、嘘偽りのないW子の言葉は、政治的な駆け引きが渦巻く会議室の空気を、ふっと温かいものに変えた
K子様:
「……かおり姉様」
K子様は胸を熱くし、小さな声で呟いた
H親王殿下も、少しだけ目元を和らげたように見えた
参議院議長:
「では最後に、K子内親王殿下にお尋ねします。朱雀王家という、我が日本国にない一夫多妻という家族環境に参加すること、複数の妻と共に主人である朱雀陛下と共同生活をなさることについて、ご自身はご懸念がございますか?」
K子様:
「お答えします。私はかねてより朱雀陛下の人格に感銘を受け、彼を慕わしく思っておりました。陛下に3人の奥様がおられることは、最初から承知しております。
日本社会の常識に照らし合わせれば、私の参入は『不倫』と解釈されかねない状況ではあります。しかし、楽園島の家族制度を知った上で、ロンドンでの国交締結式典の折、カミラ皇后陛下の仲介のもと、かおり皇后陛下、リコ妃殿下、さや妃殿下は、私が家族メンバーとして加入することを認めてくださいました。
私は、このような形で幸せを陛下の家族から分けていただけることに、深く感謝しております……懸念点は、一切ございません」
凛としたK子様の声が響き渡る。最初の質疑は、T先生の出番を待つまでもなく、完璧にクリアされた
* 二重の忠誠と、星を越える愛の告白
しかし、保守派の重鎮たちがすんなりと引き下がるはずもなかった
続いて、参議院議長がK子様の「今後の役割」について問いただした
参議院議長:
「朱雀陛下にお尋ねします。今後、陛下及び貴国の総括官の任期は概ね200年と、資料に記載されております。陛下の妻たちはそれぞれ重大な責務のある立場にあることも承知しています。将来、K子様とご結婚された際、K子様にも同様の『責任の立場』を与えるのでしょうか?」
p.admin:
「はい。K子様ご自身がなさりたい事は、できる限り応援したいと思います。
今後の国際情勢の変化で変動する可能性もありますが、現時点では、K子様およびM子様を『異星医療のスペシャリスト』として教育し、従事していただこうと考えております。日本及び世界中へ、今のような限定された異星医療の提供だけでなく、ポルポ・カラマリ文明との協議次第では、人類文明で再現可能な治療法を共有していきたいと考えております」
この回答は、K子様の「皇族」という立場に配慮し、政治や軍事の矢面に立たせるのではなく、大義名分のある「医療」の実務に就かせるというp.adminの優しさであった
M子様(内心):
(え? 医療のスペシャリスト? それは聞いてないよ! ……まぁ、悪い案じゃないけど、私はAlex(N君)のサポートが最優先だからね)
M子様は内心で少し驚きつつも、隣でN君が「良い案だ」とばかりに軽く頷くのを見て、とりあえず納得した
続いて、最も意地悪な質問が飛んだ
衆議院議長:
「内親王殿下。貴女方は特例法により『日本の皇族』の身分を残したまま、異星の技術を管理する国家の中枢に入られる。……もし将来、日本の国益と、楽園島(朱雀陛下)の意志が対立した場合……貴女方は、どちらに味方されるおつもりか? 日本を贔屓して、技術を横流ししてくれるのですか?」
究極の踏み絵。だが、K子様は一切怯むことなく、透き通るような声で答えた
K子様:
「私は、どちらか一方に偏るつもりはありません。
朱雀陛下は、世界のバランスと平和を維持するために全霊を懸けておられます。その『世界』の中には、当然、私の愛する国・日本も含まれています。
私が楽園島で朱雀陛下を支え、正しい決断を助けること……それこそが、最も確実で、最も平和的な『日本への最大の貢献』になると確信しております。私は、日本と楽園島を繋ぐ『揺るぎない橋』となる覚悟です」
見事な切り返しに、衆議院議長はぐうの音も出ずに黙り込んだ
そして、最も欲深い保守派の重鎮、参議院副議長が身を乗り出した
K首相が事前に釘を刺していたにもかかわらず、彼は己の野心を捨てきれていなかった
参議院副議長:
「今回の議案とは直接関連のない質問であることを承知の上で、日本と楽園島の将来の関係を配慮し、朱雀陛下にお尋ねします。
朱雀陛下とK子様がご結婚された後、お二人の間に生まれる『子供』は、楽園島および異星文明を扱う権力の正当な後継者となるのでしょうか?」
会議室の空気が一瞬で凍りついた
K子様は、ピクッと肩を揺らした。p.adminとW子が44歳でも子供がいないこと、そして親友のさやさん(S子)との会話から、「彼は子供を持たないつもりなのではないか」という予感を、彼女は薄々抱いていたからだ
対するp.adminは、表情一つ変えずに、静かに、しかし絶対的な重みを持って答えた
p.admin:
「お答えします。楽園島の統治や私の『執行官』としての権能は、人間の歴史にあるような『世襲制』ではなく、ポルポ・カラマリ文明の基準による『能力推挙制』です。
……ゆえに、私の血を引いているという理由だけで、子供に王位(継承権)を約束することは、ポルポ・カラマリ文明の規則に反するため不可能です」
嘘は一切ついていない。しかし、この回答は副議長の野望を根底から打ち砕く完全な論破であった
K子様は(……やはり。血統よりも、彼の使命が優先されるのね)と内心で納得しつつ、少しだけ胸の奥が締め付けられるのを感じた
p.adminは暫しの間を置き、会議室の全員を見渡して言葉を継いだ
p.admin:
「執行官である私自身の現在の立場が『王』であることは否定しません。ただ、私が有する力は、異星文明から与えられた権限にすぎません。
しかし、私は単なる異星文明の意志を代行する操り人形ではありません。私は自身の信念に基づき、人類社会、そして地球というエコシステムを最善な形で維持し、ほんの少しの調整を加えることで自律的に運行させたい。この星に生きる人々が、強制されることも抑圧されることもなく、尊厳を持って、自由に生きることを目指しております。
次の執行官の人選に関しても、ポルポ・カラマリ文明と相談の上で、客観的かつ公正に選びます。人格および能力が重視され、年齢と出身は一切問われません。先ほど申した通り、私の子供であるという理由だけで選ばれることはあり得ません」
そして、p.adminの視線は、隣に座るK子様へと向けられた
p.admin:
「ただ……これだけは言わせてください。私は、K子様を心から愛しております。
これは決して政略結婚ではありません。私は彼女の善良な本性、そして他人の為に全力を尽くす姿勢に深い感銘を受けました。
私という男は、世間一般から見れば決して『カッコイイ』とは言えません。一部で『豚の王様』などと呼ばれていることも、皆様の耳に入っているでしょう……しかし、こんな私に対しても、K子様は打算のない純粋な好意と善意で接してくれました。私も、全力でそんな彼女の想いに報いたい。
政略結婚ではなく、K子様が底抜けに善良だからこそ、私が彼女を愛し、妻たちも彼女を喜んで迎え入れることになったのです」
p.adminは再び正面を向き、遥か遠い未来を見据えるような声で締めくくった
p.admin:
「200年後のことは、私自身にも予測がつきません。
仮にその時、人類社会が平穏を取り戻しているならば……私は次なる『執行官』を推挙し、私と妻たち、及び楽園島の幹部たちは、それぞれの静かな家庭生活に戻るでしょう。
あるいは、私自身は引き続きポルポ・カラマリの『艦隊司令官』として、この地球から離れ、遥か遠い宇宙の彼方へ赴任する可能性すらあります」
あまりにも壮大なスケール。一人の男の純粋な愛の告白と、星を越える悠久の使命の物語
まるで絵空事のようなその話が、「真実」としてこの場を支配していた
議員たちは完全に言葉を失い、圧倒的な静寂が会議室を包み込んだ
特別傍聴席では、上皇后様がそっと目頭を押さえ、白いハンカチで涙を拭っておられた
権力や野心を超えた、若き王と孫娘の「飾りのない純粋な愛」に、深く心を打たれたのだ
* 全会一致の裁可
この神聖な沈黙を、K首相は逃さなかった
K首相:
「……これ以上の質疑は不要かと存じます。
草案の細則に基づき、K子内親王殿下には皇籍保留中、現行の皇族に課せられる義務や中立性の制限は求めず、今後の自由な活動を担保いたします……朱雀陛下、K子内親王殿下、この条件で相違ございませんか?」
p.adminとK子様は、しっかりと顔を見合わせ、同時に「はい」と頷いた
K首相:
「それでは、採決に移ります。
K子内親王殿下と朱雀陛下の納采の儀の認可、ならびに特例法草案(皇籍保留)への同意について、賛成の方はご起立を」
衣擦れの音が響く
H親王殿下を含め、会議室にいる全議員が、誰一人遅れることなく立ち上がった
K首相:
「全会一致を以て、本議案は可決・裁可されました!
なお、婚姻の儀につきましては、特例法が国会で成立した後、半年以内に行われることが望ましいと付言させていただきます」
* 束の間の休息
午前11時30分。会議開始から1時間半が経過し、「30分間の休憩」が宣言されると同時に、p.adminは猛然と席を立ち、足早に会議室を飛び出した
極度の緊張と、徹夜明けの疲労、そして何より慣れない政治的スピーチのプレッシャーで、胃腸が悲鳴を上げていたのだ
p.admin:
「し、失礼! ちょっとトイレ!」
SPもつけずに廊下を小走りで駆け抜ける異星の王の姿に、宮内庁職員たちは目を丸くした
一方、控え室へ戻る途中
M子様は、周囲の目をはばからずにK子様に抱きついた
M子様:
「やったわね、K子! 全会一致よ!
Alex(N君)も言ってたけど、朱雀陛下のあのスピーチ、最高にロマンチックだったじゃない! 『私は彼女を愛しております』なんて、政治家たちの前で堂々と言ってのけるんだもの!」
K子様:
「お姉様、苦しいです……! でも、はい。本当に……嬉しかったです」
K子様の頬は、朱雀の炎のように赤く染まり、その目には安堵の涙が浮かんでいた
その頃、トイレで顔を洗い、何とか生気を取り戻したp.adminは、会議室の外の廊下に設置されていた休憩用の軽食コーナーに目を留めた
そこには、宮内庁御用達の美しいサンドイッチや焼き菓子が並んでいる
p.admin:
「……腹減ったな」
p.adminが小皿にサンドイッチを山盛りにしてモシャモシャとつまみ食いをしていると、休憩中の議員たちや、T先生が苦笑いしながら集まってきた
T先生:
「陛下、お見事でした。先生の出番など全くありませんでしたよ。さあ、後半戦はM子内親王殿下とN君の番です。しっかり腹ごしらえをしておいてください」
p.adminは口の周りにパン屑をつけたまま、照れくさそうに笑い、N君の肩を力強く叩いた
運命の皇室会議は、いよいよM子様の「愛と自由の望み」へと突入していく
#### 生きていくための選択
正午12時、30分の休憩を経て皇室会議が再開された
後半の議題は、M子内親王殿下とN総括官の納采の儀、および特例法による「女性宮家の設立」である
N君にはp.adminの「一夫多妻」や誓いのような複雑な問題もなく、現在独身であり、200年という長い総括官の任期を除けば懸念事項はほぼない
T大使も当初、この件の裁可は前半のK子様の件よりも遥かにスムーズに終わると予想していた
議長であるK首相が、M子様のための「新しい女性宮家設立」の本意と草案を説明する
K首相が、M子内親王殿下の「女性宮家設立」に関する特例法草案の概要を読み上げ終えた直後
議場の重い空気を切り裂くように、H親王殿下がスッと右手を挙げた
H親王殿下:
「議長、発言をよろしいか」
K首相:
「H親王殿下、どうぞ」
H親王殿下はゆっくりと立ち上がり、参考人席に座る娘のM子様、そしてその隣のN君を鋭く見据えた
H親王殿下:
「特例法により、M子が新たな女性宮家を創設し、当主となる。これは現在の皇室が抱える深刻な担い手不足を補うための、国家としての重大な要請である……ゆえに、当主となるM子の生活の拠点は、当然ながらこの『日本』でなければならない」
親王の視線が、N君を上から値踏みするように捉えた
H親王殿下:
「N総括官。貴殿が楽園島の中枢で要職に就いていることは承知している。しかし、由緒ある日本の内親王を妻とし、特例とはいえ『准皇族』という名誉ある身分を得るのだ。当然、皇室の伝統と都合に合わせてもらう必要がある。
貴殿にはM子の伴侶として、楽園島での職務の傍ら、生活の拠点は日本に置く『通い婚』の体裁をとってもらいたい……いや、これが本会議において宮家設立を認める『絶対条件』である」
表向きは「皇室の公務を維持するため」という正論、しかし、保守派やH親王の裏の思惑は別のところにあった
N君の父は日系一世、母は米国在住のハーフ日系人であり、血統的に「4分の3が日本人」である。総括官とはいえ、生い立ちの身分としては内親王であるM子様より格下と見なし、形式的に「入り婿」のような形で日本の准皇族という立場を与え、手懐けようという保守派特有の強烈な思惑が隠されていた
議場が親王の「正論」に押し黙る中、当のN君は表情を変えず、ただ静かに親王の言葉を受け止めていた
* M子様の決意
K首相が一通りの説明を終え、いよいよM子様へ「女性宮家設立へのご意思」を問う
全員が「つつがなく同意する」と思っていたその瞬間、M子様は凛と顔を上げ、静かに、しかしはっきりとした声で切り出した
M子様:
「K首相、皇室会議の議員の皆様、おじいさま、おばあさま……そして、お父様。
本日は、K子と朱雀陛下、および私とN総括官のために特例法の草案を作っていただき、また、T大使のご尽力により私たちがこうして意見表明ができる場をご用意くださったこと、心より感謝いたします」
一度深く頭を下げた後、M子様はK首相の目を真っ直ぐに見据えた
M子様:
「しかし、新しく女性宮家を設立する件、およびにN総括官に『准皇族』の地位を与える件につきましては……私とNさんは十分に相談した上で、丁重に遠慮させていただくことを決意いたしました」
「なっ……!?」
K首相が用意した完璧な「台本」が根底から覆り、会議室は突如として蜂の巣をつついたような紛糾状態に陥った
H親王殿下:
「M子! お前、自分が何を言っているのか分かっているのか!? 宮家設立の案に同意しなければ、納采の儀そのものも認めないぞ!」
参議院副議長:
「そうだ! 二人の内親王殿下が揃って日本から離れることになれば、皇室の公務や運営はままならなくなる! 絶対に容認できん!」
怒号が飛び交う中、K首相は辛うじて会議の秩序を維持した
彼は額に冷や汗を浮かべながら、あえてM子様に弁明の機会を与えた
K首相:
「……M子内親王殿下、そしてN総括官。本件について、お二方の真意をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
水を打ったように静まり返る室内
M子様は、膝の上でぎゅっと拳を握り締め、言葉を紡ぎ出した
M子様:
「先ほどお父様が仰った『通い婚』についても、宮家の当主というお立場についても……それは、私がNさんの隣に居て、彼を支えるという『妻としての最も重要な責務』を、大きく阻害するものと思われます。
私とNさんの結婚について、様々な考え方があることは承知しております。つい最近まで、Nさんは楽園島の外務参事官として、朱雀陛下の傍で昼夜を問わず補佐しておられました。今回の結婚の話に際し、T大使のご厚意で彼を『外務総括官』へ推挙してくださいました。私もNさんも、そのお心遣いに深く感謝申し上げております」
M子様の声が、少しだけ震えを帯びる
M子様:
「……ですが、『通い婚』では、私は彼の妻として傍に居て、その激務を支えることは叶わないでしょう。
新しい女性宮家の当主となれば、私には日本の皇族としての公務と責務があり、象徴としての義務と中立的な立場を厳格に守らなければなりません……もし、主人であるNさんが世界の平和のために遂行する仕事でさえも、私が『公に支持することが許されない』のだとしたら……それは、本当の意味での『妻』ではないと、わたくしは強く思います」
彼女の目から、大粒の涙が零れ落ちた
M子様:
「私は、Nさんと結婚して、妻として彼の傍に居て、彼の悩みを聞き、困難を一緒に解決し……また私自身も将来的には、楽園島の責務を負い、世界に貢献したいと思っております。
私にとって、Nさんはかけがえのない存在です。法律上の妻という肩書きだけではなく、私たちにとって結婚は、『時間を共有しながら、お互いの心を大切に守りながら生きていくために必要な選択』なのです」
その涙の告白に呼応するように、隣に座っていたN君がスッと立ち上がった
彼もまた、決意に満ちた目で議員たちを見渡した
N君:
「私はM子様を深く愛し、二人で温かい家庭を築いていきたいと願っております。楽園島での重い責務と同時に、できる限りのことをしてM子様が望む生活環境を用意し、公的にも私的にもお支えしていきたいと思っております。
……ご存知の通り、私はアメリカで生まれ育った、元アメリカ国務省の外交官でした。かつて朱雀陛下に命を救われた時、私は陛下に『忠誠』を誓いました。しかし、陛下から返ってきたお言葉は、『私は幹部に忠誠なんて求めていない。求めているのは善良と正義だけだ!』というものでした」
N君は、隣のp.adminへ一瞬だけ敬意の視線を向けた
N君:
「陛下の『正しさへの拘り』や、『理不尽な世の中への力強い変革』に深い感銘を受け、私は楽園島の一員として、外交の場で自分ができる限りの仕事をしてきました。
M子様の今回の『女性宮家設立』のお話で、私は、彼女が皇室と楽園島の板挟みのような立場になることを深く憂慮しておりました……先ほど彼女が説明した通り、私は彼女の傍にいて、仕事から戻った日は彼女の顔を見れて、彼女の手料理を堪能し、そして彼女自身が従事したいと願うお仕事も全力で応援できる……そんな、当たり前の、温かい家庭環境を彼女に用意してあげたいのです」
N君の嘘偽りのない真っ直ぐな言葉に、M子様はさらに涙を溢れさせ、彼を見つめ返して再び立ち上がった
M子様:
「Nさんと知り合い、彼と朱雀陛下が成し遂げてこられたお仕事に、私は深い感動を受けました。
朱雀陛下が変革をもたらしたこの世界が、そして私の愛する日本が……より多くの人が、自分の心を大切に守りながら生きていける社会となることを、私は心から願っております」
* 「王」の共鳴
「時間を共有し、心を大切に守りながら生きていくための必要な選択」
その言葉の奥にある、強烈な意志と凄まじい覚悟の美しさに、p.adminは激しく心を揺さぶられていた
彼は、周囲の怒号も忘れたかのように、ただ静かに、地の底から響くような小さな声で呟いた
p.admin:「……理不尽を」
その声を拾い上げたK子様が、自分の運命をも重ね合わせるように、凛とした声ですかさず繋いだ
K子様:「……抗え!」
二人の小さくも力強い共鳴は、この場におけるM子様への最大の賛辞であった
* 慈愛の裁定
しかし、現実の会議室の紛糾はまだ収まらない。H親王殿下と保守派が「伝統の破壊だ!」と激しく反発する中
斜め上の特別傍聴席で、上皇様が静かに右手を挙げられた
その瞬間、ピタリと、文字通り一瞬にして会議室のすべての音が消え去った
上皇様:
「……皆の憂慮も、親としてのHの悲痛な思いも、よく分かります。
しかし、お聞きなさい。愛する者の傍で、共に重荷を背負い、共に生きたいと真っ直ぐに願う……それこそが、人として最も尊く、美しい『誠実さ』ではないでしょうか」
上皇様の優しく、しかし絶対的な重みを持つお声が、議員たちの胸に染み渡る
上皇様:
「伝統とは、人の心を縛り付け、犠牲を強いるためのものであってはなりません。彼女たちは今、皇室の庇護という特権を捨ててでも、愛する人と険しい道を歩む覚悟を我々に示してくれました……お前たち二人の選択は、決して間違っていませんよ。どうか、胸を張って進みなさい」
上皇様が、M子様とN君に向けて温かい微笑みを向けられた
その瞬間、H親王殿下の肩からガクンと力が抜け、保守派の議員たちも完全に沈黙した。勝負は決したのだ
* 玉虫色の決着と、歓喜の瞬間
百戦錬磨のK首相は、このタイミングを見逃さなかった
K首相:
「……上皇陛下の大御心、そしてM子内親王殿下のご覚悟、しかと承りました。
それでは、特例法草案を一部修正いたします。M子内親王殿下につきましても、K子内親王殿下と同様の『皇族としての義務を課さない皇籍保留』を適用いたします。その上で、女性宮家の設立につきましては、『皇籍保留中の当人が、将来改めて設立を申し出た場合にのみ、皇室会議で裁可する』という形に修正し、本日のところは先送りの中間案とさせていただきます」
見事な政治的着地であった
「将来希望すれば作れる」という一文を残すことで、保守派の顔をギリギリで立てたのだ
K首相:
「修正された本案、ならびにM子内親王殿下とN総括官の納采の儀につき、賛成の方はご起立を」
H親王殿下は数秒だけ躊躇した
しかし、上皇様に見守られ、娘の涙に濡れた決意の顔を前にして……ゆっくりと、しかし確かな足取りで立ち上がった
再び、全員が起立した
K首相:
「全会一致を以て、本議案は可決・裁可されました!」
その宣言が響いた瞬間、M子様は弾かれたように隣のN君に抱きついた。厳粛な皇室会議の場としては極めて異例の行動だったが、誰もそれを咎める者はいなかった。N君も、少し戸惑いながらも、彼女の背中をしっかりと、力強く抱きしめ返した
その光景を見守りながら、p.adminは机の下で、隣に座るK子様の細い手をそっと握りしめ、指を絡める「恋人つなぎ」で彼女の温もりを確かめた。K子様も、嬉しそうにその手を握り返す
そして、その二人の様子を反対側の隣で見ていたW子は、ふわりと優しい微笑みを浮かべ、極度の疲労と緊張から解放されたp.adminの頭を「よく頑張ったね」と労うように、優しくなでなでした
日本皇室という、古い鳥籠が壊れ、二人のプリンセスが新しい星の海へと羽ばたくことが決まった、歴史的な出来事であった
「パラレルワールドでも、歴史や環境が違っても、その人の本質(芯の強さと愛を貫く覚悟)は変わらない」
現実世界の彼女は、メディアや世論の猛烈な逆風の中で「一人の人間としての自由と愛」を選び取りました
本作のM子様もまた、宇宙スケールの異星文明の技術や、K首相・H親王が仕掛ける「特例法や通い婚という名の鳥籠」という巨大な国家の思惑を前にして、それでも自分の魂の形を曲げません
困難な状況下で、愛する人と共に生きるために、自らの意志で茨の道(未知の世界)へ踏み出します




