D-DAY+177-178 2027年6月下旬 グリーンランド防衛戦 氷の戦の終わり
グリーンランド・カーナーク村の入り口
「見えない城壁(重力シールド)」に阻まれ、鼻を折って雪の上に転がった米軍の偽装救助隊は、ただ呆然と立ち尽くしていた
シールドの内側では、雪崩に巻き込まれたはずのアプットたち3人が、村人たちから毛布を掛けられ、温かいスープを飲んで無事を喜び合っている
彼らはピンピンしており、米軍の出る幕など1ミリも存在しなかった
米軍小隊長:
「……クソッ。撤収だ! チューレ基地へ戻るぞ!」
大義名分を完全にへし折られた米軍小隊長は、忌々しげに村を睨みつけると、部下たちに撤退を命じた
装甲車とトラックの車列は、屈辱的な雪煙を上げながら、すごすごと基地へ引き返していった
他の標的となった村でも、全く同じ光景が繰り広げられていた
* PM 12:00 KNR(グリーンランド放送協会)緊急放送
昼12時。修復されたグリーンランドのテレビ網に、自治政府のJe首相の姿が映し出された
Je首相(テレビ中継):
『国民の皆様へ緊急の報告です。本日午前、カーナーク村を含む複数の地域で、6月としては極めて異例の「雪崩」が発生いたしました。
事態の緊急性を鑑み、自治政府は直ちに同盟国である「楽園島」へ人道救助を要請いたしました。結果、楽園島の高度な技術支援により、計8名の遭難者が即時救出され、何れも命に別状はありません。どうかご安心いただき、引き続き安全に投票を行ってください』
Je首相の発表は、見事な政治的バランスの上に成り立っていた
CIAの爆破工作や、米軍を弾き返したシールドについては一切言及しない
アメリカを直接的に名指しで非難することを避けつつ、「雪崩は楽園島が即座に解決した」という事実だけを大々的に公表し、米軍の介入の余地を国際社会の目の前で完全に消滅させたのだ
* PM 16:00:圧倒的な民意
この「奇跡の救出劇」を目の当たりにした村人たちの士気は、最高潮に達した
彼らは集会所で粛々と投票を続け、午後4時を迎える頃には、多くの村で投票箱が締め切られた
一部の村では、午後4時を待たずして「住民名簿の全有権者の投票が完了した」ため、前倒しで即時開票が始まった
最も激しい工作の標的となったカーナーク村の集会所では、開票管理人がマイクを握り、震える声で結果を読み上げた
【カーナーク村 投票結果】
住民名簿(成年者): 102人
投票人数: 88人(※未投票の14人は、CIAに買収され、恐れをなして家から出られなかった親米派と推測される)
結果:
A:デンマーク王国(87票)
B:アメリカ合衆国(0票)
無効票:1票(投票用紙の汚れ)
開票管理人:
「……デンマーク王国への帰属支持、98.8パーセント!!」
その瞬間、集会所は割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。アプットたちも涙を流し、互いに抱き合って勝利を祝った
他の村々の結果も、続々と自治政府本部へ集まってきた
投票率はいずれも90%を超え、どの村も95%以上の圧倒的な支持率で「デンマーク帰属」を選択
最もアメリカ寄りとされていた村でさえ、デンマーク支持が88%に達するという、アメリカにとっては歴史的かつ完全な大敗北であった
* PM 18:00:世界の反応と、発狂する大統領
夕方6時。開票が概ね完了すると、デンマークのM首相からグリーンランドのJe首相へ、熱烈な祝電が打たれた
Je首相も再びテレビ中継に登場し、極寒の地で誇りを守り抜いた住民たちへ深い感謝の意を述べた
この劇的な「民主主義の勝利」に対し、国際社会は即座に反応した
フランスのMa大統領やイギリスJ首相を筆頭に、EUの主要国は次々と「グリーンランドの民意と、平和的な投票結果を全面的に支持する」との声明を発表した
ただ一つ、ドイツだけは異質なコメントを出した
ドイツ政府報道官:
「我が国は住民投票の結果を尊重します。ただし、他国の内政問題に関するこれ以上のコメントは控えます」
※著者注:
ドイツは国内に巨大な米軍ラムシュタイン空軍基地を抱えており、アメリカの逆鱗に触れることを極度に恐れた結果、
肯定も否定もしない「意味不明な日和見コメント」に終始したのである)
そして、ワシントンD.C.。
結果を知ったアメリカ合衆国大統領トランプは、執務室で顔を真っ赤にして怒り狂い、自身のSNSと緊急記者会見で猛烈な暴言を撒き散らした
トランプ大統領:
「こんなものはインチキな選挙だ! デンマークの飾りの王様がわざわざ村を歩き回るなど、明確な中立違反であり、選挙干渉だ!
だいたい、我々アメリカがどれだけあの氷の島を豊かにしてやろうとしたと思っている!? グリーンランドの民は恩知らずめ! いつか必ず後悔させてやるからな!!」
* 氷原の「棺」:p.adminが下した永遠の罰
世界が住民投票の結果に沸き立ち、アメリカが大統領の怒号に揺れる中
グリーンランドの雪深い山岳地帯(雪崩の起爆地点)には、異様な光景が広がっていた
真っ白な氷河の上に、クリスタルで出来た6つの透明な「棺(コールドスリープ装置)」が、静かに鎮座していたのだ
その中には、C4爆薬を起爆させたCIAエージェントたちが、驚愕の表情を顔に貼り付けたまま、ピクリとも動かず眠らされている
米軍回収部隊の兵士:
「ダメです、隊長! ワイヤーを掛けて牽引車で引っ張っても、ミリ単位たりとも動きません!」
「バーナーで炙っても、C4で爆破しようとしても、表面に傷一つ付きません! まるで空間そのものに固定されているようです!」
米空軍チューレ基地から極秘裏に派遣された回収部隊は、絶望的な報告を上げた
「棺」は、楽園島の異星ドローンによる『強力な重力制御』によって、地球の自転と完全に同期してその座標に固定されていた
移動はおろか、破壊することすら、地球の人類の技術では絶対に不可能だった
グリーンランド自治政府は、この異様な物体について「正体不明の遺留物として、現在調査中である」と言い張り、一切のコメントを控えた
内部の時空流速を1/1024倍から1024倍まで自在に制御できる、ポルポ・カラマリ文明の懲罰装置
p.admin(朱雀)が彼らを解放しない限り、この6人のテロリストたちは、極寒の氷原に晒されたまま、意識だけが永遠に近い時間を彷徨い続ける「回復可能な終身刑」を執行され続けるのである
それは、傲慢のアメリカに対し、楽園島が突きつけた「静かで、最も恐ろしい警告」であった
#### D-DAY+178 楽園島 AM 10:00 日本時間 AM 6:00 皇室会議への参加
極北の地でCIAの陰謀を粉砕し、圧倒的な民意でグリーンランドの運命が決定した数時間後
楽園島CICの隣にあるp.adminの執務室では、静寂の中でスマートフォンがけたたましく振動し続けていた
徹夜での極限の軍事・情報作戦を終え、限界を迎えたp.adminは、執務室のソファに倒れ込むようにして仮眠をとっていたのだ
「……んん……」
重い瞼をこじ開け、鳴り止まないスマホをようやく手探りで掴み取る
画面には「T先生」の文字
日本政府から打診されていた「皇室会議への参考人出席」に関する、最終確認の電話だった
グリーンランド自治政府・Je首相の勝利宣言のニュースを確認したT先生が、状況が落ち着いたと判断してかけてきたのだ
電話越しにT先生の報告と気遣う声を聞きながら、p.adminはソファから身を起こし、深く息を吐いた
p.admin:
「……先生、ご配慮ありがとうございます。ですが、皇室会議に出ます。
この数日、K子様ばかりを戦わせてしまって……一人の男として、心から申し訳なく思っているんです。今日の会議には、私とN君、そして妻のW子も一緒に行きます」
T先生:
『おお……陛下ご自身が。しかし、ろくに寝ておられないでしょう』
p.admin:
「ええ。ですから、少しでも休む時間を稼ぎたいので、我々は時間ギリギリに、ワープで直接『宮内庁庁舎の正門前』に飛びます。そこで先生と合流させてください」
* 家族の支えと、わずかな休息
楽園島時間、午前10時過ぎ
p.adminは自室のマンションへ戻り、妻のW子に「数時間後の皇室会議に同席してほしい」と告げた
人見知りであり、大勢の人間や政治家がひしめく空間はW子にとって最も苦手とする場所である
しかし彼女は、今日の会議がK子様にとってどれほど重要か、そして夫がどれほど疲弊しているかを理解し、一切の文句を言わずに小さく頷いてくれた
熱いシャワーを浴びて疲労を少しだけ洗い流し、ベッドに倒れ込んだp.admin
あと2時間半だけ眠れる……そう微睡みかけた時、開け放たれた寝室のドアが控えめにノックされた
イギリスから帰還したばかりのS子だった。W子から事情を聞き、心配して駆けつけてきたのだ
S子:
「ちょっと。皇室会議に出席するって聞いたけど、あんたとW子だけで本当に大丈夫なの? 日本のタヌキ親父どもが相手でしょ……無理してでも、私が一緒に行こうか?」
ベッドの端から顔を覗き込むS子の気丈な優しさに、p.adminは少しだけ口角を上げた
p.admin:
「大丈夫だ……厳しい想定問答の回答案は、すでにT先生がまとめてくれている。皇室会議に呼ばれているのは私とW子だけだから、ここは俺がきちんと戦ってくるよ……だが、グリーンランドの作戦で徹夜したから、今は少しだけ休ませてくれ」
S子:
「……そうね、わかったわ。あんたがそこまで言うなら任せるわ。
でも、何かあったらすぐ『家族指輪』で連絡してきなさいよ! ……おやすみ」
S子は優しく毛布を掛け直し、静かに部屋を出て行った
* D-DAY+178 日本時間 AM 9:00(楽園島時間 PM 13:00)いざ、決戦の舞台へ
楽園島時間、午後1時前
p.adminがセットしていたスマホのアラーム音が鳴り響いた
目を覚ますと、隣にはすでに身支度を終えたW子が静かに座っていた
彼女は、日本の皇室という厳格な場に配慮し、上品でありながら極めて控えめな黒色のドレスを身に纏い、ネックレスなどのアクセサリー類は一切身につけていなかった
その飾り気のない姿が、逆に彼女の純粋さと覚悟を引き立てていた
W子が用意してくれた簡単なおにぎりを胃に流し込み、p.adminは着慣れた普通の黒いスーツに着替える
そして、彼が背負ったのはいつも重たい『リュックサック』だった。中には、R子が朝から急いで用意してくれた説明用の紙資料(楽園島の家族法や、誓いの公開破棄の手順書)の束、異星タブレット、愛用のノートPC、そして日本側へ提示するための一般的なタブレットPCが詰め込まれている
異星の王でありながら、彼は最後まで「一人の研究者」のスタイルを崩さなかった
* 時刻:日本時間 AM 9:30
楽園島の中央広場。p.admin、W子、そしてパリッとしたスーツ姿のN君が合流した
p.admin:
「N君、心の準備はいいか? 向こうには君の天敵(H親王)もいるぞ」
N君:
「ええ。M子様をあのような鳥籠に閉じ込めておくわけにはいきませんからね。腹は括っています」
頼もしいK君の返事に頷き、p.adminは空を仰いだ
p.admin:
「よし、では出発しよう!
システム命令。私達3人を、日本国・宮内庁庁舎の正門玄関前にワープ転送!」
空間が青白く歪み、次の瞬間
日本の皇居内、厳粛な空気が漂う宮内庁庁舎の車寄せに、3人の姿が音もなく出現した
◇◇◇
T先生:
「お待ちしておりました、陛下!」
いち早く駆け寄ってきたのは、事前に待機していたT先生だった
一方、宮内庁の職員や皇宮警察の護衛たちはパニックに陥っていた
マスコミのシャットアウトは完璧だったが、まさか同盟国の国家元首が、専用車もSPの車列も引き連れず、リュックを背負って文字通り「突然空間から湧いて出た」のだから無理もない
宮内庁職員:
「す、朱雀陛下!? ど、どこから!? いえ、直ちにご案内を!」
大慌てでインカムに向かって叫ぶ職員たちを尻目に、p.adminたちは涼しい顔で庁舎内へと足を踏み入れた
* 恩師と教え子
厳重な警備を抜け、一行は皇室会議が行われる「特別会議室」のすぐ隣にあるVIP用控室へと案内された
重厚なソファに腰を下ろすと、T先生が手元の資料を広げ、これからの会議の大まかな流れと、K首相が描いている「特例法と納采の儀のパッケージ合意」という綱渡りのシナリオを早口で解説した
説明を聞き終え、会議室の壁の向こうから漏れ聞こえてくる重鎮たちのざわめきを感じ取ったp.adminは、ふと苦笑いを浮かべた
p.admin:
「……なんだか、昔の『博士論文の本審査』の時よりも緊張しますね」
その言葉に、T先生は柔らかな、しかし力強い笑みを返した。
かつて、p.adminがつくばT大学の大学院生だった頃、彼の博士論文の「主査」を務めたのは他ならぬT先生だったのだ
T先生:
「何を言うか。陛下はすでに、グリーンランドという実地試験で『100点満点』を叩き出しているじゃないか。
堂々と、自信を持って挑みなさい……もし意地悪な質問が飛んできたら、わたし(主査)が全力でフォローしてやるから」
恩師の頼もしい言葉に、p.adminの肩から少しだけ無駄な力が抜けた
時計の針が、午前10時を指そうとしている。隣に座るW子の手が、p.adminの袖をぎゅっと握りしめた
いよいよ、K子様とM子様の未来、そして日本と楽園島の運命を決める「皇室会議」の幕が上がる
連休明けの夜ですが、今日はさらなるサプライズがあるかもしれない
今回は短った理由は、次の話はとても分割してはならないからです




