D-DAY+176-177 2027年6月下旬 グリーンランド防衛戦 陰謀が現実になる時
このエピソードは、物語中の日本皇室に対して、かなり踏み込んだ描写をしています
どうか一介の外国人が創作したフィクションSF物語として、楽しんでいただけたら幸いです
劇中人物は元モデルは存在するものの、フィクションの設定を採用しています
#### 黄金の鳥籠
D-DAY+176 土曜日の午前10時
H親王邸の応接室には、重苦しい空気が漂っていた
H親王殿下は、ソファに座る二人の娘、M子様とK子様を前に、極めて重大な決定事項を告げた
H親王殿下:
「明後日の月曜日、お前たちの婚約の可否を問う『皇室会議』が開催される。
……今回は、特例法によるK子の『皇籍保留』と、M子の『女性宮家設立』も同日に裁可される異例の事態だ。そのため、当事者であるお前たち二人にも、参考人として出席してもらう」
娘たちの意志を確認する場が設けられたこと自体は、T大使を始める楽園島側の根回しの成果であった。しかし、H親王殿下はそこで終わらなかった
彼は父親として、そして皇族としての「意地」を見せるように、厳しい声で続けた
H親王殿下:
「M子。N氏……いや、N総括官が、向こうで重要な立場にあることは承知している。
だが、日本の新宮家当主の伴侶となる以上、こちらの都合にも合わせてもらう! 皇室の伝統と体面を守るためだ。……最悪の場合、向こうでの仕事は続けさせつつも、生活の拠点は日本に置き、彼がこちらへ足を運ぶ『通い婚』の体裁をとらせることも想定内だ。よく伝えておくように」
その言葉を聞いた瞬間、M子様は息を呑み、膝の上のスカートを強く握りしめた
M子様:
(通い婚!? 世界の運命を左右する外交トップの彼に、毎週末日本へ通えと言うの!?)
怒りとショックが込み上げたが、M子様は奥歯を噛み締め、じっと俯いて反論を飲み込んだ
この場で感情的に父親と言い争っても、月曜日の会議を前に波風を立てるだけで、何のメリットもないと悟ったからだ
K子様も、姉の無念を察し、ただ静かに一礼して父親の言葉を受け流した
* 縛り付けられる未来
H親王殿下が足早に部屋を去ると、M子様は弾かれたように立ち上がり、応接室の重厚なドアが完全に閉まったことを確認してから、大きなため息をついた
M子様:
「……信じられない! 通い婚ですって!?
今の皇室に担い手が不足しているのは痛いほど分かっているわ。でも、今回の宮家設立や皇籍保留は、私たちが幸せになるための特例じゃなくて……まるで、私たちを一生日本に縛り付けておくための『策』じゃない!」
M子様はソファに倒れ込み、悔しそうにクッションを抱きしめた
M子様:
「Alex(N君)は、朱雀陛下を一番近くで補佐しなきゃいけない、楽園島の心臓部みたいな人なのよ?
彼を『日本の准皇族』なんていう窮屈な肩書きで縛り付けておいたら、彼の仕事を妨害するだけだわ……そんなの、彼が可哀想すぎる」
K子様は、取り乱す姉の隣に静かに座り、その背中を優しく撫でた
K子様:
「お姉様、お気持ちは分かります。私も少し不安です。
……ただ、大夫(宮内庁大夫)からこっそり伺った皇室典範改正の草案では、N様のような『准皇族』には、私たちのような皇族としての厳格な義務や、居住の制限までは課されないと聞いています。ですが……」
M子様:
「『実際はどうなるか』なんて、分からないじゃない!
私はね、ただAlexの『法律上の妻』になれればそれでいいわけじゃないの。
私は楽園島に行って、彼と同じ空気を吸って、彼の激務を隣で支えたい……皇族の宮家っていう縛りのせいで、仕事レベルで彼に協力できず、ただ東京の屋敷で彼が帰ってくるのを待つだけの生活なんて……そんなの、本当の意味での『妻』とは呼べないわ!」
M子様の目には、愛する人と共に戦えないことへの強い焦燥感と、無力感の涙が滲んでいた。
* 鳥籠を越える誓い
姉の痛切な本音を聞き、K子様は静かに、しかし深い決意を込めて真っ直ぐに前を見た
彼女自身も、今回の特例は目に見えない時限爆弾の予感を抱えている。それでも、彼女の芯にある「愛」は揺るがなかった
K子様:
「……お姉様。
もし、この日本の皇籍が、私たちを縛る『黄金の鳥籠』なのだとしたら。
月曜日の皇室会議で、私たちが自らの口で、その鳥籠の扉を開けるしかありません」
M子様:
「K子……?」
K子様:
「お父様や政治家の方々が、どんな体裁や特例法を作ろうとも。
私は……どんな形であれ、朱雀陛下の傍に参ります。
彼が重い決断を下す時、冷たい夜に孤独を感じる時、私が必ず隣で彼を支える……その誓いだけは、誰が何と言おうと、決して譲るつもりはありません」
K子様の穏やかな、しかし鋼のような決意に満ちた瞳を見て、M子様はハッと息を呑み、そして小さく笑った
M子様:
「……ふふ。あんたって、昔からそういうところあるわよね。怒るんじゃなくて、静かに、絶対に退かないの。
……そうね。私たちが暗い顔をしてちゃダメだわ。彼らは今、グリーンランドで命懸けの戦いをしているんだから。
月曜日の会議、絶対に私たちの『本当の意志』を突きつけてやりましょう!」
二人のプリンセスは、互いの手を強く握り合った。
大人たちが作った「特例法」という複雑な縛り綱を前にしても、彼女たちの視線は真っ直ぐに、愛する人たちが待つ遠い楽園島へと向けられていた
#### D-DAY+176 PM 12:00 歴史を紡いだ夫婦の決断
赤坂御用地の一角にある仙洞御所
静かな陽射しが差し込む応接室で、上皇様と上皇后様は、沈痛な面持ちで控える宮内庁大夫からの「報告」に静かに耳を傾けていた
宮内庁大夫:
「……以上が、明後日の皇室会議に提出される、K総理主導の特例法草案の全容でございます。
また、誠に申し上げにくいことですが……H親王殿下は、M子内親王殿下の伴侶となるN総括官に対し、生活の拠点を日本に置かせる『通い婚』の体裁を強いるおつもりのようです。さらに、一部の政治家からは、K子内親王殿下が嫁がれた後、朱雀陛下との間に生まれるお子様に『楽園島の唯一の王位継承権』を求めるような声すら上がっておりまして……」
報告を終えた大夫は、あまりの生々しい政治的打算の数々に、深く頭を垂れた
皇室の担い手が著しく減少している現状への危機感は、上皇ご夫妻も痛いほど理解されている
しかし、孫娘たちの純粋な想いが、国家の都合や政治家の欲によって雁字搦めの「鳥籠」にされようとしている事実は、お二人の心を深く痛ませた
上皇后様:
「通い婚、ですか……。
あの楽園島という場所で、昼夜を問わず世界の平和のために奔走されている若いお二人に、そのような過酷な生活を強いるなど……あまりにも可哀想でなりません。
それに、まだ見ぬお子様の未来まで取引の材料にするなど、人の親の情として、Hはどうして平気でいられるのでしょう」
上皇后様は、悲しげに目を伏せた
上皇様もまた、ゆっくりと首を横に振り、静かな、しかし確かな憂いを含んだ声で仰った
上皇様:
「皇室の体面や伝統を守ろうとするHの親心も、また、国益を最大化しようとする政治家たちの焦りも分からないではありません。
……しかし、伝統とは、今を生きる若者たちの『個人の幸せ』や『自由な選択』を犠牲にしてまで、無理に縛り付けるための鎖であってはならないはずです。朱雀陛下が我々に示してくれたあの広大な宇宙の前にあっては、我々の常識はいかにも窮屈であろう」
* 退位した王の「最後の出陣」
上皇様は、傍らの上皇后様とそっと視線を交わした
言葉を交わすまでもなく、半世紀以上を共に歩んできた夫婦の意志は完全に一致していた
上皇様:
「大夫。K総理に伝えてくれませんか。
明後日の皇室会議に、我々夫婦も『参考人』として出席したい、と」
宮内庁大夫:
「なっ……!? じょ、上皇陛下!
お言葉ですが、陛下は既にすべての公務から退かれ、国政に関する機関である皇室会議に口を挟まれることなど、前代未聞の……!」
大夫は慌てふためいた。退位した天皇が政治的な会議の場に現れるなど、憲政史上あり得ない事態だったからだ
自分がどれほどの影響力を持ってしまうか、上皇様ご自身が一番よく分かっておられるはずなのに
上皇様:
「分かっています。ですから、議決権を持つメンバーとしてではなく、あくまで当事者の祖父母としての『傍聴』、あるいは『参考人』としてです。
……可愛い孫娘たちが、自らの足で新しい世界へ羽ばたこうとしているのです。その門出を、この目で見届けてやりたいのですよ」
その日の午後。
宮内庁大夫から「上皇ご夫妻の出席要請」を聞かされたK首相は、官邸の執務室で頭を抱えていた
K首相:
「勘弁してくれ……ただでさえ前代未聞の特例法を通そうとしているのに、上皇様までお出ましになれば、会議の空気がどうなるか予測もつかない!」
しかし、無下にお断りするわけにもいかず、K首相は急遽スケジュールを調整し、直接お考えを伺うために仙洞御所へと足を運んだ
応接室に通されたK首相に対し、上皇様は穏やかな笑みを浮かべて語りかけた
上皇様:
「K総理。お忙しい中、無理を言って申し訳ありませんね。
あなたが会議の運営について、大変な苦労と躊躇をされていることは承知しています。決して、皇室会議の方々に指図する意図はありません。
ただ……今回の日本皇室における未曾有の転機において、皇室の三代を見てきた自分と妻は、何かしら有意義な意見を共有できるかもしれないと思いましてね」
上皇后様:
「総理。あの子たち(M子とK子)は、皇室の品位を誰よりも重んじながらも、自分自身の心に嘘をつかず、誠実に生きようとしています。
もし会議の場で、古い慣習の壁があの子たちの前途を阻もうとした時……私達が黙って寄り添うだけで、あの子たちはどれほど勇気づけられることでしょう」
お二人の言葉には、政治的な野心など微塵もなかった
ただ純粋に、これから途方もない運命(異星の王たちとの婚姻)を背負おうとしている孫娘たちの個人の選択を尊重し、自由な未来へ送り出してやりたいという、深い「慈愛」だけがあった
* 最強の「無言の圧力」の誕生
K首相は、ご夫妻の真っ直ぐな瞳を見つめ返し……そして、脳内で猛烈な速度で政治的計算を弾き出していた。
K首相:
(……待てよ?
明後日の会議で一番の障害になるのは、「皇室の伝統」を盾にゴネる保守派の重鎮たちだ。
だが、「皇室の伝統そのものを体現されてきた上皇様ご夫妻」が、孫娘の自由な選択を応援するために同席されているとしたら? ……保守派の連中は、上皇様の御前で『伝統に反する!』などと吠えることができるか?
……いや、絶対に無理だ。ご夫妻がただそこに座っておられるだけで、『最強の無言の圧力』となり、私の描いた特例法の議案は、恐ろしいほどスムーズに全会一致へ向かうはずだ!)
K首相は、内心の歓喜を悟られないよう、深く、最も敬意を込めたお辞儀をした
K首相:
「……上皇陛下、上皇后陛下。お二人の深く温かい御心、しかと拝聴いたしました。
皇室の歴史の生き証人であられるお二人に同席していただけることは、議長である私にとっても、これ以上ない心強い支えでございます。
明後日の皇室会議……お二人のための『参考人席』を、必ずご用意させていただきます」
こうして、来たる明後日の皇室会議は、
当事者であるK子様とM子様、異星の王たるp.adminとW子皇后、そして日本の象徴を全うした上皇ご夫妻という、歴史上最も豪華で、最も予測不可能なメンバーが一堂に会する「伝説の舞台」へと昇華されたのだった
#### D-DAY+177 グリーンランド AM 9:00 投票日 民主主義の夜明け
ついに運命の日曜日、「諮問的住民投票」の朝がやってきた
数日前までの重苦しい不安と猜疑心が嘘のように、グリーンランドの各集落や村には、早朝から活気が満ち溢れていた
午前9時の投票開始を前に、投票所となる村の集会所の前には、分厚い防寒着に身を包んだ村人たちの長い行列ができていた
集会所の中にはは、グリーンランド自治政府から派遣された厳格な面持ちの役人、そして万が一の事態に備えてアサルトライフルを携行したデンマーク国軍の兵士たちが、鋭い視線で警備に当たっている
午前9時ちょうど。集会所の扉が開き、歴史的な投票が始まった
年齢や職業を問わず、住民たちは次々と中へ入り、自治政府の役人による慎重な身分証の確認を受ける
その後、投票用紙を受け取った彼らは、秘密が完全に守られるカーテン付きの投票ブースに入り、
自らの意志で『A』か『B』のいずれかに印をつけ、重厚な投票箱へと投函していった
しかし、奇妙なことが一つあった
数日前までアメリカのCIAから「見えない口座」で大金を受け取り、親米派として村の空気を乱していた一部の者たちの姿が、投票所に全く見当たらないのだ。
彼らは、デンマーク国王の慰問によって村の空気が完全に『A』で固まったことを悟っていた
「これではアメリカが勝つ見込みはなく、約束された金も引き出せない
おめおめと投票所に顔を出せば、村八分にされてこの極寒の地で生きていけなくなる」という恐怖から、家の中に固く鍵をかけて震えているのだろう
* チューレ空軍基地:悪魔の計画
一方、村の平和な光景とは裏腹に、近くの米空軍チューレ基地の作戦司令室では、CIA幹部たちが忌々しげにモニターを睨みつけていた
現地のCIA工作員や雪山に潜伏しているCIA実行部隊のエージェントから次々と通信が入る
CIAエージェント:
『ボス、まずい状況です。ターゲットの三つの村とも、村人総出で投票所の前に並んでいます。
……この状況で予定通り雪山の斜面を爆破し「人工雪崩」を起こしても、村外れに人がいなければ生き埋めになる者が出ません。誰も巻き込まれなければ、連中はただの自然災害だと思って、投票を優先してしまうでしょう』
それを聞いたCIA幹部は、舌打ちをして通信機をひったくった
CIA幹部:
『クソッ……! どいつもこいつも、あんな氷の王冠(デンマーク国王)の飾りに感化されやがって!
……いいか、開始と同時の妨害はもうどうでもいい! 予定を変更する。
投票を済ませた後、必ず何人かの村人は、村の近くの作業場や狩猟ルートの点検へ向かうはずだ。そのタイミングを狙って雪崩を起こせ!』
CIA幹部:
『何人かが確実に「生き埋め」になれば、イヌイットの異常な仲間意識が火を噴く。奴らは間違いなく投票箱を放り出し、村人総出で助けに飛び出してくるはずだ!
その大混乱の隙を突いて、米軍の救助部隊(という名の制圧部隊)を村へ突入させる! ……ターゲットが想定範囲に入るまで、起爆キーから手を離すな!』
* AM 10:00 氷が崩れ落ちる時
午前10時
アプットさんを含める早々に投票を済ませた数人の村人たちが、いつもの日常に戻るため、村の近くにある資材置き場(作業場)へと足を運んでいた
日々の猟に使うスノーモービルや、漁具の手入れをするためだ
その頭上。切り立った雪山の斜面の岩陰に、白いギリースーツを着込んだ2名のCIAエージェントが息を潜めていた
斜面の雪の層の最も脆い部分には、計算し尽くされた配置で小型のC4プラスチック爆薬が仕掛けられている
エージェントの双眼鏡が、作業場に入っていく3人の村人と、少し遅れて歩いてくる2人の村人を捉えた
CIAエージェント:
『ターゲット、作業場に到着。3名が範囲内……やります』
エージェントは無線越しに短く告げると、手元の起爆装置のセーフティを外し、赤いボタンを親指で冷酷に押し込んだ
「ドンッ!!!」
空気を切り裂くような、鈍く重い爆発音が極北の空に響き渡った
爆薬自体の規模は小さい。しかし、その衝撃波は「引き金」としては十分すぎた
斜面に積もっていた数万トンの雪の層が一瞬にして結合を失い、巨大なひび割れが走る
次の瞬間、真っ白な悪魔が牙を剥いた
「ゴゴゴゴゴォォォォォ……ッ!!!」
地鳴りのような轟音と共に、巨大な雪の壁が時速100キロ近い猛スピードで斜面を滑り落ちていく
村人A:
「な、なんだ!?」
アプット:
「雪崩だ!! 逃げろッ!!」
作業場にいた3人の村人は、頭上から迫る白い絶望を見上げ、絶叫した。しかし、人間の足で逃げ切れる速度ではない。
あっという間に、3人の体と作業場の小屋は、凄まじい雪の濁流に飲み込まれ、完全に雪の下へと消え去った。
村人C:
「アプット!! 嘘だろ……!!」
少し離れた場所を歩いていて難を逃れた2人の作業者は、目の前で仲間が生き埋めになった光景に顔面を蒼白にさせた
彼らは雪崩が収まるのも待たず、狂ったように村の中心部、投票所のある集会所へ向かって駆け出した
村人D:
「誰か! 誰か来てくれ!! 雪崩だ! アプットたちが生き埋めになったぞ!!」
悲痛な叫び声が、平和な投票が行われていた村の空気を一瞬にして引き裂いた
CIAの恐るべき陰謀『オペレーション・アイスピック:フェーズ4』が、ついにその残忍な牙を剥いた瞬間であった
#### D-DAY+177 グリーンランド AM 10:11 楽園島 D-DAY+178 AM 00:11
深夜の楽園島CIC(中央指令センター)
静寂を破り、突如としてけたたましい警告音が鳴り響いた
ホログラム画面に展開されていたグリーンランド上空の異星ドローンによる監視映像のうち、複数の枠が激しく赤く点滅を始める
異星ドローン(合成音声):
『警告! グリーンランド・カーナーク村周辺。人為的な爆発反応、および大規模な雪崩の発生を検知』
ローテーション勤務で監視に当たっていたIWAさんは、突如起きた異常事態に血の気を引かせた
IWAさん:
「ば、爆発!? 雪崩!? まずい、これはただの自然災害じゃない!
直ぐ朱雀様に知らせないと!……そうだ、ドローンに命令! 米軍チューレ基地の動向を至急把握しろ!」
IWAさんは震える指でコンソールを叩き、すぐさま隣の執務室へと駆け出した
* 命の天秤と決断 時刻: AM 00:12 - 00:15
CICの隣、p.adminの執務室
p.adminはジャケットを羽織り、妻であるW子と交わした「夜はきちんと家に帰って休む」という約束を守るため、ちょうど自室のマンションへ帰ろうとしていたところだった
バンッ!と、ノックの音もなくドアが勢いよく開け放たれる
そこに立っていたのは、顔面を蒼白にさせたIWAさんと、警告音で仮眠から叩き起こされ、ネクタイを握りしめながら駆け込んできたN君だった
IWAさん:
「朱雀様! 緊急事態です!
グリーンランドのカーナーク村を含む複数の村付近で、人為的な爆発による雪崩が発生しました! CIAの妨害工作が実行された模様です!」
p.admin:
「なんだと……!?
これはまずい! システム命令! 雪崩発生場所に人員の生き埋めがあるかを直ぐ調べろ! そして、他の村に似たような事故がないかもスキャンしろ!」
p.adminが叫ぶと同時に、彼の手元の異星タブレットが恐るべき処理速度で解析結果を弾き出した。
上空の異星ドローンが放つ「重力波レーダー」と「重力光子を用いた遠隔赤外線センシング技術」が、分厚い雪の層を透過し、遭難者の生体反応をリアルタイムで捕捉する
異星タブレット:
『解。グリーンランド内、人工的な爆発による雪崩は現在2ヶ所で発生。
遭難者総計8名。全員の生存反応を確認。うち3名は低体温症が進行中』
p.admin:
「システム命令! 直ぐ遭難者を救助しろ!」
p.adminが即座にドローンへ介入を命じた瞬間、傍らのN君がすかさず前に立ち塞がり、制止の声を上げた
N君:
「朱雀様! お待ちください!
デンマーク政府のM首相と、我々楽園島は『表に出ない』という条件で合意したはずです! ここで我々の技術で救助を行えば、アメリカに口実を与えてしまいます!」
p.admin:
「ふざけるな! 人命救助に表も裏もクソもないだろう!
人が雪に埋もれて死にかけているんだぞ、政治の言い訳なんか後回しだ!
……そうだ、IWAさん! 米軍基地の動きはどうなっている!?」
p.adminの怒鳴り声に近い決断に、N君はそれ以上止めることを諦めた
IWAさんは自分の異星タブレットで情報を確認し、即座に報告する
IWAさん:
「チューレ基地は……ありました!
オレンジ色の『レスキュー隊』の服を偽装した米軍の武装部隊、約100人が基地を出発しています! 現在、雪崩が起きたそれぞれの村へ向けて猛スピードで移動中!」
CIAの狙いが「救助を名目にした村の占領と投票箱の奪取」であることは明白だった
だが、アメリカの救助部隊が到着するよりも遥かに早く、楽園島は介入した
異星タブレット:
『ドローンの重力操作により、雪崩遭難者8名の救出完了。
うち3名は軽度の低体温、5名は部分的な凍傷。心拍、血圧、血中酸素飽和度は正常。命に別状はありません』
雪崩のデブリの中から、重力場によってふわりと空中に浮き上がらされ、安全な雪の上にそっと降ろされる村人たち
神業としか言いようのない救出劇が、文字通り「一瞬」で完了した
* p.adminの激怒
p.admin:
「クソ……雪崩を誘発して人命を脅かすなど、どこまで姑息な手段を使いやがる!
システム命令! 雪崩現場の爆発で使われた爆薬の種類は何だ? 同じ爆薬成分を携行している人間をエリア内からスキャンしろ!」
異星タブレット:
『解。人工雪崩の誘発に使われた爆発物の主な成分は、RDXと観測。
監視エリア(各集落、村、及び周辺の山岳エリア)内で、現在同等の物質を携行している人員は、計6名』
まだ爆発を起こしていない、あるいは逃走中のCIAの実行部隊だ
p.adminの目に、冷酷な怒りの火が灯った
p.admin:
「その6人を、爆薬ごと『棺』に入れろ! 指一本動かせるな!」
血眼になって犯人への即時制圧を下すp.adminの傍らで、N君は冷静さを取り戻し、外務総括官としての的確なアドバイスを進言した
N君:
「朱雀様。遭難者の救出と工作員の無力化は完了しました。しかし、向かってきている100人の米軍部隊の『口実』を潰さなければ、村は占領されます。
本件は直ぐに、デンマーク政府とグリーンランド自治政府に連絡しましょう。事情を現地のデンマーク兵士に伝え、彼らに『シールド発動リング』を使わせる方が大事です!」
p.admin:
「……そうだな。わかった、そっちの外交と連絡はお前に任せる。
シールドの展開は、あくまでデンマーク自身の防衛行動として彼らに任せているんだ。……IWAさん、アメリカ部隊の現在位置を随時デンマーク側に共有してやってくれ!」
IWAさん:
「了解です、朱雀様! 直ちにデータをリンクさせます!」
N君は手元の異星タブレットを操作し、デンマーク国防大臣が持つ『量子通信端末』への映像付きのホットラインを強制的に開いた
執務室のホログラム空間に、コペンハーゲンの国防省で待機していたデンマーク国防大臣の驚いた顔が立体的に浮かび上がる
N君:
「国防大臣閣下。楽園島総括官のN(Nagata)です。緊急事態につき手短にお伝えします。
たった今、CIAの工作員によってグリーンランドの複数の村の近辺で人為的な雪崩が引き起こされました」
デンマーク国防大臣:
『なんだと!? 遭難者は!?』
N君:
「ご安心ください。我が方の介入により、遭難者8名は既に雪から引き上げられています、何れも命の別状はありません。
問題は、これを『災害救助』の口実として、米軍の偽装部隊約100名が村の占領(投票妨害)に向かっていることです……閣下、彼らを村に入れてはなりません」
N君が国防大臣とやり取りをしている横で、IWAさんもまた別の回線を開き、デンマーク国防情報局の将校と直通で繋いでいた
IWAさん:
「こちら楽園島CIC! デンマーク情報局、データを受信してください!
現在、オレンジ色のレスキュー服を着た米軍部隊のリアルタイムの位置情報、および進路予測をそちらに映すホログラム画面に表示しました!」
IWAさんのタブレットから送られた超高精度のデータが、デンマーク側に現すホログラム画面に米軍の動きを丸裸にして映し出す
デンマーク情報将校:
『……受信確認! なんという精度だ、米兵一人ひとりの動きまで手に取るように分かるぞ!
よし、現在地から見て、彼らが村の入り口に到達するまであと十分程だ。直ぐに現場で警備に当たっている我が国の兵士たちに指示を出す!』
将校は通信機を握りしめ、グリーンランドの凍てつく現場でアサルトライフルを構えているデンマーク兵士たちに向けて、力強く叫んだ
デンマーク情報将校:
『現場の各部隊へ! 米軍の偽装部隊がそちらへ向かっている! 遭難者は既に無事だ、奴らの救助は必要ない!
村人を守れ! これより、楽園島の朱雀陛下より賜った「防衛の盾(シールド発動リング)」の展開を許可する!!』
氷の島を舞台にした、アメリカの強引な軍事介入と、楽園島・デンマーク連合による「見えない防衛戦」
村の入り口へと迫る偽装米軍部隊を待ち受けていたのは、彼らの想像を絶する「絶対に破れない光の壁」であった
* D-DAY+177 グリーンランド AM 10:20 カーナーク村 雪崩の報せ
およそ10分前。カーナーク村の集会所で順調に進んでいた投票の最中、外から「ドンッ」というくぐもった爆発音と、それに続く不気味な「ワッフ音(雪崩の前兆を示す雪層の崩壊音)」が微かに響いた
すでに住民の8割が投票を終え、和やかな空気が漂っていた集会所に、作業場から死に物狂いで逃げてきた村人Cと村人Dが転がり込んできた
村人C:
「た、大変だ! 作業場の上の斜面で雪崩が起きた! アプットたち3人が生き埋めだ!!」
その悲痛な叫びに、集会所はパニックに陥った
「なんだって!?」「早く助けに行かないと死んでしまう!」
血の気の多い若者たちが、投票用紙を放り出してスコップやロープを手に取り、我先にと集会所の出口へ殺到し、即席の救助隊が結成されようとしていた
デンマーク兵士:
「待ちなさい!! 全員、この場を動くな!」
出口の前に立ち塞がったのは、自動小銃を構えた2名のデンマーク国軍兵士だった
彼らのインカムには、たった今、本国の情報将校からの緊急通信が叩き込まれたばかりだった
デンマーク兵士:
「遭難した3名は既に無事だ! それよりも今、米軍の武装部隊が『救助』を名目にこの村を強襲しに向かってきている! 危険だ、絶対に村から離れてはならない!」
村の若者:
「無事なわけがないだろう! 目の前で雪に飲まれたんだぞ! そこをどけ!」
* 王の名に誓う抑止力
半信半疑の村人たちが兵士を押し退けようとしたその時、兵士は銃を下ろし、村人たちに向かって直立不動の姿勢をとった
デンマーク兵士:
「信じてくれ! 私はフレデリック国王陛下の名に誓って、今の話に一切の偽りがないことを宣言する! 王を、そして我々を信じてここで待機してくれ!」
昨日、直接村を訪れ、自分たちと同じ目線で語り合ってくれた王の名。その重い誓いの言葉に、若者たちの足がピタリと止まった
* シールド展開:見えない城壁
兵士はすぐさま村長を呼び寄せた
デンマーク兵士:
「村長、アプットたち3人以外は全員この村の中にいるな!?」
村長が周囲を見渡し、「ああ、全員いる。……昨日までアメリカに尻尾を振っていた連中も、家の中に引きこもっているはずだ」と頷いたのを確認すると、兵士は自らの腕にはめられた「腕時計のようなデバイス」に手を掛けた
それは、楽園島からデンマーク軍に極秘裏に供与されていた『シールド発動リング』
兵士がリングの先端部分をカチリと回転させると、デバイスから微弱な光が放たれた。次の瞬間、空中の水分がわずかに揺らぎ、村全体をドーム状に包み込む「淡い緑色の半透明のシールド」が緩やかに展開された
大気の流動(酸素)は通すが、物理的な運動エネルギーを完全に減衰・反射させる、異星の重力制御による絶対防壁である
シールドが展開されてから数分後
地鳴りのようなエンジン音と共に、複数台の大型軍用トラックと、2台のストライカー装甲車が雪煙を上げて村の入り口へと迫ってきた
村の入り口の様子を確認しに来たデンマーク兵士と村長が見守る中、先頭を走っていた装甲車が、突如「見えない何か」にタイヤを阻まれたように急ブレーキをかけた
後続の車両から、オレンジ色のレスキュー服を着込んだアメリカ軍の偽装部隊が次々と降りてくる。その下には防弾チョッキを着込み、手にはアサルトライフルが握られていた
部隊を率いる小隊長は、車両が進めなくなった原因を確かめるため、先頭に立って村の入り口へと足を踏み入れた
「――ボフッ」
米軍小隊長:
「痛ッ……! な、なんだこれは!?」
何もない空中で、まるで分厚いゴムの壁に顔面をぶつけたように跳ね返された
小隊長は苛立ち紛れに腰からコンバットナイフを引き抜き、目の前の空間へ思い切り突き立てた
重力曲線が極大化するシールドの表面は、ナイフの切っ先を柔らかく受け止めながらも、決してそれ以上の侵入を許さず、逆に強い反発力でナイフを弾き返した
* 破綻する大義名分
そこへ、シールドの内側からデンマーク兵士と村長が歩み寄ってきた
米軍小隊長:
「デンマーク軍か! 我々はアメリカ軍の特別救助隊だ。近くで雪崩を検知したため、人道支援に駆けつけた!
急いでこの……ふざけた壁(ジャミング装置か何かか!?)を解除し、我々を村に入れろ!」
デンマーク兵士:
「お前たちの介入は不要である! 遭難した村人は既に救出された。ただちに引き返せ!」
米軍小隊長:
「ハッ! 嘘をつけ! 発生から15分も経っていないんだぞ、こんなに直ぐに救助されるはずがないだろう!」
小隊長が怒鳴り散らした、まさにその時だった
彼らの背後の雪道から、ふらふらとした足取りで、3人の男たちが村の入り口に向かって歩いてきた。髪や服には雪がこびりついているが、自力でしっかりと歩いている
雪崩に巻き込まれたはずの、アプットら3人だった
アプット:
「お、おい……村長。俺たち、急に体がフワッて浮いて……気がついたら雪の上に出されてて……」
米軍小隊長:
「なっ……! ば、馬鹿な! 確かにC4で直撃させたはず……っ!」
(しまった、声に出した!)と小隊長は慌てて口を噤んだが、すでに遅かった
遭難者が無事に戻ってきたことで、「救助」という大義名分は完全に消滅したのだ
CIAから「何が何でも村を制圧しろ」と厳命されていた小隊長は、計画の破綻に焦り、強引な論理のすり替えに出た
米軍小隊長:
「……そ、そうだ! とにかく村に入らせろ! 雪崩のデブリ(残骸)の片付けを手伝ってやる!」
村長:
「帰れと言っているのが分からないのか! あんたらの助けは要らない!」
明確な拒絶。小隊長はついに本性を現し、アサルトライフルの銃口をアプットたちに向けた。
米軍小隊長:
「ええい! お前ら3人は、雪崩を引き起こしたテロの容疑者だ! 我々アメリカ軍が身柄を拘束する! 取り押さえろ!!」
命令を受け、数人の屈強な米兵がアプットたちに向かって猛然とダッシュした
村長:
「逃げろ、アプット!!」
村長の叫び声に、アプットたち3人は弾かれたように村の中へ向かって走り出した
内側にいたデンマーク兵士は、シールドが展開されていることを思い出し、「待て、そのまま走れば壁にぶつかるぞ!」と声を掛けようとした
しかし、次の瞬間。
シールドの表面に激突する寸前だったアプットたち3人の体が、ふっと空間の歪みに飲まれたかと思うと、「10メートルだけ」内側に瞬間移動し、デンマーク兵士の真横にドサリと尻餅をついたのだ
直後、彼らを追いかけてきた米兵たちは、ブレーキが間に合わず、全力疾走のまま「見えない壁」に激突した
米兵:
「ぐはあっ!?」
「鼻が、鼻が折れたァッ!!」
ボインッ!という間抜けな音と共に、米兵たちは次々と後方へ弾き飛ばされ、雪の上に無様に転がった
重力シールドは、外からの物理的侵入を完璧にシャットアウトしたのである。
* 時刻: 楽園島 CIC D-DAY+178 AM 00:25
地球の反対側、楽園島のCIC。
ホログラム画面に映し出される一連の映像を、IWAさんは手に汗握る思いで見守っていた。
アプットたちが米軍に捕まりそうになった瞬間、IWAさんはシステムを神速で叩き、ドローンに命じて「3人の生体IDをシールドの『ホワイトリスト(通過許可)』に即時登録」し、さらに「重力制御で10メートルだけ内側に引っ張り込む」という合わせ技を実行したのだ
「……ふぅっ!」
画面の中で米兵たちが無様に壁に弾き返されるのを見て、IWAさんは安堵の息を吐き、額の汗を拭った
IWAさん:
「よかった、間に合ったな……!
ホワイトリストの動的更新と、短距離の重力スリングショット……少し荒っぽかったが、これで村人は全員安全圏だ」
極寒の地で牙を剥いたアメリカの「偽装された軍事力」は、楽園島のCIC幹部による神業と、異星の絶対防壁の前に、手も足も出ない状態へと追いやられたのだった
おまたせしました、今回グリーンランドの話は意外と長い
次は、皇室会議話まで進めようかと思います
重力シールドの原理確認:
(以前、p.adminとポルポカラマリ文明との会話を抜粋)
p.admin:
「重力シールドの物理的な話を確認したい、もし重力場的にシールド外周部が重力膨張の境界線であれば、あらゆる物質をシールド表面から外に押し出すになる」
「それだと外部の空気が中に入らないだが、実際シールドの人の酸欠は見られない」
「さらにシールド内に別設置の酸素発生器も見られない、何か定期的に空く穴等の抜け道が存在するでしょうか?」
ポルポ・カラマリ:
「君の考えた通りシールド表面も内部から重力膨張が起き、重力曲線はシールド表面に近づくと極大化する働きはある」
「人類生存に必要な大気成分に関しては複数の解決策があり、君が利用している生体保護用のシールドはエネルギー反応と正比例に重力曲線が平坦となり大気の流動は許される」
p.admin:
「それだと、相手が毒ガスを流すと防げないではないか?」
ポルポ・カラマリ:
「重力シールドの展開はドローンが制御する故、有害ガスの存在を観測できればシールドは球体状に展開し有害ガスの侵入をブロック可能」
よって、特定の人達をホワイトリストに登録して、その人達だけがシールドから進出することも可能




