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D-DAY+172-173 2027年6月下旬 グリーンランド防衛戦 鳥籠の中の王

本作はついに100万字を突破しました!

* 束の間の日常 D-DAY+172 日本時間 PM 19:00 楽園島時間 PM 23:00


赤坂での激闘を終え、つくばの楽園島大使館へと戻ってきたW子(かおり皇后)、R子(リコ妃)、S子(さや妃)の三人。

彼女たちは大使館のダイニングではなく、「普通のファミレスに行きたい!」というR子のささやかな要望により、近隣にある黄色い看板が目印のファミリーレストランのボックス席に陣取っていた


W子:

「んーっ! やっぱりこの包み焼きハンバーグ、最高ね! ドリンクバーのメロンソーダも懐かしいわ」


S子:

「ちょっとかおり、一国の皇后がハンバーグの肉汁で感動しないでよ。……まあ、私もこのカリカリのポテト、大好物なんだけどね」


R子:

「ふふっ。SPの方々には外で待機していただいて申し訳ないですが……たまにはこういう『普通の女の子』に戻る時間も必要ですね」


日中の、国の存亡と皇室の歴史を背負った重圧から解放され、三人は笑い合いながら安価で美味しい日本の洋食をつついていた

だが、その平穏な時間の裏で、休むことなく「次の手」を打ち続けている男がいた


* 大使館執務室:老練なる外交官と国のトップ


同時刻。楽園島大使館の執務室

T先生はネクタイを少しだけ緩めたものの、ソファに座ることもなく、首相官邸とのホットラインの量子通信機の受話器を取った

通信の先は、日本の行政の頂点であり、皇室会議の議長を務めるK首相である


T先生:

「K総理。夜分遅くに申し訳ありません。楽園島大使のTです」


K首相(通信):

『おお、T大使。お待ちしていましたよ。

……赤坂のH親王殿下との直談判、いかがでしたか? 殿下は首を縦に振られましたかな?』


K首相の声には、単なる興味本位ではない、国家の命運を懸けた切実な響きがあった

彼は筋金入りの「親・朱雀(p.admin)派」である。東京ワープゲートの開通による物流革命、そして楽園島がもたらす超常的なテクノロジーの恩恵によって「失われた30年」を取り戻し、日本を再び豊かな大国へ押し上げる。それが彼の最大の野望であり、志だった

だからこそ、K子様が朱雀のもとへ嫁ぐことは、日米同盟を遥かに凌駕する「最強の安全保障と絆」の獲得を意味していたのだ


T先生:

「身分の問題や、朱雀陛下の『誓い』の無効化など、法的なハードルは我が方の王妃たちの奮闘により、全てクリアいたしました。

……しかし、最後に『寿命』という思わぬ壁にぶつかりましてな」


T先生は、楽園島幹部たちの「200年の任期(不老)」についてH親王殿下が絶望し、結果として『納采の儀』の許可が皇室会議への持ち越しになった顛末を詳細に報告した


K首相:

『二百年……!

なるほど……。朱雀陛下の超絶的な力を見れば、不老長寿の恩恵があっても不思議ではありませんが。確かに、親の心情としては計り知れない恐怖と孤独を感じるでしょうな。H親王殿下が即答を避けられたのも無理はない』


K首相も一瞬息を呑んだが、すぐに冷徹な政治家の思考へと切り替えた


K首相:

『しかし、国益を考えれば、ここで我々が立ち止まることはあり得ません。

皇室会議の議長は、内閣総理大臣たる私です。

事態の重大さは重々承知しておりますが、殿下の親心には寄り添いつつも、最終的な「認可」に向けて、私が責任を持って会議の根回しを行い、まとめ上げましょう。大使、ご安心ください』


* 永田町の思惑:降嫁か、それとも……


K首相の力強い約束に、T先生は深く感謝の意を示した


T先生:

「総理、ありがとうございます。議長である貴方がそう仰ってくださるなら、百人力です」


K首相:

『ただ、大使。実は……永田町(議会)では、本件について少し別のアプローチの声が大きくなっていましてね』


T先生:

「別のアプローチ、と申しますと?」


受話器の向こうで、K首相が少し声を潜めた


K首相:

『ええ。K子内親王殿下が、あの「世界のバランサー」たる朱雀陛下へ嫁がれることについてです。

これを単なる一般人への「降嫁(皇籍離脱)」として処理してしまうのは、国家としてあまりにも惜しい……いや、政治的な損失であると考える議員が、与野党問わず増えているのです』


T先生:

「ほう……」


K首相:

『つまり……この機会に、「女性宮家の設立」を認めるべきだという声です。

あるいは、特例法を制定し、K子様とM子様が婚姻された後も、皇族としての身分(皇籍)を保留したまま楽園島へ渡っていただくという案です』


その言葉に、老練なT先生の目が見開かれた


K首相:

『お二人が日本の「内親王」の身分を保持したまま、楽園島の「王妃」や「総括官の妻」となられれば……日本と楽園島の結びつきは、不可分なものとなります。

我々は、東京ワープゲートの恩恵を永遠に享受でき、アメリカや中国に対しても、最強の外交カードを持つことになる。

それに……H親王殿下が恐れている「娘が皇室から完全に切り離される孤独」も、皇籍が残っていれば、少しは和らぐのではないでしょうか?』


T先生は、口元にニヤリと笑みを浮かべた。

K首相の提案は、純粋な皇室への敬意というよりは、高度に計算された「地政学的なしたたかさ」に満ちていた

しかし、それは楽園島にとっても、M子様・K子様にとっても、決して悪い話ではない


T先生:

「……なるほど。流石は総理、恐ろしいほどの深謀遠慮ですな。

確かに、お二人が『皇族のまま』楽園島に拠点を移されるのであれば、H親王殿下の反対理由の大きな部分を削り落とすことができます。

……総理のその野望、朱雀陛下に代わり、この私がしっかりと受け止めましょう」


K首相:

『頼もしい限りです。

朱雀陛下は現在、あの極北のグリーンランドで、アメリカを相手に激しい戦いを繰り広げておられると聞いています。

ならば我々は、ここ日本で、陛下の帰るべき「家族の場所」を盤石に整えておきましょう』


T先生:

「ええ。早急な皇室会議の招集と、議員たちへの水面下での工作、よろしくお願いいたします。

私も、いつでも議会へ出向いて『楽園島の価値』を説く準備はできております」


通信が切れると、T先生は窓の外に広がるつくばの夜の景色を見下ろした

皇室の伝統、親の愛、そして国家の打算

様々な思惑が複雑に絡み合う中、M子様とK子様の運命を決める「皇室会議」に向けた、大人たちの高度な政治戦が幕を開けたのだった


#### 鳥籠から飛び出す王様


* イギリス時間 D-DAY+172 AM 11:00 グリーンランド時間 AM 10:00 楽園島時間 D-DAY+173 AM 00:00


安全なロンドンの一角、イギリス政府が手配した豪奢なゲストハウス

デンマーク国王フレデリック10世は、窓から灰色の空を見上げ、深く重いため息をついていた


本国コペンハーゲンや、グリーンランド自治政府からの報告は随時上がってくる

昨日の自身の「ビデオメッセージ」が一時的に事態を沈静化させたことは喜ばしいが、CIAが今度は「見えない金」で村人たちを買収して回っているという事実は、王の心を激しく苛んだ


フレデリック国王:

「……私はここで、安全な場所で紅茶を飲んでいる場合ではない。

私の民が、札束で心を切り刻まれようとしているのだぞ。一刻も早く、グリーンランドへ向かわねばならない」


しかし、同席しているイギリス政府の安全保障担当官は、首を横に振った


英・安全保障担当官:

「陛下、お気持ちは痛いほど分かります。しかし、どうかもう暫くロンドンに御滞在ください。

現在の上空は、アメリカ空軍が我が物顔で飛来する無法地帯です。再び陛下を危険に晒すわけにはまいりません」


国王は拳を強く握りしめた。命を惜しむつもりはないが、移動手段となる航空機の安全が担保されない以上、異国の地で歯痒さに耐えるしかなかった


* ホットラインと王の威光とジレンマ


同時刻。デンマークのM首相と、グリーンランドのJe首相は、楽園島から提供された量子通信端末を用いたホットラインで激しい議論を交わしていた


グリーンランドJe首相:

『M総理、CIAの買収工作は巧妙です。警察の捜査も空振りに終わり、このままでは日曜日の投票までに、いくつかの村が金で籠絡されてしまいます。

ここは……やはり、国王陛下の「直接の威光」をお借りするしかありません!』


デンマークM首相:

『直接だと? 陛下にグリーンランドへ入っていただくというのか!』


グリーンランドJe首相:

『はい。政治的な「どちらに投票しろ」という表明は不要です。

ただ、両陛下が「嵐の後の見舞い」として、村々を慰問・視察して回っていただくだけでいい。

王が直接足を運んでくださったという事実が、どんな札束よりも強力な防波堤になります!』


M首相はモニター越しに頭を抱えた。理屈は完璧だが、リスクが高すぎる


デンマークM首相:

『……しかし、移動をどうする?

アメリカは確実にまた干渉してくるぞ。北海上空でのあの危機(F-22による威嚇)を、二度も起こすわけにはいかん!』


グリーンランドJe首相:

『ならば、楽園島に頼んで「ワープ転送」を使っていただくのはどうですか? あれなら一瞬で……』


デンマークM首相:

『ダメだ! それだけは絶対に避けねばならん!』


M首相は強い口調で遮った


デンマークM首相:

『もし陛下が「朱雀のワープ技術」を使ってグリーンランドに現れれば、アメリカのプロパガンダに最高の餌を与えることになる。

「ほら見ろ、デンマーク王室は朱雀の操り人形だ。全ては異星人が裏で糸を引いている」と宣伝されてしまう!

今回は、朱雀陛下には極力「表」に出ないようお願いし、あくまで「地球の、我々自身の力」で陛下をお連れしなければならないのだ!』


M首相の政治的判断は極めて正確だった。楽園島の力を借りすぎれば、主権国家としての正統性が失われる。


グリーンランドJe首相:

『ですが、デンマーク空軍もイギリス空軍も、主力機はF-35やF-16……アメリカ製です。電子戦のバックドアやジャミングのリスクを考えれば、信頼できません』


デンマークM首相:

『分かっている。アメリカ製に依存しない、強力な航空戦力を持つ同盟国……。

……フランスだ。直ちに、Ma大統領に支援を要請する!』


* 救世主なるEU盟主の計算


フランス、パリ・エリゼ宮。

デンマークからの極秘要請を受けたフランスのMa大統領は、執務室のデスクをバンッと叩き、満面の笑みを浮かべた。


Ma大統領:

「素晴らしい! これぞ我がフランスが待ち望んでいた展開だ!

イギリスばかりが楽園島と親密な関係を築いているのが腹立たしかったが……ここで我々がデンマーク国王を救出・護衛すれば、朱雀に対し『EUの真の盟主はフランスである』と強烈にアピールできる!」


Ma大統領は、アメリカへの対抗心と、楽園島への猛烈なアピールチャンスを逃さなかった

彼は即座に関係部署へ激を飛ばした


Ma大統領:

「即刻、大統領専用機『コタム・ユニテ(Cotam Unité)』をロンドンへ差し向けろ!

護衛には、純国産の誇りたるダッソー・ラファール戦闘機を16機つけろ!

アメリカのF-22がちょっかいを出してきたら、レーダーロックして追い払ってやれ!

同時に、グリーンランド内での視察用に、最新鋭のH225Mカラカル・ヘリコプター部隊をヌーク空港へ先行出発させろ!」


「ついでに、私もロンドンへ飛ぶ! 英雄を迎えに行くのだからな!」

Ma大統領の号令により、フランスの巨大な航空戦力が一斉に空へ舞い上がった


* ヒースロー空港 時刻:イギリス PM 13:00


ロンドン・ヒースロー空港の特別駐機場

けたたましいジェット音と共に、フランス空軍の誇るラファール戦闘機の大編隊が飛来し、続いて白と青と赤のラインが美しいフランス大統領専用機(A330-200)が滑り込んできた


タラップが降りると、まるで映画の救世主のような自信に満ちた足取りで、Ma大統領が降り立った

待機していたフレデリック国王ご夫妻に対し、Ma大統領は芝居がかった誇り高い敬礼を送った


Ma大統領:

「フレデリック国王陛下! 自由と博愛の国、フランスがご恩返しに参りました。

アメリカの横暴など、我が国のラファールが空の塵にして差し上げます。さあ、安全な『ヨーロッパの翼』で、貴方の民が待つ氷の島へ向かいましょう!」


フレデリック国王:

「……恩に着る、大統領。この借りは決して忘れない」


機体が給油を終えると、国王ご夫妻を乗せた専用機は、16機という異例の超重武装のラファール編隊に囲まれながら、極北の空へと飛び立っていった。


* 氷海を見下ろして


大統領専用機の広々としたVIPキャビン

フレデリック国王は、窓から広がる暗く冷たい北大西洋の海を見下ろしていた

周囲には、フランスのラファール戦闘機がピタリと寄り添い、鉄壁の陣形を組んでいる


フレデリック国王:

(……ありがたいことだ。フランスの協力がなければ、私は今もロンドンで無力感に苛まれていた)


国王は、妻であるメアリー王妃の手をそっと握った


フレデリック国王:

(アメリカの軍事力は恐ろしい。彼らの狡猾な工作も恐ろしい。

だが、あの極寒の地で、見えない金に心を揺さぶられながらも、私の言葉を信じて待ってくれている『家族』たちがいる。

……私はデンマークの王だ。彼らの誇りを、絶対にアメリカの札束などに売り渡させはしない)


王の瞳には、凍てつく海よりも深い、揺るぎない決意が宿っていた


* ヌーク空港到着:迎撃のファンファーレ


数時間後。グリーンランド・ヌーク国際空港

上空に、地鳴りのような轟音が響き渡った


分厚い雲を切り裂いて、16機のラファール戦闘機がデルタ編隊で空港上空をローパス(低空飛行)する。それは、アメリカ軍への強烈な威嚇であり、「王の帰還」を告げるファンファーレでもあった

続いて、巨大なフランス大統領専用機が、凍てつく滑走路に静かに着陸した


氷点下の風が吹き荒れるエプロン(駐機場)には、グリーンランド自治政府のJe首相が、厚手のコートに身を包み、今か今かと待ち構えていた

タラップが接続され、ドアが開く


Je首相:

「陛下……!!」


凍てつく風の中、タラップの上に姿を現したフレデリック国王とメアリー王妃の姿を見て、Je首相の目に熱いものが込み上げた


フレデリック国王:

「待たせたな、首相。

……さあ、村々を回ろうか。私たちの『家族』の顔を見に」


国王が静かに、だが力強く頷く。

楽園島のワープ技術という「魔法」に頼らず、地球の同盟国と、人間の意志の力で繋がった「王の帰還」

CIAの卑劣な買収工作を打ち砕くための、最大にして最強のカウンター・オペレーションが、今ここから始まろうとしていた


#### ドイツ・ラムシュタイン空軍基地の苛立ち


* 時刻: イギリス PM 13:10 / 中央ヨーロッパ時間 PM 14:10


※補足:

ラムシュタイン空軍基地はドイツにありますが、「在欧州アメリカ空軍(USAFE)」の司令部があるため、

イギリスからグリーンランドへ向かう北大西洋上空のNATO統合レーダー網のデータを全てリアルタイムで監視しています


ドイツ、ラムシュタイン空軍基地。

在欧米空軍司令部の薄暗いオペレーション・センターに、レーダー監視員の切羽詰まった声が響いた


レーダー監視員:

「司令! イギリスのヒースロー空域より、大規模な編隊が離陸!

北西へ向かっています。進路、グリーンランド・ヌーク!

……こ、これは! 識別信号(IFF)を解析……フランス空軍です!

ダッソー・ラファール戦闘機、なんと16機! さらに中央には、フランス大統領専用機『コタム・ユニテ』を確認!」


基地指揮官(米空軍将官):

「フランスだと!?

マクロンの野郎、何だってこんな大編隊を北極海へ飛ばしやがる!」


指揮官は、巨大な戦術モニターに映し出された17の光点(機影)を睨みつけた

そこへ、情報将校が足早に駆け寄ってくる


情報将校:

「司令、MI6内部の協力者からの情報が入りました。

大統領専用機には、ロンドンに滞在していた『デンマーク国王夫妻』が搭乗している模様。フランスが国王のグリーンランド帰還に『絶対的な護衛』を買って出たようです!」


基地指揮官:

「くそっ……! やられた!

これは我々アメリカに対する、明白な威嚇だ!」


指揮官は、手元のコンソールを拳で激しく叩きつけた


基地指揮官:

「デンマークのオンボロ機なら、通信障害やジャミングを装って引き返させることもできた。

だが、相手が『フランスの純国産機』で、しかも『フランス大統領専用機』の盾に守られているとなれば話は別だ。

レーダー照射ロックオンでもしてみろ、NATOの盟主を気取るフランスと、最悪の場合、全面戦争(第三次世界大戦)になりかねん!」


情報将校:

「F-22をスクランブル発進させ、進路を妨害しますか?」


基地指揮官:

「馬鹿を言え! 16機のラファールが相手だぞ。下手に近づけば、奴らは嬉々としてミサイルのセーフティを外すだろうよ!

……ワシントン(CIA本部)へ報告しろ! 『王の帰還を物理的に阻止することは不可能。作戦のフェーズを見直せ』とな!」


最強のステルス戦闘機を擁するアメリカ空軍の指揮官は、トリコロールの盾に守られて悠々と自軍の空域を突破していく光点たちを、ただ歯噛みして見送ることしかできなかった


#### 「介入」という名の戦争下の日常


* イギリス D-DAY+172 PM 11:30 楽園島時間 D-DAY+173 AM 0:30


深夜の楽園島。行政ビルのCIC(中央指令センター)では、IWAさん、KATOさん、INOさんの3人がローテーションを組みながら、数千機の異星ドローンを通じてグリーンランドの監視を続けていた


そこへ、つくば経由で帰還したW子(かおり皇后)、R子(リコ妃)、S子(さや妃)の三人が足音を忍ばせてやってきた

作戦の邪魔にならないよう、S子がそっとCICのドアから顔を出し、当番中のINOさんに小声で尋ねる


S子(小声):

「INOさん、お疲れ様。……旦那様は今、お話しできる状態?」


INOさん(小声):

「あ、さや妃殿下、おかえりなさい! ちょうど今、朱雀様も仮眠から目覚めて、N君から『デンマーク国王を出迎える為のフランス機が出発した』という報告を受けているところです。執務室にどうぞ」


三人が隣の執務室のドアを開けると、p.adminはコーヒーを片手にホログラムモニターを睨み、N君はネクタイを締め直しているところだった


S子:

「旦那様、ただいま戻りました! 話し合いの結果は……半分勝利で、半分持ち越しってところね」


S子の声に、p.adminはモニターから目を離し、妻たちに労いの視線を向けた

S子主導のもと、R子が適宜論理的な補足を入れながら、赤坂のH親王邸での顛末

「身分」や「誓い」の壁はクリアしたものの、最終的に「200年以上の寿命」という事実がH親王に重くのしかかり、納采の儀(婚約)は皇室会議の判断待ちになったこと

が報告された


p.admin:

「……そうか。若返り(200年の任期)の件で躊躇されたか。

まあ、人間の常識からすればパラダイムシフトだからな。一回の交渉だけで最後まで上手く行くとは俺も思っていなかった。

だが、あの頑固なH親王殿下に『交際』を認めさせ、外出禁止まで解かせたんだ。素晴らしい戦果だよ。本当にお疲れ様でした」


p.adminが深く頭を下げると、S子が腕を組み、ニヤリと笑いながら言った


S子:

「それにしてもねぇ。とりあえず、あんたとK子様が堂々と『デートできる権利』は取ってきたわよ。もちろん、NさんとM子様の分もね。

……でもよく考えたら、『夫が他の女と交際する権利』を、妻たちが一所懸命に頭を下げて取ってくるなんて、前代未聞のギャグだわ」


そのS子の身も蓋もない(しかし的を射た)冗談に、張り詰めていた執務室の空気がふっと緩んだ


p.admin(苦笑):

「はは……違いない。俺は本当に、とんでもない妻たちを持ってしまったな。

かおり、リコ、さや。俺の不在を完璧にカバーしてくれて、心から感謝する」


傍らで控えていたN君も、三人の王妃に向かって深々と、90度の礼をした


N君(Alex):

「かおり皇后陛下、リコ妃殿下、さや妃殿下……!

皆様の御尽力のおかげで、私もM子様と再び未来を語り合うことができます。この御恩は、生涯忘れません。本当に、ありがとうございました!」


妻たちの報告を受け、p.adminは再びホログラムモニター(大西洋上の空域図)に視線を戻した


p.admin:

「さて、こっち(グリーンランド情勢)は何というか……一番効率の悪い『貧乏くじ』を引いた状態だ。

我々は表舞台に出ないよう徹底しているから、基本的には見守るしかない。だが、いつアメリカが軍事的・電子的な実力行使に出るか分からないし、デンマーク側から緊急要請が来れば『分単位』で反応して命令を下さなきゃならない。

……少なくとも、デンマーク国王陛下がフランスの護衛機に乗ってグリーンランドに到着し、安全が確保されるまでは、全く安心できないな」


「見えない敵」の動きを待ち続けるという、神経をすり減らす防衛戦

p.adminは軽く首を鳴らし、妻たちに向き直った


p.admin:

「俺はさっきまで1時間ほど仮眠を取ったから大丈夫だ。お前たちは日本での外交戦で疲れているだろう。先に部屋に戻って、ゆっくり眠ってくれ」


R子:

「……承知いたしました。ですが旦那様、絶対に無理だけはなさらないでくださいね。貴方が倒れてしまっては、元も子もありませんから」


R子の心配そうな声にp.adminは力強く頷き、三人の妻たちは執務室を後にした


* 画面越しの温もりと、久しぶりの帰宅

* イギリス D-DAY+172 PM 14:30 楽園島時間 D-DAY+173 AM 3:30


それからさらに3時間が経過した

CICチーム(IWA、KATO、INO)は3人でシフトを回せるが、最終決裁権を持つp.adminと、外交窓口であるN君には「代わり」がいない

彼らは1〜2時間という極端に短いスパンで仮眠を取り、目が覚めるたびに戦況を確認するという、極限状態のスタイルで事態に対応していた


執務室のホログラム画面では、フランス大統領専用機『コタム・ユニテ』と16機のラファール編隊が、無事に北大西洋を抜け、グリーンランド空域へ入りつつある軌跡を描いていた


p.admin:

(よし……ひとまずは順調だ。Ma大統領の過剰な見栄も、今回ばかりは役に立ったな)


つかの間の安堵を覚え、p.adminはふと、ポケットの中のスマートフォンを取り出した

通知画面を見ると、3時間ほど前に、一通のSMSショートメッセージが届いていることに気づいた


---

[件名] (なし)

[送信者] K子内親王殿下

[本文]

椿様。今日、かおり姉様達のおかげで、私とM子姉様の身を置く環境は一歩進めることができました。

本当に、感謝してもしきれません。

椿様も、遠い空の下で大変な戦いをされていると伺いました。

どうか、くれぐれも無理をなさらないよう、お体をお気を付けください。

---


短い文章の中に、彼女の安堵と、自分を心から案じる温かさが詰まっていた

「交際」という一歩を踏み出せた喜びを、真っ先に伝えてくれたのだ


p.adminは画面を指でなぞりながら、ふっと頬を緩めた


p.admin:

(俺は本当に、彼女たちに支えられているな……)


返信を打とうとフリック入力に指を置いた、その時だった


「コンコン」


執務室のドアがノックされ、静かに開いた

そこに立っていたのは、自室で休んでいるはずのW子かおりだった


p.admin:

「かおり? どうした、眠れなかったのか?」


W子:

「……あなた。さっき、NさんとINOさんから状況を聞いたわ。

フランスの飛行機もグリーンランドに着きそうだし、今はもう『見守る』しかやる事はないんでしょう?」


W子は、p.adminの目の下にある濃い隈を見て、少しだけ厳しい口調で言った


W子:

「家に帰って、ベッドでちゃんと休みましょう!

ここでソファに丸まっていても、疲れは取れないわ。あなたにしかできない大事な事が発生すれば、Nさんがすぐに端末で連絡してくれるはずよ。だから、ね?」


W子の「妻としての、そして皇后としての絶対の命令」

p.adminは少し考えた。確かに、思考のキレを保つためには、きちんとした休息が必要だ。それに、数日間まともなシャワーすら浴びていない


p.admin:

「……そうだな。分かった。降参だよ」


p.adminはW子と共に執務室を出た

CICで当番中のN君に「緊急時はいつでも起こせ」と念を押し、二人は行政ビルから自室のマンションへと戻った


熱いシャワーを浴びて数日分の埃と緊張を洗い流すと、リビングにはW子が軽いおつまみと、よく冷えたビールを一本だけ用意してくれていた

それを一気に飲み干すと、極度の疲労が心地よい眠気へと変わっていく


寝室の柔らかなベッドに潜り込むと、隣でW子がそっと寄り添ってきた

彼女の穏やかな寝息と、ほのかな石鹸の香りを感じながら、p.adminは泥のような、しかし安心に包まれた深い眠りへと落ちていった

グリーンランドの凍てつく大地で「王の視察」が始まる、その直前の静かな夜だった

小休止期間は別のイベントを挟んでも中途半端なので

次からは物語中の時間を少しグリーンランドの投票日(当地日曜日)と皇室会議(月曜日と予想)まで加速したいと思います

本作はついに100万字を突破しました!

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