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D-DAY+172 2027年6月上旬 「誓い」の無効化と「永遠」なる命

このエピソードは、物語中の日本皇室に対して、かなり踏み込んだ描写をしています

どうか一介の外国人が創作したフィクションSF物語として、楽しんでいただけたら幸いです

劇中人物は元モデルは存在するものの、フィクションの設定を採用しています

#### 懐かしの台湾の味と、親善の「手土産」


午後1時。赤坂見附駅からほど近い場所にある台湾牛肉麺の専門店「三商巧福」

W子(かおり皇后)の強い要望により、T先生を含む楽園島一行はこの庶民的で活気ある店でランチをとることにした

店内には八角の香りが漂い、台湾のローカル食堂そのままの空気が流れている


W子の前には、湯気を立てる「特製牛肉麺」と、小皿の「台湾風さつま揚げ」が並んでいた

R子は「排骨飯パイクーハン」を、S子とT先生もそれぞれ好みのメニューを頼んでいる


W子:

「……んっ。これよ、この味。お肉がホロホロで、スープのスパイスが絶妙なの」


W子はレンゲでスープを一口飲み、幸せそうに目を細めた


W子:

「彼(p.admin)が昔、東京へ出張する時、よくここに連れてきてくれたのよ。

私たち、今はもう簡単には台湾へ帰れないから……こういう本場の味が、本当に身に染みるわ」


W子の言葉に、同じ台湾出身のR子とS子も深く頷き、排骨(豚の唐揚げ)を口に運んだ

国家の元首たる「皇后」と「妃」が、SPを店の外に待たせ、1000円札でお釣りが来るような台湾チェーン店で肩を並べて食事をしている

そのギャップが、彼女たちの飾らない本質を表していた。


* 手ぶらでの訪問というリスク


食事が中盤に差し掛かった頃、R子がふと手を止め、真剣な顔でT先生に向き直った


R子:

「……T先生。一つ、外交と社交のマナーについて確認させてください。

午後から将来『親戚』になるお家……つまりH親王邸へ訪問するわけですが。まさか、手持ち無沙汰(手ぶら)で伺うのは不味いのではないでしょうか?」


R子の指摘に、S子もハッとして箸を止めた


S子:

「確かに! 完全に忘れてたわ。

いくら『交渉』とはいえ、これから家族になろうっていう相手の家へ土足で上がり込むような真似、将来のお義父様(H親王)の心証を最悪にしちゃうわね」


T先生:

「リコ妃殿下、さや妃殿下。大変鋭いご指摘です。

日本の、特に皇室という伝統を重んじる場において『手土産』は基本中の基本。

『私たちは敵ではなく、友好的な家族として参りました』という最大の意思表示になります。手ぶらでの訪問は、絶対に避けるべきでしょう」


* 楽園島の「特産品」問題


R子:

「ですが、困りましたね。

今の楽園島の主な産業は『漁業』と『ゴールドの採掘』くらいです。

まさか、初対面のご挨拶で、クーラーボックスに入れた生魚や、金の延べ棒をドンと置くわけにはいきませんよね……?」


真面目なR子が金塊を持参する光景を想像し、W子とS子は思わず吹き出した


T先生:

「はっはっは。それは賄賂か密輸業者になってしまいますな。

H親王殿下は非常に清廉な方です。金品は逆効果でしょう」


S子:

「……あっ! そうだわ!

私、イギリスのウィリアム王太子殿下にも『ハーブティー』をお持ちするって約束したじゃない。あれよ!」


S子はポンと手を打った


S子:

「島の中央部にある、環境制御システムを使った『全自動農業ドーム』!

あそこで今、IWAさん主導で、住民たちが試験的に栽培している農作物があるはずよ。完全無農薬で、気候を最適化しているから、地球上のどんな高級品よりも美味しく育っているって言ってたわ」


S子は即座に異星タブレットをタップし、楽園島CICで当番をしているIWAさんへホログラム通信(音声のみ)を繋いだ


S子:

「IWAさん、お疲れ様! さやよ。

今すぐ、農業ドームで収穫できた一番いい果物……マンゴーでもメロンでもいいわ。それと、特製の最高級ハーブティーの茶葉を見繕って、贈答用の綺麗な木箱に詰めてちょうだい!

用意ができたら、つくばの大使館へワープ転送をお願い!」


IWAさん(通信):

『おや、さや妃殿下。急ですね。

ちょうど、糖度25度超えの「奇跡のアップルマンゴー」と、ストレス緩和に効く「ロイヤル・カモミールブレンド」の最上級品が収穫できたところです。すぐにつくばへ送りましょう』


S子:

「助かるわ! ありがとう!」


通信を切り、S子はドヤ顔でT先生とR子を見た


S子:

「これで完璧ね!

『歴史は浅い国ですが、我が国の汚染のない大地と、最新の技術で丹精込めて育てた特産品です』って渡せば、H親王殿下も無碍にはできないはずよ」


T先生:

「お見事です、さや妃殿下。

『自国の技術力のアピール』と『相手の健康を気遣う誠意』が両立した、これ以上ない外交ギフトです。

これで、交渉のテーブルにつく前の『空気作り』は私たちの勝ちですな」


三人の王妃と老練なT先生は、台湾の味で故郷への思いと活力をチャージし、決戦の地である赤坂御用地へと足並みを揃えて向かうのだった



#### PM 2:40 赤坂御用地 静かなる威圧


赤坂御用地の厳重なゲートを抜け、H親王邸の前に到着した公用車から、W子(かおり皇后)、R子(リコ妃)、S子(さや妃)、そしてT先生が降り立った

邸宅の前には、先回りしていたつくば楽園島大使館の職員が待機しており、恭しく二つの品をT先生へと手渡した


一つは、最高級のロイヤル・カモミールブレンドが詰められた銀色の茶葉缶

そしてもう一つは、蓋に「朱雀」の紋章が焼き付けられた重厚な白木の箱だ。中には、楽園島の環境制御ドームで収穫されたばかりの、宝石のように輝く特大のアップルマンゴーが鎮座している

生鮮果物の持ち込みは本来厳格な植物防疫法(検疫)の対象となるが、今回は大使館職員と農林水産省との水面下での折衝により、「国家元首の家族が私的に使用する外交特例品」として特別に許可を得ていた


邸宅の玄関扉が開き、初老の侍従長が深く頭を下げて一行を出迎えた


侍従長:

「かおり皇后陛下、リコ妃殿下、さや妃殿下、ならびにT大使閣下。ようこそおいでくださいました。殿下がお待ちでございます」


T先生:

「お出迎え痛み入ります。こちらは、我が楽園島で丹精込めて育てました特産品の果物と、ハーブティーでございます。殿下とご家族皆様でご賞味ください」


T先生が侍従長に手土産を渡すと、侍従長はその白木の箱から微かに漏れる、今まで嗅いだことのないほど濃厚で甘い香りに一瞬目を見開いたが、すぐに恭しく受け取った


* 現代の「家」と、三人の王妃


一行は侍従長の案内に従い、邸宅の奥へと進む。

最後尾を歩くW子かおりは、少し緊張した面持ちで、隣を歩くR子の袖を軽く引いた。彼女は人見知りであり、こうした「公式な場」はあまり得意ではない


W子(小声):

「……もっと、お城みたいなピカピカの宮殿かと思ってたけれど。意外と普通のお家なのね」


R子(小声):

「ええ。装飾品も華美ではなく、極めて実用的で現代的な内装ですね。H親王殿下の、規律と質素を重んじるお人柄が表れているのでしょう」


R子の分析通り、H親王邸は「広大な戸建て」という表現がしっくりくる、上質だが落ち着いた空間だった

W子は少しだけホッと胸をなでおろし、口を閉じて静かに歩みを進めた


通された広大な応接室では、既にH親王殿下、親王妃殿下、そしてM子様とK子様が、横長の大きなソファに並んで座っていた

娘たち二人は、助け舟の到着に安堵の表情を浮かべつつも、両親の手前、姿勢を崩さずにいる


対する楽園島側には、この日のためにわざわざ用意されたであろう上質な一人掛けのチェアが四脚、弧を描くように配置されていた

W子、R子、S子の三人が優雅に着席し、T先生も一礼して席につく。W子は軽く会釈をしただけで、両手をお膝の上で揃え、控えめに微笑みを浮かべるにとどめた


T先生:

「本日は急な訪問を受け入れていただき、誠にありがとうございます。

私が進行を務めさせていただきます。本日の議題は二点。M子内親王殿下とN参事官の件、そして……K子内親王殿下と朱雀陛下の『誓い』の件につきまして、我が国の見解と今後の段取りをご説明に上がりました」


老練な外交官の、静かだがよく通る声が室内に響いた


H親王殿下は、目の前に並ぶ「三人の王妃」の威圧感

特にS子の鋭い視線と、W子の静かなる大物感に内心圧倒されつつも、家長としての威厳を保って口を開いた


H親王殿下:

「……ご足労いただいたことには感謝する。だが、肝心の朱雀……陛下は、今日は来られないのか?

自らの結婚の話を通すのに、当人が不在というのは……」


殿下が不満を漏らした瞬間、S子がスッと背筋を伸ばし、凛とした声で遮った


S子:

「旦那様は現在、『グリーンランド防衛戦』の陣頭指揮を執られております。

CIAの破壊工作から現地の通信と住民を守るため、一睡もせずに対応中です。ですので、どうしても彼自身の説明が必要な場面に限り、ホログラム通信にて参加いたします」


H親王殿下:

「なっ……! 防衛戦!?」


「防衛戦」「CIA」「破壊工作」という物騒すぎる単語の連続に、H親王殿下の顔から血の気が引いた

皇族として最も避けたい「国際的軍事紛争」の渦中にいるという事実に、彼は思わず敬語を忘れ、ソファから身を乗り出した


H親王殿下:

「お、おい! まさか、本件に……その軍事作戦に、私の娘たちは関与していないだろうな!?」


父親としての純粋なパニックに、S子は少しだけ呆れたように息を吐いた


S子:

「ご安心ください。M子様にもK子様にも、我々楽園島が現在行っている任務の詳細は一切ご説明しておりませんし、協力も求めておりません。彼女たちは完全に無関係です」


H親王殿下:

「よ、よかった……。なら、今の話(防衛戦)は、私は聞かなかったことにしよう。ええ、何も聞いていない」


殿下はハンカチで額の汗を拭い、ひどく安堵した様子でソファに深くもたれかかった


* S子の毒舌と、T先生のフォロー


H親王が狼狽する姿を見たS子の胸に、今朝聞いた「娘たちを禁足にした」という事実への怒りがフツフツと湧き上がった


S子:

「……そうですね。

私たちが地球の裏側で、世界の秩序を必死に維持し、人々の権力と生活を守ろうと奔走している間……。

殿下は、ご自身が世間から批判されないための『安全ゾーン』を、娘を部屋に閉じ込めてまで必死に守っておられたわけですから。さぞご立派なことで」


H親王殿下:

「うぐっ……!」


図星を突かれた殿下が言葉に詰まる。空気が一気に凍りついた

W子がハラハラしてS子を見つめ、R子が小さく溜息をついたその瞬間、T先生が絶妙なタイミングでパンッと手を叩いた


T先生:

「さや妃殿下、その辺りで。……さて、殿下。本題に入りましょう。

まずはM子内親王殿下の件でございます」


T先生の強引かつ滑らかな進行により、場の空気は強制的に「外交交渉」へとリセットされた


* 200年の重み


T先生:

「殿下がN参事官の『肩書き』を懸念されていることは承知しております。

しかし、我が楽園島には、そもそも『大臣』という役職は存在しません。

Nさんは、あのアメリカ本会議でのVXガス襲撃(D-DAY)において、朱雀陛下に命を救われ、陛下に絶対の忠誠を誓った得難い人材です。

そこで私は、彼を私より高位の役職である『外務総括官』に推薦し、朱雀陛下もこれを内諾されております」


H親王殿下:

「外務総括官……大使、貴殿ほどの見識と実績を持つ方が、若者にその座を譲るというのか?」


T先生:

「ええ。私はもう年ですから。朱雀陛下と共に世界中を飛び回るより、つくばの地で妻とゆっくり過ごし、日本の皆様と橋渡しをする仕事に専念したいのです」


T先生の人間味あふれる本音に、H親王殿下も少し警戒を解き、同情的な眼差しを向けた

しかし、伝統を重んじる殿下には、どうしても引っかかる点があった


H親王殿下:

「……大使の献身と、N氏の優秀さは理解した。

だが、そこまで重要な役職ならば、なぜ他国に倣って『大臣』という分かりやすい職名を作らないのだ? その方が、対外的にも……」


ここで再び、S子が身を乗り出した。今度は皮肉ではなく、真剣な眼差しだ


S子:

「ところでH親王殿下。日本の総理大臣や各省庁の大臣の『平均任期』がどれくらいか、ご存知ですか?」


H親王殿下:

「む? ……まあ、長くても数年程度だろう。内閣改造もあるからな」


S子:

「そうです。人類の国の役職は、数年でコロコロと首がすげ替わる『一時的なバッジ』に過ぎません。

ですが……楽園島の『総括官』の任期は、約200年です」


H親王・親王妃:

「「……に、二百年!?」」


両親は目を丸くして絶句した


S子:

「はい。楽園島の幹部全員とその伴侶は、上皇様も受けられている『若返り治療』を受ける権利を有しています。

私(経済産業総括官)も、リコ(内政総括官)も、そしてNさん(外務総括官)も。

本人が不適格となったり、家庭の事情で退いたりしない限り、私たちは数世紀にわたってこの国と世界を動かし続けます。

『大臣』という数年で終わる薄っぺらい肩書きと、数百年にわたり国家の中枢を担い続ける『総括官』。

……どちらが、M子様の伴侶として『重い』か。殿下にはご理解いただけますね?」


S子の圧倒的なスケールの宣言に、H親王殿下も親王妃殿下も完全に言葉を失った。

「不老の寿命を持つ国家の重鎮」という、想像を絶するステータス。もはや、人間の基準で「格」を測ること自体がナンセンスだったのだ。


* 婚約の承認


沈黙が続く中、T先生が温かい声でフォローを入れた


T先生:

「……N総括官は、その永い時間を、M子様を愛し、守り抜くことに費やすと誓っております。

どうか殿下、若い二人の門出を、認めてはいただけないでしょうか」


H親王殿下は、しばらく目を閉じて沈思黙考していたが、やがて深く息を吐き、隣で祈るように自分を見つめるM子様へ視線を向けた


H親王殿下:

「……よかろう。

そこまでの覚悟と、永い年月を見据えた地位であるならば、もはや私の口出しする領域ではない。

M子。……N氏との交際、および、近い将来の『納采の儀(婚約)』の執り行いを、許可する」


M子様:

「お父様……! ありがとうございます!!」


M子様は目に涙を浮かべ、深く頭を下げた。K子様も自分のことのように喜び、姉の手を強く握りしめた。


前半戦は、S子の圧倒的な突破力とT先生の絶妙なコントロールにより、楽園島側の完全勝利で幕を閉じた

しかし、本当の戦いはこれからだ。最大の障壁である「p.adminの誓い」と「K子様の未来」についての議論が、いよいよ始まろうとしていた

W子が、膝の上の手をキュッと強く握りしめた


#### 法の番人と、王妃たちの防衛線


M子様とN君の婚約が無事に認められ、応接室の空気は少しだけ和らいだかに見えた。

しかし、本当の正念場はここからだ。

T先生が静かに頷き、バトンを渡されたR子(リコ妃)が、背筋を伸ばしてH親王殿下に向き直った


R子:

「……H親王殿下。ここからは、内政総括官である私の管轄となります。

殿下が最もご懸念されている、朱雀陛下(p.admin)の『これ以上妻を娶らない』という誓いについてご説明いたします」


R子は、K子様の方へ一度だけ優しい視線を送った。

かつて、p.adminがK子様と親しくなることを誰よりも危惧し、苦悩していたR子

彼女が今、K子様と夫を結びつけるために、自らの専門知識(法律)を武器にして「父親」という最大の壁に立ち向かっている

その姿を見て、K子様の目には薄っすらと涙が浮かんでいた


R子:

「殿下。我が楽園島の家族法には、『第12条:家族構成の変更に関する合意原則』という条文が存在します。

これは、新たに家族(配偶者や養子)を迎える際、『既存の家族構成員(妻)全員の同意権』を必要とするものです」


R子の声は、法廷に立つ弁護士のように理路整然としていた


R子:

「旦那様が過去に立てた『誓い』は、一見すると私たち妻を守る美談に聞こえます。

しかし法的に解釈すれば……『私たち既存の妻たちが、将来、自らの意思で素晴らしい女性(K子様)を新たな家族として迎え入れたいと願った際の、同意権を行使する機会を、夫が単独で恒久的に奪った』状態なのです。

これは、家族構成員間の平等を定める我が国の法律に明確に抵触する『違法な誓約』です。

ゆえに、法の司である内政総括官の権限において、あの誓約を『違法につき無効』と裁定いたしました。

王といえども、我が国の法の下にあります」


* タイムスタンプと法の証明


完璧な法的ロジック

だが、疑り深いH親王殿下は、腕を組み直して鋭い目を向けた


H親王殿下:

「……随分と都合の良い法律だな。

その『法律』とやらは、今回の件を正当化するために、後出しジャンケンで作ったものではないだろうな? そもそも、その法は誰が決めたのだ?」


R子:

「お疑いになるのも無理はありません。

ですが、この『楽園島家族法』は、私と旦那様が正式に結婚した直後、旦那様の理解のもとに、私自身が策定し、施行したものです。

K子様との件が持ち上がるよりも、ずっと前のことです」


R子は手元のタブレットPCを操作し、PDFファイルを表示させてH親王殿下の前に差し出した

かつて一般企業でIT業務全般を取り仕切っていた彼女のスキルは、こういう場面でいかんなく発揮される


R子:

「どうぞご確認ください。

この法案の電子ファイルには、国際標準のデジタルサインによるタイムスタンプ(確定日時)が付与されています。ブロックチェーン技術も併用しており、過去に遡っての改ざんは物理的に不可能です」


H親王殿下はタブレットを受け取り、画面のタイムスタンプと条文を食い入るように見つめた。ITの専門知識は少なくとも、そこに刻まれた「日付」が偽造できない客観的事実であることは理解できた。殿下は唸り声を上げ、考え込んだ


* 公開ドラマの提案


H親王殿下:

「……家族法の件は分かった。

しかし、仮にも絶対的な力を持つ『王』の誓いだろう。彼が『これが法だ』と言い張れば、それまでではないのか?」


その時、これまで静かに微笑むだけだったW子(かおり皇后)が、初めて口を開いた

その声は鈴を転がすように澄んでいて、しかし深い確信に満ちていた


W子:

「……いいえ、殿下。

私の夫は、何よりも『手続きの正当性』と『理屈』を重視する人間です。

彼は、自分の感情で立てた『誓い』が、自ら認可した『法(妻たちの権利)』を侵害していると気づけば……素直に間違いを認め、頭を下げて改めることができる人間です。

それが、朱雀椿という男の『誠実さ』なのです」


王の最も近くにいる「最初の妻」の言葉は、どんな法律よりも重みがあった

その流れに乗って、S子が畳み掛けた


S子:

「その誠実さを証明するため、東京ワープゲート開通式典の直前、公開の場で、私たち三人の妻とK子様、そして旦那様の五人で『誓いの解除を宣言する儀式ドラマ』を行います。

旦那様はそこで自らの非(法的な見落とし)を認め、国民と世界の前で誓いを撤回します。

……なお、この筋書きについては、既に旦那様の承諾も得ております(※事後承諾させる気満々だが、ここでは言い切る)」


* 皇后という虚像と、平等の真実


法の壁、妻たちの総意、そして公開の場でのケジメ

これら全てを突きつけられ、反論の糸口を失ったH親王殿下は、最後の砦である「身分」の問題にターゲットを移した


H親王殿下:

「……誓いの撤回は分かった。

だが、身分はどうなる。K子が朱雀に嫁いだとして、彼女は『側室』として扱われるのではないか?」


R子:

「それもご心配には及びません。

先ほどの家族法第4条において、『すべての配偶者間の権力と義務は平等である』と明記されています。

我が国の戸籍システムは、結婚した『日時順』に名前が並んでいるだけであり、第1位、第2位といった『順位という法的地位』は存在しません。公式には『皇后』という肩書きすら無いのです」


S子:

「私たちがかおり(W子)のことを心から尊敬し、立てているのは、彼女の『許し』を得て旦那様の妻になれたという恩義があるからです。

彼女は旦那様の最初の妻であり、一番旦那様を理解している。だから自然と『皇后』のように振る舞っているだけ……いわば『家族内のリスペクト』であって、制度上の身分差ではありません」


H親王殿下は絶句した。

自分がこれまで「かおり皇后」と呼び、絶対的な正妻だと思い込んでいた女性が、法的には「第一夫人」ではなく「対等な妻の一人」に過ぎないという事実

驚きと共に、K子様が日陰の身に落とされる心配が完全に杞憂であったことを悟り、殿下の顔には複雑な思いが交錯した


* 200年の孤独と、親としての恐怖


H親王殿下が出していた「誓いの問題」と「身分の問題」。その全てが、楽園島側の完璧なロジックと誠意によってクリアされた

W子たち三人と、K子様の顔に、安堵と勝利の色が浮かびかけたその時


H親王殿下は、ふと、先ほどS子が放った「とんでもない言葉」を思い出した。


H親王殿下:

「……待ってくれ。

先ほど、N氏の任期が『200年』という話が出たが……。

それは、朱雀陛下も同様なのか?」


S子:

「ええ、そうなります。

200年というのは、ポルポ・カラマリ文明(異星人)が旦那様に『地球の管理者』として依頼している期間の目安ですので。旦那様も私たちも、最低でもその期間は若さを保ち、生き続けます」


S子はあっけらかんと答えた。

しかし、その答えを聞いたH親王殿下の顔から、再びスッと血の気が引いた。

先ほどの「軍事作戦(防衛戦)」の時よりも、はるかに深い恐怖と絶望が、父親の顔に張り付いた


H親王殿下:

「……二百年。

K子……お前も、二百年生きるというのか?」


K子様:

「……はい。朱雀陛下の妻となる以上、私も『若返り治療』を受け、あの方と共に悠久の時を歩むことになります」


K子様は真っ直ぐに答えた


H親王殿下:

「……狂気だ」


殿下は、震える手で額を押さえた。


H親王殿下:

「二百年……。

それはつまり、私や妻が老いて死にゆく姿を、お前は若いままの姿で見送るということだ。

お前の弟が歳をとり、やがて寿命を迎えるのも見送る。

そしてお前は……我々『人間』の家族を全て失った後も、百五十年以上、はるか遠い島で生き続けるというのか!?」


H親王殿下は立ち上がり、悲痛な叫びを上げた。

「肩書き」や「法的な身分」などという世間体の問題ではない。

それは、「娘が人間という種族から外れ、永遠の孤独(不死の呪い)に近い道を歩むこと」への、親としての根源的な恐怖だった


勝利の空気に包まれていた応接室は、再び、重く冷たい沈黙に支配された

「不老長寿」。誰もが夢見るその奇跡が、家族の絆を引き裂く最大の障壁となって立ち塞がった


#### 揺らぐ皇室の礎と途方もない未来への畏怖


応接室は、深い沈黙に包まれていた。

H親王殿下は頭を抱え、ソファに深く沈み込んだまま、微動だにしない

W子(かおり皇后)たちも、T先生も、そしてM子様とK子様も、この沈黙が殿下の中で引き起こしている「巨大な葛藤」を察し、誰も言葉を発することができなかった


時計の針が、静かに10数分という時間を刻む


H親王殿下(心の声):

(……二百年。いや、それ以上か。

N氏が二百年生きるということは、妻となるM子も同様の寿命を得るということだ。K子も、朱雀の妻として永遠に近い時を生きる。

……それでは、後継者はどうなる? いや、そもそも「寿命」という概念が希薄な彼らに、後継者など必要なのか?

先ほどの話では、朱雀の妻は、かおり皇后を除いて全員が国家の『実務トップ(総括官)』だと言っていた。

ということは……M子もK子も、将来は楽園島の中枢で、そのような強大な権力を握る立場に就くということか?)


殿下の脳裏に、恐るべき未来図が広がっていく


(二百年。その間、日本の総理大臣は何度代替わりする? 皇室の当主は、何度世代交代を繰り返す?

その悠久の時の流れの中で、不老の肉体と、異星のテクノロジーによる莫大な権力を持った『元・日本のプリンセス』たちが、あの遠い島からずっと世界を、そして日本を睨み続けることになる……。

これは、単なる『結婚』の話ではない。

皇室の、いや、人類の歴史の根本を揺るがす、完全なる想定外の事態だ!)


父親としての「老いてゆく自分を見送らせる悲哀」は、いつしか、皇族としての「国家観を根底から覆される畏怖」へと変貌していた


* 反故にされた約束


やがて、H親王殿下はようやく顔を上げた

その表情は、先ほどまでの「娘を案じる父親」の顔ではなく、重責に押し潰されそうになりながらも「皇室の守護者」であろうとする、悲壮な顔つきに変わっていた


H親王殿下:

「……事情は、私の手に余る。

一個人の親としての感情だけで決裁できるスケールの話ではない。

M子には申し訳ないが、先ほどの『納采の儀』の許可は一旦白紙に戻し、緊急の皇室会議で結論を出すまで待ってもらう。

……K子も、同様だ!」


H親王:

「本来、内親王の降嫁に皇室会議は不要だ。だが……相手は『不老の異星技術を持つ他国の元首と、その最高幹部』だ。これはもはや個人の結婚の枠を超え、国家の安全保障と皇室の存在意義に関わる異常事態だ! 私の一存では決められん、特例として皇室会議に諮る!」


その言葉に、応接室の空気が一瞬で沸騰した

先陣を切ったのは、当然M子様だった


M子様:

「お父様!! この場で反故にするなんて、ありえません!!

さっきまで、Alex(N君)の任期が二百年だと聞いて『そこまでの覚悟と地位なら』と安心なさったではありませんか!? なぜ急に覆すのですか!」


続いて、いつもは控えめなK子様も、姉に負けじと身を乗り出した


K子様:

「そうです、お父様!

朱雀陛下も、かおり皇后陛下たちも、お父様が懸念された『身分』や『誓い』の要求を、すべて完璧な形で満たしてくださいました!

これ以上、何を理由に私たちの未来を阻むというのですか!?」


娘たちの激しい抗議に、H親王殿下は言葉を失った

理屈では完全に論破されている。しかし、彼の中の「皇族としての本能」が、どうしても首を縦に振ることを拒絶していたのだ


M子様:

「……もういいわ。

K子、一緒に行きましょう。今すぐ、かおり姉様たちと共に楽園島へ行って、Nさんと朱雀の傍で彼らを支えましょう!

こんな理不尽な鳥籠に、もう一日たりともいられないわ!」


M子様は立ち上がり、強引な「家出(事実上の皇籍離脱宣言)」を匂わせた。K子様もそれに同調し、立ち上がろうとする


* 母の助け舟と、父の苦悩


見かねた親王妃殿下が、慌てて娘たちを制止し、夫へ助け舟を出した


親王妃殿下:

「M子、K子、落ち着きなさい!

……あなた(殿下)。これは、上皇様が『若返り治療』をお受けになった時点で、ある程度は想像できた未来ではないでしょうか?

あなたが心配なさっていた法的な課題は、すべて楽園島の方々がクリアしてくださいました。もう、意地を張らずに、温かく娘たちを送り出してあげましょう?」


妻からの優しい諭しに、H親王殿下は苦悶の表情を浮かべた

H親王は「若返り=健康寿命が延びて100歳〜120歳くらいまで元気に生きられる最新医療」程度に思っていた

「健康になる」ことと、「200年という単位で国家を支配する不老の存在になる」ことのギャップが、H親王の想像を絶していた


H親王殿下:

「私が……頭ごなしに反対したいわけではないんだ!

当面の『交際』については、この場で認めよう!

だが、事は二百年に及ぶ不老と、国家のあり方に関わる大問題だ! 皇室会議を通さずに、私の一存で『婚約』まで認めるのは、あまりに危険すぎる!

そこは、どうか親の立場を理解してくれ……!」


殿下の悲痛な声には、確かな親心と、責任の重さに震える本音が混じっていた。


* 痛み分けの決着


泥沼化しそうな空気の中、T先生が静かに立ち上がり、場を収拾に入った


T先生:

「……M子内親王殿下、K子内親王殿下。殿下の仰ることも、一理ございます。

あまりにスケールの大きな話ゆえ、日本のシステム(皇室会議)を通す時間が必要なのでしょう。我々としても、強引に連れ去るような真似をして、日本国との間にしこりを残したくはありません」


T先生は、H親王殿下に向き直った


T先生:

「殿下。なるべく早く皇室会議を招集し、本件について議論し、結論を出していただく。

……そのお約束で、よろしいですね?」


H親王殿下:

「あ、ああ……約束する。早急に手配しよう」


しかし、M子様はまだ怒りが収まらない様子で、冷ややかに言い放った


M子様:

「お父様。そして、皇室会議の皆様にもお伝えください。会議が認めても認めなくても、私たちの決定は変わりません。

……体裁を整えて、笑顔で私たちを送り出すか。それとも、皇室の歴史に黒い傷跡を残したまま、私たちが半ば勘当される形で『家出』をするか。

……選べるのは、その二つに一つだけよ!」


K子様:

「お姉様の言う通り、私たちの決意は変わりません。……でも、お父様。私たちが長く生きることを恐れないでください。お父様とお母様から頂いた愛を、私たちは二百年先の世界まで、ずっと大切に持っていくのですから」


二人のプリンセスの、もはや脅迫にも近い「最後通牒」

H親王殿下は深くため息をつき、静かに頷いた


結果として、H親王殿下は「娘二人の当面の間での交際」を公式に認め、彼女たちの「外出禁止令」を解除した

M子様とK子様の『納采の儀(婚約)』については、皇室会議の裁定待ちという保留状態となった


楽園島側の「完全勝利」とはいかなかったが、最大の障害であった「交際禁止」という壁は打ち破られた

外交特使としての妻たちとT先生の奮闘により、事態は「痛み分け」ながらも、着実に前進したのだった

赤坂の空に、夕焼けが差し込み始めていた

うん、もう言う事はありません(笑)

以下は、楽園島家族法の抜粋です

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【楽園島家族法(基本法)抜粋】

(施行:D-DAY以後、内政総括官 朱雀リコ 裁定)


第一章 総則

第1条(目的)

本法は、楽園島における多様な家族の形態を保護し、構成員間の完全な平等と相互扶助の精神に基づく家族関係を構築することを目的とする。


第二章 婚姻及び家族の構成

第4条(婚姻の形態)


婚姻は、当事者間の合意のみに基づいて成立し、性別並びに人数の制限を設けない(一夫多妻、一妻多夫、多夫多妻を合法とする)。


本法において、配偶者間に「正妻」「側室」「皇后」等の公的な階級、称号、および法的権利の優劣は存在せず、すべての配偶者は法的に同等の権利と義務を有する。


第7条(近親婚の特例と医療義務)


3親等以内の血族間における婚姻は、これを禁じない。


前項の婚姻関係において妊娠が確認された場合、胎児および母体の保護を目的として、指定された「異星医療ベイ」による産前遺伝子検査および必要な医療的介入を受けることを義務付ける。


第三章 家族構成の決定権(※本件の争点条項)

第12条(家族構成の変更に関する合意原則)


新たな配偶者の縁組、養子縁組、その他家族構成に重大な変更をもたらす決定は、既存の家族構成員(全配偶者)の「完全な同意(全会一致)」を必要とする。


全ての配偶者は、新たな構成員の追加に対して平等の「同意権」および「拒否権」を有する。


いかなる構成員も、単独の宣言や契約によって、他の構成員が将来有する「同意権」および「拒否権」の行使機会を、恒久的に奪うことはできない。

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― 新着の感想 ―
不老の問題は主人公たちの家族にも関わりますね。 両親は見捨てられないだろうし、では、叔父や叔母、その親族はどうするか。どこで線引きをするのか。
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