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D-DAY+172 2027年6月上旬 グリーンランド防衛戦 「皇室」の立ち位置

このエピソードは、物語中の日本皇室に対して、かなり踏み込んだ描写をしています

どうか一介の外国人が創作したフィクションSF物語として、楽しんでいただけたら幸いです

劇中人物は元モデルは存在するものの、フィクションの設定を採用しています

* D-DAY+272 グリーンランドの小さな村にて


デンマークのフレデリック国王陛下及びグリーンランド自治政府Je首相首相の呼びかけに応じて、

現在住民投票ごっごを強行される三つの村も現在の投票を停止し、四日後の政府主催の「諮問的住民投票」に最終結果を待つ事となった

しかし、アメリカCIA側が諦めたというと、そうではない

彼らもこの四日間の小休止期間をフル利用して「お金による買収」で、正攻法でいくつかの村で投票での勝利を目指しているのだ

勿論、投票の買収はグリーンランドにおいても犯罪ですし、ただ、CIA工作員は巧妙な手口※を用いて、現地警察当局でも簡単に証拠を捕まりません


※CIAの買収の手口:

アメリカ政府と息がかかった証券会社に協力者の偽名口座を作り、そこに「買収金額に応じて」30年期のアメリカ国債や半年ごとの配当が口座入る

口座は協力者名義ではなく、利息のお金も直ぐには取り出せないが、アメリカ側の工作員は「行動が成功したらアメリカの市民権を与え、口座も実名を登録」と現地協力者と約束したが、何一つ書面による保証はない

このせいもあって、グリーンランド検察当局も協力者の口座を調べても証拠らしい物は一切出てこない


これらの事態は、p.adminもN君もデンマーク政府側も十分想定しているが、司法調査ばかりはp.admin手助けをしにくいので、グリーンランドの住民らの良知に頼るしかなかった


* 見えない札束とイヌイットの矜持

* 時刻: D-DAY+171 グリーンランド時間 PM 18:00


米軍基地に近い人口100人ほどの小さな村

外は猛吹雪だが、村の顔役である漁師・アプットの家の中は、ストーブの火で暖かかった

しかし、向かいに座る訪問者――アウトドアウェアに身を包んだアメリカ人(CIA工作員)が醸し出す空気は、外の吹雪よりも冷たかった


CIA工作員:

「アプットさん。日曜日の『諮問的住民投票』ですが……村の皆さんに、ぜひ『アメリカへの帰属』へ票を入れるよう、働きかけていただきたい」


工作員は、テーブルの上にタブレット端末を置いた

画面には、アメリカの某大手証券会社の口座残高が表示されている。数字の単位はドルで、日本円にして数千万円に上る


CIA工作員:

「これは、ウォール街の証券会社にある口座です。中身は極めて安全な『30年米国債』。半年ごとに確実な利息(配当)が振り込まれます

……もし、この村の投票結果が我々の望むものになれば、作戦成功の暁には、あなたに『アメリカ市民権』を付与し、この口座の名義をあなたの『実名』に変更します。一生、遊んで暮らせますよ」


アプットは、画面の数字をじっと見つめ、そして工作員の顔を見た


アプット:

「……俺の名前じゃない口座。現金もない。契約書などの書面もない。

ただの『画面の数字』と、『あんたの口約束』だけか?」


CIA工作員:

「ええ。ですが、合衆国政府の約束です。我々は必ず報いますよ。

デンマークの遠い王様より、アメリカの確実な資産の方が、村の未来のためになるでしょう?」


工作員は自信たっぷりに微笑んだ。証拠が一切残らない、完璧な買収スキームだ

しかし、アプットはゆっくりと立ち上がり、玄関のドアを乱暴に開け放った

氷点下の冷風が室内に吹き込む


アプット:

「帰れ。今すぐだ」


CIA工作員:

「……正気ですか? 一生分の金ですよ?」


アプット:

「俺たちはイヌイットだ。この過酷な自然の中で生き残ってこられたのは、見えない金や遠くの国の口約束を信じたからじゃない。

隣人を信じ、助け合ってきたからだ!」


アプットは、昨日の集会所で見た「テレビの映像」を思い出し、胸を張った


アプット:

「昨日、デンマークの王様は俺たちのことを『家族』と呼んでくださった。

家族を売る馬鹿がどこにいる! あんたの『見えない金(国債)』なんか、犬ぞりのエサにもならねえ! とっとと失せろ!」


工作員は舌打ちをし、タブレットを回収すると、吹雪の中へと消えていった


* 時刻: グリーンランド時間 PM 20:00


アプットをはじめとする良識ある住民たちからの通報を受け、グリーンランド自治政府の地元警察が直ちに動いた

数人の警官が、工作員が滞在している村のロッジを急襲し、彼と行動を共にしていた現地の協力者(買収に応じた一部の住民)を任意同行した


地元警察の捜査官:

「住民から『多額の報酬をちらつかせて投票を誘導している』という告発があった。

これはグリーンランドの選挙法違反、および贈収賄の疑いがある!」


ロッジのテーブルを挟んで、捜査官が工作員を厳しく追及する

しかし、工作員は余裕の笑みを崩さなかった


CIA工作員:

「賄賂? 買収? 妙な言いがかりはやめていただきたい。

私はただの『政治コンサルタント』ですよ。村人たちに『アメリカの庇護下に入るメリット』を説明し、民主的な投票を呼びかけていただけです。

言論の自由は、この素晴らしいグリーンランドにもあるのでしょう?」


地元警察の捜査官:

「とぼけるな! 口座の画面を見せただろう!」


捜査官は、現地協力者の男に向き直った


地元警察の捜査官:

「おい! お前、金をもらったのか!?

今すぐ検察当局と連携して、お前の国内の銀行口座を全て洗わせてもらうぞ!」


現地協力者:

「し、調べてみろよ! 俺は一クローネも受け取っちゃいない!」


数十分後、ヌークの金融当局からの緊急照会結果が捜査官の端末に届いた

……結果は『シロ』だった


協力者のグリーンランド国内、およびデンマークの口座には、不審な入金記録は一切ない。現金が動いた形跡すらない

それもそのはずだ。「金」はアメリカ国内のサーバー上に「偽名」でロックされており、投票が終わり、CIAが名義変更のロックを解除するまでは、協力者のものではないからだ

ペーパーカンパニーすら経由しない、完全な「情報の非対称性」を利用した未来の利益供与

現在のグリーンランドの法律で、これを「現行の賄賂」として立件することは極めて困難だった


地元警察の捜査官:

「……くそっ。証拠がない」


CIA工作員:

「ご理解いただけましたか、オフィサー?

私たちはクリーンです。日曜日の投票結果が、住民の『真実の声』ですよ」


工作員は肩をすくめ、警察官たちを嘲笑うようにロッジの奥へと引っ込んでいった。


* 楽園島CIC:見守るしかない歯痒さ

* 時刻: 楽園島時間 D-DAY+172 AM 10:00


その頃、楽園島のCICでは、異星ドローンが傍受した映像と音声データを元に、事の顛末が報告されていた


N君(Alex):

「……現地警察の捜査は空振りに終わりました。

CIAの常套手段です。オフショアの偽名口座と米国債を使った『約束手形』。

証拠の保全も口座の凍結も、アメリカの司法当局を通さない限り不可能です」


CICのコンソールに手をつき、p.adminはギリッと奥歯を噛み締めた


p.admin:

「……卑劣な。

物理的な攻撃やネットの遮断なら、俺たちの技術でいくらでも防げるし、叩き潰せる。

だが、人間の『欲』につけ込む見えない犯罪行動だけは……システムではどうにもならない」


武力介入やインフラ復旧で力を発揮したp.adminも、主権国家の「司法と民主主義のプロセス」に直接手を下すことはできない

無理に介入すれば、それこそ「異星の王による支配」というCIAのプロパガンダを裏付けてしまうからだ


異星ドローンの録画をグリーンランド当局に提出すれば、多少の証拠力があるだろうが

今度は「朱雀は住民のプライバシーを侵害して、人権を無視している!」と逆に利用されるリスクが大きく、安易に切れるようなカードではない


p.admin:

「映像中のアプットさんのような、誇り高い人たちがいてくれて救われたが……全ての村人がそうとは限らない。

あとはもう、グリーンランドの人々の『良知』を信じるしかないのか」


N君:

「はい。日曜日の投票まであと3日。

我々にできるのは、彼らが『正しい情報』にアクセスできる通信環境を、最後まで死守することだけです」


「見えない札束」という最強のウイルスに対し、楽園島の絶対的な防衛力も、今回ばかりは祈ることしかできなかった

グリーンランドの雪原で、人間の尊厳を賭けた静かな戦いが続いていた


#### D-DAY+172 日本時間 AM 8:00 楽園島時間 PM 12:00 出陣する王妃達


楽園島、行政ビルの執務室。

グリーンランドの「情報戦」と「買収工作」に対する警戒が続く中、p.adminはソファに深く身を沈め、仮眠をとっていた

隣のCIC室では、IWAさんたちが目を血走らせながら監視を続けており、N君も一角でスーツ姿のまま丸くなっている。


そこへ、控えめなノックの音と共に、執務室のドアが開いた。

現れたのは、三人の妻であるかおり(W子)、リコ(R子)、そしてさや(S子)だった


S子:

「旦那様、少しよろしいですか? お休みのところごめんなさいね」


S子の声に、p.adminはゆっくりと目を開け、身を起こした。


p.admin:

「ああ、さや……いや、大丈夫だ。何かあったのか?」


S子:

「実はこれから、私たち三人で日本へ行ってきます。

午前中は仙洞御所で、上皇様と上皇后様の『若返り治療』の定期施術。

そして午後には……赤坂のH親王邸へ伺って、K子様とM子様のために、彼女達のご両親を説得してきます」


その言葉に、p.adminは完全に目が覚めた


p.admin:

「H親王邸へ!? 説得って……まさか、俺とK子様の件、そしてN君とM子様の件か?」


S子:

「そのまさかよ。昨日の昼間、M子様から泣きそうな声でSOSがあったの。

お父様が『Nさんの肩書き(大臣職)が足りない』とか『旦那様の誓約がどうなっているのか』と仰って、お二人の交際を認めてくださらないそうよ。

だから、私たちが直接乗り込んで、話をつけに行くことにしたの。T先生(日本大使)も同行して、Nさんの肩書きの件を直接交渉してくださるわ」


p.adminは額に手を当て、深い息を吐いた


p.admin:

「そうか……俺がグリーンランドの作戦に没頭している間に、東京でそんな事態になっていたとは……不甲斐ない。K子様にもM子様にも、辛い思いをさせてしまった」


p.adminは立ち上がり、ジャケットを手に取った


p.admin:

「今、グリーンランドはCIAの買収工作に対する『待ち』の状態で、小休止となっている。

俺も一緒に行こう。俺自身の口から、H親王殿下に説明し、頭を下げるべきだ」


しかし、R子が静かに進み出て、p.adminの胸にそっと手を当てた


R子:

「いいえ、旦那様。貴方はここに残ってください」


p.admin:

「リコ……?」


R子:

「グリーンランドの小休止は、嵐の前の静けさです。いつアメリカが武力行使や更なる妨害に出るか分かりません。

その時、即座に『命令』を出せるのは、旦那様だけです。

旦那様には、旦那様にしかできない仕事と、王としての責務があります」


W子かおりも優しく微笑んで頷いた


W子:

「家のことは、私たち『妻』に任せてください。

男の人が表に出て角を突き合わせるより、私たちが間に入った方が、丸く収まることもありますから」


R子:

「それに、法的な『誓いの無効化』は、内政総括官である私の管轄です。

どうしても旦那様の直接の説明が必要になった時には、家族指輪を経由してホログラム通信を繋ぎます。ですから、安心してお留守番をしていてくださいね」


* 信頼の留守番


妻たちの頼もしい言葉と、グリーンランドの不測の事態を天秤にかけ、p.adminは頷いた


p.admin:

「……分かった。ありがとう、かおり、リコ、さや。

K子様とM子様のこと……そしてH親王殿下の説得、どうかよろしくお願いします」


S子:

「ええ、任せてちょうだい! 最高の結末を持って帰ってくるわ!」


三人の妻たちは、p.adminに優しく微笑みかけ、執務室を後にした。


* 車中の軍議


W子、R子、S子の三人は、楽園島中央広場のワープゲートを通り、一瞬にして日本の「つくば楽園島大使館」へと移動した

大使館のエントランスでは、既にビシッとスーツを着こなしたT先生(楽園島日本大使)が、黒塗りの公用車と共に待機していた


T先生:

「かおり皇后陛下、リコ妃殿下、さや妃殿下。お待ちしておりました。

さあ、どうぞご乗車を。まずは仙洞御所へ向かいましょう」


三人が後部座席に乗り込み、T先生が助手席に座ると、車は静かにつくばを出発し、都内へと向けて走り出した


* 老練なる先生の「説得の道筋」


常磐自動車道を滑るように走る車内で、T先生は振り返り、持ち前の貫禄と穏やかな笑みを浮かべて口を開いた


T先生:

「さて、妃殿下方。午後のH親王邸での『大一番』についてですが……。

H親王殿下は、決して頭ごなしに反対されているわけではありません。根底にあるのは『親としての愛情』と『皇族としての体面』です。

ここを解きほぐせば、必ず道は開けます」


S子:

「具体的には、どう進めるおつもりですか? T先生」


T先生:

「まず、M子内親王殿下とN参事官の件から片付けます。

H親王殿下が気にされているのは『肩書き(格)』です。一国のプリンセスが『一介の参事官』に嫁ぐのは、世間体が悪いと。

ですから、私が殿下の前で宣言します。

『我が楽園島には大臣職が存在しません。よって、N参事官の実績を高く評価し、彼を私よりも上位の”外務総括官”として朱雀陛下に推挙いたします』と」


R子:

「なるほど……。実質的な権限は変わらなくとも、『総括官』というトップの肩書きを付与することで、殿下の『面子』を立てるのですね」


T先生:

「その通りです。私が自ら彼を『上司』に推すことで、彼の優秀さを客観的に証明できます。

外堀が埋まり、空気が和らいだところで……本丸である『K子内親王殿下と朱雀陛下』の件に切り込みます」


T先生は、W子とR子を見た


T先生:

「ここで重要になるのが、妃殿下方の『総意』です。

H親王殿下が最も恐れているのは、K子様が『愛人』のような日陰の身になること。

リコ妃殿下が、楽園島の家族法に基づき『妻たちの地位は完全に同等である』と法的な裏付けをご説明ください」


R子:

「はい。戸籍システム上の順位付けの無さを、論理的にご説明します」


T先生:

「そして……かおり皇后陛下、さや妃殿下。

お二人から、『私たちもK子様を家族として歓迎いたします』と、温かい言葉をかけて差し上げてください。

理屈(法)と、感情(歓迎)。この二つが揃えば、いかに厳格なH親王殿下といえども、娘の幸せを願う一人の父親として、頷かざるを得ないはずです」


T先生の完璧なシナリオと、その自信に満ちた声に、車内の三人は深く頷いた


W子:

「T先生。私たちも、持てる限りの誠意を尽くします」


S子:

「ふふ、なんだかグリーンランドの作戦に負けないくらいの、大規模な『外交戦』ね。絶対に成功させましょう!」


公用車は、初夏の陽光を浴びながら東京を目指す。

赤坂での「最終決戦」に向け、楽園島が誇る「最高の外交チーム」の士気は最高潮に達していた。


#### AM 10:00 慈悲という名の自己犠牲


首都高の渋滞を抜け、W子(かおり皇后)、R子(リコ妃)、S子(さや妃)、そしてT先生を乗せた黒塗りの公用車が、緑豊かな仙洞御所の車寄せに滑り込んだ

出迎えたのは、宮内庁大夫と侍医Aだった


いつもなら、ここでS子の「愛弟子」であるK子様とM子様が待っており、「異星医療の基礎や実務」を学ぶために目を輝かせているはずだ

しかし、今日に限って二人の姿はない


宮内庁大夫は、最高位の国賓であるW子たちを丁寧に出迎えつつも、その顔には深い申し訳なさが滲んでいた


宮内庁大夫:

「かおり皇后陛下、リコ妃殿下、さや妃殿下、そしてT大使。ようこそおいでくださいました。

……実は、本日の若返り治療につきまして、大変申し上げにくいことがございまして」


大夫の横で、侍医Aが深く頭を下げた


侍医A:

「誠に申し訳ございません。現在、御所に設置していただいた4台の医療ベイは、全てフル稼働で難病の子供たちの治療に当たっております。

上皇様と上皇后様が、『自分たちの若返りよりも、命の危険があり、順番を待っている幼い子供たちを優先してほしい』と強くご希望されまして……。

一番早く終わる患者でも数時間後となります。現在、さや妃殿下が上皇様方の治療にお使いになれる医療ベイが、一台もない状態でして……」


* 軌道上からの宅急便


自分たちの寿命を後回しにしてでも子供を救おうとする、上皇様ご夫妻の底知れぬ慈悲

W子やR子は胸を打たれたが、S子はニヤリと笑った


S子:

「だと思いましたわ! 侍医さん、ご報告ありがとうございます。上皇様なら絶対にそう仰ると思って、我々も準備をしてきましたのでご安心ください」


S子はバッグから異星タブレットを取り出して操作し、月軌道上に停泊している旗艦『ネイビーゲーザー』のブリッジへホログラム通信を繋いだ


S子:

「シグマ副艦長、聞こえる?ご存知の通り、夫(p.admin)はグリーンランドの作戦で多忙だから、代わりに私が要請します。現在、日本の上皇様ご夫妻を治療するため、私がいる座標の庭に『臨時の医療ベイ』を1台転送してちょうだい。あくまで臨時だから、終わったらすぐに回収してね」


ホログラムの中に、シグマ副艦長の顔が浮かんだ


シグマ副艦長:

『さや夫人。要求は理解いたしました。しかし、本件は司令官殿(p.admin)の事前了承を得ておられますか?』


S子:

「もちろんですわ。楽園島の医療責任者として、出発前に彼から十分な権限をもらってきました。何かあれば私が責任を取ります」


シグマ副艦長:

『……承知いたしました。では、直ちに転送します』


通信が切れた約1分後

仙洞御所の美しい日本庭園の一角の空間が揺らぎ、光の粒子と共に、眩いクリスタルで構成された異星医療ベイが音もなく出現した


S子:

「侍医さん、これで問題解決ね。早速治療を始めましょう。言っておくけど、これは常設用じゃないから、治療が終わったらすぐに回収させてもらうわよ」


侍医A:

「さや妃殿下……! 何から何まで、本当にありがとうございます」


S子は異星ドローンの重力操作機能を使い、数トンの重さがある医療ベイをふわりと浮かせ、御所の医療室に近い縁側のすぐ外側まで静かに運んだ

これなら、ご高齢の上皇様ご夫妻も、縁側から庭へ降りてすぐに治療を受けられる


* 時代錯誤の禁足と、祖母の憂い


準備が整うと、上皇様と上皇后様が静かに縁側へお見えになった

宮内庁大夫から事の顛末を聞いた上皇様は、S子の機転と配慮に対し、深く感謝の意を述べられた


上皇様:

「さや妃。私たちの我が儘のために、このような素晴らしい手配をしていただき、本当に感謝します」


上皇様がいつものように医療ベイの中へ入り、淡い光に包まれて治療が始まった

その傍らで、S子は宮内庁大夫に尋ねた


S子:

「ところで大夫。今日はK子様とM子様のお姿が見えませんが、どうされたの?」


大夫は、言葉を選びながら、しかし隠し立てすることなく答えた


宮内庁大夫:

「……お恥ずかしい話ですが、お二人は現在、H親王殿下のご指示により、必要な公務を除いて『外出禁止(禁足)』の状態に置かれております。

わたくしも『それはあまりに強権的ではないか』と説得を試みたのですが、殿下のお耳には届かず……お力になれず、誠に申し訳ございません」


板挟みになって苦しむ大夫の言葉に、S子は眉を吊り上げた


S子:

「はあ!? 禁足ですって!?

今時、三十歳も超えた立派な大人の女性を、実家に閉じ込めるなんて……時代錯誤の極みだわ!

お二人は自分の足で世界を見て、自分の頭で考えて伴侶を選ばれたのよ。それを親の権力で押さえつけるなんて!」


S子のストレートすぎる批判に大夫は冷や汗をかいたが、縁側でその言葉を聞いていた上皇后様の顔には、怒りではなく、深い悲しみと孫娘たちへの強い愛情が浮かんでいた


上皇后様:

「……M子も、K子も。ロンドンで本当に素晴らしい経験をして、顔つきが変わって帰ってきたというのに。

あの子たちが今、どれほど心細い思いをしているか……」


上皇后様は、鳥籠に閉じ込められた二羽の美しい鳥を想うように、静かに目を伏せた


* 最強の援軍


約1時間後。上皇様の治療が終了し、医療ベイのカバーが開いた

肌つやが良くなり、足取りも軽く出てこられた上皇様と入れ替わるように、上皇后様が医療ベイへ向かう。

そのすれ違いざま、上皇后様は真剣な表情で夫を見つめた。


上皇后様:

「あなた……M子とK子が今、大変な困難に直面しているそうです。

さや妃たちの話を聞いて、私たちにできることがないか、考えてみてはいかがでしょう?」


上皇様は、妻の願いに深く頷いた


上皇后様が治療を受けている間、上皇様はT先生やS子、そしてW子たちから、ロンドンでの出来事、p.adminの『誓い』の問題、そしてH親王殿下が結婚・交際に反対している詳細な理由を聞き取った

全てを静かに聞き終えた上皇様は、庭の木々を見つめながら、ポツリとこぼした


上皇様:

「息子のH親王か……。

彼は、年をとるにつれて、皇室の伝統や規律というものに過剰にこだわるようになってしまった……それは、親である私の育て方の責任でもある」


上皇様は、T先生とW子たちに向き直った。


上皇様:

「かおり皇后、そしてT大使。

直接の交渉は、あなたたちの優れた知恵と誠意にお任せします。

……だが、それでも上手くいかず、彼が頑なに娘たちの未来を閉ざそうとするならば。

その時は、私が直接出向いて、彼を説得しましょう」


その言葉は、穏やかだが、かつての天皇としての絶対的な威厳に満ちていた

楽園島チームは、日本における「最強の援軍」を確約されたのだ


隣で控えていた宮内庁大夫は、ご退位された上皇様が自ら皇室内の揉め事に直接介入する決意をされたことに驚愕し、「上皇様、それはあまりに……」と宥めようとしたが、上皇様の真っ直ぐな視線を受け、最後は深く頭を下げて協力に同意した


* PM 12:30 決戦の地へ


上皇后様の治療も無事に終了した

S子が再び異星タブレット端末を操作すると、クリスタルの医療ベイは光と共に月軌道上のネイビーゲーザーへと帰還していった


元気を取り戻された上皇様と上皇后様に幾度も感謝されながら、楽園島一行は仙洞御所を後にした

午後の訪問時刻(15:00)までは、まだ少し余裕がある


T先生:

「さて、皆様。最強の『保険』も手に入りましたし、腹が減っては戦はできぬと申します。

赤坂のH親王邸へ乗り込む前に、どこかで美味しいランチでもいただきながら、午後のシナリオの最終確認と参りましょうか」


車に乗り込んだ四人は、皇族の重圧と古い伝統が待ち構える「決戦の地」へ向けて、英気を養うべく都内のレストランへと向かった


お待たせしました

p.adminの妻たちとH親王との決着はあと少しです(決して時間稼ぎという意図はないので悪しからず…)

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