D-DAY+171-172 2027年6月上旬 グリーンランド防衛戦 反撃の狼煙
#### 籠城するプリンセスの憂鬱と決断
赤坂御用地にあるH親王邸。昼食の時間は、朝にも増して重苦しい空気に包まれていた
今朝の審問会で父・H親王殿下の頑なな態度に失望し、怒りを覚えたM子様は、ついに「ボイコット」を行使した
ダイニングには姿を見せず、自室にこもって一人で昼食を摂ることを選んだのだ
一方、K子様は食卓に着いてはいたが、箸は遅々として進まない
親王妃殿下の「これ以上、お父様を刺激してはいけません」という無言の圧力に従い、沈黙を守り続けていた
自室のデスクで冷めた食事をつつきながら、M子様の胸中は焦燥感で張り裂けそうだった
M子様(心の声):
『お父様は分かってくれない…… 「大臣クラス」だなんて、そんな時代錯誤な肩書きに何の意味があるの? Alex(N君)は、今この瞬間も朱雀陛下の隣で、世界の危機と戦っているのよ。その実力と献身こそが、彼の本当の「格」なのに……!』
彼女はスマホを握りしめ、N君の連絡先を表示させた
「声が聞きたい。助けてほしい」 その衝動に駆られたが、指先が発信ボタンの上で止まった
M子様:
『ダメよ。彼は今、戦場(グリーンランド防衛戦)にいる。 私ごときの悩みで、彼の集中力を削ぐわけにはいかない……』
M子様は、自分の恋愛感情と公人としての理性の板挟みに苦しんでいた
その時、ふと一人の女性の顔が脳裏をよぎった
M子様:
『そうだわ……さやさん(S子)!彼女なら……同じように気が強くて、行動力があって、何より私の気持ちを一番理解してくれるはず!』
M子様は迷わず、親友である楽園島の「さや妃」ことS子に電話をかけた
M子様:
『さや、今話できる? 緊急なの』
* D-DAY+171 PM 17:00 楽園島 行政ビル 経済産業総括官執務室
楽園島時間、夕方17時。 S子は、H大使から提出された「神島建設」による王宮である『朱雀の宮』および王宮周辺エリアの開発見積書を睨みつけていた
S子:
「……総額2000億円、ですって? 宮殿本体に、迎賓館、職員宿舎、緑化エリア、商業モール…… 確かに楽園島の資金力なら一括で払えるけど、ポンと出すには桁がおかしいわよ」
彼女が電卓を叩きながら眉間のシワを深くしていたその時、スマホが着信を告げた。 画面には「M子様」の文字
S子:
「M子様? このタイミングで?」
嫌な予感がしつつも、S子は即座に通話ボタンを押した
S子:
「もしもし、M子様? どうされたの?」
電話の向こうから、M子様の切羽詰まった声、そして今朝の両親とのやり取り、特にN君との婚約に対するH親王の理不尽な条件(大臣職要求)についての憤りが、堰を切ったように溢れ出してきた
S子は黙って聞き続けた後、大きく一つ溜息をつき、力強く答えた
S子:
「……なるほど、状況は理解したわ。 お父様も親心とはいえ、少し頭が固すぎるわね。 Nさんは今、グリーンランドの件で夫(p.admin)の隣に張り付いているわ。正直、猫の手も借りたいくらい忙しいはずよ」
M子様:
「ええ……だから彼には連絡できないの。どうすればいいの、さや……」
S子:
「安心して。夫は動けないけど、『私たち(妻)』は動けるわ。 この件、私に任せなさい! 貴女の恋路も、K子様の未来も、私たちがまとめてこじ開けてみせるから!」
S子は自信満々に宣言し、通話を終えた。彼女の瞳には、既に「戦闘モード」の火が灯っていた
* D-DAY+171 PM 18:00 楽園島 妻たちの作戦会議
S子は直ちに「家族指輪」の通信機能を使い、R子とW子を招集した。 場所はW子とp.adminが住むのマンション 仕事を終えたR子(内政総括官)とW子(かおり皇后)が揃ったところで、S子はM子様からのSOSを共有した
R子:
「……それは不憫ですね。 K子様もM子様も、覚悟を決めて日本へ戻られたのに、ご家族の理解が得られないとは」
W子:
「ええ。特に『誓い』の件は、旦那様(p.admin)が誠実であればあるほど、がんじがらめになってしまうわ。 誰かが外から解いてあげないと」
三人は顔を見合わせ、頷き合った。 そして、前代未聞の「公開ドラマ(誓いの破棄儀式)」の脚本が練り上げられた
S子:
「いい? 湿っぽく『お願いします』なんて頭を下げるのは無しよ。 私たちは『王の妻』として、堂々と彼を解放するの。 R子さん、貴女の『内政総括官』としての権限、ここで使い所よ」
R子:
「ふふ。承知しました。 楽園島の家族法において、夫の誓約を妻の総意で無効化する……法解釈としては強引ですが、王命に等しい効力を持たせてみせます」
さらに、M子様の「N君の身分問題」についても、S子は完璧な布陣を敷いた
S子:
「そして、彼女達のお父様(H親王)を説得するには、政治のプロが必要よ。 T先生(駐日大使)を巻き込みましょう」
S子はその場で、T先生へホログラム通信を入れた
S子:
「T先生、こんばんは。さやです」
T先生:
『おや、さや妃殿下。夜分にどうされましたかな? 見積もりの件なら、少しはお安くできるよう神島建設と調整中ですが』
ホログラムの向こうで、T先生は優雅にブランデーグラスを傾けていた。
S子:
「いえ、今回はお金の話じゃありません。もっと大事な『陛下の未来の妃』と『N参事官の伴侶』の話です……実は、M子様とNさんの件で、H親王殿下が難色を示されていて」
S子は事情を説明し、「N君を外交総括官へ推薦する」というシナリオを提案した
T先生:
「ほう……なるほど。 『大臣職がない』という我が国のシステムを逆手に取り、実質的な権限はそのままに、対外的な「箔」をつけるわけですね。 ……面白い。N参事官の実力は私も高く評価しておりますし、彼がM子内親王殿下と結ばれることは、楽園島と日本の絆をより強固にするでしょう」
T先生はニヤリと笑った
T先生:
『承知いたしました。この老骨、一肌脱ぎましょう。 H親王殿下への説得、私にお任せあれ』
* D-DAY+171 PM 17:00(日本時間) 東京・赤坂御用地 H親王邸 娘たちの逆襲
日本時間、午後5時。夕食の準備が始まる少し前
M子様はK子様を伴って、H親王殿下の書斎を訪れた
その表情は、昼間の鬱屈したものではなく、勝負に出る棋士のように冴え渡っていた
M子様:
「お父様。少しお時間をいただけますか?」
H親王殿下:
「……なんだ。昼も食べずに部屋に籠もっていたくせに。 反省はしたのか?」
殿下は書類から目を離さずに言った
M子様:
「いいえ、反省などしておりません。なぜなら私は間違っていないからです ……ですが、平行線のままではお父様も困るでしょう? そこで、明日午後3時。お客様をお招きすることにいたしました」
H親王殿下:
「客だと? 勝手に何を……」
M子様:
「楽園島の駐日大使であるTさん。 そして……かおり皇后陛下(W子)、リコ妃殿下(R子)、さや妃殿下(S子)の4名です。 彼らが、お父様の懸念されている『身分』や『誓い』について、正式に説明に来られます」
H親王殿下:
「なっ……!?」
殿下は絶句した
一国の国王の王妃が3人も揃って、しかも大使を伴って自宅に押しかけてくるなど、外交儀礼上あり得ない「超重量級の訪問」だ
K子様:
「お父様。これが、楽園島の……朱雀陛下の『家族』の誠意です。 どうか、お会いになってください。逃げずに、私たちの未来と向き合ってください」
K子様も援護射撃を行った
H親王殿下は、娘たちの背後に見え隠れする「楽園島の女たち」の強大なプレッシャーを感じ取り、観念したように息を吐いた
H親王殿下:
「……分かった。会おう。 だが、言っておくが私は簡単には首を縦に振らんぞ。 彼らがどれほどの理屈を持ってくるか、見せてもらおうじゃないか」
M子様:
「ありがとうございます、お父様」
M子様は深々と頭を下げつつ、心の中で(勝ったわ)とガッツポーズをした
明日、赤坂御用地は「異星の王の最強の妻たち」と「老練な交渉人」による、愛と理屈の集中砲火を浴びることになる
#### グリーンランド AM 7:00 楽園島 PM 23:00 陰謀の連鎖
楽園島はもう深夜23時、イギリス帰還から働きづめのp.adminは体の限界で、行政ビルの執務室で仮眠を取っている
楽園島CICでは、IWAさん、KATOさん、INOさんが3シフトを組んで4時間毎に交代し、N君はスーツを着てCIC室一角のソファで仮眠している
p.adminの指示で、数万機の異星ドローンはグリーンランドの各集落や村の上空から監視し、アメリカスパイによる破壊活動を警戒している
また、作戦にも参加しているRiu先生は高齢の為自室マンションで休憩中だが、本人はいつでも対応できると公言している
なお、Riu先生はD-DAY+3の頃から若返り治療を受けていて、現在の身体年齢は10歳若く75歳相当らしい
***
グリーンランド首都ヌークの朝、KNRに出勤した職員らはテレビ放送を復旧するため奔走していた
テレビIP中継局には現地にてIPアドレス設定を変える必要があるため、完全復旧までは1~2日間かかると見積もられている
年配者達がテレビ放送が映らない事を気付き、ラジオも米軍のジャミングでノイズだらけで不安に陥っていた
若者はネット通信で情報を知っていて、KNRの放送もネットストリーミング経由で見れるが
政府やTusass公式サイトは真夜中のネット障害や政府サイトのIPアドレスの変更について声明は発表していない
ただ、ネット知識持ちの若者やITエンジニア職を従事している若者たちは、現在の状況の異常さを直ぐ気付いた
* グリーンランド北西部:ある小さな村の集会所
北極圏の冷たい風が吹き荒れる中、人口100人ほどの小さな村は、異様な熱気に包まれていた
本来なら静かな平日の午前中。しかし、村の集会所には高齢者を中心とした住民たちが詰めかけていた
現地工作員(扇動者):
「皆さん、聞いてください! 昨夜のネット遮断、そして今も映らないテレビ……これらは全て『楽園島の朱雀』の仕業です! 彼は異星のテクノロジーを使って我々のインフラを破壊し、この島を乗っ取ろうとしているのです!」
協力者の村人A:
「そうだ! デンマーク政府は何もしてくれない! 我々を守ってくれるのは、すぐ近くに基地を持つアメリカ軍だけだ!」
高齢の女性:
「テレビが映らなくて怖かったわ……。 やっぱりアメリカさんがネットを直してくれたのね?」
根拠のないデマが、不安という土壌に根を張り始めていた 若者たちは仕事に出ているか、ネットで正しい情報を得て冷ややかな視線を送っているが、情報弱者である高齢者層は、目の前で叫ぶ工作員の言葉に動揺していた
現地工作員(扇動者):
「朱雀の動きは早い、今日の内に住民投票をやろう!時間は午後4時までにここの集会所で無記名投票をやるんだ!」
村長:
「待ってくれ! 皆さん、落ち着いて! こんな急ごしらえの投票に法的な意味はない! それに、平日昼間の投票なんて……仕事をしている現役世代の声を無視する気か!?」
村長は必死に声を張り上げたが、工作員に買収された村の有力者が遮った
村の有力者:
「村長! 悠長なことは言ってられん! 朱雀の魔の手はすぐそこまで来ているんだぞ! 今すぐ意志を示さなければ、村ごと消されるかもしれないんだ!」
工作員:
「そうです! 午後4時までに投票を済ませましょう! アメリカ軍に『我々は保護を求む』というメッセージを送るのです!」
集会所の隅で、デンマーク軍の派遣兵士2名が悔しげに唇を噛んでいた
彼らの任務は「外部からの攻撃(米軍)」を防ぐことであり、「内部の民主的活動(と称する暴走)」を武力で鎮圧する権限はない
派遣兵士(通信):
「……こちらカーナーク村駐屯班。 状況は悪化しています。住民投票が強行されそうです。 至急、本国へ伝達を!」
現地の連絡を受け、デンマーク政府側は緊急協議したが、民間自主的な投票の強行阻止は法的に難しいという結論になった
その時、デンマーク政府側の結論を聞いた外務大臣は、直ぐに量子通信装置を使い、この事を楽園島側に知らせた
* 楽園島・行政ビル執務室:叩き起こされた王と参謀
* 時刻: 楽園島時間 AM 03:00
深夜の行政ビル。 執務室のソファで泥のように眠っていたp.adminは、N君に揺り起こされた
N君(Alex):
「……陛下。起きてください。緊急事態です」
p.admin:
「ん……? 何だ、アメリカが実効占領に移ったのか?」
p.adminは寝ぼけ眼をこすりながら身を起こした
N君は既にスーツの乱れをただし、異星タブレットを提示した。ホログラム画面には、デンマーク外務大臣とのホットラインが繋がっている
N君:
「いえ、もっと厄介な『政治占領』です。 現地工作員の扇動により、一部の村で『対米従属を求める住民投票』が強行されようとしています。 デンマーク政府は『民間の活動には介入できない』と及び腰です」
p.admin:
「……住民投票だと? 平日の昼間に、老人だけを集めて? 典型的な『組織票』作りだな。腐ったやり方だ」
p.adminの目に、一瞬で「管理者」としての光が戻った
N君:
「はい。ですが、このまま既成事実を作らせれば、アメリカは『住民の総意』として国際社会にアピールするでしょう ……陛下。これはデンマーク政府側の政治的な決断が問われます。 投票という行為自体は回避できない以上、我々が主導権を奪い返すしかありません」
N君は眼鏡の位置を直し、冷静な策を提案した。
N君:
「今すぐデンマーク首相、およびグリーンランド自治政府首相と連絡を取りましょう。 怪しげな民間投票を無効化するために、『四日日後の日曜日、政府主導による正式な諮問的住民投票を行う』と宣言させるのです。 公正なルール、全住民への周知、そして我々のような国際監視団の立会いの下で堂々と戦う方が、まだ事態をコントロールできます」
p.admin:
「なるほど……『毒を以て毒を制す』か。 工作員のこそこそした投票を、政府公式の選挙で上書きして無効化するわけだな」
p.adminは立ち上がった
p.admin:
「よし、やろう。 N君、回線をデンマーク首相官邸に繋いでくれ。 急な申し訳ないが、貴国の存亡がかかっていると伝えてくれ!」
N君:
「承知しました! デンマーク政府側には既に了解を取っておりますので、向こうは事情は把握しているはずです!」
深夜の楽園島から、北欧の指導者たちへ p.adminとN君による、起死回生の「逆転の住民投票」提案が始まろうとしていた
それは、アメリカの得意とする「民主主義ごっこ」を、本物の民主主義で殴り返す戦いだった
#### グリーンランド PM 12:00 楽園島 AM 4:00 虚構を撃つ真実
* 三者会談:起死回生の一手
グリーンランド時間 正午12時 楽園島時間、早朝4時
楽園島行政ビルの執務室に、二つのホログラム映像が浮かび上がった
デンマーク・コペンハーゲンのM首相
そして、グリーンランド自治政府・ヌークのJe首相だ
N君:
「状況は切迫しています。
現在、米軍基地周辺の複数の村で、工作員主導による『模擬住民投票』の準備が進んでいます。
彼らの狙いは『午後4時』の開票結果で既成事実を作ること。
これを無効化するには、それより前に『正当な政府による、公式な住民投票の実施』を宣言し、彼らの投票を『無意味なお遊び』に格下げするしかありません」
デンマークM首相:
「同意する。だが、開催の宣言は私がやるべきではない。
デンマークが主導すれば、アメリカは『植民地支配の強制だ』とプロパガンダに利用するだろう。
あくまでグリーンランド自治政府のJe首相が、自らの意思で決定し、発表すべきだ」
グリーンランドJe首相:
「もちろんです。私の責任でやります。
……ですが、問題は『伝達手段』です。
テレビは壊滅状態。ラジオはジャミングだらけ。ネットは復旧しましたが、高齢者は見ていません。
私が会見を開いても、肝心の村人たちに届くかどうか……」
Je首相は苦渋の表情を浮かべた
そこで、p.adminが静かに、しかし力強く発言した
p.admin:
「Je首相……『王の言葉』なら、どうですか?」
デンマークM首相:
「なっ……国王陛下か!?
しかし、王室は政治的関与を禁じられている。中立が原則だ!」
p.admin:
「平時ならそうです。しかし今は、国家存亡の危機です。
昨日、貴国の政府専用機も撃墜されかけました。これはもう戦争の一歩手前です。もし陛下ご自身が搭乗した場合をお考えください!
それに、陛下が語るのは『賛成か反対か』という政治的誘導ではありません。
ただ、『家族(国民)として、冷静になりなさい。そして、日曜日に行われる正しい手続き(投票)までお待ちなさい』と、諭すだけです。
これなら、憲法にも抵触しないはずです」
沈黙が流れた
やがて、Je首相が顔を上げた
グリーンランドJe首相:
「……それしかありません。
グリーンランドの年配者は、王室への敬愛が深い。陛下の言葉なら、工作員のデマよりも強く響くはずです!」
* ヌーク・Tusass本社:最強のジャック放送
* 時刻: グリーンランド PM 12:30
方針は決まった。次は「どう届けるか」だ
KNR(グリーンランド放送協会)の局長が、血相を変えてTusass(通信会社)の本社に乗り込んできた
KNR局長:
「おい! 技術屋!
テレビが死んでいる今、頼れるのはお前たちの回線だけだ!
これから国王陛下とJe首相の緊急会見を行う!
だが、Youtubeや公式サイトで流すだけじゃダメだ! 誰も見に来ない!」
Tusassエンジニア長:
「じゃあどうしろって言うんです!?」
KNR局長:
「『ジャック』しろ!
グリーンランド全土の全てのスマホ、全てのPC……ブラウザを開こうとした瞬間に、強制的にこの放送画面が出るようにしろ!
『キャプティブ・ポータル(強制リダイレクト)』だ!」
Tusassエンジニア長:
「なっ……! フリーWi-Fiの認証画面みたいなことを、国レベルでやれと!?
通信の秘密が……いや、緊急避難か。
……よし、分かった! やろう!」
エンジニア長は、楽園島提供の量子通信中継端末経由で、日本(ADDI)から提供されたばかりの超高速ゲートウェイの設定画面を開いた
Tusassエンジニア長:
「日本経由のルートサーバー設定を変更!
HTTP/HTTPSリクエストを全て『KNR緊急放送ページ』へリダイレクト!
例外は病院と警察の緊急回線のみ!
……いいか、グリーンランド中の画面を、国王陛下で埋め尽くせ!!」
* ロンドン・ダウニング街10番地:王の心境
ロンドン、イギリス首相官邸の一室。
イギリス政府に保護されたデンマーク国王フレデリック10世は、窓の外に広がるロンドンの曇り空を見つめていた
彼の脳裏にあるのは、昨日の北海上空での事件だ
(私はあの機には乗っていなかった。だが……)
国王は、昨日届いた詳細な報告書を握りしめた
アメリカ軍のF-22は、デンマーク外務大臣が乗る政府専用機に対し、撃墜すら辞さない構えで威嚇を行った
もし、予定が変わり、自分が外相と共にあの機で帰国していたら?
アメリカは躊躇しただろうか? いや、あの強引さを見る限り、彼らは「誰が乗っていようと」構わずに牙を剥いただろう
秘書官:
「陛下……本国のM首相、およびグリーンランドのJe首相より、緊急の懇願です。
グリーンランドで起きている混乱を鎮めるため、陛下のお言葉を頂きたいと。
……そして、この要請は『朱雀陛下』の発案でもあります」
フレデリック国王:
「朱雀殿が……?」
国王は窓の外のロンドンの空を見上げた。
通常であれば、立憲君主として政治的な投票に関わる発言は避けるべきだ。
だが、昨日の出来事が彼の心を変えていた。
「私たちの命があるのは、彼のおかげだ。そして今、私の愛するグリーンランドの民が、詐欺師のような手口で分断されようとしている」
フレデリック国王:
「……これは、我が国への、そして民主主義への冒涜だ」
静かな怒りが、彼の胸の奥で燃え上がっていた。
王室は政治的中立を守るべきだ。しかし、他国の軍隊が我が国の領土で、国民を欺き、分断しようとしている今、沈黙することは「中立」ではなく「見殺し」と同義だ。
秘書官:
「陛下。中継の準備が整いました。
グリーンランド自治政府のJe首相も、回線の向こうで待機されています」
フレデリック国王:
「ああ、行こう。
政治の話はしない。ただ、私の大切な家族たちに、『惑わされるな』と伝えるだけだ。
それが、王としての責務だろう」
国王は決然とカメラの前へと歩み出した
* カーナーク村・集会所 約束された真実
* 時刻: グリーンランド PM 13:00
グリーンランド全土で、奇妙な現象が起きた。
デマを信じた村人がスマホで情報を検索しようとした時、若者がSNSを開こうとした時。
全ての画面が切り替わり、「緊急放送:国王陛下より国民へ」という文字と共に、ライブ映像が強制的に表示された
工作員(村の集会所):
「な、何だ!? ネットがハッキングされたのか!?」
人口100人の村の集会所は、騒然としていた
突然、村の若者たちが数人、慌てた様子で集会所の大型テレビに駆け寄り、自分のノートPCをHDMIケーブルで接続した
若者A:
「じいちゃん、ばあちゃん! ちょっと待って!
スマホがおかしいんだ! どのページを開いても『緊急放送』が出る!
これを見てくれ! 今、テレビに映すから!」
画面が切り替わり、ノイズの向こうから鮮明な映像が現れた
画面の左側にはグリーンランド自治政府のJe首相、そして中央にはデンマーク国王フレデリック10世の姿があった
その瞬間、集会所の空気が一変した
今まで部屋の隅で唇を噛んでいた2名のデンマーク派遣兵士が、無言で立ち上がり、テレビの両脇へと移動したのだ
ザッ!
二人の兵士は、背筋を伸ばして直立不動の姿勢をとった。
右側の兵士は、赤地に白十字の「ダンネブロ(デンマーク国旗)」を
左側の兵士は、黄金の獅子とハートが描かれた「デンマーク国章旗(王室旗)」を、高々と掲げた
それは、みすぼらしい集会所のテレビモニターを、一瞬にして「王の玉座」へと変える儀式だった
この放送が、何者かの悪戯などではなく、国家の最高権威による正式なものであることを、無言のうちに保証していた
米国工作員:
「な、なんだこれは!? 消せ!
これはフェイクだ! 今流行りのAIディープフェイクだ!
朱雀が作った偽映像に騙されるな!!」
工作員は叫びながらテレビの電源を抜こうとしたが、国旗を持った兵士が鋭い眼光で彼を一瞥し、無言のまま一歩前に出て立ちはだかった。
その「国家の威厳」を纏った兵士の気迫に、工作員はたじろぎ、後ずさりした
* 王の一手 崩れ去る「投票ごっこ」
画面の中の国王陛下が、静かに語り始めた。
フレデリック国王(画面):
『親愛なるグリーンランドの皆様。
遠くロンドンの地より、心を込めて語りかけます。
今、貴方たちの不安につけ込み、急ぎ足で答えを出させようとする者たちがいます。
ですが、どうかその声に惑わされず、誇り高きイヌイット※の知恵を持って、冷静になってください。
どうか私の言葉を信じて欲しい。
Je首相の下で、皆さんの声を正しく聞くための、正式な投票が行われます
日曜日に行われる正式な投票まで、その手にある紙切れ(投票用紙)を箱に入れるのは待っていただきたい』
※イヌイット(Inuit):
カナダ北部、アラスカ、グリーンランドなどの北極圏に住む、モンゴロイド系の先住民族です
かつては「エスキモー」と呼ばれましたが、現在は「人間」を意味するイヌイットが正式名称として用いられます
その声は、AIが作った合成音声のような無機質なものではなく、国民を案じる温かさと、王としての威厳に満ちて
工作員たちが叫ぶ扇動よりも遥かに深く、人々の心に染み渡っていった
何より、テレビの両脇で微動だにせず旗を掲げる兵士たちの姿が、その言葉の「本物」さを何よりも雄弁に物語っていた
村の老人B:
「……王様だ。あのお声は、間違いなくフレデリック陛下だ」
投票箱に手を伸ばしかけていた老婦人が、震える手を止めた
老婦人:
「フェイクなんかじゃないわ……。
あんなに立派な兵隊さんが、王様の旗を持って守っているんだもの
偽物のわけがない」
村の有力者(協力者):
「い、いや、しかし! アメリカ軍が守ってくれるという話は……」
村の若者:
「目を覚ませよ!
本物の王様と首相が『日曜日にちゃんと話を聞く』って言ってるんだぞ!
こそこそ隠れて今日投票する必要なんてないじゃないか!」
老人C:
「……そうだな。王様が『待て』と仰るなら、待つべきだ」
カラン……
一人の老人が、投票用紙を床に落とした。
それを合図に、他の老人たちも次々と用紙をテーブルに置き、あるいは破り捨て始めた。
米国工作員:
「ま、待て! 投票を続けろ!
これはチャンスなんだぞ! おい、誰か!」
工作員の叫びは、もはや誰の耳にも届かなかった。
集会所の人々は、テレビの中の王と、それを守る二つの旗に敬意を表し、静かにその場に立ち尽くしていた
アメリカの「オペレーション・アイスピック」フェーズ3は、伝統ある王室の権威と、二人の兵士の矜持の前に、完全に沈黙したのだった
おまたせしました。
どうやらp.adminは王様政治が大好きのようです(笑)
前提としてはその王は自由と人権を守る方に限るだが
物語中、例の北の将軍は今でも「棺」に入れられて東大門の前で展示されています




