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D-DAY+171 2027年6月上旬 グリーンランド防衛戦 公と私、それぞれの戦い

#### 朝の審問会


深夜2時半まで起きていたこともあり、H親王一家の朝食は普段より遅い時間に始まった

食卓には、焼き鮭、漬物、豆腐とわかめの味噌汁、そして小粒の納豆という、極めて標準的な日本の和朝食が並んでいる

しかし、箸を動かす音と、食器が触れ合う微かな音以外、会話は一切なかった


H親王殿下は黙々と鮭を口に運び、時折、目の下にクマを作った娘たちを鋭い視線で一瞥する

親王妃殿下は、場の空気を和ませようとお茶を勧めるが、その試みも重苦しい沈黙の前には無力だった


* 第一幕:審問開始


朝食後、場所をリビングに移した

H親王殿下と親王妃殿下は革張りのソファに深く腰掛け、その対面にある背もたれのないベンチソファに、K子様とM子様が並んで座った

二人の姿勢は、正座に近いほど背筋が伸びており、まるでこれから判決を言い渡される被告人のようだった


H親王殿下:

「……さて。昨夜は疲れていたから早めに切り上げたが、聞きたいことは山ほどある」


殿下はタブレット端末をテーブルに置き、単刀直入に切り出した


H親王殿下:

「まず、なぜワープゲートの開通式に参加した? 特定の企業のインフラ事業だぞ。皇族が軽々しく関与して良い案件ではない」


K子様:

「……お言葉ですが、あれは単なる企業の事業ではありません。 世界の物流と地政学を一変させる歴史的な転換点です。 私は、朱雀陛下の『同伴』としての責務、そしてK首相から託された『東京ワープゲート設置』に関する陛下への建言という、国益に関わる任務を遂行するために参加いたしました」


K子様は怯むことなく答えた。以前の彼女なら、父の威圧感に言葉を詰まらせていただろう


H親王殿下:

「東京ゲートの件は、K首相からも報告があった。その功績は認めよう、不問とする。 だが、私が問うているのは『皇族としての立ち振る舞い』だ。 世界中を飛び回り、まるで観光旅行のように振る舞うことが、日本の国益になるのか?」


K子様:

「観光ではありません! 私は……朱雀陛下の将来のパートナーを務めるべき人間として、彼が見ている世界の最前線を、彼の傍らで肌で感じる責任があると考えました。 部屋に籠もって報告書を読むだけでは、あの方の背中は支えられません!」


H親王殿下・親王妃殿下:

「「……!!」」


「パートナー」という言葉を明確に使った娘の気迫に、両親は目を見開いた


* 第二幕:M子様の反乱


H親王殿下は咳払いをして、矛先を変えた


H親王殿下:

「……百歩譲って、K子はそう思ったとしよう。 だが、M子はどうなんだ? お前まで朱雀に嫁ぎたいと言うつもりか?」


M子様:

「いいえ、違います。 私は……楽園島のN参事官と、結婚を前提としたお付き合いをしております。 彼が結婚を申し込んでくれました。私はそれを受け入れました。 ですから、将来の楽園島外交官夫人として、現場で学ぶべきだと判断したのです」


H親王殿下:

「なっ……参事官だと!? 一国のプリンセスが、どこの馬の骨とも知れぬ……いや、N君は優秀なのは以前から知っているが、たかが『参事官』風情に嫁ぐだと? せめて閣僚級……外務大臣クラスでなければ、釣り合いが取れん!」


殿下の古い価値観に基づいた発言に、M子様が柳眉を逆立てた


M子様:

「お父様! 現実を見てください! そもそも楽園島には『大臣』という役職自体が存在しません! 全てフラットな組織です! それに、いつから結婚相手の地位が必要条件になったのですか? 今までそんなこと仰らなかったではありませんか! それを『政略結婚』の道具にするような言い方……私は断固として抗議します!」


H親王殿下:

「ぐぬ……」


M子様の理路整然とした気の強い反論に、殿下は言葉に詰まった


* 第三幕:『誓い』と『身分』の解釈


ここでK子様が、妹に続いて意を決して口を開いた


K子様:

「お父様、お母様。聞いてください。 ロンドンにて、カミラ皇后陛下が設けてくださった場において……私は、かおり皇后陛下、ならびにリコ妃殿下の正式なお許しを得ました。 その上で、朱雀陛下と真剣な交際を始めさせていただくことになりました」


その告白に、リビングの空気が凍りついた

H親王殿下は、最も懸念していた核心を突いた


H親王殿下:

「……許しを得ただと? だが、朱雀王は以前、自身の結婚式で世界中に向けて誓ったはずだ。 『これ以上、妻は娶らない』とな。 あの誓いはどうなっている? 彼はそれを破るつもりか? それとも、お前を『愛人』として囲うつもりか?」


K子様:

「愛人などではありません! 陛下は『必ず公的に解決する』と仰いました。具体的な解決策はまだ……でも、私はあの方を信じます!」


H親王殿下:

「信じる、信じる……そればかりだ! 出発前、私は『相応の身分』が必要だと念を押して伝えたはずだ。 具体策もない、誓いの破棄もしていない。これでは実質、何も保証されていないではないか!」


K子様:

「お父様の仰る『相応の身分』とは、私がかおり皇后陛下を追い出して、その座に収まるということですか!? 自分が許しを得た身分なのに、恩を仇で返すような真似……そんなこと、私には絶対にできません! もしそれが条件なら、私は皇籍を離脱してでも彼についていきます!」


K子様が涙ながらに叫んだ。 ここで、状況を見守っていた親王妃殿下が、静かに、しかし力強く介入した


親王妃殿下:

「K子、落ち着きなさい。……あなた(殿下)もです。 K子、お父様が仰った『相応の身分』というのは、何も貴女がかおり様と入れ替わるという意味ではありませんよ。 お父様は、貴女が『日陰の身(愛人)』になることだけは許さない、貴女が傷つく姿を見たくない……そう仰っているのです」


親王妃殿下は夫の方を見た


親王妃殿下:

「かおり皇后は既に国際社会で認知された存在です。たとえ彼女が位を譲っても、世論は貴女を『略奪者』と見るでしょう。それでは貴女の名誉が傷つきます ……つまり、求められているのは、『誰も不幸にせず、かつ貴女が正妻と同等の法的地位を得る』という、ウルトラCの解決策なのです」


H親王殿下:

「……そうだ、母さんの言う通りだ。 私は娘を、後ろ指さされるような立場にはしたくないだけだ」


殿下はバツが悪そうに視線を逸らした。 K子様はハッとして、自分の早合点を恥じた


K子様:

「申し訳ありません……取り乱しました」


H親王殿下:

「ふん。だがな、結論は変わらん。 朱雀は、あの『誓い』を破棄する、あるいは回避する明確な法的段取りを示さない限り、お前との交際は認めん!」


* 第四幕:不在の王と、疑惑の空


議論が平行線をたどる中、H親王殿下は苛立ちを募らせた。


H親王殿下:

「らちが明かん。なら、朱雀を呼んで来い! 彼自身の口から、我々の前で説明してもらう。逃げも隠れもせずにな!」


K子様:

「……それは、できません。 朱雀陛下は現在、極めて重要かつ緊急の公務に対応されており、当面の間は日本に来られません」


K子様は視線を伏せた。グリーンランドでの軍事作戦を明かすわけにはいかない


H親王殿下:

「私の娘を娶る話よりも大事な公務だと? ……まさか。 昨日の夕方、ヒースロー空港にイギリス空軍の最新鋭戦闘機が3機、突如出現した件……あれと関係があるのか?」


殿下の勘は鋭かった


H親王殿下:

「英政府は『哨戒中の機体トラブルで、朱雀陛下に救助を要請した』と発表しているが……タイミングが良すぎる。 まさか、政治的な活動にとどまらず、お前たちは朱雀王家の『軍事介入』の現場にまで同席していたのではないだろうな!?」


K子様とM子様は、顔色一つ変えずに否定した。ここで肯定すれば、皇室を巻き込んだ国際問題になる


M子様:

「お父様、それは飛躍しすぎです。 私たちは人命救助の瞬間に立ち会っただけです。 陛下は、困っている友人を助けただけ……それ以上でも以下でもありません」


K子様:

「はい。陛下は、誰よりも平和を愛する方です。 軍事介入など……そのような物騒なこととはしていない!(嘘ではない、あれは『防衛』と『人道支援』だもの)」


* 終幕:出口なき対話


結局、K子様とp.adminの交際への正式な承認は得られず、M子様とN参事官の話も「相手の身分」という壁に阻まれ、棚上げとなった


H親王殿下:

「……頭が痛くなってきた。 とにかく、朱雀が説明に来るまでは、一切認めん。 それまでは、お前たちの外出も制限させてもらうからな」


殿下は一方的に言い渡すと、再びソファに沈み込んだ

親王妃殿下は困ったような顔で娘たちを見つめ、「今は時期を待ちましょう」と目配せをした


赤坂の朝は、重苦しい空気に包まれたまま過ぎていった

しかし、娘たちの瞳には絶望の色はなかった。彼女たちは知っている

北の空の下で、愛する男たちが今まさに「不可能を可能にする」ために戦っていることを。


K子様(心の声):

(待っています、朱雀様。 貴方が世界を納得させる答えを持って、私を迎えに来てくださるその日まで……私はここで、一歩も引きません)


#### グリーンランド防衛戦:第1フェーズ 「情報の遮断」


K子様とM子様は両親を説得という戦いの中、楽園島とグリーンランドはまた色が違う戦いが始まろうとした


* 見えざる「錨」

* 時刻: 楽園島時間 PM 16:00 / 日本時間 PM 13:00 / グリーンランド時間 AM 01:00


楽園島の行政ビルの一角にあるCIC(中央指令センター)は、静寂な緊張感に包まれていた かつての「D-DAY(米国侵攻)」を生き抜いた元CICメンバーのIWA、KATO、INOの3人は、熟練した手つきでホログラムディスプレイを操作し、地球の反対側の海域を監視していた


IWAさん(元AIST研究員):

「……おかしいな。これを見てくれ」


IWAさんが指差したモニターには、グリーンランド西海岸沖の船舶情報が表示されていた


IWAさん:

「AIS(自動船舶識別装置)の信号では『アイスランド船籍のトロール漁船』となっている。 だが、上空の異星ドローンからの映像解析と船体サイズが一致しない。これは明らかに中型の貨物船だ。しかも……」


IWAさんは航跡データを拡大した


IWAさん:

「漁をしているにしては動きが不自然だ。網を引く動きじゃない。 海底ケーブル『グリーンランド・コネクト』の埋設ルート上を、執拗にジグザグ航行している。 ソナー解析……ビンゴだ。いかりを引きずっている音がする」


INOさん(インフラ担当):

「錨を引っかけたまま走って、物理的にケーブルを引きちぎる気か。 古い手口だが、一番確実で修理に時間がかかるやり方だ」


IWAさんは即座にホログラム通信を開いた


IWAさん:

「朱雀様! CICのIWAです。 グリーンランド沖にて、海底ケーブル破壊工作と思われる偽装船を発見しました! 映像を送ります!」


別室で待機していたp.adminは、送られてきた映像を見て眉をひそめた


p.admin:

「やはり来たか。物理破壊……なりふり構わずだな」


* 外交の壁:証拠と実行の狭間で


N君:

「こちら楽園島。デンマーク国防情報局、応答願います」


N君は直ちにホットラインを開き、IWAさんが解析した「偽装船が錨を引きずってケーブル上を航行する赤外線証拠映像」を、事前に確立していたセキュアなルート(物理USB経由)で送った

暫くすると、デンマーク政府側の返信がきた


デンマーク国防情報局将校:

『……映像を確認した。確かに極めて疑わしい。 だが、ここは公海スレスレの海域だ。 相手は「漁具のトラブルで錨が上がらなくなった」と言い張るだろう。 現段階で、明確な破壊行為の瞬間(ケーブル切断の瞬間)を確認する前に、中立国の民間船を拿捕することは国際法上極めて難しい。 もし相手が潔白だったら、逆にこちらが海賊行為で訴えられる』


N君:

「ですが将校殿! 切れてからでは遅いのです! 通信が途絶えれば、現地の村は孤立します!」


デンマーク将校:

『分かっている! コーストガードの巡視船を急行させているが、到着まであと2時間はかかる。 今は「進路を変更せよ」と無線で警告することしかできない……すまない』


N君は拳を握りしめ、通信を切った

民主主義国家の「法の手続き」が、この緊急時には足枷となっていた


N君の報告を聞いたp.adminは直ぐに指示を出しました


p.admin(楽園島):

「KATOさん! 今だ! 量子ブリッジをアクティブ化!」


KATOさん(楽園島CIC):

「了解! ADDIゲートウェイ接続確認! グリーンランド側全端末、リンクアップ!」


* ヌーク・海底ケーブル揚陸局:沈黙の瞬間

* 時刻:グリーンランド時間 AM 02:00


グリーンランドの首都ヌーク郊外にある、海底ケーブルの揚陸局(Landing Station)

外は猛吹雪。局内では夜勤のエンジニアたちがコーヒーを片手にモニターを眺めていた


突然、警報音が鳴り響いた。


エンジニアA:

「おい! カナダ・ルートの光信号がロストしたぞ! 断線だ! 完全にダウンした!」


エンジニアB:

「まさか! 予備回線のアイスランド・ルートに切り替えろ!」


エンジニアA:

「切り替えた! ……くそっ、帯域が足りない! そっちは30GBpsしかなく、パケットロスが酷いぞ!」


その混乱の最中、揚陸局の警備室に待機していたデンマーク軍の派遣兵士2名が、重そうな黒いハードケースを持って入ってきた

彼らは数時間前、楽園島によるワープで転送されてきたばかりだ


デンマーク兵士:

「おい、通信が切れたのか!? だったら、これを……これを使えと言われている!」


兵士がケースを開けると、そこには無骨な黒い箱、『量子通信中継端末ブリッジ』が鎮座していた

スイッチ類は一切なく、背面には 10Gbps 対応のLANポートとQSFPポートがずらりと並んでいるだけだ


エンジニアB:

「なんだこれは? ルーターか? 設定画面へのIPアドレスは? マニュアルはどこだ?」


デンマーク兵士:

「マニュアルはない! 『ただLANケーブルを挿せば繋がる』としか聞いていない! 頼む、やってみてくれ!」


エンジニアたちは、未知のブラックボックスを前に困惑した顔を見合わせた


* Tusass本社:情報の孤島化


さらに1時間後。 グリーンランド首都ヌークにある通信最大手「Tusassトゥサス」の本社オペレーションセンターは、パニック状態に陥っていた


オペレーター:

「アイスランド・ルートもロストしました! 全光ファイバー切断! 外部との接続、完全に途絶えました!」

「市内各所の4G/5G基地局からもアラート! バックボーンが死んだため、携帯電話も繋がりません!」

「衛星回線は!? ……ダメだ、ノイズレベルが異常に高く、おそらくジャミングを受けてる! 帯域が出ない!」


モニターの一面が真っ赤な「ERROR」で埋め尽くされる

グリーンランドは今、世界から完全に切り離された「情報の孤島」となった


* 復活の光:未知の黒い箱


絶望的な空気の中、一人の若手職員が、デンマーク兵士が持ち込んだ「黒い箱」のLANポートに、社内の来客用ネットワーク(ゲストWi-Fi用ルーター)のケーブルをカチリと差し込んだ


その瞬間。 黒い箱のインジケーターとルーター前面の「Internet」インジケーターが、静かに「青色」に点灯した


若手職員:「……え?」


彼は震える手で、自分のスマホを取り出した。Wi-Fiアイコンが点灯している。 ブラウザを開き、ニュースサイトを更新する

一瞬のラグもなく、トップニュースが表示された


もう一人の職員はノートPCを「黒い箱」のLANポートに接続して、スピードテストを実行する

メーターが跳ね上がり、「ダウンロード:8.5Gbps / アップロード:8.5Gbps」というとんでもない数値を叩き出した

Ping値は驚異の「1ms」

通常、グリーンランドから主要サーバーへのPingは50ms以上かかるはずだ


若手職員:

「マネージャー! 繋がりました! しかも……速いです! 桁違いに速い! IPアドレスは……『ADDI(日本)』? なぜ日本経由なんだ!?」


マネージャー:

「何だと!? しかし10GBpsのLANポートだけじゃ……そうか!あの『黒い箱』に100GBpsのQSFPポートも沢山ある!……とにかく、この回線をバックボーンに回せ! 重要インフラと政府機関を最優先で復旧させろ! アメリカが何を仕掛けてこようと、我々の通信までは塞がせないぞ!」


p.adminの読み通り、物理ケーブルが切断されたその瞬間から、楽園島のオーバーテクノロジーによる「見えない海底ケーブル」が、グリーンランドの防衛線を支え始めたのだった


#### グリーンランド防衛戦:第2フェーズ 「欺瞞の種」


* 楽園島CIC ⇄ ヌークTusass本社

* 時刻: グリーンランド時間 AM 03:00 / 日本時間 PM 15:00


楽園島CICでは、KATOさん(情報通信総括官)がキーボードを叩く指を止めず、ホログラム画面越しに指示を飛ばしていた


KATOさん:

「いいですか、グリーンランド側のエンジニア! 今から『物理転送』でそちらの建物の入口前にUSBメモリを送ります。 中には、ADDI(日本の通信キャリア会社)が緊急発行したグローバル固定IPアドレス1024個(サブネットマスク 255.255.252.0)と、ゲートウェイ設定用のコンフィグファイルが入っています! USBメモリの中にある設定手順書に従って、直ちにルーターのルーティング・テーブルを書き換えてください!」


この後すぐ、ヌークのTusass本社玄関入口前の床に、金属製のUSBメモリが突如出現した※ 待機していたエンジニアたちは、まるで神具を扱うようにそれを拾い上げ、サーバールームに駆け込んでメインコンソールに差し込んだ


※ワープ転送は瞬間移動ではありません、途中の障害物を考慮しないといけない


Tusassエンジニア長:

「来たぞ! 『1024個の固定IP』……! なんて数だ、これなら政府機関も病院も、重要インフラは全てカバーできる! 総員、設定開始! 日本(ADDI)のバックボーンに全トラフィックを流し込め!」


* Tusass本社:名前解決(DNS)の死闘

* 時刻:グリーンランド時間 AM 03:30


物理的な接続(レイヤー1〜3)は回復した。しかし、現場には新たな悲鳴が響き渡った


若手職員:

「部長! 繋がりません! IPアドレス直打ちなら自治政府のサイトも見れますが、gov.glなどのドメイン名を入れると『サーバーが見つかりません』になります!」


Tusassエンジニア長:

「当たり前だ! 世界中のDNSサーバーは、まだ『切断された古い海底ケーブルからもらったIP』を記憶しているんだ! DNSレコード(Aレコード)が更新されていない!」


若手職員:

「どうすれば!?」


Tusassエンジニア長:

「手動だ! 手動で書き換えろ! 政府公式サイト、警察、病院……主要なドメインのAレコードを、今もらったADDIのIPアドレス(パブリックIP)に片っ端から紐付け直すんだ! TTL(キャッシュ生存時間)は最短に設定しろ! 急げ!!」


職員たちは血眼になってキーボードを叩き続けた この迅速な対応により、世界中の主要なDNSサーバーに対し、「グリーンランドの新しい住所はここ(日本経由)だ」という情報が伝播し始めた


* KNR(グリーンランド放送協会):消えたテレビ画面

* 時刻: グリーンランド時間 AM 05:00


さらに2時間が経過。 日本経由の帯域は安定し、合計3000Gbpsという、切断前よりも太い回線が確保された インターネットは完全復旧したかに見えた。だが、アナログな問題が残っていた


KNR職員:

「局長! ネットは戻りましたが……テレビ放送(DVB-T)が死んでいます! 各地方の中継局へのIP伝送網(STL)が、海底ケーブル切断の影響で古いIPアドレス設定が使えなくなり、通信障害を起こしています! それに、一部の沿岸部では電波障害も報告されています……おそらく、米軍の電子戦機か何かによるジャミングです!」


KNR局長:

「なんてことだ…… 若者はスマホでネットニュースを見られるが、高齢者はテレビが情報源なんだぞ! 画面が砂嵐のままでは、住民の不安が爆発してしまう!」


この「テレビの途絶」は、後にCIAが仕掛ける流言飛語デマにとって、格好の土壌となってしまうのだった


* アメリカ CIA本部 DNSの攻防

* 時刻: 米国東部時間 AM 04:00


CIA作戦本部:

「長官! グリーンランドのネット回線、復旧しました! 遮断からわずか2時間……ありえません! トラフィック解析の結果、全データが『日本』を経由しています! 朱雀の量子技術です!」


CIA長官:

「おのれ朱雀……! 物理切断すら無効化するか! ええい、回線が生きているなら、住所(DNS)を消してしまえ! ICANN、ルートサーバー管理団体、主要なDNSプロバイダに圧力をかけろ! 『安全保障上の理由により、.gl およびデンマーク関連ドメインの解析を停止せよ』とな!」


CIAのエージェントたちは、深夜のシリコンバレーや各管理団体を急襲した

しかし、インターネットの自由を標榜する技術者たちの抵抗は激しかった


某ルートサーバー管理団体:

「拒否します。政治的理由でルートゾーンを改竄などすれば、インターネットの信頼性が崩壊する」


そして、世界最大のパブリックDNS「8.8.8.8」を運用するGoogle本社


CIAエージェント:

「国家安全保障局の要請だ。このリストにあるドメインを、Google Public DNSから削除しろ。今すぐにだ」


Google幹部:

「……お断りします」


CIAエージェント:

「何だと? 合衆国政府に逆らう気か?」


Google幹部:

「我々のポリシーに反します。それに……」


Google幹部(心の声):

(もしそんなことをすれば、あの『p.admin』がどう出るか分からない。我々のデータセンターが『物理的に』消されるリスクの方が怖い)


Google幹部:

「とにかく、令状がない限り、1ビットたりとも操作しません。お引き取りを」


Googleの明確な拒絶により、CIAによる「DNS封鎖作戦」は完全に頓挫した


* フェーズ3:悪意の囁き(ウィスパー・キャンペーン)

* 時刻: 米国東部時間 AM 05:00


万策尽きたCIA長官は、苦虫を噛み潰したような顔で、最も卑劣な命令を下した


CIA長官:

「……いいだろう。技術で勝てないなら、人の心(恐怖)を利用するまでだ。 オペレーション・アイスピック、フェーズ3へ移行せよ!」


現地工作員リーダー(米軍基地経由の衛星通信):

『了解。シナリオは?』


CIA長官:

「今はテレビも映らず、住民は疑心暗鬼になっているはずだ。 そこに噂を流せ。 『海底ケーブルを切ったのは、楽園島の朱雀だ』と」


現地工作員リーダー:

『なるほど……。 「朱雀はグリーンランドを支配するために、わざとインフラを破壊し、自分たちの回線を使わざるを得ないように仕向けた」 「アメリカ軍は、そんな暴君から住民を保護するために展開している」 ……という筋書きですね?』


CIA長官:

「その通りだ。 マッチポンプだが、孤立した集落では真実よりも『大きな声』が勝つ。 恐怖を煽れ。不安を蓄積させろ。 そして十分に温まったところで……『アメリカへの帰属を求める自主的な住民投票』を提案するのだ」


夜明け前のグリーンランド。 凍てつく風に乗って、インターネットの光通信よりも早く、粘着質な「嘘」が村々に広がり始めようとしていた

お待たせしました

グリーンランド防衛戦の前半戦は武力ではなく、情報戦(物理)となっています

著者は情報系研究者だったため、やけに細かく書いているな…と自覚しています(笑)

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