D-DAY+170 2027年6月上旬 グリーンランド防衛戦 北海からのSOS
* D-DAY+170 (バレンツ海上空)日本政府専用機内:空飛ぶ執務室
ロンドン・ヒースロー空港を飛び立ち、日本へ向かう政府専用機の中
K総理大臣と外務大臣は、自席でくつろぐこともなく、機内の会議スペースに設置された大型モニターに釘付けになっていた
画面には、EBCが生中継するヒースロー空港の様子が映し出されている
モニターの中で、スーツ姿のp.adminが台車を押し、白い枠線の中に金属製の杭を打ち込む(重力制御で沈める)様子が映し出された
その枠の中には、鮮明な白文字で「TOKYO」と書かれている
K総理:
「……やった。入ったぞ!」
K総理は思わず膝を叩き、深いため息をついた
K総理:
「見てくれ、大臣。あの枠だ。 朱雀陛下は、東京へのゲート設置に合意してくださったんだ……間に合った」
外務大臣:
「ええ……まさにギリギリのタイミングでしたね。 直前にM子様とK子様が空港へ向かわれた時はどうなることかと思いましたが……まさか、これほど迅速に結果を出されるとは」
画面の中では、作業を終えたp.adminの横で、K子様が何か親しげに言葉を交わし、深々と一礼する姿が映っていた
K総理:
「あのお姿を見ろ。K子様が、陛下の心を動かしてくださったに違いない……ありがたい。これで日本は、『世界の物流革命』から取り残されずに済む。首の皮一枚で繋がったよ」
しかし、安堵したのも束の間、二人の目の前で信じがたい光景が展開され始めた
EBCの中継画面が切り替わるたびに、p.adminと姫たち一行の背景が劇的に変化していくのだ
ヒースロー(昼)→ バンクーバー(深夜の霧)
ヒースロー(昼)→ トロント(早朝の寒空)
ヒースロー(昼)→ シドニー(真冬の夜)
外務大臣:
「こ、これは……合成映像ではありませんよね? たった今、バンクーバーでサーモンを受け取ったかと思えば、次はもうトロントでコーヒーを飲んでいる……。 しかも、見てください。シドニーでは白い息を吐いている。本当に、一瞬で地球を移動しているのですか……」
K総理:
「……ああ。これが『ワープゲート』の威力か。 頭では理解していたつもりだが、こうしてまざまざと見せつけられると、背筋が凍る思いだ。 距離という概念が、今日この日をもって死んだんだよ」
総理はモニターを見つめながら、呆然と呟いた
K総理:
「シーレーンも、ハブ空港も、これまでの地政学の常識がすべて過去のものになる。……我々は、とんでもない時代に足を踏み入れてしまったな」
* 姫たちの「献身」への懸念と黙認
画面には、シドニーの寒さに身を縮めながらも、笑顔でオーストラリア副首相と談笑するM子様とK子様の姿が大写しになっていた
外務大臣は、その映像を見て眉を曇らせた。
外務大臣:
「……しかし総理。これは少々、踏み込みすぎではありませんか? 内親王殿下方が、特定の国のインフラ事業の宣伝塔のように振る舞われている。 しかも、朱雀陛下の『同伴者』として、世界中にその親密さをアピールしてしまっている。 国内の保守派や、宮内庁の古株たちが騒ぎ出しかねませんよ」
外務大臣の懸念はもっともだった。皇室の政治利用とも取られかねないギリギリの行為だ。 K総理は腕を組み、苦渋の表情で画面を見つめた
K総理:
「……分かっている。だがな、大臣。 今の日本に、他に何ができる? アメリカは覇権を失いつつあり、欧州は朱雀陛下に靡いた。 この激動の中で、日本が『特別な地位(TOKYOワープゲート)』を確保するためには、なりふり構っていられないのが現実だ」
総理は、画面の中の凛としたK子様の姿を指差した
K総理:
「あの方々は、それを理解された上で、自ら泥を被る覚悟でカメラの前に立っておられるのだ。 『皇室外交』という言葉があるが、これこそが究極の形だろう。 ……我々政府が不甲斐ないばかりに、若い殿下たちに重荷を背負わせてしまった」
外務大臣:
「……そうですね。 我々がすべきことは、批判を恐れて彼女たちを止めることではなく、彼女たちが持ち帰ってくれた成果(TOKYOワープゲート)を、確実に国益に繋げるための法整備を急ぐこと……ですか」
K総理:
「その通りだ。 帰国したら忙しくなるぞ。国交省、経産省、そして国内の航空会社……K子様が繋いでくれた『蜘蛛の糸』を、決して切らすわけにはいかんからな」
政府専用機は、エンジン音を響かせて雲海の上を飛び続ける
モニターの向こうでは、新しい時代の幕開けを告げる笑顔が、総理たちに無言のプレッシャーと希望を与えていた
#### 戻れぬ橋を渡った娘たちと、親たちの覚悟
ロンドンでの昼食会が始まる頃、日本では日曜日の夜を迎えていた
H親王邸のリビングでは、大型テレビに映るEBCの国際中継がようやく終了し、現地のスタジオ解説に切り替わっていた
H親王殿下と親王妃殿下は、昨夜(日本時間)の国交締結式典から、今のワープゲート開通式まで、仮眠を挟みながらほぼ徹夜でこの放送を見守っていた テーブルには冷めきった紅茶と、手つかずの軽食が残されている
H親王殿下は、リモコンでテレビの音量を消すと、深く、重い溜息をついた
H親王殿下:
「……信じられん。一体、あの子たちは何を考えているんだ」
殿下の声には、怒りよりも深い困惑と、父親としての焦燥が滲んでいた
H親王殿下:
「式典への参列まではよかった。だが、今日のあれは何だ? 特定の国や企業のインフラ事業……しかも、世界経済を根底から覆す『ワープゲート』の設置現場に、皇族が立ち会い、あろうことか世界中を飛び回って宣伝塔のような真似をするとは。 これは明らかに『皇族の政治利用』であり、憲法に抵触しかねない危うい行為だ。宮内庁も、随行の女官も、なぜ止めなかったのだ!」
厳格な父としての正論
しかし、向かいに座る親王妃殿下の表情は、意外なほど冷静であり、その瞳にはある種の「覚悟」と「肯定」の色が宿っていた
親王妃殿下:
「……あなた。止めて止まるような娘たちではありませんよ。 それに、あの映像をご覧になって、何もお感じになりませんでしたか?」
H親王殿下:
「何だと?」
親王妃殿下:
「M子も、K子も、実に堂々としていました。 寒いシドニーでも、深夜のバンクーバーでも、彼女たちは一歩も引かず、各国の首相や要人と渡り合っていました。 特にK子……あの子が『TOKYO』のマーカー設置の際、朱雀陛下に何かを耳打ちした場面。あれで陛下が動いたのです。 あの子は、日本の国益を……置き去りされかけたこの国を、その細い肩で守ろうとしたのですよ」
H親王殿下:
「それは……分かっている。先ほど総理からも感謝の連絡が入った。だが、国益のためなら皇室の伝統や中立性を犠牲にしても良いという理屈は通らない。世論はどうなる? 『朱雀王家の威光を借りて好き勝手している』と批判されれば、あの子たちが傷つくことになるんだぞ」
親王妃殿下は静かに首を振った
親王妃殿下:
「いいえ、あなた。世論は逆ですわ。 ネットの反応をご覧なさい。『日本のプリンセスが、世界を動かす王の隣に立っている』『日本はまだ終わっていない』……若者を中心に、熱狂的な支持が集まっています。 今は平時ではありません。激動の時代において、皇室もまた『戦う姿勢』を見せなければ、国民の支持は得られないのです」
妃殿下は、母親としての情愛と、皇族としての冷徹な計算を併せ持っていた
H親王殿下:
「……しかしだな。これでは、外堀が埋まるどころか、本丸まで水没したようなものだ。世界中のメディアが、朱雀陛下とK子を『公認のパートナー』として報じている。 まだ正式な婚約も、納采の儀も済んでいないというのに……順序というものがあるだろう!」
H親王殿下は頭を抱えた
父親として、娘を嫁に出す寂しさ以前に、プロセスを無視して既成事実化されていく現状に耐えられなかったのだ
ここで、親王妃殿下はスッと背筋を伸ばし、夫の目を真っ直ぐに見据えて、決定的な言葉を告げた
親王妃殿下:
「あなた。もう、腹を括りましょう」
H親王殿下:
「……?」
親王妃殿下:
「こうなってしまった以上、もう後戻りはできません。 あのように世界中の前で、朱雀陛下の隣で微笑み、共に『魔法の扉』を開いてしまったのです。 今のK子の隣に立てる男性が、朱雀陛下以外にこの地上に存在すると思われますか?」
H親王殿下は言葉を失った。 あの圧倒的なカリスマを持つ「異星の王」の隣に立った後で、他の誰かと見合いなどできるはずがない
それはK子様にとっても、相手の男性にとっても不幸なことだ。
親王妃殿下:
「あの放送は、事実上の『世界への婚約発表』と同じです。 もしこれで、朱雀陛下が『やはり結婚しません』などと仰れば、K子の名誉は地に落ち、皇室は世界の笑いものになります。 ……ですが、私はあの方(p.admin)の瞳を見ました。あの方は、不器用ですが誠実な方です」
妃殿下は、冷めた紅茶を一口飲み、静かに、しかし断固として結論を述べた
親王妃殿下:
「朱雀陛下には、責任を取っていただきます。 どのような形であれ……あの方は、絶対にK子を娶らなければなりません。 それが、娘を『共犯者』にした、王としての責務でございます」
H親王殿下:
「…………」
H親王殿下はしばらく沈黙した後、深く頷いた
それは諦めではなく、父としての決断だった
H親王殿下:
「……そうだな。 帰国したら、陛下をここに招こう。 今度は『治療』のためではなく……『娘をください』と言わせるためにな」
赤坂の夜は更けていく。 親たちの心配と覚悟を知ってか知らずか、娘たちは今頃、ロンドンで世界一新鮮なランチを楽しんでいるはずだった
#### ウィンザー・スイートの饗宴と、北海の急襲
* ヒースロー空港 ウィンザー・スイート(ターミナル5内)
p.admin一行がターミナル5の奥深くに位置するVIP専用「ウィンザー・スイート」に足を踏み入れると、そこは空港の喧騒とは無縁の、静寂と洗練に満ちた空間だった 大きな窓からは、先ほどまでp.adminたちが作業をしていた駐機場が見渡せるが、防音ガラスによりジェット音は一切聞こえない
エントランスでは、ブリティッシュ・エアウェイズが誇るトップシェフと、燕尾服に身を包んだバトラーたちが整列して出迎えた
シェフ:
「朱雀陛下、各国の首相閣下、ようこそお越しくださいました。 先ほど『魔法の扉』を通って届いたばかりの食材は、細則で税関を通り、わずか5分前に私の手元に届きました。 まだ海水が滴り、冷気が漂うほどの鮮度……料理人として、これほどの興奮はございません」
シェフの目は少年のように輝いていた
彼らにとっても、シドニーの生牡蠣やバンクーバーのサーモンが「死後硬直前」の状態でロンドンにあること自体が奇跡なのだ
* 90分間の世界一周メニュー
席に着くと、英・加・豪の3カ国首相と日本の姫君たち、そしてp.admin一行に対し、即興ながら完璧に構成されたコース料理が運ばれてきた
【前菜】シドニー・ロックオイスターの三重奏
シドニーから届いたばかりの生牡蠣。一つはレモンのみ、一つはトロントのアイスワインを使ったジュレ添え、もう一つはキャビアを乗せて
オーストラリアA首相:
「おお……まるでシドニーのハーバーサイドで食べているようだ。この海の香りは、冷凍や空輸では絶対に出せない」
【魚料理】バンクーバー・キングサーモンのミ・キュイ
中心をレアに残した火入れ。オカナガン・チェリーのソースが酸味を添える
カナダT首相:
「身が……とろけるようです。まさかロンドンで、地元の朝獲れサーモンを味わえるとは。朱雀陛下、これは外交革命であると同時に、食の革命ですな」
p.admin:
「ええ。距離の壁がなくなれば、食卓はもっと豊かになりますから」
* ロブスターの秘訣と、花嫁修業の危機
そして、メインディッシュが運ばれてきた
【メイン】南半球産ロブスターとマッドクラブのテルミドール ~濃厚なアメリケーヌソースで~
シドニーから届いた巨大な甲殻類を、シェフの技で香ばしく焼き上げた一品
p.adminはナイフを入れ、プリプリとした身を口に運ぶと、感嘆の声を上げた
p.admin:
「うまい……! 身が全く縮んでいないし、甘みが爆発している!」
彼は思わず、給仕に控えていたシェフに話しかけた
p.admin:
「シェフ。実は私も甲殻類が好きで、よく『伊勢海老』なんかを自分で料理するんですが……どうしても火を入れすぎて身が硬くなってしまうんです。 バター焼きやグラタンにすると、ゴムみたいになって勿体ないことになるんですが……何か秘訣があるんですか?」
シェフ:
「左様でございますか。陛下がお料理をされるとは! 秘訣は『予熱』でございます。殻付きのまま低温で火を通し、ソースと合わせる時はサッと絡めるだけに留めるのです」
p.admin:
「なるほど、予熱か……! 勉強になります」
このやり取りを聞いていたK子様は、ナイフを持つ手を止めた
K子様(心の声):
(……えっ? 朱雀陛下、ご自分で伊勢海老を料理されるの? しかも、焼き加減にこだわるほどの腕前……? わ、私、食べる専門で、料理なんてほとんど……もし結婚したら、私の手料理を食べて『焼きすぎだ』なんてガッカリされたらどうしましょう!? ……帰国したら、お母様に頼んで料理教室を開いてもらわなきゃ!)
K子様の表情が、外交の緊張とは別の意味で真剣になった
* 招かれざる着信
デザートの「トロント風ドーナツ・プディング」とアイスワインが振る舞われ、和やかな空気が流れていた時だった
p.adminの目の前に、青白い光の粒が集まり、彼にしか見えないホログラムウィンドウが展開された
【緊急着信:量子音声通信 デンマーク外務大臣】
p.adminの表情が一瞬で凍りついた
p.admin:
「……失礼。緊急の連絡が入りました。中座させていただきます」
彼はナプキンを置き、足早にスイートルームの個室(書斎)へと向かった
その背中から立ち上る「ただ事ではない気配」を、妻と側近は見逃さなかった
S子: 「……N君、行くわよ」
N君: 「はい」
二人は即座に席を立ち、p.adminを追った
それを見たK子様も、胸騒ぎを覚えた
K子様:
(あの方の顔色……ただの業務連絡ではありませんわ)
K子様:
「……お姉様。私も行ってまいります」
M子様:
「え? ちょっとK子……待って、私も行くわ(Nさんの様子も気になるし)」
結局、主要メンバーがぞろぞろと退席し、部屋には3カ国の首相だけが取り残されたが、彼らも事態を察して沈黙を守った
* 北海のSOS
個室に入ったp.adminは、直ちに空中に指を走らせて回線を繋いだ
p.admin:
「こちら朱雀。どうしました、外務大臣!」
ホログラムから聞こえてきたのは、エンジンの振動音と、悲鳴に近いデンマーク外務大臣の声だった
デンマーク外務大臣(通信):
『陛下! 助けてください! 現在、我々の政府専用機は、アメリカ空軍のF-22ラプター2機に完全に包囲されています! 彼らは無線で、「貴機には申告されていない大量破壊兵器が積載されている疑いがある」と通告してきました! このままドイツのラムシュタイン米軍基地へ強制着陸しろと……従わなければ撃墜すると!』
p.admin:
「大量破壊兵器だと!? あの『シールド発動リング』と『通信機』を言いがかりにする気か!」
デンマーク外務大臣:
『現在位置は北海中央部! イギリス領空を出て東へ約100kmの場所です! どうか……!』
デンマーク外務大臣の量子通信の緊急連絡を受けたp.adminは、通話をそのままにして指示を出した
p.admin:
「システム命令、すぐにデンマーク政府専用機の周りにシールドを展開させ保護しろ!」
p.adminは改めてデンマーク外務大臣に向けて指示した
p.admin:
「外務大臣!貴国のパイロットに『飛行機の操縦をせず、エンジンを切れ!ランディングギアを下ろせ!』と直ぐに指示を出してくれ!現在、貴国の飛行機は我々のシールドで保護されています」
近場の低軌道に滞在されるp.admin管理下の異星ドローンは、直ぐワープでデンマーク政府専用機の近くまで移動し、飛行機を包むようにシールドを展開した
常時発動型シールド内の空気は流動しないので、政府専用機パイロットはすぐ異変を感じるはずだ
p.adminは最悪の事態から回避させた後に、直ぐにも異星ドローンに新たな命令を出す
p.admin:
「システム命令、デンマーク政府専用機を護衛したイギリス戦闘機はどうした?」
すぐさまに、回答が戻ってきた
異星タブレット:
「解!イギリス空軍所属F-35Bの3機は、現在失速して海面より約3000フィートの高さからゆるやなに降下中」
p.admin:
「システム命令、イギリス空軍所属F-35Bの3機を重力制御で高度を維持し保護してくれ!」
p.admin:
(しまった、F-35パイロットへの連絡手段はない!このままエンジンを切らないとまずい…そうだ!)
※補足:エンジンを切って完全停止させないと、ワープ転送先で機体が暴れだすので危ない
p.adminは命令を出し、F-35Bのパイロットの目の前に、ホログラムでメッセージを表示させた
p.adminはワープ転送と重力制御でF-35を元の空軍基地に戻したいが、彼はイギリス空軍基地の座標を知らない
「今すぐJ首相やイギリス通商大臣に聞いても、10秒単位では把握できないだろう」と思った彼は、直ぐに決断を下した
p.admin:
「システム命令、イギリスF-35を重力制御で2G以下の減速で高度維持のまま停止させ、ヒースロー空港の東京ワープゲート周りにワープで転送せよ!」
すると、約30秒後、イギリスF-35が北海の上空から消えた
失速した3機のイギリスのF-35Bを救出後
p.adminは同様の手法を使って、デンマーク政府専用機をコペンハーゲン空港のターミナルに近くの適当なスペースにワープ転送した
#### 【回想:10分前 北海上空】 デンマーク政府専用機 コックピット
イギリス・ヒースロー空港を飛び立ったデンマーク政府専用機(ガルフストリーム改造機)は、順調に北海の上空を飛行していた 窓の外には、頼もしい護衛機が見える。イギリス空軍(RAF)の最新鋭ステルス戦闘機、F-35B ライトニングIIが3機。彼らは完璧なデルタ編隊で専用機を守っていた
RAF パイロットA:
「こちらエスコート1。デンマーク・ワン、空域はクリアだ。あと15分でデンマーク領空へ引き継ぐ」
平和な任務のはずだった。しかし、その時
警告音:『PULL UP! SYSTEM FAILURE!』
RAF パイロットA:
「!? 何だ!?」
突然、コックピットのマルチ・ファンクション・ディスプレイ(MFD)が真っ赤に染まり、次々とエラーメッセージが表示された
レーダー、火器管制、遠距離通信、そしてナビゲーションシステム。全てが同時にダウンした
不幸中の幸いか、近距離通信用の無線はまだ生きている
RAF パイロットA:
「メーデー! こちらエスコート1! 全システムダウン! エスコート2、3! 状況を報告せよ!」
エスコート2:
『こちら2! 同じです! スロットルが反応しません! 出力が勝手に絞られています!』
エスコート3:
『こちら3! まるで誰かに操縦を乗っ取られたようだ! このままでは失速します!』
これは故障ではない。「バックドア」だ
F-35はアメリカ製のLM社製
その中枢プログラムには、製造国であるアメリカが「いざという時」に同盟国の機体を無力化するための「キル・スイッチ」が仕込まれていたのだ
RAF パイロットA:
「くそっ、アメリカめ……最初からこれを狙っていたのか! デンマーク・ワン、すまない! 我々はこれ以上随伴できない! 離脱する!」
推力を奪われた3機のF-35は、政府専用機を守る速度を維持できず、無念の離脱を余儀なくされた
* 灰色の幽霊
イギリス空軍司令部:
「F-35全機システムダウン!?」
「アメリカだ……彼らが実力行使に出たんだ!」
「フランス空軍へ緊急連絡! ラファールを出してくれ! アメ製の機体じゃまた落とされる!」
イギリスからの要請を受け、フランス空軍のラファール戦闘機6機が緊急発進した
しかし、到着までには数分のタイムラグがある
その「空白の時間」を、アメリカは見逃さなかった
雲海の中から、音もなく2つの影が現れた
レーダーに映らない空の支配者、F-22 ラプター
ドイツの米軍基地から飛来した最強のステルス戦闘機だ
米軍パイロット:
『This is US Air Force. Unidentified aircraft (Denmark One). 貴機に大量破壊兵器の輸送容疑がかかっている。直ちに針路を変更し、指示された基地へ着陸せよ。 繰り返す、直ちに針路を変更し、従わなければ撃墜する』
無慈悲な警告と共に、F-22はウェポンベイ(ミサイル倉)を開いて見せた
F-22からの無線と様子を確認した機長は、直ぐに状況を外務大臣に知らせた
デンマーク外務大臣(機内):
「なんてことだ……このままでは積み荷(楽園島の装置)を奪われる……!」
外務大臣は震える手で、足元の「snsv」のロゴが入った薄汚いダンボールを開けた
そこには、自分達を救う希望と、唯一の命綱が入っていた
彼は量子通信端末を掴み、「楽園島ホットライン」を示すの赤いボタンを押し込んだ
デンマーク外務大臣:
「繋がってくれ……朱雀陛下……!!」
#### デンマーク政府専用機:静止した空
北海の上空、高度30,000フィート
デンマーク外務大臣は、窓の外に並走するアメリカ空軍最強の翼、F-22ラプターの無機質な機影に絶望していた
デンマーク外務大臣(通信):
「陛下……! F-22がロックオンしています! もうダメか……!」
その時、通信機からp.adminの冷静な、しかし力強い声が響いた
p.admin(通信):
『システム命令、シールド展開! ……外務大臣! 直ちにパイロットへ伝えてください! 「操縦をやめて、エンジンを切れ、ランディングギアを下ろせ」と! 現在、貴機は我々のシールドで完全に保護されています!』
外務大臣:
「えっ!? エ、エンジンを切れですって!?」
外務大臣はコクピットへ怒鳴り込んだ
外務大臣:
「機長!ランディングギアを下ろせ! そしたらエンジンカットだ! 朱雀陛下の命令だ!」
機長:
「大臣、正気ですか!? この高度でエンジンを切れば墜落します!」
外務大臣:
「いいから切れ! 我々の命運は、あの方に預けたんだ!」
機長は震える手でカットオフ・スイッチを操作した
キーンというジェット音が消え、機内は不気味な静寂に包まれた
通常なら失速して墜落するはずだ。しかし、機体はピクリとも揺れない
窓の外を見ると、空間が薄い緑色の膜に覆われ、雲の流れが少しずつ遅くなり、やがって止まっていた
機体は異星ドローンの重力制御によって、空中に「固定」されたのだ
副操縦士:
「……機内の気流が止まりました! 与圧システム停止! 酸素マスクが降ります!」
バシュッ! と天井から黄色いマスクが落ちてくる
シールド内は閉鎖空間となり、エンジンの吸気も排気もできない
電力はバッテリー頼みとなり、生命維持装置のタイムリミットが刻々と迫る
外務大臣はマスクを顔に押し当て、荒い息の下で呟いた
デンマーク外務大臣(心の声):
(……国王陛下ご夫妻が同乗されていなくて本当によかった。 ここはもはや空ではない。朱雀陛下の掌の上だ……)
その直後、機体は再びガクンと揺れ、視界が一瞬で白く弾けた
次の瞬間、窓の外に見えたのは北海の荒波ではなく、見慣れたコペンハーゲン空港の管制塔だった
#### イギリス空軍 F-35B:堕ちる騎士たち
一方、デンマーク機の護衛を強制排除され、システムを乗っ取られたイギリス空軍のF-35B編隊
彼らは制御不能のまま、海面へ向かって緩やかに、しかし確実に滑落していた
RAF パイロットA:
「くそっ……! スティックが反応しない! 再起動も不可! エスコート2、3! 脱出だ! 生きていたら海で会おう!」
エスコート2:
『ダメです! 脱出装置もロックされています! アメリカめ、我々を機体ごと沈める気か!』
高度計は3000フィートを切った。海面が迫る
誇り高き王立空軍のパイロットたちは、死を覚悟して目を閉じた
――その時
ガクンッ!!
強烈なGと共に、機体の落下が唐突に停止した。まるで、空中に縫い留められたような感覚 そして、暗転していたはずのヘルメット・マウント・ディスプレイ(HMD)の目の前に、鮮やかなホログラム文字が浮かび上がった
『I am Suzaku of Paradise Island. We will protect you, turn off the engine.』
(私は楽園島の朱雀だ。君たちを保護する。エンジンを切れ)
RAF パイロットA:
「……朱雀!? あの異星の王か!?」
エスコート3:
『リーダー! 目の前に文字が! どうしますか!?』
RAF パイロットA:
従え! やらなければどうせ死ぬんだ、賭けに乗るぞ! エンジン・カット!」
3機がエンジンを停止して凡そ数秒後、世界が反転した
灰色の空と海が消え失せ、強烈な光が視界を焼く
…数秒後。 パイロットAが恐る恐る目を開けると、そこは海ではなかった
目の前には、ヒースロー空港ターミナル5の巨大なガラス張りのビルと、自分たちを取り囲む無数のメディアのカメラ
そして足元には、巨大な白文字で「TOKYO」と書かれた白い枠線があった。
RAF パイロットA:
「……ここは、ヒースロー? 俺たちは……北海からロンドンへ、一瞬で帰ってきたのか……?」
3機の最新鋭戦闘機は、東京行きのワープゲート予定地に、まるでおもちゃのように静かに並べられていた
#### ウィンザー・スイート個室:「管理者」の裁定
ヒースロー空港、ウィンザー・スイートの別室
p.adminは虚空を睨みつけ、音声命令と共に、指先でコマンドを高速入力していた
p.admin:
「……よし、イギリス機回収完了。デンマーク機もコペンハーゲンへ転送完了!」
その背後では、S子とN君、そして事態を察してついてきたK子様とM子様が、息を呑んでその様子を見守っていた
p.adminの額には汗が滲んでいるが、その目は怒りに燃えていた
異星タブレットより報告:
「……報告。アメリカ軍F-22、転送直前のデンマーク機に対し、20mmバルカン砲を発射。シールドにより無力化」
N君:
「警告射撃ではなく、撃墜する気でしたか……一線を越えましたね」
S子:
「どうするの? このままアメリカの戦闘機を放置すれば、また追ってくるわよ」
p.adminはギリッと奥歯を噛んだ
p.admin:
「アメ機はアメリカに返してやれ! 他国の元首が乗る飛行機に銃口を向けたんだ。頭を冷やしてもらう!」
彼は手元のスマホの地図を荒っぽくスワイプした
ドイツのラムシュタイン空軍基地に戻すのは癪だ、かといって撃墜して戦争にするわけにもいかない
彼の脳裏に、「F-22といえばラプター。ラプターといえば……」という曖昧な知識が浮かんだ
p.admin:
「……そうだ、フロリダだ。あそこなら暖かいし、反省するにはいいだろう」
※補足:
かつてフロリダのティンダル空軍基地にF-22が配備されていたが、ハリケーン被害で移動した等の細かい事情はp.adminの頭にはない
p.admin:
「システム命令! 対象のF-22の2機を捕獲! 転送先、アメリカ合衆国フロリダ州上空、座標は適当!高度10,000フィート! 実行!!」
#### 決着と沈黙
北海の上空から、全ての航空機が消滅した
p.adminは大きく息を吐き、ホログラムウィンドウを閉じた
p.admin:
「……終わった。 デンマーク機は無事。イギリス機も回収済。アメリカ機は……まあ、フロリダのネズミワールドでも上空から眺めてくれればいい」
「ウィンザー・スイート」別室の大きな窓から、3機のF-35Bが「TOKYOワープゲート」からはみ出した形で、完全に停止された姿を見えました
彼は振り返り、妻や姫たちがいることに気づいて、少しバツが悪そうに頭をかいた
p.admin:
「あ、すみません。取り乱しました。 ランチの途中でしたね……戻りましょうか」
そのあまりの「神業」と、日常へ戻る切り替えの早さに、部屋にいた全員が言葉を失っていた
K子様(心の声):
(たった5分……この部屋から一歩も動かず、指先一つでアメリカの空軍を無力化し、友人を救い、敵を地球の裏側へ飛ばしてしまった……これが、私が嫁ごうとしている方の「力」)
K子様は恐怖よりも、胸の奥から湧き上がる震えるような高揚を感じていた
「この方の隣にいれば、世界中のどこにいても、何があっても守られる」
その確信は、彼女の覚悟を鋼鉄のように強固なものにした
M子様はこの様子を見て、N君に小声で声かけた
M子様:
「……すごいわね。ねえ、彼を敵に回さなくて本当によかったわよ」
N君:
「……同感です。私の外交官としての仕事が、事後処理で山積みになりましたがね」
N君は苦笑いしながら、すぐにスマホを取り出し、イギリス政府への状況説明の文面を打ち始めた
p.admin:
「デザートが冷めないうちに戻りましょう」
p.adminの能天気な声に促され、一行は再び、優雅なランチの席へと戻っていった
#### 遅れてきたフランスの英雄たち
イギリス空軍からの緊急要請を受け、エンジンが焼けつくほどのフルアフターバーナーで現場へ急行したフランス空軍のラファール戦闘機6機 彼らは「友軍機がハッキングされ墜落中」「米軍機による敵対的包囲」という、第三次世界大戦の引き金になりかねない最悪の事態を想定し、ミサイルの安全装置を解除して現場空域に飛び込んだ
ラファール隊長(コールサイン:アラミス1):
「こちらアラミス1! 現場空域に到達! 全機、戦闘隊形へ展開! 敵はF-22だ、油断するな!」
アラミス2:
「ラジャー! ……レーダー、捜索中……」
部下たちは血走った目でレーダー画面を凝視し、目視で空を探った。 しかし
アラミス2:
「……隊長。レーダー反応、ありません。クリアです」
アラミス1:
「な、何だと? ステルス機だから映らないのか? 目視はどうだ!」
アラミス3:
「視界良好ですが……何もいません。 デンマークの政府専用機も、落ちかけているイギリスのF-35も、敵のF-22も……雲ひとつありません。完全な『空っぽ』です」
アラミス1:
「馬鹿な! たった5分前まで、ここは戦場だったはずだぞ!」
隊長は管制塔へ怒鳴り込んだ
アラミス1:
「コントロール! こちらアラミス1。現場は空っぽだ! 残骸も、煙も、パラシュートもない……おい、本当に座標は合っているのか!?」
フランス/イギリス統合管制(AWACS):
『……こちらコントロール。現在、状況を確認中……我々のレーダーからも、全機影がロストしました。原因不明です』
空域には、行き場を失った6機のラファールが、虚しく旋回するジェット音だけが響いていた
(10分後)
統合管制(AWACS):
『……アラミス1、コントロールより入電。状況が判明した。帰投せよ』
アラミス1:
「判明しただと? 一体何が起きたんだ? 全機撃墜されたのか?」
統合管制(AWACS):
『いや……信じられないだろうが、聞いてくれ。 デンマーク政府専用機は、現在コペンハーゲン空港に着陸済み。 イギリス空軍のF-35部隊は……現在、ヒースロー空港のターミナル前に駐機中とのことだ』
アラミス1:
「はぁ!? ヒースローだ!? ここから何百キロ離れていると思ってるんだ! 超音速で飛んでも間に合わないぞ!」
統合管制(AWACS):
『情報によれば……「朱雀陛下が介入した」と。 瞬きする間に、全ての機体がそれぞれの目的地へ転送されたらしい』
アラミス1:
「……メルド(クソッ)。またあの異星の王様か。 俺たちが命がけでカッ飛んできたってのに、魔法で解決とはな……全機、RTB(基地へ帰還)。今夜はワインでも飲まなきゃやってられん」
フランスの騎士たちは、安堵と徒労感が入り混じった溜息を残し、アフターバーナーを切って反転した
#### D-DAY+170 PM 13:40(現地時間 AM 8:40)アメリカ合衆国 フロリダ州上空
* 太陽の州の幽霊たち、寒空から南国へ
一方、ドイツのラムシュタイン空軍基地所属、アメリカ空軍第95戦闘飛行隊のF-22ラプター2機
彼らは北海の冷たい灰色の空で、デンマーク機を威嚇射撃した直後だった
突然、視界が歪み、強烈な光に包まれた
F-22 リーダー(コールサイン:ハボック01):
「うわっ!? 何だこの光は! フラッシュバンか!?」
ハボック02:
「リーダー! 計器が狂っています! 高度計は急に10000フィートまで低下、GPS座標が……えっ、西経85度!? 北緯30度!?」
目がくらむような光が収まると、そこは北海ではなかった
眼下には、どこまでも広がる青い海、白い砂浜、そして湿気を含んだ強烈な太陽の光
ハボック01:
「……おい、嘘だろ。 あの地形……あれはメキシコ湾か? それに、あの特徴的な海岸線……」
ハボック02:
「リーダー、右舷方向を見てください。 あれ……ネズミワールドじゃありませんか?」
ハボック01:
「……フロリダだ。 俺たちは一瞬で、ドイツの北からフロリダへ移動したのか? 燃料計を見ろ、1ポンドも減っていないぞ……」
* ティンダル空軍基地:パニックと困惑
フロリダ州、ティンダル空軍基地(Tyndall AFB)
穏やかな朝を迎えていた管制塔に、突如として激震が走った
ティンダル管制塔:
「!! レーダーに未確認機出現! 距離10マイル、高度10,000フィート! 突然湧いて出たぞ!」
管制官B:
「IFF(敵味方識別装置)を確認……えっ? 識別信号、米空軍所属……第95戦闘飛行隊? 馬鹿な、奴らはドイツのラムシュタイン基地に展開中のはずだぞ!」
管制塔:
「ゴーストか? いや、目視確認! ラプターだ! 2機いる!」
管制官は慌てて緊急周波数を開いた
管制塔:
「未確認のF-22編隊に告ぐ! こちらティンダル・タワー! 貴機は許可なく制限空域を飛行している! 直ちに所属と意図を明かせ! 応答せよ!」
上空のF-22パイロットたちは、故郷の訛りがある英語を聞いて、戦意を完全に喪失していた
ハボック01:
「……こちらハボック01。所属は……在欧米空軍だ。 信じてもらえないと思うが、俺たちもなぜここにいるのか分からない」
ハボック02:
「リーダー……これ、あの『朱雀』の仕業ですよ。 デンマーク機に手を出した罰として、俺たちを本国へ『強制送還』したんだ……」
ハボック01:
「……ああ。俺たちは喧嘩を売る相手を間違えたらしい。 ティンダル・タワー、こちらハボック01。 戦意はない。誘導に従い着陸する。 ……あと、国防総省に連絡してくれ。『俺たちは魔法使いに負けた』とな」
南国の陽気な日差しの下、最強のステルス戦闘機2機は、敗残兵のように力なく翼を傾け、基地への着陸アプローチに入った この不可解な「瞬間移動事件」は、ホワイトハウスとペンタゴンを更なる恐怖の底に突き落とすことになる
久しぶりの作戦回です、著者は飛行機好きだったため。空中戦への描写は力を入れました
エンジン切らないとまずいという前提は、ワープ先でも物体の速度が維持されるので、そのまま飛び続けるであれば良いですが。駐機させようとすると、一旦止めさせる必要があります(じゃないと衝突死という未来が待っている)
なお、シールド常時展開の状態でエンジンを稼働し続けると、空気は流動せず、不完全燃焼となり酸素が不足で大問題になります
デンマーク機はランディングギアを下ろした状態で無事着陸させたが、イギリスRAFのF-35は胴体着陸(静止状態だけど)になっちゃいます。どの道墜落よりはマシだからイギリス側は文句は言えないはず(笑)
グリーンランド防衛戦は、あと1話2話くらい続きます




