D-DAY+170 2027年6月上旬 世界を一周するお仕事
#### 鬼補佐官のスケジュール
p.adminと妻たちがゲストルームに戻ると、そこには既に楽園島幹部オールスターズ(T先生、Oka先生、Ozaさん、N君、SADA大使、Lee先生)が勢揃いしていた 彼らは昨夜の舞踏会の余韻など微塵も感じさせない、キリッとした「仕事の顔」をしていた
なお、Mei子大使は既にフランス大統領一行と共に、パリへ行く準備をしているとOka先生から報告されています
N君:
「陛下、おはようございます。早速ですが、本日のスケジュールをご確認ください」
N君はタブレットを差し出した
AM 10:00 デンマーク外務大臣らと面会(シールド発動リング・量子通信機の引き渡し)
AM 11:00 ヒースロー空港へ移動、ワープゲート開通セレモニー(初荷輸送)
PM 13:00 空港近隣レストランにて、英・加・豪 3カ国首相と昼食会
p.admin:
「……おい。このスケジュールは初耳なんだが、誰が決めたんだ?」
p.adminは昨日の激務で筋肉痛の体をさすりながら恨めしそうに聞いた
今日はロンドン観光でもしてゆっくりしたい気分だったのだ
p.adminの問いかけに対し、N君は涼しい顔で答えた
N君:
「私が決めました。陛下が世界を引っ掻き回したのですから、後始末も陛下のお仕事ですよ」
p.admin:
「……はい」
* 「王様の宅配便」
デンマークに渡す「超重要物資」を準備するため、p.adminはN君、T先生、OKA大使の男性陣4人を引き連れて、宮殿の中庭にある資材搬入口付近へと向かった 周囲に人がいないことを確認すると、p.adminは癖でスーツの胸元(三角バッジがあるはずの場所)を叩いたが、そこには何もなかった
p.admin:
「あ、そうだった。今日はスーツだ…… 『システム命令:ネイビーゲーザー待機中のシグマ副艦長に通信せよ』」
彼は虚空に向かってコマンドを唱えた。周囲の異星ドローンが即座に反応し、量子通信を使った音声通信がつながる
シグマ副艦長(通信):
『こちらシグマ。おはようございます、司令官殿。昨夜の舞踏会、月軌道上より拝見しておりました。ダンスのステップ、見事でした』
p.admin:
「監視はお手柔らかに頼むよ……昨日頼んだ『シールド発動リング』の件、もう出来たか?」
シグマ副艦長:
『はい。既に500セット完成しております。量子通信端末も10セット、準備万端です。今から転送しますか?』
p.admin:
「ああ、頼む。リングをとりあえず300セット、通信端末を10セット全部だ ……ちなみに、入れ物はどうなってる?」
残り200セットは、p.adminの今までの「介入」での経験側で、臨機応変に使う予定でした
元々デンマークに約束したのは100セットでしたので、300セットでもかなり「誠意」あると思われます
シグマ副艦長:
『ご安心ください。現地の風景に溶け込むよう、以前snsvのスマートフォン納入時に使用された「人類のダンボール」に詰めておきました』
数秒後。 シュンッ! という音と共に、空間が歪み、p.adminたちの足元から数メートルに離れた所、「snsv」とロゴが入った、くたびれた大きなダンボール箱が4つ出現した
* 国家機密は重い
p.admin:
「よし、運ぶぞ!」
T先生:
「えっ、これを我々で運ぶのですか……?」
p.admin:
「中身が中身だ。衛兵に見せるわけにはいかない」
p.admin、N君、T先生、OKA大使の4人は、それぞれ巨大なダンボールを抱え上げた 中には高密度バッテリー搭載の量子通信機や、金属製のリングがぎっしり詰まっている。見た目はただのダンボールだが、重量は鉛の塊のように重い
ハァハァ言いながら宮殿の廊下を歩いていると、直立不動だった近衛兵が驚いて駆け寄ってきた
衛兵:
「へ、陛下! そのような重荷、我々がお持ちします!」
p.adminが汗だく中、笑顔で遠慮した
p.admin:
「ありがとう! だが大丈夫だ! これは国家機密に関するものなので、我々の手で運ばねばならないのだ!」
衛兵:
「は、はっ! 失礼いたしました!」(心の声:snsvのスマホが国家機密……?)
ゲストルームに辿り着き、箱を下ろすと、全員がその場にへたり込んだ
T先生:
「ふぅ……流石に重労働ですね。朱雀陛下が悪いわけではありませんが……もっと若い人達を呼んでくればよかった」
p.admin:
「T先生、本当にすみません……」
運び終わった今、p.adminはようやく「重力制御を使えばよかったじゃないか?」と思い出して、密かに後悔している
***
午前10時。 デンマークの外務大臣一行と、イギリスの国防大臣がゲストルームを訪れた
部屋の中央に鎮座する「snsv」のダンボールを見て、彼らは一瞬困惑したが、すぐに真剣な表情に戻った
イギリス国防大臣:
「朱雀陛下。デンマーク外務大臣から事情は伺いました。 イギリス政府は、この『グリーンランド防衛作戦』に全面的に協力します。 デンマーク政府専用機が英国領空を出て、自国領空に入るまでの間、我が空軍のF-35部隊が護衛に当たります」
p.admin:
「頼りになるな。感謝する。 何か異変があった時は、量子通信端末で直ぐに連絡してくれ。こちらもリアルタイムでドローンを飛ばす」
続いて、N君がダンボールを開け、中から銀色に輝くリングと、武骨な通信機を取り出した
N君:
「では、ご説明いたしますを。 この『シールド発動リング』は、ボタン一つで半径1kmの不可視の防御壁を展開します。 認証は生体認証です。一度登録した使用者以外は発動できません※。 量子通信端末は、地球の裏側でもタイムラグなしで通話可能です。盗聴は物理的に不可能ですのでご安心を」
※p.adminや楽園島幹部なら認証情報を消去可能
デンマーク外務大臣たちは、まるで魔法のアイテムを見るような目でリングを見つめ、震える手で受け取った
デンマーク外務大臣:
「これで……我々の主権と、北の民を守れるのですね。感謝の言葉もありません」
レクチャーが終わると、引き渡しの時間だ。 デンマークの随行員が箱を持ち上げようとしたが、あまりの重さによろめいた
随行員:
「ぐっ……!?」
イギリス国防大臣:「デンマークの方々、無理は良くない……入れ!」
合図と共に、屈強な英軍特殊部隊(SAS)の兵士たちが静かに入室し、軽々と箱を担ぎ上げた
イギリス国防大臣:
「空港まで、我々の輸送チームが責任を持って運びます」
デンマーク外務大臣:
「何から何まで……では朱雀陛下、我々は直ちに帰国し、配備を急ぎます」
彼らはp.adminに深々と一礼し、未来の防衛兵器が詰まった「snsvの箱」と共に、足早にバッキンガム宮殿を後にした
北極圏での静かなる戦いが、今始まろうとしていた
#### 姫たちの同伴と、見えざる盾
* 出発直前の来訪
デンマークへの「宅配便」発送を終え、p.adminたちがヒースロー空港でのワープゲート開通式へ向かおうと慌ただしく動いていた時だった
ゲストルームのドアが控えめにノックされた
日本側女官:
「朱雀陛下。M子内親王殿下、ならびにK子内親王殿下がご挨拶に参られました」
p.admin:
「えっ、お二人が? ……ああ、すぐにお通ししてくれ」
p.adminは時計を気にしながら二人を招き入れた
p.admin:
「M子様、K子様。昨夜はお疲れ様でした。 申し訳ありません、我々はこれよりヒースロー空港での式典へ向かわねばならず、あまり時間が取れないのですが……」
* 皇女の直訴
K子様は一歩前へ進み出た
その表情は、昨夜のダンスの時のような恥じらいではなく、凛とした皇族の顔だった
K子様:
「朱雀陛下。ご多忙の中、恐れ入ります。 ですが、お願いがございます……私たちも、そのヒースロー空港へご一緒させていただけないでしょうか?」
p.admin:
「えっ?」
K子様:
「私たちは今回、陛下の『同伴』として英国入りいたしました。 ならば、陛下のご公務に最後まで付き添い、そのお姿を見届けることこそが、私たちの務めと存じます。どうか、お許しいただけないでしょうか?」
その瞳には、並々ならぬ決意が宿っていた
* 常識人の懸念
しかし、ここで待ったをかけたのは、楽園島日本大使であり、元日本の高等教育者でもあるT先生だった
T先生:
「……K子様。お気持ちは痛いほど分かります。 しかし、これからの式典は『ワープゲート』という、世界経済と政治を大きく揺るがす現場です。 政治的に中立であるべき日本の内親王殿下が、特定の企業の事業、ひいては国際的な政治ショーの場に同席されるのは……日本国内の保守層や世論を考えると、あまり得策ではないかと存じます」
T先生は、p.adminとK子様の「内々定」の関係を知らない
あくまで常識的な日本人として、皇室をスキャンダルから守ろうと、優しく、しかし論理的に諭した
K子様:
「それは……」
* S子の助け舟
K子様が言葉に詰まったその時、S子が割って入った
S子:
「T大使。ご懸念は尤もですが、少し視点を変えてみてはいかがかしら?」
T先生:「さや様……?」
S子:
「K子様も、M子様も、いずれは……そう、朱雀陛下や、陛下の信頼する側近(N君の方をチラリと見る)にとって、公私共に『なくてはならない存在』になられる方々です。 未来のパートナーとして、今のうちに世界の最前線を見ておくことは、決して無駄にはなりませんわ。 もちろん、政治に関わるようなデリケートな場面では、控えていただく等の配慮はします。それでも、現場の空気を感じていただくことには意味があると思いますけれど?」
S子の言葉は、「未来の王の妃、および外交官夫人としての教育」という名目を暗に示していた
T先生:
「む……なるほど。さや様がそこまで仰るなら……」
T先生は長年の勘で、この場の空気に流れる「裏の変化」(=K子様とp.admin、M子様とN君の間に芽生えた絆)を感じ取った
T先生:
「……分かりました。出過ぎた真似をいたしました。お二人のご同行、歓迎いたします」
K子様:
「! ……ありがとうございます、さや姉様、T大使!」
決定が下された瞬間、一言も発さず後ろに控えていたM子様が、そっと視線を上げた
その先には、スケジュールの調整をしていたN君がいた
M子様(視線で):
(……上手くいったわね、Alex(N君))
N君(視線で):
(……流石です、M子様。後ほど会場で)
二人は一瞬だけ微笑みを交わし、すぐに表情を戻して出発の準備に取り掛かった
* 女官の心配
一行は慌ただしくゲストルームを後にした。 廊下を歩く最中、付き添いの女官が、K子様の耳元で囁いた
女官:
「K子様……本当によろしいのですか? これ以上、朱雀陛下と親密なご様子を見せれば、後戻りはできませんよ。お覚悟は……」
K子様:
「ええ。覚悟の上です……もう、決めたのです。自分の足で歩くと」
K子様は前を行くp.adminの広い背中を見つめ、迷いなく歩を進めた
* 見えざる盾
宮殿の正面玄関には、イギリス政府が用意した黒塗りのジャガーとレンジローバーの特別仕様車が10台、ずらりと並んでいた p.adminを筆頭とする楽園島幹部10人と、M子様・K子様、そして女官やSPら6人が分乗する
ドアが開かれ、K子様が車に乗り込もうとしたその時、p.adminは何かを思い出した
p.admin(心の声):
(待て。俺や妻たち、T先生たち楽園島メンバーは常時シールドで守られているが……K子様やM子様、日本側のSPたちは生身だ。 万が一、アメリカの過激派やテロリストが狙ってきたら……)
p.adminは車のドアに手をかけたまま、口元を隠して極小の声で呟いた。
p.admin:
「……システム命令。 これより、M子様、K子様、ならびに日本側随行員全員を『保護対象』に登録せよ。 車両移動中および歩行中、脅威を検知した場合は、即座に個別のシールドを展開し、防御を行え……頼むぞ」
一方、ネイビーゲーザーのブリッジで待機しているシグマ副艦長は、p.adminの命令ログを見て独り言のように呟いた
シグマ副艦長(独り言):
『ラジャー。対象者の生体シグネチャをロック。保護プロトコル、起動しました。これより全方位警戒モードに入ります』
p.adminが異星AIだと思って日常的に出したコマンドや命令も、一部はアナログな方式ではポルポ・カラマリのスタッフにより実行されているかもしれません
***
命令後、p.adminは安堵のため息をつき、笑顔でK子様に手を差し伸べた
p.admin:
「さあ、行きましょう。ロンドンの新しい扉を開きに」
* ヒースローへの道
車列はバッキンガム宮殿を出発した
ロンドン警察の白バイ隊が先導し、ザ・マルからM4高速道路へと抜けるルートは完全に交通規制が敷かれていた
沿道には、昨日から続く祝賀ムードでユニオンジャックを振る市民や、一目「朱雀王家」と「日本のプリンセス」を見ようとする観光客が溢れていた 車列は滑るように進み、30分とかからずにヒースロー空港のVIP専用ゲートへと到着した
空港で、出迎えのブラスバンドがファンファーレを奏でる中、歴史が変わる瞬間が始まろうとしていた
#### ワープゲートの設置:王様の現場仕事
車列は大規模な交通規制が敷かれたヒースロー空港に到着し
メインゲートでは、ユニオンジャックと日の丸を振る空港職員や市民による熱烈な歓迎を受けたが、警備上の理由から車列は止まることなく通過した 一行を乗せた黒塗りの車列は、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)の拠点であり、イギリスの空の玄関口の象徴である「ターミナル5」の貴賓用エントランスへと滑り込んだ
車から降り立ったp.adminたちの前には、近代的なガラス張りの巨大建築がそびえ立つ
そこへ、空港の最高責任者と、数名の重役たちが出迎えた
空港責任者:
「ようこそ、朱雀陛下。そして日本の内親王殿下。 このヒースロー空港にお迎えできること、我々一同の誇りであります」
空港責任者はp.adminと固い握手を交わし、M子様とK子様には最敬礼で挨拶をした
二人の姫君は、ロンドンの風に髪をなびかせながら、優雅なカーテシー(膝を折る礼)で応えた
* 昨日の敵は今日の運営者
ターミナルビルに入ると、そこにはさらに大勢の出迎えが待機していた
イギリスのビジネス・通商大臣が、一人の紳士をp.adminに紹介した
通商大臣:
「陛下、ご紹介いたします。こちらがブリティッシュ・エアウェイズ(BA)のCEO、S・D氏です」
BA CEO:
「拝謁の栄に浴します、陛下。本日は歴史的な日となるでしょう」
p.adminはCEOの手を両手で包み込み、心からの感謝を伝えた
p.admin:
「CEOさん。こちらこそ、御社には深く感謝しております。 毎日、楽園島の医療ベイで治療を受けている500名のイギリス人患者たちに、温かくて美味しい機内食……いえ、特別食を提供していただいて。 それに、派遣してくださった3名のスタッフの方々も、患者たちの世話だけでなく、配膳やメンタルケアまで、本当に献身的に尽くしてくれています。彼女たちは貴国の誇りです」
※補足
楽園島で医療ベイの治療を受けるイギリス患者達(当初1000人、現在500人程度)の食事は、バッキンガム宮殿の取りまとめにより、ブリティッシュ・エアウェイズの機内食パックを使用している、まだ、同航空会社から楽園島に派遣された3人のCAは、毎日の配膳作業および患者達の日常的な世話も行っている
BA CEO:
「……! そのようなお言葉をいただけるとは。現場のスタッフも泣いて喜びます」
CEOは感極まった様子だった。 しかし、ビジネスの話はここからだ。通商大臣が歩きながら説明を続けた
通商大臣:
「陛下。今後の『英連邦間ワープゲート』の運営管理ですが、イギリス政府はブリティッシュ・エアウェイズに委託することを決定いたしました。 貨物の積み下ろし、税関手続き、そして旅客の誘導……すべてBAのノウハウとスタッフを活用します」
p.admin(心の声):
(ん? 待てよ。ワープゲートができれば、飛行機の需要は減るはずだ。 競合する事業を、航空会社自身に運営させるのか? 利益相反にならないか?)
p.adminが疑問を抱いた瞬間、隣を歩くS子が小声で囁いた
S子(小声):
「……あなた、今『利益相反じゃないか』って顔をしたわね? 違うわよ。これこそがイギリス流の『バランス感覚』なの。 航空需要が減る分の損失を、ワープゲート運営の独占権益で補填させる。そうすればBAの運営に影響しないし、余ったパイロットやCAをゲート運営に回せる……老舗を守りつつ革新を取り入れる、上手いやり方よ」
p.admin(小声):
「なるほど……さすがS子、勉強になる」
* 姫君たちの内緒話
一行は一般旅客とは隔離された特別ルートを通り、自動運転トラムに乗ってサテライトC(T5C)へと移動した
トラムの窓から見える巨大な飛行機たちを眺めながら、M子様とK子様がひそひそと言葉を交わす
M子様:
「……ねえK子。さっきからすごい数のカメラよ。私たちがここにいること、もう日本中に配信されているわね」
K子様:
「ええ、お姉様。でも、もう引き返せませんわ。 それに……見てください。あそこ駐機場に『魔法の扉』ができるなんて、想像しただけで胸が高鳴ります」
M子様:
「ふふ、貴女もすっかり『朱雀派』ね……お父様とお母様、今頃テレビの前で卒倒してないといいけど」
* 駐機場の土木作業員
トラムを降り、1階の業務用出口から外に出ると、そこは広大な駐機場だった。 冷たい風が吹き抜けるコンクリートの大地。少し離れた場所には、世界中のメディアと物流関係者が黒山の人だかりを作っている。
足元には、30m x 30m の巨大な白い枠線が3つ描かれていた
それぞれの枠の中央には、大きな文字で「SYDNEY」「TORONTO」「VANCOUVER」と記されている
海上コンテナなら24個を一括転送できる広さだ
無数のフラッシュが焚かれる中、M子様は笑顔を張り付けたまま、口を動かさずに呟いた
M子様(小声):
「これ……日本に帰ったら、絶対にお父様とお母様に叱られるわよ……政治的行事にガッツリ参加しちゃってるもの」
K子様(小声):
「覚悟の上です、お姉様。背筋を伸ばして、堂々としていましょう」
二人の姫が凛とした姿を見せる中、p.adminは唐突にBAのCEOに話しかけた
p.admin:
「CEOさん。ちょっとすみませんが、台車と空の箱をお借りしても良いでしょうか?」
BA CEO:
「は? ……あ、はい、直ちに!」
CEOの指示で、グランドスタッフが慌てて業務用の台車と金属製のコンテナボックスを持ってきた
p.adminはそれを受け取ると、誰もが予想しなかった行動に出た。
p.admin:
「よし。システム命令、ワープゲート用のアンカーボルト式マーカーを8個、この箱の中にワープ転送せよ!」
シュンッ! 閃光と共に、長さ1メートルほどの太い金属製の杭が8本、箱の中に積み上がった
p.adminはジャケットのボタンを外し、袖をまくり上げようとした。
p.admin:
「さて、設置するか」
彼が台車を押そうとしたその時、同行していた楽園島の土木責任者、Ozaさんが駆け寄ってきた
Ozaさん:
「陛下! そのような力仕事、私がやります! これくらいさせてください!」
p.admin:
「お、Ozaさんか。助かる。じゃあ一緒にやろう」
p.adminとOzaさんは、まるで長年の相棒のように台車を押し、「SYDNEY」と書かれた枠の中央、白い十字マークの上まで進んだ p.adminは箱から重いアンカーボルトを一本取り出すと、それを片手で持ち上げ、地面に向けた
p.admin:
「システム命令、重力制御でマーカーを地中に埋め込め」
ギュルルルルッ! 重機もドリルも使っていないのに、金属の杭が高速回転を始め、まるで豆腐に箸を刺すように、硬いコンクリートの地面へと吸い込まれていった わずか10秒。杭は完全に埋没し、表面のセンサー部分だけが地面と平らに露出して静止した
通商大臣:
「なっ……!? 工事車両なしで、あの硬度コンクリートに杭を……!?」
BA CEO:
「まさか、陛下自らが工事をなさるとは……!」
周囲のイギリス人たちが驚愕する中、p.adminとOzaさんは黙々と作業を続けた
p.admin:
「よし、次! トロント行き!」
Ozaさん:
「はいよ! 台車回します!」
二人のスーツ姿の男たちは、ガラガラと台車を押して隣の枠へ移動し、また次々と杭を打ち込んでいく
その背中には、哀愁と頼もしさが漂っていた。
その後ろを、華やかなドレス姿のW子たち、気品あふれるM子様とK子様、そしてイギリス政府の要人たちが、一言も発さずにゾロゾロとついて歩く シュールだが、誰もが息を呑んで見守る、歴史的な「起工式」の光景だった
※補足情報、ワープゲートの設置:
ワープゲートを設置するには、床置きタイプのマーカーや、地中に差し込むアンカーボルトのようなマーカーがあります
床工事ができない場所には前者(床置きタイプ)、空港等大量の人員と積荷が想定された場合は後者
マーカーの機能は転送そのものではなく、あくまで範囲内の人と貨物の検知とホログラムによる転送カウントダウン等や転送範囲の表示と、そしてワープ転送担当の異星ドローンへの連絡用である
流れとして、事前に設定した転送エリアに、人員や荷物が到達し、設定した時間になったら(例えば、30分毎)、当番の異星ドローンはエリア内の人と荷物を目標エリアに転送される仕組みです
楽園島中央広場と、つくば楽園島大使館のワープゲートはp.adminや妻たち達が手動で開くイメージが強いですが
他国空港等で設置されたワープゲートはこうした人員操作不要の「二点間全自動転送タイプ」となります
#### 幻の「東京ゲート」
バンクーバー行きのマーカー設置を終えたp.adminは、ふと気づいた
少し離れた場所にもう一つ、30m四方の白い枠線が描かれているのだ。
p.admin:
「ん? 通商大臣、あそこの枠は何ですか? 予定にはなかったはずですが」
イギリス通商大臣は、少しバツが悪そうに、しかし期待を込めて答えた。
通商大臣:
「ええ、それは……将来的に『東京』につなぐワープゲートの予定地でございます。 あくまで、日本側と朱雀陛下の合意が得られた後に運用を開始する前提で、場所だけ確保させていただきました」
p.adminの顔が少し曇った
p.admin:
(東京か……以前、成田空港でFAAと揉めた時の嫌な記憶があるな※。日本の既得権益層と調整するのは骨が折れる……)
※ 補足情報
p.adminは以前、R子との新婚旅行時、ネイビーゲーザーの輸送機が成田空港にいるFAA幹部によって、離陸を妨害された経験がある
なお、成田空港は当時、FAAに対して弱い態度を示しp.adminの反感を買いましたから
筑波宇宙港を新設し、さらに日本K首相にお願いして、国土交通省の管轄からあえて外してもらった形でワープゲートを開設した経緯がありました
***
その微妙な表情を察知したK子様が、すっとp.adminの隣に歩み寄った
K子様:
「朱雀陛下……差し出がましいようですが、場所だけでも確保しておくべきかと存じます。 羽田や成田との接続は、政治的な調整が必要でしょう。ですが、ここロンドンと東京が直結することは、日英両国の未来にとって、そして何より陛下の『楽園島』が世界の中枢であり続けるために、不可欠な一手となるはずです」
彼女の言葉は、単なるお願いではなく、国益とp.adminの利益を考えた冷静なアドバイスだった
p.admin:
「……うーん。K子様がそう仰るなら、一理ありますね」
p.adminは少し困った顔をしたが、彼女の真剣な眼差しと、何より「二度手間」を嫌う自分の性格が勝った
p.admin:
「分かりました……後でまた工事に来るのは面倒くさいですからね。 とりあえず、マーカーだけは設置しておきましょう。実際に繋ぐかどうかは、後日にK首相とじっくり話し合ってから決めます」
K子様:
「! ……ありがとうございます、陛下」
K子様は安堵し、深く一礼した
K子様:
(これで、日本が世界から取り残される最悪の事態は回避できました……)
p.adminはOzaさんと共に、また台車を押して「TOKYO」の枠へ向かい、あっという間にマーカーを埋め込んだ
* バンクーバー:深夜の霧とサーモン(現地 AM 3:30)
p.admin:
「よし、次はカナダに行ってマーカーを設置する。N君、座標セット頼む」
一行は「バンクーバー」の枠内に集まった。カナダのT首相もホストとして合流する。 シュンッ! 一瞬の光の後、景色が一変した そこは深夜のバンクーバー国際空港。湿り気を帯びた冷たい海風が吹き抜け、照明塔の明かりが霧に滲んでいる
p.admin:
「うおっ、寒い!」
気温は一桁。p.adminはとっさに振り返った。
p.admin:
「M子様、K子様、お寒くないですか? 大丈夫ですか?」
M子様・K子様:
「え、ええ。少し驚きましたが、平気ですわ」
その時、横からS子がジトッとした視線を送ってきた
S子:
「へぇ……? ずいぶんと丁寧ね。 私たち古女房には『寒いか?』の一言もないのかしら?(心の声:はいはい、若いプリンセスが大事ですよね)」
p.admin:
「い、いや! S子たちも大丈夫か!?(やべぇ)」
そんな夫婦漫才をよそに、Ozaさんがテキパキとマーカーを設置していく
Ozaさん:
「陛下は休んでてください! こんな力仕事、何度も王様にさせられません!」
設置が完了すると、待機していたブリティッシュコロンビア州首相と、伝統的な衣装を纏った先住民族の代表者が進み出て、厳かに挨拶を行った
州首相:
「ようこそ、朱雀陛下。そして日本のプリンセス。 深夜ではございますが、ターミナル内のラウンジを用意しております。少しお休みになっては?」
p.admin:
「お心遣い感謝します。ですが、次の設置が詰まっておりまして……正式な訪問は、また後日必ず」
p.adminが辞退すると、州首相は心得たように頷き、合図を送った 空港スタッフたちが、木箱を次々と転送エリアに運び込む。中には、氷に詰められた巨大なキングサーモンと、艶やかなオカナガン・チェリーが満載されている
p.admin:
「これが初荷ですね。素晴らしい!」
わずか20分後、一行は新鮮な海の幸と共に、昼のヒースロー空港へ帰還した
「本当に、一瞬で地球の裏側へ……」 周囲のメディアや関係者からは、驚嘆の声が漏れた
* トロント:早朝のコーヒーとドーナツ (現地 AM 7:00)
休む間もなく、次はトロントへ
ワープアウトすると、そこは凛とした冷気が漂う早朝のトロント・ピアソン国際空港。東の空が白み始めている
ここでもOzaさんが迅速にマーカーを設置する間、カナダ副首相とオンタリオ州首相が出迎えた
そして、粋な計らいが用意されていた
オンタリオ州首相:
「陛下、皆様。早朝の寒空の下、大変お疲れ様でございます。 ささやかですが、我らが国民食、『ティムホートンズ』の焼きたてドーナツとコーヒーをご用意いたしました」
グランドスタッフによって、転送エリア内にテーブルと椅子、そして湯気を立てるコーヒーポットとドーナツの箱が運ばれてきた
p.admin:
「おお! ちょうど小腹が空いていたんです!お気遣い感謝致します」
p.adminは嬉々としてドーナツを頬張った。妻たちや姫たちも、温かいコーヒーで冷えた体を温める
K子様はコーヒーを飲みながら感想を述べた
K子様:
「……すごいですわ。 ただの魔法のような移動手段ではありません。これが稼働すれば、世界の物流が、人の流れが、根本から変わる。 朱雀陛下のお仕事は、派手に見えてとても堅実で……世界中の人々の生活を豊かにするものなのですね」
M子様:
「ええ。彼についていけば、退屈しない未来が待っていそうね…まあ、わたしはNさんが一番だけど」
二人の姫は、ドーナツを幸せそうに食べる「世界を変える王様」の横顔を、尊敬の眼差しで見つめていた
約20分後、テーブルが撤去され、最高級アイスワインのケースと共に、一行はヒースローへ戻った
* シドニー:真冬の夜(現地 PM 21:30)
p.admin:
「ふぅ。こんなに頻繁にワープするのは初めてだな……最後はシドニーか」
ロンドンに戻ったのも束の間、最後はオーストラリアのA首相と共にシドニーへ
到着した瞬間、身を切るような冷たい強風が吹き付けた。南半球は真冬。しかも夜だ。体感温度はトロントよりも低い
p.admin:
「うわっ、寒い! これはまずい!」
p.adminは即座に女性陣を気遣った
p.admin:
「皆さん、ここは流石に寒すぎます! 設置が終わるまで、ターミナルへ避難しましょう!」
一行はオーストラリア副首相の案内で、空港内の貴賓室へ駆け込んだ
温かい紅茶とミートパイが出され、ようやく人心地つく
p.admin:
「いやいや、季節が逆だということを甘く見ていました」
温かい紅茶を飲んで、やっと一休みできた頃
p.admin:
「……副首相、実は以前出張でここシドニーとタスマニアに行ったことがあるんです。妻のW子も、タスマニアのウォンバットが大好きでして」
p.adminが話題を振ると、W子が微笑んだ
W子:
「ええ、あの四角いお尻が可愛らしくて……また会いたいですわ」
豪副首相:
「それは光栄です! ワープゲートが開通すれば、いつでも会いに来られますよ。今後は是非、皇后陛下ならびに内親王殿下方もご一緒に、我が国の動物保護施設へいらしてください。コアラもカンガルーも大歓迎いたします」
K子様:
「まあ、素敵! 私、ウォンバットを抱っこしてみたいですわ」
M子様:
「ふふ、また楽しみが増えましたね」
殺伐とした工事現場から一転、動物の話題で和やかな空気が流れた
外ではOzaさんが震えながらもしっかりとマーカーを設置し終えていた
* 帰還、そしてランチへ
p.admin:
「よし、帰ろう! ロンドンでランチが待っている!」
一行は、シドニーからの初荷である潮の香りが漂うロックオイスター(生牡蠣)、マッドクラブ、ロブスターの入った発泡スチロール箱と共に、設置したばかりのゲートを通ってヒースローへ帰還した
時計の針は午後13:00を少し回っていた
ロンドンから北米、そしてオーストラリアへ。地球を周する距離をわずか90分で駆け抜けた、名実ともに「外交ラッシュ」の強行軍が終了した
p.admin:
「……腹減った。さあ、この牡蠣とサーモンを食いに行きましょう!」
心地よい疲労感と共に、一行は今日の昼食会が行われるターミナル5の「ウィンザー・スイート」へと向かった
著者の私はワープゲートの設置回を舐めてました
12000字超えで、もう他所では3話分です
今までは詳しい描写はしなかったが、本気で描写すると、とんでもない量になっちゃいます(笑)
もともとはグリーンランドに繋ぐ話まで書こうと思ったが、流石に力尽きた
そしてよく見たら、12000字を使っても物語中では3時間しか進んでなくて恐ろしい
もちろん、シナリオ的な説明だけで省略することもできましたが
著者の美学(SFだが泥臭いまで現場の肌感覚を再現)に反するので、このままにしました




