D-DAY+169 2027年6月上旬 楽園島・イギリス国交締結式典 その5 舞踏会の光と影
#### 舞踏会のシンデレラと、インチキな王様
コーヒータイムを終え、一行は舞踏会場へと移動する
その廊下で、N君がp.adminの耳元で囁いた
N君:
「陛下、最後のミッションです。カミラ皇后陛下と踊るのは※儀礼として当然ですが、その後、少なくとも一人は『英国の婦人』とも踊ってください。それが英国社交界への仁義です」
※ 補足
プロトコール上、最初のダンスは「ホストの長」と「ゲストの長」のパートナー交換で始まります
つまり、p.adminがいきなりW子と踊るのではなく、以下のペアが同時スタートになります
チャールズ国王 & W子
p.admin(朱雀 椿)& カミラ皇后
p.admin:
「えぇ……まだ踊るの? 4人と踊ったら膝が限界になりそうだけど」
N君:
「重力制御があるでしょう。頑張ってください」
* 開幕のワープと20年の重み
ファンファーレが鳴り響き、オーケストラがワルツを奏で始める
p.adminはカミラ皇后の手を取り、フロアの中央へ進み出た
視界には、p.adminしか見えない指向性のホログラム映像によるARガイド(足運びのマーカー)が表示され、彼の手が一瞬背中に隠し、スーツの裏で「親指と薬指をダブルタップ」することで、精密なマイクロ・グラビティ制御を起動し、彼の大きい体を羽のように軽くしていた
p.admin(心の声):
(よし、重力制御アシストモード起動……って、向こうは大丈夫か?)
彼は踊りながら、チラリと横目でW子を見た。彼女はチャールズ国王陛下のエスコートを受けている 国王陛下は、ガチガチに緊張しているW子に合わせてステップ幅を調整し、まるで孫娘をあやすかのように優しくリードしていた
W子も最初は緊張したが、少しずつ顔が和らぎ、安堵の表情でそれに従っている
カミラ皇后陛下:
「あら、朱雀陛下。意外ですわ。これほどの体をお持ちなのに、ステップは綿毛のように軽やか……素晴らしいダンスです」
p.admin:
「皇后陛下……恐縮です。見えないところで『努力』しておりますので」
曲が終わり、パートナーチェンジの時間となった
p.adminの前に、妻のW子が戻ってくる
W子:
「国王陛下はすごく優しかった……でも、やっぱりあなたの顔を見ると安心するわ」
p.adminはここで、再度親指と薬指がダブルタップし、重力アシストとARガイドを『OFF』にした
p.admin(心の声):
(かおりと踊るのに、機械仕掛けの偽物は失礼だ。結婚して20年、苦楽を共にした妻には、俺自身の足で向き合おう)
p.admin:
「よし、俺に捕まってろ……ちょっと音楽より遅れるかもしれないけど、気にすんな」
W子:
「うん……いつものリズムね。落ち着く」
二人は周りの優雅なテンポから半拍遅れながらも、しっかりと地面を踏みしめ、互いの重さを確かめ合うように踊った
それは華麗ではないが、確かな絆を感じさせるダンスだった
* R子の献身とS子の強襲
続いてR子の番
彼女はp.adminの遅れがちなリズムを察知し、自分のステップを彼に合わせてくれた
R子:
「旦那様、もう少し肩の力を抜いて……そう、私が合わせますから、そのまま進んでください」
p.admin:
「すまん、R子。助かるよ……」
R子の献身的なフォローで、なんとか形になった
そして、問題のS子の番
S子:
「ちょっと! グズグズしない! 曲に遅れてるわよ!」
S子は情熱的な赤のドレスを翻し、逆にp.adminをリードし始めた。強引なターンにp.adminの足がもつれる
p.admin:
「おわっ!?」
巨体が傾き、転倒しかけたその瞬間。間一髪であらかじめ転倒回避のために事前に設定した《重力アンカー》が作動し
「ズンッ!」と見えない杭が打たれたように、p.adminの体勢が空中で静止し、元の位置に戻った
S子:
「あら? ……意外と耐えたね。見直したわ」
p.admin(冷や汗):
(……あぶねぇ。世界中のカメラの前で恥をかくところだった……)
* 英国のシンデレラ
S子とのダンスを終え、p.adminはN君の「英国婦人と踊れ」という言葉を思い出した
p.admin:
(誰か良さそうな人は……おっ?)
壁際で、給仕の合間に控えめに佇む女性がいた。先日、「p.adminとダンス練習をしてくれて、そして、p.adminが外交の戦いをしている間に「ワロフスキー騒動」を救ってくれた使用人Cだ
彼女は今、カミラ皇后から借りたクラシカルなドレスを身に纏っている
p.admin:
「……S子で失った名誉を挽回するには、彼女しかいない」
p.adminは歩み寄り、恭しく手を差し出した
p.admin:
「Cお嬢さん。私と一曲、願えますか?」
使用人C:
「えっ!? ……わ、私でございますか? し、しかし私は……」
p.admin:
「是非、一曲をお願いします、ダンス練習の成果(半分嘘)を、君に見て貰いたくて…」
Cがおずおずと手を取った瞬間、p.adminは『重力アシストモード』を全開にした
Cは幼い頃から貴族としての教育を受けており、ダンスのスキルはプロ級だった
p.adminの重力制御が彼女の完璧なリードに追従し、二人はまるで氷上のペアスケーターのように滑らかにフロアを舞った
この様子を、R子は壁際でじっくりと観察していた
R子:
「……すごい。旦那様、あんなに上手に踊れるなんて……Cさんのリードが完璧なのね」
R子は自分に言い聞かせるように納得したが、胸の奥がチクリと痛んだ
その華麗なダンスに、周囲の英国貴族たちがざわめき始めた
老貴族A:
「おい、あの娘は誰だ? 朱雀陛下とあんなに上手くに踊っているぞ、さっきまでと大違いだ!」
貴族夫人B:
「あのドレス……見覚えがあるわ。若き日のカミラ様が着ていらしたような……」
老貴族C:
「!……あの面影、間違いない。没落したC子爵の孫娘だ!確かに爵位を失ってから、宮殿へ奉公に出たと聞いたが……まさかこんな所で!」
貴族D:
「なんという気品……隠れていてもダイヤモンドか」
会場中が「シンデレラの誕生」にざわめく中、曲が終わった
Cは夢から覚めたように、しかし優雅に深く一礼をした
使用人C(小声で):
「……夢のような時間を、ありがとうございました。陛下」
彼女は(ガラスの靴は残せないけれど、この思い出だけで生きていける)と心に刻み、静かに、しかし誇り高く会場を後にした
#### K子様とのダンス:舞踏会の光と影
*皇女の決意
その様子を、熱い視線で見つめる女性がいた
K子様:
(使用人の方であれほど素敵に踊れるのなら……私だって)
彼女は勇気を振り絞り、次の曲が始まるタイミングでp.adminの前に進み出た
K子様:
「朱雀陛下……もしよろしければ、私とも一曲、いかがでしょうか?」
p.admin:
「K子様……! 喜んで」
Cさんとのダンスは「技術の極致」だったが、K子様とのダンスは違った
p.adminは重力アシストを解除し、彼女の歩幅に合わせ、腰に手を回してゆっくりとステップを踏んだ
淡い若草色のドレスが、p.adminの黒いスーツに寄り添うように揺れる
至近距離で見上げるK子様の瞳は潤み、頬は高揚で薔薇色に染まっていた
そのあまりの美しさと、自分に向けられる純粋な好意に、p.adminの理性が揺らいだ
p.adminは無意識に呟いた
p.admin:
「……お美しいです」
K子様:
「っ……!」
その言葉を聞いたK子様は、耳まで真っ赤に染め、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに俯いた
二人の間には、音楽以上の甘美な空気が流れていた
* 壊れた心、逃げ出す足
しかし、その光景は、ある一人の女性にとっては残酷すぎるものだった
壁際の椅子で休息していたR子は、二人の様子から目を離せずにいた
R子(心の声):
(……なんて、お似合いなんだろう。 私と踊った時は、旦那様は気を使って、合わせてくれていた。 でも、K子様と踊る旦那様は……あんなに自然で、あんなに嬉しそうで。 品格も、美しさも、私なんかよりずっと……)
「やはり、K子様こそが、旦那様の隣に相応しい」
その思考が頭を支配した瞬間、R子の目から大粒の涙がこぼれ落ちた
化粧が崩れるのも構わず、彼女はドレスの裾を掴んで立ち上がった
R子:
「……いけない。こんな顔、見られては……」
彼女は人目を避けるように、壁伝いに早足で会場の出口へと向かった
しかし、玉座に座るカミラ皇后の鋭い眼光は、逃げ出すR子の背中を見逃さなかった。
カミラ皇后陛下はすかさずに側近へ指示した
カミラ皇后陛下:
「……見ていましたか? 後でリコ妃とプリンセスK子を、私の控室へ呼びなさい……『話し合い』が必要よ」
* 祭りの終わりと、R子の涙
PM 23:30
バグパイプの音が響き、舞踏会の終了が告げられた
p.adminは名残惜しそうにK子様の手を離した
使用人:
「プリンセスK子殿下……カミラ皇后陛下がお呼びでございます」
K子様:
「えっ? ……はい、分かりました。朱雀陛下、失礼いたします」
K子様が連行されていく一方、会場外の女性用化粧室のからは、押し殺した嗚咽が漏れていた
W子は、いつの間にかR子の後ろに立っていた
彼女は何も言わず、震えるR子の肩を後ろから抱きしめた
R子:
「うっ、うう……ごめんなさい、かおり……。私、ダメな妻だわ……」
W子:
「そんなことない。リコちゃんは頑張ったよ。……泣きたい時は泣いていいの」
しばらくして、泣き止んだR子とW子が化粧室から出てくると、そこにも使用人が待機していた
使用人:
「リコ妃殿下……カミラ皇后陛下がお呼びでございます」
W子:
「リコちゃん、一人で大丈夫? 一緒に行こうか?」
R子目を赤くしながらも気丈に回答した
R子:
「……ううん。もう大丈夫です、かおり。ありがとう……皇后陛下がお呼びなら、行かなくちゃ」
R子は覚悟を決めた表情で、使用人の後に続いた
華やかな夜の終わりに、重い扉が静かに開かれようとしていた
#### 愛と責任の渦巻き
ストーンルームの裏にある隠し扉のような控室。石造りの壁に囲まれた静寂の中、K子様とR子は、カミラ皇后と対峙していた
皇后は、いつもの社交的な笑みを消し、静かに語り始めた
カミラ皇后:
「プリンセスK子、リコ妃。夜分に呼び出してすまないわね。ただ、お二人があまりに苦しそうで……老婆心ながら、心置きなく話せる場が必要だと思ったの」
K子様は、ハンカチで目元を抑えるR子を見て、事態の深刻さを痛感していた
カミラ皇后:
「ご存知の通り、私はかつて『世界で最も憎まれた2番目の女』でした。ダイアナ妃との確執、世論の逆風……愛を貫くことがどれほど人を傷つけ、自分自身をも削るか、私は誰よりも知っています。だからこそ、あなたたちの痛みが分かる」
皇后の言葉には、歴史を生き抜いた者だけが持つ重みがあった
カミラ皇后:
「しかし、これは私が決めることではありません。最終的には、貴女たち、ひいては朱雀陛下とかおり皇后ご自身が解決しなければならない問題です」
* 謝罪と本心
沈黙を破ったのはK子様だった。彼女は深く頭を下げた
K子様:
「リコ姉様……。私の軽率な行動で、貴女を傷つけ、ご迷惑をおかけしてしまいました……ごめんなさい」
R子:
「謝らないでください、K子様……私が、私が勝手に卑屈になっているだけなんです……」
K子様の謝罪を聞いて、R子の自責の念は深まるばかりだった
カミラ皇后は、あえて厳しい問いを投げかけた
カミラ皇后:
「朱雀陛下を本当の家族のように思うからこそ言います。お二人とも、自分の感情に素直になりなさい。そうでなければ、誰も救われません」
R子は震える手で膝を握りしめ、勇気を振り絞って問いかけた。
R子:
「……K子様。旦那様……朱雀陛下のことを、どうお考えですか?」
暫しの沈黙の後、K子様が静かに口を開いた
K子様: 「朱雀陛下のことは……お慕いしております。リコ姉様には申し訳ないという気持ちで胸が張り裂けそうですが……それでも、あの方のお役に立ちたい、お傍にいたいという想いは……隠せません」
その直球の告白に、R子の瞳からまた大粒の涙がこぼれ落ちた
* 善良な魂たちの葛藤
カミラ皇后:
「リコ妃。貴女は善良で責任感が強い。K子様も同じです。二人とも彼の力になりたいはずなのに、なぜそこまで悲しむのですか?」
R子:
「……K子様が憎いわけではないんです。ただ……舞踏会で旦那様とK子様が並んでいる姿があまりに美しくて、お似合いで…… 自分は、もしかしたら旦那様の妻に相応しくないんじゃないか、ただの一般人の私がここにいていいのか……そう思ってしまったんです。そしたら、旦那様が遠くへ行ってしまう気がして……悲しくて……」
R子の告白を聞いて、K子様は必死にフォローした
K子様:
「そんなことありません! リコ姉様はご立派です。朱雀陛下がリコ姉様に向ける眼差しを見れば分かります。あの方は、貴女を心から愛しておられます!」
カミラ皇后:
「リコ妃。もし貴女がここで『NO』と言うなら、その意思は尊重されます。貴女の地位は守られるでしょう……それでも拒絶しますか?」
カミラ皇后陛下の「試す」に対して、R子は俯いて頭を横振りました
R子:
「それは……K子様には……あまりに酷い話だと思います……」
* 家族の招集
(これ以上は、当事者全員がいなければ進まないわね)と思ったカミラ皇后は決断し、使用人を走らせた
約10分後、ドアがノックされ、p.adminとW子が息を切らせて入ってきた
使用人:
「朱雀陛下、かおり皇后陛下をお連れしました」
部屋の重苦しい空気、泣いているR子とK子様を見て、W子はすぐに状況を察した
彼女は迷わずR子の隣に座り、その背中を優しくさすった
W子(心の声):
(リコちゃん……夫は私にとって一番大事な家族。でも、リコちゃんも同じくらい大切な家族よ。私が守らなきゃ)
* 真実の誓い
p.adminはカミラ皇后の前に進み出ると、床に額を擦り付けんばかりの勢いで口を開いた
p.admin:
「申し訳ありません……!」
カミラ皇后:
「謝罪はいらないわ、朱雀陛下。貴方が向き合うべきは、私ではなく彼女たちの『心』よ」
p.adminは顔を上げ、R子を真っ直ぐに見つめ、今度こそは正直に話しました
p.admin:
「R子……正直に言います。私は、K子様のことを、善良で、強くて、優しい人だと……心のどこかで、好意を持っています」
p.admin:
「そして、K子様…あなたが今まで私に手伝ってくれた事は、本当に感謝しきれません、K子様が、私のような中途半端な男に気をかけてくれた事は……本当に…光栄と…思います」
K子様:
「朱雀陛下……そんなの!それは私自身から……そして、朱雀陛下は、中途半端だなんて!」
室内が静まり返る。p.adminは拳を握りしめた
p.admin:
「ですが、それがR子を苦しめ、泣かせることになるのなら……私はK子様への想いを、この場で封印する覚悟があります」
p.adminの決断がなされて、K子様が「自分が朱雀陛下に選ばれなかった事」で、顔が下に俯いて悲しむ中
その言葉を聞いたR子は、W子の腕の中で首を横に振った
R子:
「……違うの、旦那様。 かおりにお願いされた時から、分かっていたの。『旦那様は私一人の物ではない』って。その後、さやさんも家族になって……あの時、私が嫉妬で我儘を言ったから、旦那様は私を安心させるために『誓い』を立ててくれたんでしょう? でも、その優しさが、今はK子様の幸せを奪う足枷になってしまっている……それが申し訳なくて……」
p.admin:
「……あの時の『誓い』は、本心だったんだ。打算で近づく女性から守りたかったのもあるが、何より、悲しむR子を守りたかった。 ……私は、R子にとっての『普通の夫』になってやれない。その負い目がずっとあったんだ」
R子:
「旦那様……私こそ、自分の感情を抑えられなくてごめんなさい……K子様が、どれだけ旦那様を支え、助けてくれているか、私にも痛いほど分かっています」
* 二人の雪解け
R子は涙を拭うと、決意を込めた瞳でK子様の手を取った
R子:
「……旦那様は、私たちが支えないとダメな人です。 もし、かおりが許してくれるなら……K子様、貴女もその『支え』の一本になってくださいますか?」
視線が一斉にW子に集まる
普段はおっとりとして、人前に出るのを嫌がるW子だが、この時は「正妻(皇后)」としての威厳と、母のような優しさを湛えていた
W子:
「……私は内向的で、ファーストレディらしくはなれないし、彼の役に立つ場面も少ないと思います。 でも、K子様はずっと裏で夫を助け、役に立ちたいと思ってくださっていた。そのお気持ちは、以前から伝わっていました。 ……ですから、K子様。夫のことを、私たちと一緒に、今後も支えていただけませんか? 」
それは、正妻として、最大限の承認と歓迎の言葉だった
それを聞いたK子様は、涙で顔を濡らしながら答えた
K子様:
「かおり姉様……リコ姉様……! ありがとうございます……! 必ず、必ず朱雀様と皆様のお役に立ちます……!」
三人の女性が手を取り合い、涙を流す姿を見て、カミラ皇后はふっと息を吐いた
カミラ皇后:
「……やれやれ。朱雀陛下、かおり皇后、そしてリコ妃。 王家の誓いとは、とてつもなく重いものです。しかし、これをどう乗り越えるかは、君たちがよく考えてはならない試練であるだろう。私ができることはここまで、その「試練」を乗り越えたら、あなたたちの絆は鋼よりも強くなったでしょう。最後に、プリンセスK子。貴女の今後の幸福を、私も祈っていますよ」
* 真夜中のサンドイッチ
感動的な大団円。しかし、その余韻を破ったのは、盛大なお腹の音だった
「ぐぅぅ〜……」 音の主は、緊張の糸が切れたp.adminだった
p.admin:
「……あ、すいません。晩餐会で腹六分目だったもので……限界です」
カミラ皇后は呆れたように、しかし楽しげに笑った
カミラ皇后:
「全く、色気のない王様だこと……誰か! キッチンへ行って、ありったけのサンドイッチと紅茶を持ってきなさい! 今夜は『家族』の夜食会よ!」
こうして、バッキンガム宮殿の長い夜は、涙と笑顔、そして美味しいキューカンバー・サンドイッチと共に更けていった
#### AM 0:50 深夜の姉妹、語らぬ約束
M子様とK子様が宿泊する客室のドアが静かに開き、K子様が部屋に戻ってきた 部屋の中では、ルームランプの温かい明かりの下、M子様がソファに座って本を読んでいた。彼女は妹の気配を感じると、すぐに本を閉じて立ち上がった
M子様:
「お帰りなさい、K子……随分と長かったわね。カミラ皇后陛下のお呼び出しと聞いたけれど、大丈夫だった?」
K子様:
「……ただいま戻りました、お姉様。ええ、少し……込み入ったお話をしていただけですわ」
K子様の声は、少し掠れていた。彼女はM子様の視線を避けるように、鏡台の前へ行き、ネックレスの留め具に手を掛けた
M子様:
「そう……随分と、目が赤いわよ」
K子様ビクリしながら誤魔化す
K子様:
「え……あ、その……あくびが出すぎてしまって。緊張が解けたら、急に眠気が……」
K子様は下手な言い訳をしながら、ジュエリーをケースに仕舞い始める
その横顔、特に泣きぼくろのあたりが、泣き腫らして微かに紅潮しているのを、M子様は見逃さなかった しかし、K子様が背中のファスナーに手を回し、うまく下ろせずにいるのを見て、M子様は静かに歩み寄った
M子様:
「……手伝うわ。じっとしてて」
K子様:
「すみません、お姉様……」
M子様の手によって、締め付けられていたドレスのファスナーが下ろされる。K子様は大きく息を吐き、まるで重い鎧を脱ぎ捨てたかのように肩の力を抜いた
K子様:
「……今夜はもう、泥のように眠りたい気分です」
M子様:
「ええ、そうしなさい。お風呂にお湯は溜めてあるわ……詳しい話は、また日本に帰ってからでいいから」
K子様:
「…………はい。ありがとうございます、お姉様」
K子様の内心の独り言:
(……お姉様、ごめんなさい。嘘をつくつもりはないけれど、今この感情を言葉にしてしまったら、また涙が溢れて止まらなくなってしまう。
リコ姉様の、あの温かい手のぬくもり。 かおりお姉様の、許しと受け入れの言葉。 そして、朱雀様の……『好意を持っている』という、震えるような告白。
全部が夢のようで、でも全部が現実で。 私は今日、許された。 『四番目の妻』ですらない、まだ何者でもない私だけれど、あの方たち家族の輪郭に触れることを、許していただけた。
リコ姉様の涙の上に成り立つ幸せだということを、私は一生忘れてはいけない。 この胸の痛みも、喜びも、今は誰にも話さず、私の中だけで抱きしめていたい。 ……明日からは、もう『ただの憧れ』ではいられないのだから)
M子様の心境(K子様を見て思った事):
(……K子。ずいぶんと、顔つきが変わったわね。 ただ泣いて帰ってきただけなら、私が慰めてあげようと思っていたけれど。 その目の腫れは、悲しみの涙だけじゃない。何か、もっと重たくて、覚悟の要るものを背負ってきた目だわ。
カミラ皇后陛下、そして朱雀陛下ご夫妻との間に、何があったのかは分からない。 でも、ドレスを脱いだ貴女の背中が、行きしなよりも少しだけ大きく、そして大人びて見える。
もしかしたら、貴女はもう、私がまだ踏み込んでいない『女としての修羅場』をくぐり抜けて、一つ先へ進んでしまったのかもしれないわね。 ……今は何も聞かないでおきましょう。それが、姉としてできる一番の優しさだと思うから。
おやすみ、K子。 貴女が選んだ道が、茨の道だとしても……私は味方でいるわ)
#### 蚊帳の外のS子
深夜1時。 W子から「今夜は私がリコちゃんと寝るから、あなたはさや(S子)の所へ行って」と部屋を追い出されたp.adminは、着替えの入ったバッグを片手に、S子の部屋のドアをノックした
p.admin:
「……さや、起きてるか? 俺だ」
S子(中から):
「鍵は開いてるわよ。入って」
ドアを開けると、S子は既に化粧を落とし、シルクのナイトウェアに着替えていた。しかし、寝る気配はない
腕を組み、ベッドに腰掛けて、入ってきた夫をジロリと睨みつけた
S子:
「……遅いお帰りね。それで? そんなに夜遅くまで、カミラ皇后陛下と何を話し合っていたの?」
開口一番、想定通りの質問責めだ
彼女の表情には、「なぜ私だけ呼ばれなかったのか」という明確な不満が張り付いている
p.admin:
「いや……俺とW子も途中から呼び出されたんだよ。それより前のことは、明日R子に聞かないと分からないんだが……」
p.adminはベッドの端に腰を下ろし、言い訳を挟みつつも、W子と共に参加した「家族会議」の顛末…R子の告白、誓いへの言及、そしてK子様の受け入れ…等々を、隠さずに全て伝えた
S子は口を挟まず、真剣な表情で聞いていたが、p.adminが話し終えると、大きく、深いため息をついた
S子:
「……はぁ。なるほどね。事態は把握したわ」
S子は不満げに頬を膨らませた
S子:
「それにしても、水臭いじゃない。なんで私を呼ばなかったのよ。私だって家族の一員だし、これからの王家の構成に関わる重大事でしょう?」
p.admin:
「いや、それは……おそらくカミラ様のご配慮だよ。今回はR子とK子様の間の葛藤がメインだったから。お前は合理的すぎるから、R子やK子様が萎縮すると思われたんじゃないか?」
S子:
「む……否定はしないけど。でも、私がいない間に『誓い』が形骸化されて、新しいお嫁さん候補が増えることが決まりました、なんて事後報告、納得いかないわよ」
p.admin:
「そして……誤解しないで欲しいんだが、すぐに結婚するとか、そういう話じゃないんだ。 あの『誓い』は、まだ破棄されていない。ただ、K子様が私と交際すること、そして『将来のパートナー』として振る舞うことを、W子とR子が許してくれた……という段階だ」
* R子への共感
S子:
「で? 私の意見は聞かないの?」
p.admin:
「……どう思う? 正直に」
S子は少し考え込むように視線を外し、ポツリと言った
S子:
「……正直に言えば、面白くはないわよ。 私だって聖人君子じゃないもの。夫の関心が他の女性に向くのは、嫉妬もするし、イラっともするわ」
p.admin:
「すまん……」
しかし、S子の怒りは長くは続かなかった。彼女はふと表情を和らげ、天井を見上げた
S子:
「……でも、リコの反応は、なんとなく予想できていたわ」
p.admin:
「えっ? お前、気づいてたのか?」
S子:
「当たり前でしょ。リコは優しすぎるのよ。 あなたが以前立てた『これ以上妻を増やさない』っていう誓い。あれ、私にとっては『ラッキー、独占率が減らないわ』って感じだったけど……リコさんにとっては『自分の嫉妬のせいで、旦那様の可能性や、K子様の幸せを奪ってしまった』っていう十字架になっていたのよ……近くで見ていれば、それくらい分かるわよ」
S子:
「でもね、リコは『かおりに選ばれた新な妻』から『3人の妻の1人』への変化を経験したから、独占欲や喪失感が人一倍強い。それは仕方ないことよ。 ……でも、私は『3番目』として、最初からあなたに複数の妻がいることを承知で嫁いだ身よ。今さら『私だけを見て!』なんて子供みたいなことは言わないわ」
S子は、自分にはないR子の繊細さを理解していた。そして、「やっぱり破綻したか」という諦めにも似た納得を見せた
S子:
「で? 結局、K子様を受け入れることになったわけね。」
p.admin:
「……ああ。R子が背中を押してくれた。W子も認めてくれた」
S子はベッドから立ち上がり、p.adminの目の前に立った。そして、人差し指でp.adminの額をグリグリと突いた
S子:
「……ったく、あなたって人は! どうせ舞踏会で、K子様に『美しい』とか何とか、歯の浮くようなセリフを無意識に言ったんでしょう? それがトドメになったのよ!」
p.admin:
「い、痛い! なんで分かるんだよ!?」
S子:
「伊達にあなたの妻をやってるのよ。その『無自覚な人たらし』が、どれだけ周りの女性を狂わせるか、いい加減自覚しなさい!」
S子はひとしきりp.adminを叱ると、指を離し、少し寂しそうに、しかし優しく微笑んだ
S子:
「……まあ、いいわ。K子様なら、私も文句はない。 あの方は賢いし、胆力もある。何より、あなたのことを本気で想っているわ。私たちが外交や実務で手一杯な時、あの方がいれば精神的な支柱になってくれるでしょうしね」
p.admin:
「……許してくれるか? さや」
S子:
「許すも何も、かおりとリコが決めたなら、私が反対する理由はないわ。 それに……K子様が加われば、日本の皇室とも親戚同然。外交カードとしては最強よ。私の仕事もやりやすくなるわ」
p.admin:
「(あくまで合理的だな……)ありがとう、さや。」
S子:
「でも、覚えておいて。 妻が一人増えるってことは、あなたの責任も、私たち一人当たりに割ける時間も減るってことよ……今夜はリコさんがいない分、たっぷりと埋め合わせしてもらうからね」
S子はそう言うと、p.adminの腕に抱きつき、ようやく電気を消した
王様にとっては、眠れない夜がまだ続きそうだった
#### サイドストーリー:N君とM子様のダンス、そして、逆プロポーズ
時間が少し遡って、舞踏会が始まり、p.adminがカミラ皇后や妻たちと踊っている頃
煌びやかなシャンデリアの下、もう一つの静かな、しかし熱い駆け引きが始まっていた
深みのあるミッドナイトブルーのドレスを纏ったM子様は、ダンスの申し込みが殺到するのを優雅にかわしながら、会場内を「自然に」移動していた
その視線の先には、常に一人の男 - p.adminの外交事務補佐に当たる参事官、N君(Alex Nagata)の姿があった
背景情報の補足として、N君は以前アメリカ外務省参議官としてしばしば日本に滞在され、そして、英語と日本語の両方が堪能した日系アメリカ人の立場から、M子様ともK子様とも面識があったようです
楽園島とアメリカの本会議中、祖国のアメリカに裏切られた以来、彼は自分を救ってくれた朱雀陛下に忠誠を尽くしている
N君の苗字は長田、名前はAlexで。正式の名前はAlex Nagataとなっています
M子様(心の声):
(……Nさん。いつまで壁の花でいるつもり? 私がわざわざ近くまで来てあげたのだから、気付きなさいよ)
彼女のプライドが、自分から誘うことを許さない。「誘わせる」ことこそが、この恋のゲームにおける勝利条件なのだ N君は、そんなM子様の意図を痛いほど理解していた。元アメリカ国務省の外交官として培った観察眼は、彼女の視線の意味を見逃すはずがない
N君(心の声):
(……やれやれ。相変わらず、素直じゃないお姫様だ。だが、そこが可愛いところでもある)
N君はグラスを置き、燕尾服の襟を正すと、人混みを縫って真っ直ぐにM子様のもとへ歩み寄った
N君:
「M子様……そろそろ、僕の番が回ってきたようですね。今宵のファーストダンス、僕にいただけますか?」
M子様は、まるで今気づいたかのように少し驚いたふりをして、それから完璧なロイヤルスマイルを浮かべた
M子様:
「あら、Nさん……ええ、喜んで」
* 1曲目:ワルツと探り合い
二人はフロアの中央へ進み出た。N君のリードは洗練されており、アメリカ仕込みのスマートさと、日本的な細やかな気配りが同居していた
M子様:
「……ふふ。ダブルデートの件、朱雀陛下が妹にあのように積極的に誘ってきた事。あれは、きっとN君の入れ知恵でしょう?」
踊り始めてすぐ、M子様は核心を突いた。N君は苦笑して、わずかに肩をすくめた
N君:
「おや、バレていましたか……我が主君は、政治や技術には天才的ですが、恋愛に関しては少々……奥手でしてね。補佐官として、背中を押す程度のサポートはさせていただきました」
M子様:
「やっぱり。貴方のそういう、人の心を誘導する手腕は相変わらずね……昔から」
二人の視線が絡み合う。N君がまだアメリカの外交官として来日した頃、M子様と出会った若き日の記憶が交錯する
* 2曲目:核心へのステップ
曲が変わり、二人はそのまま次のダンスへと移った。周囲の貴族たちが「おや、二曲続けて?」と囁くが、二人は気にしない
M子様の問いかけは、より個人的な領域へと踏み込んだ
M子様:
「ねえ、Alex……貴方は、私の事をどう思っていらっしゃいますか? やっぱり、皇族のしがらみだらけの、面倒くさい女だと思っていますか?」
N君は一瞬、真剣な眼差しでM子様を見つめた。その強い視線に、M子様の心臓が跳ねる
N君:
「まさか。『面倒』だなんて、一度も思ったことはありません……ただ、『手強い』とは思います。昔から、貴女のその聡明さと、氷の下に隠した情熱には……どんなタフな外交交渉よりも緊張させられますから」
M子様:
「……お上手ね。でも、嫌いじゃないわ、その答え」
M子様は満足げに微笑み、さらに大胆な一手を打った
M子様:
「朱雀陛下と妹のK子のご関係は、貴方のサポートもあって順調にいきそうね……ところで、私はいつになったら、『長田』M子を名乗れますか?」
N君のステップが、ほんの一瞬だけ止まりかけた。これは、実質的な逆プロポーズだ
N君:
「……貴女は、いつも唐突に核心を突いてきますね。心臓に悪い」
N君は彼女の腰に回した手に、少しだけ力を込めた
N君:
「……その名をご用意するのは、僕の生涯をかけた責務だと思っています。ですがM子様、もう少しだけ時間をください。まずは、我が主君の足場を完全に固めるまで……貴女を危険に晒すわけにはいきませんから」
M子様:
「……ええ、分かっているわ。待つのは慣れているもの。でも、あまり待たせすぎると、他の人に取られてしまうかもしれませんわよ?」
* 3曲目:未来への布石
三曲目。二人のダンスは完全に調和し、周囲を魅了していた。話題は、二人の未来と、家族のことに移った
M子様:
「もし妹と朱雀陛下がご成婚できたら……妹なのに、私は彼女を『K子妃殿下』と呼ばないといけなくなるのね。そう思うと、なんだか奇妙なことですね」
N君:
「確かに。姉妹の序列が逆転するのは、皇室ならではの奇妙な感覚でしょうね……ですが公的な場を離れれば、お二人は変わらず仲の良い姉妹でいられるはずです。陛下も、そのような堅苦しさは望まないでしょう」
M子様の表情が、少しだけ曇った。最大の懸念事項が頭をよぎる
M子様:
「……ええ、そうね。でも、問題は山積みだわ。K子の件もあって、お父様とお母様は、私までも重要な政治的な『カード』と思っていらっしゃるかもしれない……」
彼女の声が少し震えた
M子様:
「先日は、お父様が朱雀陛下に対して、あんなに酷い事を言ったでしょう?(※相応の名分の件) 陛下も萎縮していたし……Nさんは、あんな頑固なお父様を、うまく言いくるめる自信はあるかしら?」
N君は、M子様の不安を拭い去るように、力強く頷いた
N君:
「M子様。貴女を政治の『カード』になど、絶対にさせません……あの日、親王殿下が陛下に放った言葉は強烈でしたが、あれは現状を打破するための必要な劇薬でした」
N君の目に、かつて超大国アメリカを相手に渡り合った、切れ者外交官の光が宿った
N君:
「ご安心を。僕は外交官です。お父上を『言いくるめる』のではなく、心から『納得させる』ための準備は既に着々と進めています……朱雀陛下の力と、僕の全てを賭けて、必ず貴女を迎えに行きます」
その言葉を聞いたM子様は、安堵のため息をつき、N君の肩にそっと頭を預けた
M子様:
「……信じているわ、Alex……私の、騎士様」
煌びやかな舞踏会の片隅で、二人の間には、誰にも邪魔できない強固な同盟と、確かな愛が結ばれていた
長いですが、分割してはならない話なので一気に投稿しました
できるだけ主要キャラクターの心境を描写したかったですが、著者から見てもp.adminは一番罪を作った人ですね…(苦笑)
イギリスとの国交締結式典はこれで終わりますが、イギリスやヨーロッパでまだ色んなイベントが待っています
著者もp.adminを日本に帰らせたい気持ちだが、どうもうまくいきません
日常の執筆は、結構時間を使っている状態でもはや「趣味」の領域を超えてしまいそう
もし物語が面白い、また見たい、という事を感じたら。ぜひコメント、ブックマークを評価をください




