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D-DAY+166 2027年6月上旬 命の選別

K首相の剛腕により、赤坂周辺やつくばの大使館一帯は「先進医療特区」に指定されました

法律の壁を強引に突破し、仙洞御所の医務室は今、日本の「希望の砦」となっています


医療ベイの前に立つ侍医Aは震える指でホログラム操作パネルに触れる

その前には、先天性心疾患で唇を紫に染めた8歳の少年が横たわっていました


侍医A:

「……診断確定。遺伝子修正、自体幹細胞による心臓修復、ナノマシンによる血管誘導……。治療開始まで、あと一歩」


ホログラムパネルに表示された【治療実行(YES)】の文字。その下には非情なメッセージが添えられていました


[推定所要時間:48時間]


侍医A:

「……48時間!? たった一人に、丸二日もかかるというのか……」


彼は背後に待機する「次の命」を思い、一瞬躊躇しましたが、目の前の少年の命を救うために「YES」を押しました

駆動音が響き、ベイのカバーが閉じられます


* PM 14:00 首相官邸:熱狂と絶望の記者会見


同じ頃、官房長官による緊急記者会見が行われていました


記者:

「官房長官! 特区での治療開始は分かりましたが、収容能力はどうなっているんですか!? 全国に数万人いる難病患者をどう救うつもりですか!」


官房長官:

「……現在調査中であり、現時点で具体的な人数を申し上げることはできません。全力を尽くしています」


記者:

「すでに赤坂の病院には、地方から運び込まれた子供たちが待機している! 彼らはいつ救われるんだ!」


騒然とする会見場。しかし、政府が握っている数字は「一台の医療ベイで二日に一人」という絶望的な計算式でした


* PM 15:30 侍医たちの「地獄」


侍医AとBは、リストを見つめて立ち尽くしていました


侍医B:

「A先生……赤坂の提携病院で待機している子供だけで、もう8人です。今のペースなら、彼ら全員を救うだけで16日かかる。その間に、心臓が持たない子が……全国からリストが届いたら、一体どうなる……」


侍医Aは顔を覆いながら悔しい表情でつぶやいた


侍医A:

「……朱雀陛下は、最初から分かっていたんだ。これを私たちに、日本に突きつけたんだ。『救えない命を選べ』という、あまりにも残酷なトリアージのレッスンを……!」


医師として、目の前の命をすべて救うことが正義だと信じてきた彼らにとって、この「時間」という物理的限界は、どんな病よりも恐ろしい死神でした


* PM 16:30 首相の焦燥とK子様の決意


K首相は、侍医からの悲鳴のような報告を受け、即座に動きました。まずはつくばの大使館にいるT先生(大使)へ直電を入れます。


K首相:

「T大使! 事情は承知しているはずだ。一台では足りない、せめてあと十台……いや、五台でもいい。医療ベイの追加設置を朱雀陛下に掛け合っていただきたい!」


T先生:

「総理、陛下のご意向は昨日お伝えした通りです。リソースは無限ではありません。……陛下は、この限界の中で日本がどう動くかを見ておられるのです」


断られた首相は、一縷の望みがあると思い、次にK子様へ連絡を入れました


K首相:

「K子様……恐縮ながら、もはやあなたの力だけが頼りです。子供たちが、目の前で順番を待ったまま命を落とそうとしている。どうか、朱雀陛下に……」


* K子様の独白:赤坂からつくばへ


K首相からの言葉、そして侍医から共有された病院で待機する子供たちの写真を目にしたK子様は、血の気が引くのを感じました


K子様(独白):

(……私の、私のせい…私がもっと強く、陛下にお願いしていれば……姉様に言われるまでもなく、私が陛下に甘えていたから、こんなことになったのです。……あの子供たちが死んでいくのを、黙って見ているなんて、そんなこと……!)


K子様は、周囲の制止を振り切り、公務車に飛び乗りました


K子様:

「つくばへ……! 楽園島大使館へ向かってください! 急いで!」


車窓を流れる景色を見ながら、彼女の目からは涙がこぼれました

しかし、その瞳にはかつてない決意の光が宿っていました。


K子様:

(陛下……朱雀様……あなたが鬼になられるというのなら、私は何度でも、あなたの御心に縋りつきます。たとえ嫌われても、あの子たちの命には代えられませんわ!)


#### 命の嘆願、そして正妻の鉄槌


赤坂から公務車を飛ばし、K子様は息を切らせて楽園島大使館へ駆け込みました

アポイントなしの訪問に職員が動揺する中、T先生(大使)が彼女を迎え入れます


T先生(内心で):

(……全く、Azure(p.admin)の奴。こうなることは分かりきっていたはずなのに、なんて意地悪な「試練」を与えるんだ。教育のつもりか何だか知らないが、度が過ぎる!)


T先生:

「K子様、落ち着いてください……わたくしの一存で医療ベイを増やすことはできません。ですが、あなたが直接、陛下を説得したいというのであれば、ワープゲートの使用を許可しましょう……道は、ご自身で切り拓いてください」


T先生はすぐさまホログラム通信で楽園島のp.adminを呼び出し、一喝しました


T先生(通信越しに):

「朱雀陛下! 今からK子様がそちらへ向かいます。今度という今度は、あなた様の悪ふざけが過ぎました。ご自分で蒔いた種です、責任を持って収拾してください!」


* 楽園島 PM 21:30 夜の再会


ワープゲートを抜けたK子様の目に飛び込んできたのは、夜の帳が下りた楽園島の静かな風景でした

慣れない土地、暗い道。しかし、彼女は当時「楽園島でお手伝い」の記憶に頼んで迷わず走り出しました


しばらくして、医療エリアで夜の配膳作業の片付けを手伝っていたR子リコが、肩で息をするK子様を見つけました


R子リコ

「K子様!? どうしてこんな時間に……?」


K子様は必死な表情でR子に訴えた


K子様:

「リコ姉様……お願いです、陛下に会わせてください! 日本で……子供たちが、順番を待ったまま消えてしまいそうなのです!」


事情を察したR子は、すぐに家族指輪で夫とS子さやを呼び出し、行政ビルの会議室へとK子様を案内しました


* 会議室で残酷な「教育」


会議室には、p.adminとS子が待っていました

K子様は机に両手をつき、涙を溜めて懇願しました


K子様:

「朱雀陛下……。すべては、私の力不足が招いた結果です。私がもっと覚悟を持っていれば……どうか、子供たちを救っていただけませんか?」


p.adminは、冷徹な仮面を崩さずに聞き返しました


p.admin:

「……K子様。もし治療が間に合わず亡くなる子がいたら、それはあなたの責任ですか? あなたが『救わない』と決めたから、その子は死ぬのですか?」


K子様:

「それは……」


p.admin:

「では、私が医療ベイを追加設置しないから起きる悲劇ですか? ……一体、誰の責任で、彼らは死ぬのですか?」


沈黙が流れます。K子様は震える声で、静かに答えました


K子様:

「……誰の責任でも、ありません……ただ、これまでは『仕方のないこと』として受け入れていた死が、陛下が『希望』を見せてくださったことで、『回避すべき悲劇』に変わってしまった……それだけのことなのです……」


p.admin:

「……その通り。もし、私が昨日、権限を与えず、もし、イギリスが難病児の救済を公表しなければ、あなたは今ここで泣いてはいなかった……『希望』は、時として残酷な毒になる。分かっていただけましたか?」


* 正妻の「鉄槌」


K子様は嗚咽を漏らしながら続けました


K子様:

「……M子姉様の不作法な提案も、奥様方へのご迷惑も……すべて、私が姉を諭します。あのデートの話も白紙にしてください。ですから、どうか……子供たちに、お慈悲を……!」


その姿に、同情したR子とS子が口を開きました


R子:

「旦那様……彼女の気持ち、私には痛いほど分かります……今回だけは、助けてあげられませんか?」


S子:

「理不尽だわ。運用ルールを決めるべき大人が動かないせいで、どうして彼女がここまで背負わなきゃいけないの?」


S子の口の中の「大人」は、p.adminへの「嫌味」にも聞こえてしまいます


そこへ、部屋の扉が勢いよく開きました

正妻・W子かおりの登場です


W子かおり

「……いい加減になさい、あなた!」


p.admin:

「うわ、W子……」


W子:

「人の心を弄んで、教育だなんて……あなたの悪い癖よ。今すぐ日本に医療ベイを増設なさい。彼女をここまで追い詰めて、何が王よ!」


p.adminは狼狽したまま返事した


p.admin:

「わ、分かりました……すぐ、やります……」


* 日本時間 PM 19:00 仙洞御所:設置と希望


p.adminとS子、そしてK子様は、時間節約のため、大使館のワープゲートを経由せずに楽園島の中央広場から直接ワープで仙洞御所へ移動しました

待機していた侍医Aの案内で、既存の1台に加え、医療室にさらに1台の医療ベイを設置し、上皇様と上皇后の住居区画と離れて、普段使わない部屋にも医療ベイ2台を設置した

総計3台の医療ベイが緊急的に追加設置されました


S子: 「侍医の先生方。すべての治療に48時間かかるわけじゃありません。白血病等では遺伝子修正やホルモン調整だけで済むものなら、1時間もかからずに終わります。トリアージの際は、その『回転率』も考慮に入れてください」


侍医Aは深く頭を下げて


侍医A:

「……感謝いたします。これで、今日明日を越えられない子たちを、全員救い出せます……!」


帰り際、K子様はp.adminに深く頭を下げました。その横顔には、自責の念だけでなく、一つの大きな試練を乗り越えた「強さ」が宿っていました


#### K子様の独白


赤坂御用地の自室にて

嵐のような一日が終わり、自室で一人になったK子様。鏡に映る自分の顔は少しやつれていますが、その瞳には昨日までとは違う色が宿っています


K子様の独白:

「……朱雀様は、あえてあのような酷いことを仰ったのですね。


最初は、なんて冷たい方なのだろうと絶望しました。私を突き放し、子供たちの命を天秤にかけるような……あの方は、私の憧れていた『優しいエンジニアのおじ様』ではなく、冷徹な『異星の王』なのだと、身がすくむ思いでした


けれど、今なら分かります。あの方が私に突きつけた問いは、いつか私が向き合わなければならない『重責』そのものでした。希望を与えるということは、同時に、選ばれなかった人々への残酷な宣告でもある……私は、その覚悟もないまま、ただ美辞麗句で『救ってください』と縋っていた。それは、陛下にすべての悪役を押し付ける卑怯な振る舞いでした


……陛下に叱責されている間、本当に怖かった。でも、リコ姉様やさや姉様が助けてくださり、そして何より、かおり皇后陛下が陛下を叱ってくださった時……私は、不思議な感動を覚えたのです


完璧で恐ろしい王である彼を、たった一言で『普通の人』に戻してしまう、あの絆。あの方々が守っているのは、陛下という人間そのものなのだと


私は、朱雀様に嫌われたのではないかと不安でした。でも、あなたは私を『一人の大人』として試してくださった……今日、あなたが私に見せたあの冷たい瞳も、実は慈悲の一つの形だったのではないか……そう思えてしまうのは、私の欲目でしょうか


……M子姉様には、デートを白紙にするよう伝えます。でも、陛下。私は、今日あなたが教えてくださった『重み』を一生忘れません。そして……いつか、あなたの隣に立っても恥ずかしくない、強い自分になりたい。


……今は、ただ……少しだけ、泣いてもいいですよね」


#### 姉妹の亀裂


仙洞御所での増設を終え、ようやく赤坂の自室に戻ったK子様

心地よい疲労感よりも、p.adminから突きつけられた「重責」の意味を反芻し、自らの甘さを深く反省していました


「……私のわがままで、これ以上皆様を困らせてはいけないわ」


意を決したK子様は、隣の部屋、姉のM子様のドアをノックしました


* 「ダブルデート」の破棄宣告


M子様はくつろいだ様子で雑誌を眺めていましたが、K子様のこわばった表情を見て、すぐにただ事ではないと察しました


K子様:

「姉様……申し訳ありません。先日、姉様が陛下に提案された『ダブルデート』のお話ですが……私からお断りしてまいりました。この話は白紙に戻してください」


M子様は雑誌を閉じ、ゆっくりと顔を上げる


M子様:

「……なんですって? あなた、自分が何を言っているのか分かっているの?」


K子様:

「はい。今日、私は陛下を……いえ、奥様方まで楽園島で巻き込んでしまいました。私の身勝手な振る舞いで、どれほどあのご家庭を混乱させたか……これ以上、個人的な『遊び』で陛下を煩わせるわけにはまいりません。これは、私自身の決断です」


* M子様の冷徹な分析:踊らされた妹


M子様の瞳に、冷ややかな怒りの色が灯りました。彼女は鼻で笑うと、立ち上がってK子様に歩み寄りました。


M子様:

「……本当に、あなたって馬鹿正直で、おめでたい妹ね。いい、K子。あなたは自分が『必死の嘆願で医療ベイを勝ち取った』とでも思っているのでしょうけれど、事実は全く逆よ。あなたは朱雀陛下に、いいように踊らされただけなの」


K子様:

「……どういう意味ですか?」


M子様:

「陛下は最初から、医療ベイを増設するつもりだったに決まっているじゃない。あんな聡明な方が、一台で足りるなんて本気で思うはずがないわ。ただ、彼は『タイミング』を測っていただけ……問題は、追加設置の『恩』を誰に売るか、それだけだったのよ」


K子様:

「そんな……政治的な駆け引きのために、子供たちの命を……陛下がそんなことをなさるはずがない……」


M子様:

「K首相か、おじい様の上皇様か……あるいは、一番チョロい『馬鹿な妹』であるあなたに、強烈な貸しと教育を叩き込むか。彼はあなたを選んだのよ。そしてあなたは、まんまと彼の演出した『悲劇のヒロイン』を演じて、彼にひれ伏した……挙句の果てに、私の大事なデートまで勝手にキャンセルしてくるなんて!」


K子様は唇を噛み締め、涙を浮かべて反論した


K子様:

「信じられません……! 姉様は、今日この瞬間も消えようとしていた命よりも、ご自分のデートの方が大切だと言うのですか!? 陛下が私を試されたのだとしても、それによって救われた命がある事実は変わりません! 私は、自分のしたことを後悔していません!」


M子様:

「……ええ、そうね。あなたはそうやって、いつまでも『清らかな善意』の中で生きていればいいわ。でもね、Nさんとのあの機会は、外交的にも私個人にとっても、どれほど貴重なものだったか……あなたのその『正義感』が、身近な人間をどれだけ影響するかを、少しは考えたらどうなの?」


K子様:

「……姉様とは、もうお話ししたくありません!」


K子様は吐き捨てるように言うと、部屋を飛び出しました


* 孤独な夜


自室に戻り、ベッドに倒れ込むK子様

M子様の言葉は、鋭いナイフのように彼女の心を抉りました

「陛下に踊らされただけ」という指摘は、心のどこかで感じていた恐怖そのものでした


(……それでも、いいのです。たとえ踊らされていたのだとしても、あの子たちの心音が止まらなくて済むのなら……私は、いくらでも陛下の掌の上で踊りましょう)


しかし、尊敬していた姉との間に残った確執と、p.adminへの複雑に絡み合った感情は、夜の闇の中で彼女をひどく孤独にさせるのでした

Q:p.adminは意地悪?


「教育者・統治者としては正解だが、人間(夫)としては最悪の意地悪」と言えるでしょう


意地悪に見える理由: 彼はK子様が最も「良心的で、責任感が強く、他人の痛みを自分のものとしてしまう」性格であることを熟知しています。その彼女をあえて泣かせ、追い詰めたのは、彼女の善意を「感情的なボランティア」から「覚悟を持った公人」へと脱皮させるための「荒療治」だったからです


彼の真意:

彼はエンジニア出身であり、リソース(資源)が有限であることを誰よりも知っています。彼がK子様に教えたかったのは、「救世主を気取るなら、救えなかった命の重さも背負う覚悟を持て」という冷徹な現実です


しかし、結末は……:

結局、正妻のW子かおりに一喝されて「分かりました」と即座に折れたところを見ると、彼自身も「どこで引き下がるか」を探っていたフシがあります。確信犯的な意地悪ですが、妻に弱いという「人間味」が彼の唯一の救いです


p.adminが「悪役」を演じたことで、K子様は守られるだけの「お姫様」から、自ら動いて奇跡をもぎ取る「実行者」としての第一歩を踏み出しました そして、p.adminがW子に叱られて縮こまる姿を見たことで、彼女の中の「彼を支えたい(あるいは、いつかあのように彼を叱れる対等な存在になりたい)」という願望は、より一層強固なものになったかもしれない


実はp.adminが敢えて悪者、意地悪を演じる理由の一つは、妻たちとの誓いを守る為に「あえてK子様に失望させ、嫌われる」という一面もある…結果的にあまりそうならなかったけどね(笑)


確かに、Azureはp.admin(地球というシステムの仮の管理者)になって以来、直接、間接的に多くの命の生死をその手で弄びました

CIA/FBI機密データの公表で間接的に数十人死亡(FBI申告)、楽園島とアメリカとの戦闘で米軍156人が彼が主導した防衛戦で命を落ち、ウクライナ・ロシア介入、北朝鮮解放にも意図的に人を殺さずにも、間接的に一定数の死者が出た

さらに善人救助の「選別や説得」も、p.adminとW子も実際に「選ばれなかった死」を実際に沢山経験してしまった

p.adminの心の中の「子供の命」は、ある意味データベースのフィールド数値の一つの過ぎず、目の前に居ないと、麻痺しやすいかもしれない

M子様は「どうぜ最後は医療ベイを追加設置してくれる」と思ったが、案外誰も言ってこないとp.adminは「イギリスと同等だからある意味公平」と思って、何もしないかもしれない

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