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ブックマークありがとうございます!
流血(?)表現があります。あまり生々しくはありませんが、苦手な方はお気をつけください。
他の貴族への挨拶回りも終わり、あちらこちらで談笑を始める人が出てきた。ある人は自分の領地の特産品の今年の出来が良いと語り、またある人は意中の女性に必死にアプローチをかけている。そして一部の人気がある令息や令嬢の周りには人だかりができていて、とてもキラキラしている。
そんな中、私は国王様の話がいつ始まるのかとソワソワしていた。あ、勿論エカテリーナ先生に言われたように顔にも態度にも出さないようにしてるけどね。
国王様のモスグリーンの髪をずっと見ていると、それが玉座から動き始めた。そろそろかな。
「あの、義母様…。私お花を摘みに…。」
少し恥じらうように目を逸らしながら言う。勿論、嘘。それより御手洗いに行くのにお花を摘みにっておかしいよね。これをエカテリーナ先生から教えられたとき、笑わないように必死で堪えたよ。
「分かったわ。あちらに扉が見えるでしょう?あそこを出て回廊を右に行くと、突き当たりがあるわ。そこを左ね。そうしたら目的の部屋があるはずよ。一人で行けるかしら?」
「扉を出て右に行って突き当たりを左ですね。分かりました。行けます。」
「行ってらっしゃいな。迷ってしまったらどなたかに聞くのよ。」
「はい、義母様。」
ごめんなさい、義母様。私はあなたに嘘をついています。でもでも!これは仕方ないことなの!だってこれはしなくちゃいけないことで。そう!嘘も方便ってものなの!だから見逃してね。
心の中で言い訳しながら大広間を後にする。え~っと…。この扉を出て右だね。
義母様に教えてもらった扉を出て少し右に進むと、大広間とは全く違う世界のよう。きらびやかで談笑があちらこちらから聞こえていた大広間とは違って、回廊は柔らかな蝋燭の灯りがチラチラと瞬き、辺りは時折吹き抜ける風の音だけ。静かで時の流れさえも違うように感じてしまう。
そのまま進んで突き当たりを左に。そこからほんの少し歩くとちゃんと御手洗いが見えてきた。辺りに人がいないことを確認し、人避けの簡易結界を張る。そのまま御手洗いの部屋に入る。
「まずは…。」
髪の色を元に戻す!さっと髪を撫でるとプリンセスブルーの髪は一瞬にして元のダークブルーの髪に戻る。ここ二年間ずっとプリンセスブルーだったからそっちの色に慣れちゃってなんだか違和感があるなぁ。
そして服だ。問題はこれなの。替えの服を持ってきている訳じゃないから、どうしようもないんだよね。別に幻影を見せるのもありだけど…。それじゃなんか納得いかないし。と、言うわけで今からこの服、っていうかドレスを作り変えます!勿論戻るときにはこのドレスに戻すけどね。
ドレスを作る糸一本一本に魔力を纏わせる。ドレスの隅から隅まで魔力が行き渡ったことを確認してほどいていく。細かいプリーツがみるみるうちに無くなっていき、それは全て淡い水色の糸と化する。ここまでものの十秒。それでもこれを教えてくれたミカエラ様には敵わない…。
ドレスを全て糸に戻し終えると次は新しい服の作成。何にするかはもう決めてるの。私が作るのは魔人族の伝統礼服。って言っても魔神王や四大魔神の代替わりの時くらいしか着ないんだけどね。
ブラウスに足首まであるフレアスカート、その上からこれまた足首まであるジャケット。ジャケットと言ってもボタンは無いし、腰から下はスカートと同じ仕様になってるんだ。だからジャケットって言っていいのかよくわからないけど…。そしてそのジャケットを留めるためにサッシュベルトを付ける。このサッシュベルトなんだけど、四大魔神の一族だけは魔力の色を表しているから私のは瑠璃色をしてる。
とにかくそれを今から作る。勿論時間はかけない。一瞬で終わらせるんだから!
気合いを入れて糸を操る。シュルルルル…と音を立ててブラウス、スカート、ジャケット、サッシュベルトが完成。でも全部水色。勿論これを着ていこうなんて思わない。糸は染色されているものだから、染色に使われたものの原材料である植物に干渉したらいい。これが一番簡単かも。
それも終わらせたら、ほら完成!胸元の小さなフリルがワンポイントの真っ白なブラウスに漆黒のフレアスカート、金のラインで縁取られた紺のジャケットに瑠璃色のサッシュベルト。きっと今までで一番良い出来だと思う。サイズもちゃんとピッタリだし…。
髪は後から自分で結い直すことができないからそのまま。でも髪飾りは外すよ。これを付けたままじゃすぐばれちゃうもん。仕上げは魔力の封印を解いてっと…。
準備はばっちり。あとはタイミングを伺って大広間に現れるだけ。今どうしてるんだろう。
遠視をするとそろそろ国王様の言葉が終わりかけるところだった。多くの貴族たちが困惑を顔に表している。中には侮蔑するような視線を国王様に向ける人もいる。そんなに魔人族は受け入れられてないんだ…。一方的な思い込みで、勘違いで、偽りの歴史で…。ふつふつと心の底から怒りが込み上げてくる。私たち魔人族を何だと思っているの?
するとこんな声が貴族の間から上がった。
『恐れながら申し上げます国王陛下…!』
『何だ?』
『何故、魔人族にこちらから協定を結ぶようにと、何故、人間が頼まなければならないのです?悪いのは魔人族でしたでしょう?』
プツン…──。
「魔人族が悪い?ふざけないで。偽りの、虚構の、ねじ曲げられた歴史を信じる人間が何を言うの?二百年前、何があったか知りもしない貴方が。」
私の静かなる怒りに満ちた声が大広間に響く。その感情を感じ取ったように全てが静まり返る。さっきの一言で怒りが沸点に達した私は一瞬にして大広間に現れた。私の怒りに満ちた魔力が駄々漏れになっているけど、そんなことはどうでもいい。何も知らない無知な愚か者が私たちを貶すのは許さない。天井近くに浮く私を呆けた顔で見上げるその男を冷たい目で見下ろす。
「魔人族…。」
どこからかポツリとそんな呟きが聞こえてきた。本当にポツリと溢しただけであろうその言葉は、しんと静まり返った大広間では誰もが拾うことができた。
「ご名答。」
誰かが息をのみ、誰かが固まり、誰かが崩れ落ちそうになる。そんな中、一番最初に我に返ったのは国王様だった。
「…魔人族のご令嬢。私が名はラファエル・シェヘラザード、この国の国王でございます。宜しければ貴女様の名をお伺いしても?」
名乗られた以上私も名乗るべきかもしれない。でもイリアナの名はイリアナ・シックザントとして使っているから、名乗れない。それに私が名乗る必要は無い。何故なら私は偵察に来ているのだから。それでも名乗られた以上は、私がどのような立場かは言うべきだろう。
「私は四大魔神の一族、アダルジーザの一族の者。魔神王の命によりここにいるの。だけど…、本当に大丈夫か不安になってきた。これが人間の現実だった訳でしょう?協定なんていつまで経っても結べる気がしない。真実はねじ曲げられた消え去り、偽りだけが蔓延っているようじゃ何も変わらない。寧ろ取り下げになるか二度と手を取らなくなるでしょうね。真実を知ろうともしないから。」
「それは一体どういう…?」
男から国王様に眼差しを向け、淡々と述べる。言いながらまたふつふつと怒りが湧いてくる。さっきよりも体から漏れる魔力が増えてしまっている。
コフッ…
急に誰かが何かを吐き出す音が聞こえてきた。音源を見ると、若い男性が手で口元を塞ぎ蹲っている。
「…あ。」
私から漏れ出す魔力に耐えきれなくなった人が血を吐いてしまったらしい。それを見てふっと冷静さが戻ってきた。今更ながら自分のやってしまったことに気付く。やり過ぎた…。体の中で魔力を抑え、体から出てしまった魔力を回収する。次いでにその男性に近付き癒しを行う。近付いた時に小声でごめんなさいって言ったから大丈夫かな…?周りにいた人は私が近付くとまるで親の敵を見るような目で見てきたけど気にしない。仕方ないから。これは私が悪かったし。
「私はあなた方を見ています。あなた方が信用に足るかどうか。あなた方が二百年前の真実を知らない以上、今のあなた方は信用に値しない。私が信用できると判断し、それを魔神王も信用できると判断した時に協定は成立するでしょう。真実を知り、考えを改めてもらいたい。私が言えるのはそれだけ。それでは。」
固まる国王様を大広間に残し、私はその場から消える。御手洗いに戻ってきた。
────…や、やっちゃったー!
どうしよう。怒りに任せて言っちゃった!凄く頭にきたけどあそこまで言う必要無かったよね?!あぁ~っ!なんてことしちゃったんだろう。私あそこまで言うつもり無かったのに!うぅぅ…。これで魔人族はやっぱり野蛮だ、なんて思われたらどうしよう。私のせいだよね?取り返しのつかないことになってたらどうしよう。私は人間との協定結びたいのに~!
一人絶大に後悔しているとあることに気が付く。
────戻らなきゃ!
今私がいるのは御手洗い。流石に長すぎるよね。あぁ!もういいや!今うだうだ考えてもしょうがない。一旦忘れよう!そして戻ろう!
さて、大広間に戻る準備をしますか!
イリアナ変貌しました。魔人族は怒らせちゃいけません。イリアナなんて序の口ですから。
次話で夜会は終わるつもりです。イリアナはどのように誤魔化すのでしょうか?勿論花摘が長かったことですよ。皆の前に現れた魔人族がイリアナ、ということではありません。




