社交デビュー
ブックマークありがとうございます!!
完全に予告詐欺です。申し訳ありません…m(_ _)m
「シックザント公爵家、チャーチル・シックザント公爵、並びにグロリア・シックザント公爵夫人、イリアナ・シックザント公爵令嬢のご入場です。」
義母様のあの発言から五ヶ月。うん。五ヶ月も経ったよ。そろそろって言ってたから一ヶ月後ぐらいかなって思ってたんだけど、五ヶ月後でした…。貴族のそろそろって長いね。ん?違うかも。多分パーティーとかになると長くなるだけかもしれない。貴族のパーティーは準備が大変だからね。主催者側の王族は勿論、参加する側の貴族たちも準備に膨大な時間と費用がかかる。これは高位貴族になればなるほどね。人間って本当に大変だなぁってしみじみ思ったよ。
ていうか、このパーティーに出ると決まってからエカテリーナ先生のマナーレッスンが異常に厳しくなったんだよね。今思うと私頑張ったと思うよ。めげなかった私凄い。褒め称えて。エカテリーナ先生怖かった。私は王室教師の真骨頂を見たと思います。
そして今至ると。私は水色のふんわりとし清楚なドレスを着ている。胸元の白い薔薇みたいな花がアクセントになっていて、スカート部分は細かいプリーツになっている。それに加えて私の髪はプリンセスブルーでしょ?義母様曰く、『海』がテーマなんだって。しかもハーフアップにされた髪にはウィルに貰ったあの真珠の髪飾り。こういう場につけていっても申し分無い物だって言われたよ。それがさらに海感を醸し出している。
義父様と義母様はお互いの色を用いてる。うん。ラブラブだね。
私たちの名前が呼ばれて会場に足を踏み入れる。
────ま、眩しいっ!
キラキラと光るシャンデリアがまず目に入ってきた。シックザント公爵家のシャンデリアも凄く豪奢だったけど、それなんて比にならないほど豪奢。
そして次に目に入ってきたのは色とりどりのきらびやかなドレスたち。赤、青、緑、黄色、橙色、桃色、紫、白…。何色もの色が一気に目に飛び込んでくる。
でも何より目を引いたのは、やっぱり髪の色!黒に近い色がほとんどない!明るい色ばっかり!勿論濃い色の人もいるけど黒に近い要素が何一つ無い。魔人族である私からするとやっぱり珍しいって思っちゃうんだよね。
義父様と義母様が歩いて行く後をついていく。確か、顔を上げて、堂々と、足取りは流れるように。笑顔は必須条件で強張らないように。エカテリーナ先生から言われた言葉を忠実に守る。これさえ出来てれば問題ないって言われたからね。
あ、そうそう。私のドレスの型なんだけど、今の流行に乗ってないの。これはね、社交デビューの際のしきたりなんだって。流行とは別の型のドレスを着ることで社交デビューですっていうのを示すためらしいよ。だから私は今凄く注目されてる…。何て言うか、視線が痛い。好奇心とか見守る視線とかは特に気にならないんだけど、中には値踏みするようなものや嫌悪を向けてくるものもある。予想はしていたけど、実際に向けられるとなると辛い。
シックザント公爵家は貴族の筆頭。実際、入場で家の名前が呼ばれたのは最後だったから、一番最後に入場する王族の次に地位が高いということになる。その家に急に現れた子供。隠し事か、養子か。つまり血縁関係かそうではないかってことなんだけど、これについて色々と憶測が飛び交っているはず。何とかしてシックザント公爵家に取り入ろうとしている貴族は多いから。私を利用できるかできないか勘繰っているんだろうね。嫌悪の視線は明らかに子供から。公爵家の血縁関係にある貴族の子供だと思う。あわよくば自分が公爵家の養子にって思ってたんじゃないかな。急に現れた私はとても邪魔なんだろうね。
溜め息をつかないようにして笑顔を保つ。そんな視線のことよりもっと良いこと考えよう。多分だけど、ここのどこかにウィルがいるはず。ウィルの魔力を探したい。
自分の魔力を薄~く薄~く、会場全体に伸ばしていく。ウィルの魔力は覚えてる。森のような香りがするの。私は基本的に魔力を香りで覚えてる。この覚え方が覚えやすいからね。因みに私のは海の香り。深海を思い起こすような香りだって。自分では分からないけどお父様から教えて貰ったの。
薄~く薄~く、誰にも感付かれないように広げていく。
────…あれ?ウィルの魔力が無い…!
森の香りが一切しない。似ている香りはいくつかあったけどウィルじゃない。ウィルのはこう、早朝の森みたいな香りなの。この会場にある香りは全て違う。ウィルはどこにいるんだろう…?
王族が入場の合図がされた。会場にいる全ての人が跪くと、王族御一行が入ってくる。
「面を上げよ。よくぞ集まってくれた。今宵は皆に重大な報告がある。それは会の最後にしようと考えておる故、今は楽しみたまえ。」
国王様の言葉と共に音楽が流れ出す。ゆっくりとした、でも明るいメロディが耳に心地よい。
まずは国王様と王妃様の元に挨拶に向かう。公爵家であり貴族筆頭の私たちが最初だ。義父様と義母様に続いて国王様と王妃様のところに向かう。義母様がちらりと私の方を見て、微笑んでくれた。もうそれだけで凄く安心する。
「ご機嫌麗しゅう、国王陛下、王妃陛下。シックザント公爵家よりチャーチル・シックザント、グロリア・シックザント、イリアナ・シックザント、陛下の御前に参りました。」
義父様と義母様が跪くのに倣って私も跪く。義父様が挨拶の言葉を告げると、国王様が口を開いた。
「面を上げよ、シックザント公爵、公爵夫人、そして…イリアナ嬢。其方のことはチャーチルからよく聞いておる。毎日自慢されていてな。本当にチャーチルかと疑ってしまったよ。ああ、それにエカテリーナからも非常に優秀だと聞いておるぞ。彼女にあそこまで言わせるとはな。素晴らしいと思うよ。」
「有り難きお言葉にございます、陛下。」
国王様に誉められちゃったよ。でも、義父様どんな自慢してるのかな?国王様ちよっとうんざりした顔してるんだけど…。それにエカテリーナ先生にも誉められてたなんて!う~!頑張った甲斐があったな!
挨拶が終わると次の貴族のために退く。次は他の貴族との挨拶だ。
「ご機嫌いかがかな?シックザント公爵殿。」
最初に声をかけて来たのは茶髪の優しげな男性。後ろから薄桃色の髪を緩く束ねた女性と、私と同い年ぐらいの栗毛を複雑に結い上げた女の子がついてくる。男性は黄緑の垂れ目だけど、後ろの二人は飴色の猫目だ。
「キルケルト公爵か。お陰様でやっているよ。公爵夫人、クラリス嬢、ご機嫌麗しゅう。」
義父様が挨拶を返す。この人もシェヘラザードの四大公爵家の公爵様だったのね。義父様とはとても仲が良さそう。
「ご機嫌よう、シックザント公爵、公爵夫人…。そして貴女がイリアナさんね?初めまして。私はロデリア・キルケルトですわ。この度は社交デビュー、おめでとうございますわ。」
「ありがとう存じます。お初にお目にかかります。シックザント公爵家が長女、イリアナ・シックザントと申します。以後、お見知りおきくださいませ。」
よし、噛まずに言えた!ここに来るまでの馬車の中で義母様にみっちり教え込まれたんだ。失敗しなくて良かった~。
「これでマナー教育を受けて一年さえ経っていないとは…。驚かされたよ。君の話は全くの誇張ではなかったのだね。」
キルケルト公爵様が私の挨拶に軽く目を見張る。そして発された言葉に私は首を傾げる。
本当に義父様どんな話してるの…?
「勿論。我が自慢の娘だ。」
真顔で短く、しかしはっきりとそう言い切る義父様。嬉しいけど、どんな反応をしたらいいのか…。曖昧な笑みを浮かべてしまう。
「お父様、私をイリアナ様に紹介してくださいませ。」
少し不服そうな顔をしたクラリス様がキルケルト公爵の裾を軽く引っ張る。キルケルト公爵はさも今思い出したかのように、その子を紹介してくれる。
「ああ、そうだね。イリアナ嬢、こちらは我が娘のクラリスだ。貴女と同学年になるので、仲良くしてくれると嬉しいよ。」
「初めまして、イリアナ様。私、クラリス・キルケルトですわ。四大公爵家の同年代の方に同性の方がいらっしゃらなかったので、凄く嬉しく思っていますの。ぜひ仲良くしてくださいまし。」
クラリス様が丁寧なカーテシーで挨拶をしてくれる。声が弾んでいて、嬉しいという気持ちがとても伝わってくる。
「こちらこそ、お初にお目にかかります。クラリス様。イリアナ・シックザントです。どうぞ仲良くしてもらえると嬉しいです。まだ分からないことも多いので、色々教えてください。」
「勿論!宜しくお願い致しますわ!」
クラリス様は目を輝かせて喜んでくれた。凄く笑顔が似合う人だなぁ。何かこっちまで嬉しくなってきちゃった。
こうして社交デビューの日、私は一生の親友と出会ったのだった──。
次は予告詐欺ではありません。ちゃんとイリアナ警告します。




