第二十話 七転八起
巨大な銀色の剣を持つランツァ。その長さは二メートルを超える。
十本の長く鋭い爪を武器とするガルメラ。鎌のような形をしたそれは、一メートル程。
これだけを見れば、誰もがランツァの方が有利だと判断するだろう。
だが、手数のことを考えるとそう簡単にはいかないのは、火を見るより明らか。
ともすれば、十対一は不利。
果たして、結果はどうなるのか。
最初に動いたのはランツァだった。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
雄叫びをあげながら、彼は剣を縦に振り下ろす。
それをガルメラはいとも簡単に避けてしまう。
したがって、地面が砕け散る。
ドゴッ、と。
しかし彼はたとえ避けられようとも、攻撃を止める様子は皆無だった。
「うるぁあああああああああああ!!」
彼は剣を流れるように横に振るった。
だが、直後。
信じられないことが起きた。いや、絶対に信じたくないことが。
片手。
その、たった一本の腕で巨大な剣を防いだのだ。
つまり、素手で。
元々、物を持っている様子はなかったのだが、やはり素手で受け止められると勝てる気がしなくなってしまう。
驚愕する彼は、息をすることすらも忘れていた。
「何だ? この俺がてめえ如きの剣を受け止めたことがそんなに珍しいか? 舐めてんじゃねえぞ、餓鬼が!」
「…………!」
言葉も出ない。
悪魔の皮膚が人間のようにか弱いものであるかどうかは定かではないが、どうしても信じたくなかった。
相手を斬れないことを。
「いいこと教えてやる。てめえの能力は巨大化させることみてえだが、今てめえに斬られてわかった。それは、重量はそのままにしてんだろ? なら、簡単なことだ。重くねえ刃なんざ、破壊力をもつことはできねえってことだ。つまり、てめえの武器はさっきの小さいアクセサリーだってこと。ただ大きくするだけの能力じゃあ、大した破壊力は出ねえ。故に俺を斬ることは絶対にできねえ。たとえ、刃だけは砥がれていてもな」
ガルメラの言うことは間違っていない。
そうランツァは思う。
だが、それを肯定するのではなく、否定する者がたった一人だけ。
「心配はいらないよ。ランツァの能力は重量だけを抑えて、破壊力までは抑えてないからね」
キリエはそう言う。
つまりは、軽い武器だとしても、重い武器のように破壊力がある、ということだ。
でも、いつの間にそんな分析を……。その力を使っている本人ですら、知らないことなのに。
「ん? ああ」
と、彼女はランツァの表情を見て、思考を悟った。
「バクと闘っているところを見ていてそう思っただけよ。もし、破壊力まで失っているのだとしたら、奴は倒せなかったでしょうし」
その言葉を聞いて即座に彼は納得し、眼前にいる敵に集中する。
そして、その敵が一つの疑問を口にした。
「じゃあなぜ、俺を斬れなかったんだ?」
これもまた、間違ってはいない。
答えは、ランツァが自分の状態を見ることで、わかった。
それは、ブラックとの戦闘でやられた傷だった。
ランツァはウィリアムを助けるため、傷の手当てをほとんど行わずにここに来ている。だから、彼の体力はすでに限界なのだ。
そう考えていたランツァを、またも否定するかのような言葉をキリエは放った。
「恐れているの……?」
はっ、と息を呑むランツァ。
疑問に思うガルメラ。
「ブラックとの戦闘で負けたことがそんなに恐ろしい? ウィリアムを護れなかったことが恐ろしい?」
「…………!」
直後、
「う……ああああああああああぁぁぁ!!」
叫んだのはランツァだった。
それはおそらく、あの時の死の恐怖と友を護れぬ恐怖を思い出したからだろう。
それにしても、彼女はなぜこんなことを言ったのか。
「落ちついて!!」
キリエは取り乱すランツァを止めようとした。自分が事の原因にも拘わらず。
「確かに、あの時は負けた」
「うう……」
火に油だ。
「でも、そこで立ち止まってどうするの?」
ランツァはキリエを見上げるような姿勢になっていた。
「また、護れなくてもいいの!?」
「く……」
少しずつ正気を取り戻し始めるランツァ。
そこで、悪魔は隙をつくべく、動き出した。
「おおおおおおおおおおお!!」
片手五本の爪。
それでランツァを引き裂こうとする。
だが、それはあまりにも呆気なく、妨げられた。
「邪魔」
遂にキリエが動いたのだった。
彼女は見事な回し蹴りで、その悪魔を吹き飛ばす。それにしたがって、周囲にある建物らしきものが粉々に粉砕される。
「いい? 過去で起きたことは変えようがないの。それはどうしようもない事。だけど、それでこれから起きることまで諦めてどうするの? それは悪循環でしかない。なら、それを止めるために立ち上がって。ウィリアムを護るために立ち上がって。そのために力をつけて。他人を傷つけるんじゃなく、他人を救うために。だから一度負けたくらいで恐れないで。闘うことを諦めないで。たとえ、身が滅びようと、心だけは強くあれ。それが真の天使の姿なんだから」
その時、彼の中で何かがざわめくのを感じた。
そして、ランツァは立ち上がった。
「思い出した」
彼はやっと、思い出すことができた。
力の扱いを。
そして、彼はもう一つ掴んだ。
心の在り方を――。




