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その怪異、安心安全商事が解決します  作者: 伊東トーシロー


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8/13

2-1 初めての依頼

 安心安全商事の事務所前にある、広い砂利の駐車場。


 街外れの道路沿いに建つ一軒家を改装した事務所で、駐車場の奥に事務所、そのさらに奥に書庫がある。


 道路は緩やかなカーブになっているため、敷地の外から会社の駐車場はそれなりによく見える。


 そして今日もその駐車場の片隅で、


「せいっ!」


 剣一が上半身裸で竹刀を振っていた。


 夏の昼前、じっとしていても汗ばむような気温である。だから服を脱いだ。特に深い理由はない。


「……ふっ!」


 一振り。踏み込み、振り下ろす。剣一は黙々と続ける。


 事務所の中で本を読んでいるより、こちらのほうが性に合っていた。別に本が嫌いなわけではない。書庫にある本は、読んでみれば意外と面白い。

 妖怪や神様、地方の伝承など、知らないことばかりだった。ただ、何時間も座って読んでいるより、剣を振っているほうが落ち着く。


「せいっ!」


 竹刀が空気を切る。その音を聞きながら、剣一はふと思った。

 ――しかし、本当に暇だな。


 安心安全商事は、妖怪や悪霊、精霊などを相手にする会社だ。

 入社前は、毎日のように怪異が持ち込まれるものだと思っていたけれど、現実は違う。


 怪異だって年中無休で発生するわけではない。ちょっと考えれば当たり前のことだ。年がら年中、妖怪だ、鬼だ、河童だと出ていたら日本中大騒ぎだ。

 依頼が来なければ、社員は普通に暇である。


 だから剣一は、しばらく書庫で本を読んでいた。そして当然の如く飽きた……。

 結果がこれである。


「……もう一回」


 剣一が竹刀を構え直したそのとき。


 ――プルルルル。


 事務所の中から電話の音が聞こえた。剣一の動きが止まる。


 もう一度。


 ――プルルルル。


「……電話?」


 剣一が安心安全商事に来て二週間、初めて電話が鳴った。剣一は竹刀を下ろすと事務所の方を向く。すると事務所の窓から愛田が顔を出した。


「剣一さん!」


「はい?」


「電話ですぅ!」


「俺に?」


「違いますぅ!」


「……ですよね」


 愛田が笑う。


「でも、たぶん依頼ですよぉ」


「!!!」


 剣一の表情が変わる。とうとう来た! 安心安全商事に入社して、初めての依頼だ!

 剣一は竹刀を置き、植木の枝に掛けたシャツとタオルを手に取る。


「依頼って、どんな?」


「まだ分かりません。専務が取ってますから」


「分かりました」


 剣一は汗を拭くと、急いでシャツを着て事務所へ戻った。

 電話を受けていた紘一は、相手の話を聞きながらメモを取っている。


「はい……はい…」


 剣一たちは少し離れたところで待った。紘一は時折質問を挟む。


「天狗ですか?」


 剣一の耳がその言葉を拾った。紘一が剣一たちの方を見る。


「それは、いつ頃からでしょうかね」


「……なるほど」


 そして、最後に何度か確認してから電話を切った。


「社長」


 紘一が事務所の奥から声をかける。


「なに?」


「今回は天狗だそうです」


「天狗? 本物ですかぁ?」


 愛田が反応する。

 紘一はメールを開くと数枚の紙を印刷する。依頼書だ。


「依頼書によりますと、山の中にある神社周辺で、最近『天狗が出る』という噂が広がっているそうでしてね」


「天狗は目撃されるだけ? 何かしてるの?」


 美穂が紘一の依頼書を覗き込みながら聞く。


「それがですね」


 紘一が資料をテーブルに広げる。


「特に人を襲うわけでも、物を壊すわけでもないそうなんですよ」


「では何を?」


「……登山客や、神社の参拝者のスマホやカメラに、妙なものが写ると」


「……」


 三人が黙った。


「もしかして天狗が写ってるの?」


「はい」


 美穂が腕を組む。


「何で? どうして?」


「それが分からないから依頼になったそうです。天狗に聞いてみますか?」


 紘一は軽く笑いながら言った。


「そうね! 行ってみれば分かるわね!」


 美穂が頷き、剣一の方を向く。


「剣一の最初の仕事だ! 美原と愛田と三人で行ってきて!」


「はい」


 美原が立ち上がる。


「分かりました」


「分かりましたぁ!」


 剣一と愛田もそれぞれ頷いた。


 剣一はふと、自分の竹刀を見た。今まで人でない者を斬った事は何度かある。道場にたまたまなのか紛れ込んできた者だ。

 それらを妖と呼んでいいのかどうかは判らないが、斬ってきた者達は明らかに悪だった。


 だが仕事として妖怪と対峙するのは初めてだ。初仕事、そして相手は天狗。いろんな物が視える剣一でも、天狗は初めてだ。

 はたして天狗に対して武器が必要なのか。必要なら殺傷能力のある武器もある。持ち歩くのはちょっとまずいとは思うが……。


 そんな剣一を、美穂が呼び止めた。


「剣一!」


「はい」


「今回は武器は要らないよ! 依頼書を見る限り人に仇なす存在じゃない!」


「はい、わかりました」


「今回は美原と愛田も一緒だ、天狗様になんで急に姿を見せるようになったか話を聞いてきて!」


天狗編スタートです。

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